38 / 165
第二章 遺恨編
遺恨ⅩⅣ 『妖精種』
しおりを挟む
「妖精種って、あの……」
「そう。人間の女王が血を飲んだっていうアレよ。」
『妖精種』――上質な魔力を持ち、その魔力を含む血液を飲めば永遠に近い命を得られるという、魔物や魔族の突然変異種。ラムディアがその一人だというゼーレンの告白に、アムリス達は驚きを隠せなかった。
「ラムディアちゃんは『玉帝月兎』という魔物の突然変異種よ。人間にはあまり聞き馴染みのない種だと思うけど、魔族領だといろんなところで見ることができる、ウサギの魔物なの。」
「魔物……?でもこの人は、魔族なんでしょ?」
「ええ、玉帝月兎は今でも普通の魔物だわ。だけど妖精種として高い魔力と魔族に近い見た目を持って生まれたラムディアちゃんだけ、魔王様から血の祝福を受け魔族になったのよ。」
この世界の魔物はあくまで自然発生した生物であり、人間領や魔族領問わず多数出没する。その魔物のなかでも魔族領で頭角を現し、魔王にその実力を認められた者は魔力を込めた血を分け与えられることがある。それが血の祝福であり、魔物が魔族になるときに必要な儀式である。また、混ざった魔王の血は子供以降にも受け継がれていくため、魔族の子孫は未来永劫魔族として認められる。
「100年と少し前くらいかしらね。玉帝月兎の妖精種が生まれたという話は、魔族領だけじゃなく人間領にも響き渡ったわ。当時はもう既に人間の女王が妖精種の血で寿命を伸ばした後だったから、話を聞いた人間達は狂ったように玉帝月兎を乱獲していったわ。」
「そんな……。」
「ある日、アタシは魔王に呼び出されたの。あのときのことはなかなか忘れられないわね……」
105年前、魔都ジューデス。魔王ネカルク・アルドネアの玉座の間にて、ゼーレンは跪いていた。魔王の隣には一人の少女が、魔王の服の袖を掴んでいる。
「魔王様、その子が……」
「ああ。玉帝月兎の妖精種だ。」
少女は無言で、ゼーレンの方をじっと見つめている。
(絶望と不信に満ちた瞳……無理もないが。まだ幼いはずなのに、なんて顔をしてるのよ)
「生まれてから今まで、人間から逃げ続けてきたらしいが……数日前、ついに逃げ切れずに捕まってしまったらしいのだ。」
魔王の言葉に、ゼーレンは驚愕した。
「なっ……!」
「まあ落ち着け。この娘は無事だ。ここにこうしていることがその証だろう?」
「はは……あまり驚かせないでくださいよ。」
「相変わらず、お前の敬語には慣れんな……。だが、真に驚くべきはこの先だ。報告を受けた余が到着した頃にはもう、人間の屍の山が転がっておったのじゃ。」
「……魔族とはいえ、10歳程度の娘が人間を皆殺しですか。」
「少なくとも10人はいたであろうな。人間から奪った刀を持ってまま、血の海の真ん中で佇んでおったよ。」
「ふむ……。まさか、私を呼んだ理由というのは」
「この娘をお前に預けようと思う。」
「ああ、そうですよね。」
「うむ。この娘が自力で安心を手に入れられるだけの力を与えてやって欲しい。」
魔王ネカルクはニヤリと微笑む。ゼーレンはため息を一つついた。
「そんなこと言って、いつも通り裏でなにか企んでるのでしょう?」
「心外だね、余がまるでいつもお前を騙しているみたいに言うじゃないか。それにお前も、人間を皆殺しにしたって辺りからニヤニヤが堪えきれておらんぞ、気持ち悪い。」
ゼーレンは慌てて、ヨダレを拭き取る。
「はしたないのう。」
「うるさいわね。とにかく、その子はアタシが貰っていいのね?」
「もちろん。将来の幹部候補にまで育て上げてくれればいい。」
「随分、理想が低いのね。この才能ならその程度、100年もかからないわよ。」
ゼーレンとネカルクは二人して不気味に笑う。
「この子の名前は?」
足元で怯えているラムディアに気付いたゼーレンが、ネカルクに質問した。
「ラムディアだ。ラムディア・ストームヴェルン。」
「そう……おいで、ラムディアちゃん。」
ゼーレンはラムディアに目線を合わせ、両手を広げてラムディアを迎えようとする。ラムディアは困った様子でネカルクに視線を投げる。
「どうした?お前の新しい父親だぞ?」
ラムディアはネカルクの裾をより強く握り、顔を真っ赤にして俯いた。
「父親より母親の方が嬉しいんじゃないの?」
ゼーレンの不意打ちに、ネカルクは珍しく照れる。
「ええい、うるさい!もう……ほら、いい加減離しなさい!」
ネカルクは無理やりラムディアを引き剥がし、服の背中部分を掴んで
「ん」
ゼーレンに無造作に押し付け、足早に自室に戻って行った。ゼーレンはくすりと微笑み、
「それじゃ改めて。これからよろしくね、ラムディアちゃん。」
と、ラムディアの頬に軽くキスをする。しかしラムディアは悲鳴をあげ、ゼーレンの左頬を思いっきりビンタしてしまうのであった。
「そう。人間の女王が血を飲んだっていうアレよ。」
『妖精種』――上質な魔力を持ち、その魔力を含む血液を飲めば永遠に近い命を得られるという、魔物や魔族の突然変異種。ラムディアがその一人だというゼーレンの告白に、アムリス達は驚きを隠せなかった。
「ラムディアちゃんは『玉帝月兎』という魔物の突然変異種よ。人間にはあまり聞き馴染みのない種だと思うけど、魔族領だといろんなところで見ることができる、ウサギの魔物なの。」
「魔物……?でもこの人は、魔族なんでしょ?」
「ええ、玉帝月兎は今でも普通の魔物だわ。だけど妖精種として高い魔力と魔族に近い見た目を持って生まれたラムディアちゃんだけ、魔王様から血の祝福を受け魔族になったのよ。」
この世界の魔物はあくまで自然発生した生物であり、人間領や魔族領問わず多数出没する。その魔物のなかでも魔族領で頭角を現し、魔王にその実力を認められた者は魔力を込めた血を分け与えられることがある。それが血の祝福であり、魔物が魔族になるときに必要な儀式である。また、混ざった魔王の血は子供以降にも受け継がれていくため、魔族の子孫は未来永劫魔族として認められる。
「100年と少し前くらいかしらね。玉帝月兎の妖精種が生まれたという話は、魔族領だけじゃなく人間領にも響き渡ったわ。当時はもう既に人間の女王が妖精種の血で寿命を伸ばした後だったから、話を聞いた人間達は狂ったように玉帝月兎を乱獲していったわ。」
「そんな……。」
「ある日、アタシは魔王に呼び出されたの。あのときのことはなかなか忘れられないわね……」
105年前、魔都ジューデス。魔王ネカルク・アルドネアの玉座の間にて、ゼーレンは跪いていた。魔王の隣には一人の少女が、魔王の服の袖を掴んでいる。
「魔王様、その子が……」
「ああ。玉帝月兎の妖精種だ。」
少女は無言で、ゼーレンの方をじっと見つめている。
(絶望と不信に満ちた瞳……無理もないが。まだ幼いはずなのに、なんて顔をしてるのよ)
「生まれてから今まで、人間から逃げ続けてきたらしいが……数日前、ついに逃げ切れずに捕まってしまったらしいのだ。」
魔王の言葉に、ゼーレンは驚愕した。
「なっ……!」
「まあ落ち着け。この娘は無事だ。ここにこうしていることがその証だろう?」
「はは……あまり驚かせないでくださいよ。」
「相変わらず、お前の敬語には慣れんな……。だが、真に驚くべきはこの先だ。報告を受けた余が到着した頃にはもう、人間の屍の山が転がっておったのじゃ。」
「……魔族とはいえ、10歳程度の娘が人間を皆殺しですか。」
「少なくとも10人はいたであろうな。人間から奪った刀を持ってまま、血の海の真ん中で佇んでおったよ。」
「ふむ……。まさか、私を呼んだ理由というのは」
「この娘をお前に預けようと思う。」
「ああ、そうですよね。」
「うむ。この娘が自力で安心を手に入れられるだけの力を与えてやって欲しい。」
魔王ネカルクはニヤリと微笑む。ゼーレンはため息を一つついた。
「そんなこと言って、いつも通り裏でなにか企んでるのでしょう?」
「心外だね、余がまるでいつもお前を騙しているみたいに言うじゃないか。それにお前も、人間を皆殺しにしたって辺りからニヤニヤが堪えきれておらんぞ、気持ち悪い。」
ゼーレンは慌てて、ヨダレを拭き取る。
「はしたないのう。」
「うるさいわね。とにかく、その子はアタシが貰っていいのね?」
「もちろん。将来の幹部候補にまで育て上げてくれればいい。」
「随分、理想が低いのね。この才能ならその程度、100年もかからないわよ。」
ゼーレンとネカルクは二人して不気味に笑う。
「この子の名前は?」
足元で怯えているラムディアに気付いたゼーレンが、ネカルクに質問した。
「ラムディアだ。ラムディア・ストームヴェルン。」
「そう……おいで、ラムディアちゃん。」
ゼーレンはラムディアに目線を合わせ、両手を広げてラムディアを迎えようとする。ラムディアは困った様子でネカルクに視線を投げる。
「どうした?お前の新しい父親だぞ?」
ラムディアはネカルクの裾をより強く握り、顔を真っ赤にして俯いた。
「父親より母親の方が嬉しいんじゃないの?」
ゼーレンの不意打ちに、ネカルクは珍しく照れる。
「ええい、うるさい!もう……ほら、いい加減離しなさい!」
ネカルクは無理やりラムディアを引き剥がし、服の背中部分を掴んで
「ん」
ゼーレンに無造作に押し付け、足早に自室に戻って行った。ゼーレンはくすりと微笑み、
「それじゃ改めて。これからよろしくね、ラムディアちゃん。」
と、ラムディアの頬に軽くキスをする。しかしラムディアは悲鳴をあげ、ゼーレンの左頬を思いっきりビンタしてしまうのであった。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる