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第9話:聖女様との『訓練キス』は、お互いの全部が流れ込んでくる
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セシリア様の部屋の椅子で、俺はうとうとと微睡んでいたらしい。
ふと意識が浮上すると、肩に柔らかな毛布がかかっていた。ベッドを見ると、セシリア様が穏やかな寝息を立てている。泣き疲れて眠ってしまった彼女に、俺が毛布をかけたはずなのに、いつの間にかかけ直してくれたのだろう。
その優しさが、胸に温かく沁みた。
俺は静かに部屋を出て、自室のベッドに倒れ込む。昨夜、俺たちは確かに一つになった。まだ身体は繋がっていない。だが、心は、魂は、もう分かちがたく結ばれていた。
翌朝。
食堂で顔を合わせたセシilia様は、少しだけ目元が赤かったが、その表情は吹っ切れたように清々しかった。
「おはようございます、勇者」
「おはよう、セシリア。……眠れた?」
「はい。あなたが、そばにいてくれたから」
彼女は、はにかむように微笑んだ。その破壊力は、どんな魔物の攻撃よりも俺の心臓に効く。
俺たちの間に流れる、穏やかで、甘い空気。
もう、他人行儀な「様」付けは、やめにしよう。自然と、そう思えた。
「兄様を……カインを止めるために、もっと強くならなければなりません」
「ああ。あの力を、俺たちの力で、完全に制御できるようにしないとな」
俺たちの視線が、自然に絡み合う。
あの、戦場で交わした、キス。
それを、意図的に、訓練として、もう一度。
考えただけで、お互いの顔が熱くなるのが分かった。
俺たちは、アレクシスの監視の目がない、城の最上階にある古い礼拝堂に来ていた。
埃っぽいが、ステンドグラスから差し込む光が床に落ちて、幻想的な雰囲気だ。二人きりの、秘密の訓練場所。
「……では、始めましょうか」
「……おう」
向き合って、数歩の距離。
ただキスをするだけなのに、まるで初めての告白みたいに、心臓がうるさくてたまらない。
「……あの、勇者から、来て……もらえませんか?」
「え、俺から!?」
「わ、わたくしからなんて、そんな、はしたないこと……!」
もじもじと俯くセシリアが可愛すぎて、俺はもう限界だった。
一歩、また一歩と距離を詰め、彼女の華奢な肩に、そっと手を置く。ビクッと震える身体が、いじらしい。
「……目、閉じて」
俺の言葉に、彼女はこくりと頷くと、長い睫毛を伏せた。
無防備に晒された、桜色の唇。
俺は、その聖域に、ゆっくりと自分の唇を重ねていった。
最初は、ただ触れるだけだった。
だが、唇が合わさった瞬間、あの時と同じ、いや、それ以上のマナの奔流が、俺たちの間を駆け巡った。
(……あたたかい……)
(……甘い……)
心の声が、溶け合っていく。
俺は、もっと彼女を知りたくなって、少しだけ深く、角度を変えた。
彼女の唇が、驚いたように、わずかに開く。その隙間から、俺は彼女の聖域の、さらに奥へと踏み込んだ。
「んっ……ふ……ぅ……♡」
セシリアの喉から、甘い声が漏れた。
彼女のマナの味が、口の中に広がる。それは、極上の蜂蜜と、清らかな月の光を混ぜ合わせたような、官能的な味だった。
同時に、俺の知らない感覚が、頭の中に流れ込んでくる。
――古代魔法の複雑な術式。神聖文字の読み方。世界に張り巡らされたマナの流れ。
これは、セシリアの知識だ。
そして、彼女の方にも、俺の感覚が流れ込んでいるのが分かった。
――剣の握り方。敵の攻撃を見切るための、コンマ数秒の思考。効率的な身体の動かし方。
彼女は、俺の剣技を、その身をもって追体験している。
それは、単なるマナの供給じゃない。知識と、経験と、感情と、魂の、完全な交歓。
光が、俺たちを包み込む。身体が熱い。思考が蕩けて、目の前の彼女を、ただただ、貪るように求めてしまう。
どれくらいの時間が経ったのか。
俺たちは、どちらからともなく唇を離した。互いの口元は、繋がっていた証の銀の糸できらめいている。
二人とも、息が上がって、立っているのもやっとだった。俺は彼女を支え、彼女は俺の胸に顔をうずめている。
「……すごい……。あなたの剣筋が、全部……わたしの身体の中に……」
「俺もだ……。見たこともない魔法が、頭の中に……。これが、俺たちの、本当の力……」
その時だった。
礼拝堂の扉が、静かに開いた。そこに立っていたのは、アレクシスだった。
彼は、抱き合うようにして、頬を染め、荒い息を繰り返す俺たちを、ただ、無言で見つめていた。
その瞳には、もう怒りの炎はなかった。ただ、すべてを諦めたような、深い、深い悲しみの色だけが浮かんでいた。
彼は何も言わず、静かに踵を返し、去っていった。
その背中が、やけに小さく見えた。
「……アレクシス……」
セシリアが悲しそうに呟いた、その時。
俺たちの背後から、パチパチ、と拍手の音が聞こえた。
「お見事。見事な『魂の同調』じゃ」
そこにいたのは、いつの間にか現れた、宮廷魔術師長のグランデルだった。
「じゃが……それで、カイン殿に勝てると思ってはならんぞ」
老魔術師は、意味深な笑みを浮かべた。
「記録によれば、それはまだ第二段階。真の聖剣の力を解放し、神の領域に踏み込むための最終段階……『生命の同調』が、残っておる。……じゃが、覚悟はよいか? その儀式は、二人が完全に“一つ”になることを、意味するからのぅ……」
【続く】
ふと意識が浮上すると、肩に柔らかな毛布がかかっていた。ベッドを見ると、セシリア様が穏やかな寝息を立てている。泣き疲れて眠ってしまった彼女に、俺が毛布をかけたはずなのに、いつの間にかかけ直してくれたのだろう。
その優しさが、胸に温かく沁みた。
俺は静かに部屋を出て、自室のベッドに倒れ込む。昨夜、俺たちは確かに一つになった。まだ身体は繋がっていない。だが、心は、魂は、もう分かちがたく結ばれていた。
翌朝。
食堂で顔を合わせたセシilia様は、少しだけ目元が赤かったが、その表情は吹っ切れたように清々しかった。
「おはようございます、勇者」
「おはよう、セシリア。……眠れた?」
「はい。あなたが、そばにいてくれたから」
彼女は、はにかむように微笑んだ。その破壊力は、どんな魔物の攻撃よりも俺の心臓に効く。
俺たちの間に流れる、穏やかで、甘い空気。
もう、他人行儀な「様」付けは、やめにしよう。自然と、そう思えた。
「兄様を……カインを止めるために、もっと強くならなければなりません」
「ああ。あの力を、俺たちの力で、完全に制御できるようにしないとな」
俺たちの視線が、自然に絡み合う。
あの、戦場で交わした、キス。
それを、意図的に、訓練として、もう一度。
考えただけで、お互いの顔が熱くなるのが分かった。
俺たちは、アレクシスの監視の目がない、城の最上階にある古い礼拝堂に来ていた。
埃っぽいが、ステンドグラスから差し込む光が床に落ちて、幻想的な雰囲気だ。二人きりの、秘密の訓練場所。
「……では、始めましょうか」
「……おう」
向き合って、数歩の距離。
ただキスをするだけなのに、まるで初めての告白みたいに、心臓がうるさくてたまらない。
「……あの、勇者から、来て……もらえませんか?」
「え、俺から!?」
「わ、わたくしからなんて、そんな、はしたないこと……!」
もじもじと俯くセシリアが可愛すぎて、俺はもう限界だった。
一歩、また一歩と距離を詰め、彼女の華奢な肩に、そっと手を置く。ビクッと震える身体が、いじらしい。
「……目、閉じて」
俺の言葉に、彼女はこくりと頷くと、長い睫毛を伏せた。
無防備に晒された、桜色の唇。
俺は、その聖域に、ゆっくりと自分の唇を重ねていった。
最初は、ただ触れるだけだった。
だが、唇が合わさった瞬間、あの時と同じ、いや、それ以上のマナの奔流が、俺たちの間を駆け巡った。
(……あたたかい……)
(……甘い……)
心の声が、溶け合っていく。
俺は、もっと彼女を知りたくなって、少しだけ深く、角度を変えた。
彼女の唇が、驚いたように、わずかに開く。その隙間から、俺は彼女の聖域の、さらに奥へと踏み込んだ。
「んっ……ふ……ぅ……♡」
セシリアの喉から、甘い声が漏れた。
彼女のマナの味が、口の中に広がる。それは、極上の蜂蜜と、清らかな月の光を混ぜ合わせたような、官能的な味だった。
同時に、俺の知らない感覚が、頭の中に流れ込んでくる。
――古代魔法の複雑な術式。神聖文字の読み方。世界に張り巡らされたマナの流れ。
これは、セシリアの知識だ。
そして、彼女の方にも、俺の感覚が流れ込んでいるのが分かった。
――剣の握り方。敵の攻撃を見切るための、コンマ数秒の思考。効率的な身体の動かし方。
彼女は、俺の剣技を、その身をもって追体験している。
それは、単なるマナの供給じゃない。知識と、経験と、感情と、魂の、完全な交歓。
光が、俺たちを包み込む。身体が熱い。思考が蕩けて、目の前の彼女を、ただただ、貪るように求めてしまう。
どれくらいの時間が経ったのか。
俺たちは、どちらからともなく唇を離した。互いの口元は、繋がっていた証の銀の糸できらめいている。
二人とも、息が上がって、立っているのもやっとだった。俺は彼女を支え、彼女は俺の胸に顔をうずめている。
「……すごい……。あなたの剣筋が、全部……わたしの身体の中に……」
「俺もだ……。見たこともない魔法が、頭の中に……。これが、俺たちの、本当の力……」
その時だった。
礼拝堂の扉が、静かに開いた。そこに立っていたのは、アレクシスだった。
彼は、抱き合うようにして、頬を染め、荒い息を繰り返す俺たちを、ただ、無言で見つめていた。
その瞳には、もう怒りの炎はなかった。ただ、すべてを諦めたような、深い、深い悲しみの色だけが浮かんでいた。
彼は何も言わず、静かに踵を返し、去っていった。
その背中が、やけに小さく見えた。
「……アレクシス……」
セシリアが悲しそうに呟いた、その時。
俺たちの背後から、パチパチ、と拍手の音が聞こえた。
「お見事。見事な『魂の同調』じゃ」
そこにいたのは、いつの間にか現れた、宮廷魔術師長のグランデルだった。
「じゃが……それで、カイン殿に勝てると思ってはならんぞ」
老魔術師は、意味深な笑みを浮かべた。
「記録によれば、それはまだ第二段階。真の聖剣の力を解放し、神の領域に踏み込むための最終段階……『生命の同調』が、残っておる。……じゃが、覚悟はよいか? その儀式は、二人が完全に“一つ”になることを、意味するからのぅ……」
【続く】
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