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第10話:聖女様の『覚悟』は、俺の理性を焼き切る
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古い礼拝堂に、グランデルの言葉が重く響き渡る。
『生命の同調』――二人が完全に“一つ”になる儀式。
その言葉が意味するものを、俺もセシリアも、もう嫌というほど理解していた。図書館で読んだ、あの古文書の一節。『聖杯たる器』『光を注ぐ』『奇跡の子』。
それは、つまり――
「……グランデル様。それは、具体的には……どのような儀式なのですか?」
セシリアが、震える声で尋ねた。彼女の顔は、羞恥か恐怖か、真っ赤に染まっている。
グランデルは、悪戯っぽく片目をつむった。
「ふぉっふぉっふぉ。聖女様が、知らぬはずもなかろう? 代々、聖女にのみ口伝で伝えられてきた、神聖なる“交わりの儀”。魂だけでなく、肉体をも一つにし、新たな生命を生み出すことで、神の奇跡をこの世に顕現させる、究極の聖技じゃよ」
「なっ……!」
セシリアは絶句し、俺の腕の後ろに隠れるように後ずさった。
口伝で伝えられていた、だと?
つまり彼女は、最初から知っていたのだ。いつか、選ばれた勇者と、肉体を交える運命にあることを。
聖女としての、宿命。
俺は、何も知らずに彼女の唇を求め、その気にさせていたのか。
「……勇者よ、勘違いするでない」
グランデルは、俺の心の動揺を見透かしたように言った。
「この儀式は、強制ではない。聖女と勇者、二人の魂が真に愛し合い、未来を共に歩む覚悟がなければ、決して成功せん。下心や義務感で行えば、互いのマナが暴走し、魂ごと砕け散るじゃろう。……お主らには、その覚悟があるか、と聞いておるのじゃ」
覚悟。
その一言が、俺の胸に重くのしかかる。
俺は、セシリアが好きだ。守りたい。だが、それは、彼女に聖女としての宿命を背負わせることになるのか? 俺が彼女を求めることは、彼女を苦しめるだけじゃないのか?
俺が答えに窮していると、セシリアが、俺の服の袖を、きゅっと掴んだ。
見上げると、彼女は、涙を浮かべながらも、凛とした、強い瞳で俺を見つめていた。
「……わたくしは、怖くありません」
「セシリア……?」
「いいえ、本当は、とても怖いです。恥ずかしいです。ですが……わたくしは、聖女である前に、セシリアとして、あなたの隣にいたい。あなたと共に、未来を創りたい。……それが、わたくしの、たった一つの、我儘です」
彼女は、聖女の宿命を、自らの意志で選び取ろうとしていた。
俺のために。
「もし、あなたがわたくしを求めてくれるのなら……わたくしのすべてを、あなたに捧げます。わたくしの身体も、魂も、未来も……すべて、あなたのものです」
その言葉が、俺の心の最後の躊躇いを、焼き切った。
俺は彼女を、宿命から救いたいんじゃない。
ただ、俺の女にしたい。この腕で、誰にも渡さずに、抱きしめたい。
それが、俺の本心だ。
「……俺も、同じだ。セシリア。あんたが欲しい」
俺は彼女の手を取り、その甲に、誓いの口づけを落とした。
「あんたの覚悟、俺が全部、受け止める」
俺たちの間に、もう迷いはなかった。
グランデルは、満足そうに頷いた。
「……よろしい。ならば、今宵、月の満ちる刻に、城の最奥にある『月の祭壇』にて、儀式を執り行え。誰にも、邪魔はさせん」
その夜。
俺は、グランデルに示された『月の祭壇』の間に、一人立っていた。
ドーム状の天井には大きな天窓があり、煌々と輝く満月が、祭壇を青白く照らしている。空気は澄み渡り、神聖なマナに満ちていた。
ぎぃ、と古びた扉が開く音がして、セシリアが入ってきた。
俺は、息を呑んだ。
彼女が身にまとっていたのは、いつもの儀式服ではなかった。
肩も背中もあらわになった、月の光を透かすほど薄い、一枚の絹の衣。それは、彼女のまだ少女のあどけなさを残す身体のラインを、聖なるヴェールのように、そして、信じられないほど扇情的に、浮かび上がらせていた。
「……勇者。……いえ、カイト」
彼女は、初めて俺の名前を呼んだ。
その声は、甘く、震えている。
彼女は、ゆっくりと俺の前に歩み寄り、その潤んだ紫色の瞳で、俺を真っ直ぐに見上げた。
「……わたくしを、あなたの花嫁に、してください……♡」
その言葉と、神々しいほどに美しい花嫁姿は、俺の中に残っていた、けだものではない、最後の理性を、完全に焼き切った。
俺は、彼女の細い腰を抱き寄せ、その震える唇を、激しく求めていた。
今宵、俺たちは、神の領域に踏み込む。
世界のためじゃない。ただ、愛する人と、一つになるために。
【続く】
『生命の同調』――二人が完全に“一つ”になる儀式。
その言葉が意味するものを、俺もセシリアも、もう嫌というほど理解していた。図書館で読んだ、あの古文書の一節。『聖杯たる器』『光を注ぐ』『奇跡の子』。
それは、つまり――
「……グランデル様。それは、具体的には……どのような儀式なのですか?」
セシリアが、震える声で尋ねた。彼女の顔は、羞恥か恐怖か、真っ赤に染まっている。
グランデルは、悪戯っぽく片目をつむった。
「ふぉっふぉっふぉ。聖女様が、知らぬはずもなかろう? 代々、聖女にのみ口伝で伝えられてきた、神聖なる“交わりの儀”。魂だけでなく、肉体をも一つにし、新たな生命を生み出すことで、神の奇跡をこの世に顕現させる、究極の聖技じゃよ」
「なっ……!」
セシリアは絶句し、俺の腕の後ろに隠れるように後ずさった。
口伝で伝えられていた、だと?
つまり彼女は、最初から知っていたのだ。いつか、選ばれた勇者と、肉体を交える運命にあることを。
聖女としての、宿命。
俺は、何も知らずに彼女の唇を求め、その気にさせていたのか。
「……勇者よ、勘違いするでない」
グランデルは、俺の心の動揺を見透かしたように言った。
「この儀式は、強制ではない。聖女と勇者、二人の魂が真に愛し合い、未来を共に歩む覚悟がなければ、決して成功せん。下心や義務感で行えば、互いのマナが暴走し、魂ごと砕け散るじゃろう。……お主らには、その覚悟があるか、と聞いておるのじゃ」
覚悟。
その一言が、俺の胸に重くのしかかる。
俺は、セシリアが好きだ。守りたい。だが、それは、彼女に聖女としての宿命を背負わせることになるのか? 俺が彼女を求めることは、彼女を苦しめるだけじゃないのか?
俺が答えに窮していると、セシリアが、俺の服の袖を、きゅっと掴んだ。
見上げると、彼女は、涙を浮かべながらも、凛とした、強い瞳で俺を見つめていた。
「……わたくしは、怖くありません」
「セシリア……?」
「いいえ、本当は、とても怖いです。恥ずかしいです。ですが……わたくしは、聖女である前に、セシリアとして、あなたの隣にいたい。あなたと共に、未来を創りたい。……それが、わたくしの、たった一つの、我儘です」
彼女は、聖女の宿命を、自らの意志で選び取ろうとしていた。
俺のために。
「もし、あなたがわたくしを求めてくれるのなら……わたくしのすべてを、あなたに捧げます。わたくしの身体も、魂も、未来も……すべて、あなたのものです」
その言葉が、俺の心の最後の躊躇いを、焼き切った。
俺は彼女を、宿命から救いたいんじゃない。
ただ、俺の女にしたい。この腕で、誰にも渡さずに、抱きしめたい。
それが、俺の本心だ。
「……俺も、同じだ。セシリア。あんたが欲しい」
俺は彼女の手を取り、その甲に、誓いの口づけを落とした。
「あんたの覚悟、俺が全部、受け止める」
俺たちの間に、もう迷いはなかった。
グランデルは、満足そうに頷いた。
「……よろしい。ならば、今宵、月の満ちる刻に、城の最奥にある『月の祭壇』にて、儀式を執り行え。誰にも、邪魔はさせん」
その夜。
俺は、グランデルに示された『月の祭壇』の間に、一人立っていた。
ドーム状の天井には大きな天窓があり、煌々と輝く満月が、祭壇を青白く照らしている。空気は澄み渡り、神聖なマナに満ちていた。
ぎぃ、と古びた扉が開く音がして、セシリアが入ってきた。
俺は、息を呑んだ。
彼女が身にまとっていたのは、いつもの儀式服ではなかった。
肩も背中もあらわになった、月の光を透かすほど薄い、一枚の絹の衣。それは、彼女のまだ少女のあどけなさを残す身体のラインを、聖なるヴェールのように、そして、信じられないほど扇情的に、浮かび上がらせていた。
「……勇者。……いえ、カイト」
彼女は、初めて俺の名前を呼んだ。
その声は、甘く、震えている。
彼女は、ゆっくりと俺の前に歩み寄り、その潤んだ紫色の瞳で、俺を真っ直ぐに見上げた。
「……わたくしを、あなたの花嫁に、してください……♡」
その言葉と、神々しいほどに美しい花嫁姿は、俺の中に残っていた、けだものではない、最後の理性を、完全に焼き切った。
俺は、彼女の細い腰を抱き寄せ、その震える唇を、激しく求めていた。
今宵、俺たちは、神の領域に踏み込む。
世界のためじゃない。ただ、愛する人と、一つになるために。
【続く】
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