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第12話:一つになった聖女様と、旅立ちの朝
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月の祭壇で、俺は目を覚ました。
最初に感じたのは、腕の中にある、温かくて柔らかな感触。そして、自分のものであるかのように流れ込んでくる、穏やかで満ち足りた幸福感。
セシリアが、俺の腕の中で、すぅすぅと安らかな寝息を立てていた。
彼女の寝顔を見ているだけで、心が愛おしさで満たされる。
(……おはよう、カイト)
彼女は、目を閉じたまま、俺の心に直接語りかけてきた。もう、マナを意識して繋がる必要すらない。俺たちの魂は、完全に同化している。
(おはよう、セシリア。よく眠れた?)
(はい。あなたの腕の中は、世界で一番、安心できる場所だから)
言葉を交わすより早く、想いが伝わる。
俺たちは、どちらからともなく微笑み合い、そっと唇を重ねた。それは、朝の挨拶代わりの、優しいキス。
昨夜の激しい情交の痕が残る互いの身体を、恥じらう気持ちよりも、愛おしいという気持ちが上回っていた。俺たちは、もう何も隠すことのない、一つの存在なのだ。
祭壇に置かれていた新しい衣服に着替え、俺たちは手を取り合って部屋を出た。
扉の前には、グランデルと、そして国王陛下自らが、俺たちを待っていた。
「……見事じゃったな、二人とも」
グランデルが、満足そうに頷く。
国王陛下は、俺たち――いや、俺とセシリアが手を取り合って立つ、その姿全体を見て、ほう、と感嘆の息を漏らした。
「……なんという、調和。二人のマナが完全に溶け合い、一つの巨大なオーラとなっておる。勇者と聖女が、これほどまでに完璧に同調したという記録は、古文書にもない。お主たちなら、あるいは……」
国王の言葉に、俺は強く頷いた。
「陛下。昨夜、俺たちはヤツの居場所を突き止めました。……魔王軍の背後にいるのは、間違いなく、セシリアの兄……カインです」
その言葉に、場の空気が引き締まった。
緊急の作戦会議が開かれた。
俺とセシリアが感じ取った魔力の場所は、遥か北方の、凍てついた山脈地帯。古くから魔族の領域とされ、人間が足を踏み入れることのない禁断の地だ。
「大軍を差し向けても、彼の結界に阻まれるだけじゃろう。奴を止められるのは、奴と同等、いや、それ以上の魔力を持つ者だけ」とグランデルは言う。
つまり、俺たちしかいない。
「……分かった。勇者カイト、聖女セシリアに、カイン討伐の勅命を下す」
国王の決断は早かった。
「少数精鋭の騎士団を護衛につける。その部隊の指揮は……」
「――陛下。その任、このアレクシス・フォン・ヴァレンシュタインに、お任せいただきたく存じます」
会議室の入り口に、白銀の鎧をまとったアレクシスが、跪いていた。
その顔に、昨日のような嫉妬や絶望の色はない。あるのは、自らの使命を見定めた、騎士としての覚悟の光だけだった。
「俺は……道を見誤っておりました。聖女様を、一人の女性としてではなく、守るべき『聖域』としてしか見ていなかった。だが、勇者殿は違った。彼は、彼女の魂と共に在ることを選んだ」
アレクシスは立ち上がると、俺を真っ直ぐに見つめた。
「勇者カイト。俺は、貴殿を認める。そして、貴殿と、貴殿が命を懸けて守ると決めた、俺たちの聖女様を……今度こそ、騎士として、この剣で、お守りする」
その言葉に、嘘はなかった。
俺は、彼に向かって、強く頷き返した。
旅立ちの朝。
城門の前には、選りすぐりの騎士たちと、旅の準備を整えた俺たちの姿があった。
俺とセシリアは、お揃いの、銀糸で竜の紋章が刺繍された、白を基調とした旅装束を身につけている。誰が見ても、俺たちが一心同体であることが分かるだろう。
「……本当に、いいのか?」
出発の直前、俺は隣に立つセシリアに、心で問いかけた。
(相手は、あんたの、たった一人の、お兄さんなんだぞ)
彼女は、俺の手を優しく握り返した。
(はい。だからこそ、わたくしが行かなければならないのです。兄様を止められるのは、もう、わたくしたちしかいないから)
その瞳に、迷いはない。
(約束したろ。俺は、あんたの剣だ)
(はい。そして、わたくしは、あなたの盾です)
(二人で、必ず、未来を掴もう)
(ええ、カイト)
俺たちは、馬に跨る。
アレクシスが、俺たちの前で、高く剣を掲げた。
「――これより、勇者様と聖女様を奉じ、魔王軍の根源たるカイン討伐のため、北方へと進軍する! 我らの勝利と、お二人の未来に、神のご加護があらんことを!」
騎士たちの雄叫びが、空に響き渡る。
俺は、セシリアと視線を交わし、強く頷いた。
俺たちの、最後の戦いが、そして、新しい世界を創るための、最初の旅が、今、始まる。
【続く】
最初に感じたのは、腕の中にある、温かくて柔らかな感触。そして、自分のものであるかのように流れ込んでくる、穏やかで満ち足りた幸福感。
セシリアが、俺の腕の中で、すぅすぅと安らかな寝息を立てていた。
彼女の寝顔を見ているだけで、心が愛おしさで満たされる。
(……おはよう、カイト)
彼女は、目を閉じたまま、俺の心に直接語りかけてきた。もう、マナを意識して繋がる必要すらない。俺たちの魂は、完全に同化している。
(おはよう、セシリア。よく眠れた?)
(はい。あなたの腕の中は、世界で一番、安心できる場所だから)
言葉を交わすより早く、想いが伝わる。
俺たちは、どちらからともなく微笑み合い、そっと唇を重ねた。それは、朝の挨拶代わりの、優しいキス。
昨夜の激しい情交の痕が残る互いの身体を、恥じらう気持ちよりも、愛おしいという気持ちが上回っていた。俺たちは、もう何も隠すことのない、一つの存在なのだ。
祭壇に置かれていた新しい衣服に着替え、俺たちは手を取り合って部屋を出た。
扉の前には、グランデルと、そして国王陛下自らが、俺たちを待っていた。
「……見事じゃったな、二人とも」
グランデルが、満足そうに頷く。
国王陛下は、俺たち――いや、俺とセシリアが手を取り合って立つ、その姿全体を見て、ほう、と感嘆の息を漏らした。
「……なんという、調和。二人のマナが完全に溶け合い、一つの巨大なオーラとなっておる。勇者と聖女が、これほどまでに完璧に同調したという記録は、古文書にもない。お主たちなら、あるいは……」
国王の言葉に、俺は強く頷いた。
「陛下。昨夜、俺たちはヤツの居場所を突き止めました。……魔王軍の背後にいるのは、間違いなく、セシリアの兄……カインです」
その言葉に、場の空気が引き締まった。
緊急の作戦会議が開かれた。
俺とセシリアが感じ取った魔力の場所は、遥か北方の、凍てついた山脈地帯。古くから魔族の領域とされ、人間が足を踏み入れることのない禁断の地だ。
「大軍を差し向けても、彼の結界に阻まれるだけじゃろう。奴を止められるのは、奴と同等、いや、それ以上の魔力を持つ者だけ」とグランデルは言う。
つまり、俺たちしかいない。
「……分かった。勇者カイト、聖女セシリアに、カイン討伐の勅命を下す」
国王の決断は早かった。
「少数精鋭の騎士団を護衛につける。その部隊の指揮は……」
「――陛下。その任、このアレクシス・フォン・ヴァレンシュタインに、お任せいただきたく存じます」
会議室の入り口に、白銀の鎧をまとったアレクシスが、跪いていた。
その顔に、昨日のような嫉妬や絶望の色はない。あるのは、自らの使命を見定めた、騎士としての覚悟の光だけだった。
「俺は……道を見誤っておりました。聖女様を、一人の女性としてではなく、守るべき『聖域』としてしか見ていなかった。だが、勇者殿は違った。彼は、彼女の魂と共に在ることを選んだ」
アレクシスは立ち上がると、俺を真っ直ぐに見つめた。
「勇者カイト。俺は、貴殿を認める。そして、貴殿と、貴殿が命を懸けて守ると決めた、俺たちの聖女様を……今度こそ、騎士として、この剣で、お守りする」
その言葉に、嘘はなかった。
俺は、彼に向かって、強く頷き返した。
旅立ちの朝。
城門の前には、選りすぐりの騎士たちと、旅の準備を整えた俺たちの姿があった。
俺とセシリアは、お揃いの、銀糸で竜の紋章が刺繍された、白を基調とした旅装束を身につけている。誰が見ても、俺たちが一心同体であることが分かるだろう。
「……本当に、いいのか?」
出発の直前、俺は隣に立つセシリアに、心で問いかけた。
(相手は、あんたの、たった一人の、お兄さんなんだぞ)
彼女は、俺の手を優しく握り返した。
(はい。だからこそ、わたくしが行かなければならないのです。兄様を止められるのは、もう、わたくしたちしかいないから)
その瞳に、迷いはない。
(約束したろ。俺は、あんたの剣だ)
(はい。そして、わたくしは、あなたの盾です)
(二人で、必ず、未来を掴もう)
(ええ、カイト)
俺たちは、馬に跨る。
アレクシスが、俺たちの前で、高く剣を掲げた。
「――これより、勇者様と聖女様を奉じ、魔王軍の根源たるカイン討伐のため、北方へと進軍する! 我らの勝利と、お二人の未来に、神のご加護があらんことを!」
騎士たちの雄叫びが、空に響き渡る。
俺は、セシリアと視線を交わし、強く頷いた。
俺たちの、最後の戦いが、そして、新しい世界を創るための、最初の旅が、今、始まる。
【続く】
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