銀月の聖女は穢れた勇者に唇を捧ぐ ~浄化の儀式は、快感に濡れる始まりの契約~

どえろん

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第6話:聖女様の『唇』は、聖剣を覚醒させる鍵だった

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 轟音と共に教会の扉が砕け散り、月明かりを背にした異形の魔物が姿を現した。
 鋭い鉤爪、滴り落ちる毒液、そして何よりも、その瞳に宿る純粋な殺意が、俺たちの肌を突き刺す。

「……っ!」

 セシリア様の身体が、恐怖で再び強張るのが分かった。
 だが、もう俺は一人じゃない。彼女も、一人じゃない。

「セシリア様、俺に合わせて!」
(……はいっ!)

 心と身体を繋げたまま、俺は彼女を抱きかかえるようにして、床を蹴った。
 魔物が薙ぎ払った剛腕が、ついさっきまで俺たちがいた場所の石畳を粉砕する。
 速い! アレクシスの比じゃない。本物の、死の匂い。

「グルルルァァァァッ!」

 魔物は、俺ではなく、俺の腕の中にいるセシリア様だけを狙っている。彼女から発せられる聖なるマナが、最高の餌に見えているのだろう。
 俺は彼女を庇いながら聖剣を振るうが、防戦一方だ。抱きしめている状態では、動きが制限されすぎる。

(勇者……! わたくしを、離して……!)
(嫌だ! あんたを傷つけさせるわけにはいかない!)

 心の会話が、激しく交錯する。
 その時、魔物の蛇の尾が、鞭のようにしなって俺の足に叩きつけられた。

「ぐっ……!?」

 体勢を崩し、俺とセシリア様は床に転がる。繋がりが、離れてしまった。
 聖剣の輝きが、途端に弱まる。
 好機と見た魔物が、セシリア様めがけて鋭い爪を振り下ろした。

「セシリアっ!」

 俺は咄嗟に彼女の前に滑り込み、聖剣で爪を受け止める。
 キィィン! と甲高い金属音が響き、凄まじい衝撃が腕を痺れさせた。重い……! マナの供給がない状態では、押し返せない!

「勇者っ!」

 セシリア様が、俺の背中に手を当ててマナを送ろうとしてくれる。だが、足りない。力が、圧倒的に足りない。
 じりじりと剣が押し込まれ、魔物の爪が、俺の肩を深く切り裂いた。

「があっ……!」

 激痛が走る。血が、聖女の純白の服を赤く染めた。
「いやっ……! 勇者! あなたの血が……!」
 彼女の悲鳴が、俺の心に突き刺さる。
 まずい。このままじゃ、二人とも殺される。

(どうすれば……もっと強い力が……! あの古文書にあった、より深い同調って……!)

『聖女はその聖杯たる器を捧げ、勇者はその光を注ぎ、満たすべし』

 聖杯。器。注ぐ。
 もう、意味は一つしかない。
 俺は、押し込まれる剣を必死に支えながら、血だらけの顔でセシリア様を振り返った。

「セシリア様……! 俺を、信じてくれますか!」
「え……?」
「あんたを、あんたの全部を、俺にください!」

 それは、もはや告白だった。
 彼女は、俺の真剣な瞳を見て、一瞬、目を見開いた。
 そして、恐怖に染まっていたその顔から、ふっと力が抜け、慈愛に満ちた、聖女の微笑みが浮かんだ。

「……はい。わたくしのすべては、あなたのものです、勇者」

 彼女はそっと俺の首に腕を回すと、その桜色の唇を、俺の唇に重ねてきた。

 柔らかくて、温かい。
 それが、彼女の唇の感触だった。
 だが、次の瞬間、唇を通じて、これまでとは比較にならないほどの膨大なマナが、奔流となって俺の身体に流れ込んできた。

 口内が、聖なる光で満たされる。
 これは、ただのキスじゃない。彼女の魂そのものを、俺に注ぎ込んでいる。
 俺の穢れた血は浄化され、傷は塞がり、代わりに、神々しいまでの力が、身体の奥から湧き上がってきた。

 ゴォォォォォッッ!

 聖剣が、これまで見せたことのない、太陽のような輝きを放ち始めた。
 剣身に、古代の神聖文字が光の筋となって浮かび上がる。

「なっ……!?」

 魔物が、その圧倒的な光に怯んで後ずさる。
 俺は唇を離し、愛おしい聖女の顔を見つめて、頷いた。

「――いくぞ、セシリア」

 俺は立ち上がり、覚醒した聖剣を、天に掲げた。

「聖技――グラン・クロス!!」

 叫びと共に振り下ろされた剣先から、巨大な十字の光が放たれた。
 それは聖なる浄化の嵐となって魔物を飲み込み、その禍々しい肉体を、断末魔の叫びごと、塵一つ残さず消滅させた。

 後に残されたのは、静寂と、破壊された教会、そして、呆然と立ち尽くす俺たち二人だけだった。
 聖剣の光は収まり、元の美しい剣に戻っている。

「……はぁ……はぁ……」

 俺もセシリア様も、肩で息をしていた。
 二人とも、汗と、少しの血と、そして涙でぐっしょりだった。
 俺たちは、どちらからともなく見つめ合う。
 彼女の唇が、さっきのキスのせいで、少しだけ腫れて、艶めかしく光っているのに気づいてしまった。

「……あの、」
「……はい」
「……すごかった、ですね」
「……はい」

 それ以上、言葉が続かなかった。
 その時、外で待機していたアレクシスが、騎士たちと共に駆け込んできた。

「セシリア様! ご無事――」

 彼は、目の前の光景に絶句した。
 完全に消滅した魔物の痕跡。ボロボロになりながらも、無傷で立つ俺。
 そして、俺の隣で、頬を真っ赤に染め、潤んだ瞳で、とろんとした表情で俺を見上げている、彼の愛する聖女様の姿に。

 アレクシスの顔から、血の気が引いていくのが見えた。
 その視線は、セシリア様の、艶めかしく腫れた唇に、釘付けになっていた。

 その時、魔物が消滅した地面の中心に、黒紫色の小さな水晶が残っているのを、俺は見つけた。
 ただの魔物じゃない。明らかに、誰かの意思によって作られた、人工的な魔石。

 俺たちの戦いは、まだ始まったばかりなのだと、その邪悪な輝きが告げていた。

【続く】
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