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第6章:潤滑油の覚悟
6-3:隣の席の敗北者
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画面に、25人のクルー全員の顔写真と、簡単なプロフィールが表示された。
もちろん、そこにプライベートな情報はない。名前、年齢、そして、このプロジェクトにおける適性評価と、暫定的な役割が記されているだけだ。
大地は、チーム・アルファのメンバーのファイルを開いた。
雨宮健吾。適性:リーダーシップA、状況判断力B+、協調性D。
星乃しずく。適性:情報処理能力S、精神的安定性C-、協調性E。
佐藤結実。適性:技術的直感力S、応用力A、協調性E。
大山五郎。適性:忍耐力A、専門知識(生物学)B、自己表現力F。
そして、高森大地。
適性:共感性A+、ストレス耐性C、自己評価E。
(共感性、A+……)
それが、このプロジェクトにおける、自分の唯一の取り柄らしい。
だが、それは何の役にも立たない、曖昧で、数値化できない能力のように思えた。
「……見て、どうするんだ。そんなもの」
不意に、隣から声をかけられ、大地の肩が大きく跳ねた。
いつの間にか、隣のコンソールに、大山五郎が座っていた。彼は、大地と同じように、クルーのリストを眺めていたようだった。
「あ……大山くん」
「……俺のせいだ。俺が、ちゃんと報告できなかったから、午前中は失敗したんだ」
大山は、大きな体をさらに小さくして、謝罪の言葉を口にした。
「そんなことないよ!俺だって、何もできなかったし……」
「ううん、違うんだ」
大山は、かぶりを振った。
「俺は……昔から、こうなんだ。大事なところで、声が出なくなる。言わなきゃいけないって、頭ではわかってるのに、体が、喉が、動かなくなる」
その告白は、彼の心の奥底から絞り出された、痛切な響きを持っていた。
「農業高校にいた時も、そうだった。俺が育ててた、大事なトマトの苗が、病気になったんだ。すぐに先生に報告すれば、助かったかもしれないのに、俺は、自分が失敗したって思われるのが怖くて、言えなかった。それで、結局、全部ダメにしちまったんだ……」
大山の大きな瞳から、ぽろり、と涙が一粒、こぼれ落ちた。
大地は、何と声をかければいいのかわからなかった。
「頑張れ」という言葉は、あまりにも無責任だ。
「気にするな」という言葉は、彼の苦しみを否定することになる。
だから、大地は、ただ黙って、彼の隣に座っていた。
そして、しばらくしてから、ぽつりと言った。
「俺は、潤滑油なんだってさ」
「……じゅんかつゆ?」
「そう。だから、もし、また大山くんの声が出なくなりそうになったら、俺が代わりに叫ぶよ。大山くんが、俺にだけ、そっと教えてくれればいい。俺が、大声で、みんなに伝えてやるから」
それは、何の根拠もない、約束だった。
だが、大山は、ゆっくりと顔を上げた。その涙に濡れた瞳で、まっすぐに大地を見つめた。
そして、こくり、と小さく頷いた。
その時、二人の間に、ほんの小さな、しかし確かな繋がりが生まれた。
敗北者と、敗北者。
無力な者と、無力な者。
だからこそ、分かち合える痛みが、そこにはあった。
大地は、自分の役割の、本当の意味を、ほんの少しだけ、理解し始めた気がした。
もちろん、そこにプライベートな情報はない。名前、年齢、そして、このプロジェクトにおける適性評価と、暫定的な役割が記されているだけだ。
大地は、チーム・アルファのメンバーのファイルを開いた。
雨宮健吾。適性:リーダーシップA、状況判断力B+、協調性D。
星乃しずく。適性:情報処理能力S、精神的安定性C-、協調性E。
佐藤結実。適性:技術的直感力S、応用力A、協調性E。
大山五郎。適性:忍耐力A、専門知識(生物学)B、自己表現力F。
そして、高森大地。
適性:共感性A+、ストレス耐性C、自己評価E。
(共感性、A+……)
それが、このプロジェクトにおける、自分の唯一の取り柄らしい。
だが、それは何の役にも立たない、曖昧で、数値化できない能力のように思えた。
「……見て、どうするんだ。そんなもの」
不意に、隣から声をかけられ、大地の肩が大きく跳ねた。
いつの間にか、隣のコンソールに、大山五郎が座っていた。彼は、大地と同じように、クルーのリストを眺めていたようだった。
「あ……大山くん」
「……俺のせいだ。俺が、ちゃんと報告できなかったから、午前中は失敗したんだ」
大山は、大きな体をさらに小さくして、謝罪の言葉を口にした。
「そんなことないよ!俺だって、何もできなかったし……」
「ううん、違うんだ」
大山は、かぶりを振った。
「俺は……昔から、こうなんだ。大事なところで、声が出なくなる。言わなきゃいけないって、頭ではわかってるのに、体が、喉が、動かなくなる」
その告白は、彼の心の奥底から絞り出された、痛切な響きを持っていた。
「農業高校にいた時も、そうだった。俺が育ててた、大事なトマトの苗が、病気になったんだ。すぐに先生に報告すれば、助かったかもしれないのに、俺は、自分が失敗したって思われるのが怖くて、言えなかった。それで、結局、全部ダメにしちまったんだ……」
大山の大きな瞳から、ぽろり、と涙が一粒、こぼれ落ちた。
大地は、何と声をかければいいのかわからなかった。
「頑張れ」という言葉は、あまりにも無責任だ。
「気にするな」という言葉は、彼の苦しみを否定することになる。
だから、大地は、ただ黙って、彼の隣に座っていた。
そして、しばらくしてから、ぽつりと言った。
「俺は、潤滑油なんだってさ」
「……じゅんかつゆ?」
「そう。だから、もし、また大山くんの声が出なくなりそうになったら、俺が代わりに叫ぶよ。大山くんが、俺にだけ、そっと教えてくれればいい。俺が、大声で、みんなに伝えてやるから」
それは、何の根拠もない、約束だった。
だが、大山は、ゆっくりと顔を上げた。その涙に濡れた瞳で、まっすぐに大地を見つめた。
そして、こくり、と小さく頷いた。
その時、二人の間に、ほんの小さな、しかし確かな繋がりが生まれた。
敗北者と、敗北者。
無力な者と、無力な者。
だからこそ、分かち合える痛みが、そこにはあった。
大地は、自分の役割の、本当の意味を、ほんの少しだけ、理解し始めた気がした。
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