銀月の聖女は穢れた勇者に唇を捧ぐ ~浄化の儀式は、快感に濡れる始まりの契約~

どえろん

文字の大きさ
7 / 21

第8話:聖女様の『部屋』は、甘いマナの香りで満たされる

しおりを挟む
 月明かりが差し込む静かな部屋。
 俺とセシリア様は、ただ手を繋いで見つめ合っているだけなのに、互いの身体を流れるマナは熱を帯び、ちりちりと肌を焦がすようだった。
 彼女の白い肌はほんのりと上気し、潤んだ瞳は俺を映している。吐息は甘く、その唇は、あの夜の感触を思い出させて、俺の理性をじわじわと溶かしていく。

(……もっと……あなたの、近くに……)

 セシリア様の切ない心の声が、マナに乗って流れ込んでくる。
 それは、もはや懇願だった。
 俺は、吸い寄せられるように彼女の顔に自分の顔を近づけていく。唇と唇が触れ合う、寸前。

 ――コン、コン。

 控えめなノックの音が、部屋の扉から響いた。
 俺とセシリア様の身体が、凍り付いたように固まる。

「……セシリア様? 夜分に失礼いたします。アレクシスです」
「……っ!?」

 最悪のタイミングだった。
 俺たちは慌てて手を離し、距離を取る。繋がっていたマナの流れが途絶え、部屋の熱がすっと引いていくのが分かった。

「……なんでしょう、アレクシス。もう、休もうとしていたのですが」

 セシリア様は、必死に平静を装って扉に声をかける。だが、その声は微かに震え、上ずっていた。
 扉の向こうのアレクシスは、何かを訝しんだように一瞬沈黙し、そして言った。

「昼間、勇者に渡された魔石の解析結果が出ました。……緊急の、報告事項です」
 その言葉に、部屋の甘い空気は完全に霧散した。

 場所は変わって、城の地下にある魔術師団の研究室。
 俺とセシリア様、そしてアレクシスの三人は、白衣をまとった老魔術師――宮廷魔術師長であるグランデルと向き合っていた。
 ガラスケースの中に置かれた黒紫色の魔石は、今も不気味な光を放っている。

「……解析の結果、驚くべきことが判明しました」

 グランデルは、重々しく口を開いた。
「この魔石は、生きた人間の魂を核にして作られています。それも、極めて高い魔力を持つ、術者の魂を」
「人間の、魂……?」

 俺は息を呑んだ。あのキメラは、ただの魔物ではなかった。元は、人間だったというのか。

「さらに、この魔石の魔力パターンを解析した結果……ある人物の魔力と、酷似していることが分かりました」
「誰です、それは」
 アレクシスの問いに、グランデルは苦々しい表情で答えた。

「――5年前に、王国から追放された、元宮廷魔術師。セシリア様の、実の兄君である、カイン殿です」

「……え……?」

 セシリア様の顔から、血の気が引いた。
 彼女に、兄がいたなんて、初耳だった。

「兄様が……? そん、な……。兄様は、禁忌とされた古代魔術の研究に手を出したことで追放されたと……。魔王軍と、関係があるというのですか!?」
「断定はできん。じゃが、その可能性は極めて高い。カイン殿は、聖女である君にも匹敵するほどの、強大な魔力の持ち主じゃったからな。その彼が、自らの魂の一部を削ってまで、あの程度の魔物を生み出したとは考えにくい。これは、何かの実験……あるいは、王国への警告と見るべきじゃろう」

 セシリア様は、ショックのあまり、その場に崩れ落ちそうになった。俺は咄嗟にその肩を支える。
 実の兄が、敵かもしれない。
 聖女として魔王軍と戦う彼女にとって、これ以上ないほど過酷な事実だった。

 自室に戻る廊下を、俺はセシリア様の肩を抱きながら、ゆっくりと歩いていた。
 彼女はショックからか、虚ろな表情で、足元もおぼつかない。

「……信じられません。あんなに、優しかった兄様が……」

 ぽつり、と漏れた彼女の呟きが、痛いほど胸に響く。
 部屋の前に着くと、俺は彼女をベッドに座らせ、温かいお茶を淹れてやった。

「……ありがとう、ございます」

 カップを受け取る彼女の手が、小さく震えている。
 俺は、何も言わずに彼女の隣に座り、その背中を優しく撫でてやった。言葉なんて、今は何の慰めにもならないだろう。

 しばらくして、彼女は顔を上げた。その瞳には、涙が浮かんでいたが、同時に、強い光が宿っていた。

「……わたくしは、聖女です。たとえ、相手が兄様であろうと……世界を脅かすのなら、戦わなければなりません」
「セシリア様……」
「ですが……お願いがあります、勇者」

 彼女は、俺の手を、祈るように両手で握りしめた。
「もし、兄様と対峙する時が来たら……どうか、殺さないでほしいのです。必ず、目を覚まさせてみせます。わたくしが、この手で……!」

 その悲痛な願いに、俺は強く頷いた。
「……約束します。俺は、あんたの剣になります。あんたの望む未来のために、この力を使います」

 その言葉に、彼女の瞳から、堪えていた涙が、ぽろぽろとこぼれ落ちた。
 彼女は、俺の胸に顔をうずめ、子供のように声を殺して泣きじゃくった。
 俺は、その小さな身体を、壊れ物を抱きしめるように、ただ、強く、強く抱きしめた。

 聖女の仮面を脱ぎ捨て、ただの一人の女の子として泣く彼女を守れるのは、もう、世界で俺しかいない。
 その夜、俺は彼女が眠りにつくまで、ずっとそばを離れなかった。
 部屋は、彼女の涙の味と、俺たちの決意の匂いが混じり合った、甘くて切ないマナの香りで、満たされていた。

【続く】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

ドすけべボディのクイーンドラゴンゾンビ娘にスキルもレベルも吸収され、快楽に溺れてラブラブ夫婦状態になるまでマゾイキする話【戦闘ログ風】

フォトンうさぎ
ファンタジー
◆勇者は魔王を倒した! しかしなんと、むちむちたぷたぷなドスケベボディのクイーンドラゴンゾンビ娘がいる部屋に落ちてしまった! ◆勇者はクイーンドラゴンゾンビ娘に劣情を抱いてしまった! クイーンドラゴンゾンビ娘のアビスヴェルは、勇者に興味を抱いている! ◆勇者とアビスヴェルは舌を絡め合いながらキスを続けている! 勇者のエナジーが吸い取られていく……! 戦闘ログ風な話です。勇者がどちゃシコ体形で惚れやすい白髪クイーンドラゴンゾンビ娘に惚れてしまい、エナジードレインでレベルもスキルも何もかも捧げて、状態異常になりながら婚約交尾します。 表紙は『NovelAI』に出力していただきました。 ※旧題『むちむちドスケベボディのクイーンドラゴンゾンビ娘にスキルもレベルも何もかもを奪われてマゾイキする話 戦闘ログ風』

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について

沢田美
恋愛
名門・雄幸高校で目立たず生きる一年生、神谷悠真。 クラスでは影が薄く、青春とは無縁の平凡な日々を送っていた。だがある放課後、街で不良に絡まれていた女子生徒を助けたことで、その日常は一変する。救った相手は、学年一の美少女三姉妹として知られる西園寺家の次女・優里だった。さらに家に帰れば、三姉妹の長女・龍華がなぜか当然のように悠真の部屋に入り浸っている。名門令嬢三姉妹に振り回されながら、静かだったはずの悠真の青春は少しずつ騒がしく揺れ始める。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる

柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった! ※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...