200年級ニートが魔王討伐という名目で厄介払いされる話

盈月

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第二章 遺恨編

遺恨ⅩⅨ 回想『魔族襲撃事件』⑤

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 カトレアはクリステラに攻撃を続けていたが、クリステラは不気味な笑顔を崩さない。

(何度もまともに当たっているはずなのに……まるで隙が生まれない!)
「あはぁ……気持ちいいわぁ。もっと激しくても大丈夫よぉん。」

 クリステラは恍惚とした表情で、身体をビクビクとし悦楽に浸っている。カトレアは肩で息をしながら表情を歪ませる。

「キモ……だったら、お望み通り蜂の巣にしてやるわ!」
「あは、蜂女なりのおもしろギャグのつもりかしらぁ。楽しみねぇ。」

 カトレアは胸めがけて高速で槍を突き出す。クリステラは躱しきれず肩の辺りを槍が掠める。体制が崩れたクリステラに向けてカトレアはすかさず3連撃を叩き込むが、どれもクリステラにはヒットするものの急所へのダメージとはならなかった。再び二人は間合いを取る。

(さっきから、当たるには当たるのにまるで有効打になってる気がしない……というか、ラムディアはいつまでかかってんのよ!)
「うふふ……貴方の巣ってこの程度なのね。もっと頑張って欲しいわぁん。」

 クリステラの挑発に、カトレアはあからさまにイラッとする。

「うっざ……お前、絶対に殺すわ。」
「いいわよぉ、そうそう。気持ちいいわぁん。」

 カトレアが飛び出そうとした瞬間、

「ラムディア、危ない!!」

 ロマリアの叫び声が響いた。カトレアが思わず振り返った時には、ラムディアを庇ったロマリアの腹部に光の矢が突き刺さっていた。

「え……。」

 カトレアは目の前の出来事が理解できず、呆然とその光景を見ていた。

「団長さぁん、待ちくたびれましたよぉ。」

 クリステラはその隙を見逃さなかった。カトレアが気付いて振り向いた時にはもう遅く、一瞬で距離を詰めたクリステラがカトレアを殴り飛ばした。

「うぐっ……」

 不意を付いた一撃が決まり、カトレアは数メートル先の地面に投げ出されてしまった。クリステラの重いパンチに、しばらく目の焦点が合わず仰向けに倒れながら動けずにいた。そこへ、

「先程までのお礼ですぅ。」

 クリステラが高くジャンプし、寝そべっているカトレアの腹部に向かって膝を突き立てた。

「ぐはっ、がはぁ!」

 クリステラが立ち上がり、カトレアは腹を押さえ悶絶している。

「カトレア!!」

 ラムディアが気付き、カトレアに駆け寄ろうとする。しかし、

「残念でした。」

 ラムディアの背後からラルカンバラの飛び蹴りが決まる。ラムディアは前方に倒され、ラルカンバラが馬乗りになってのしかかる。ラルカンバラはナイフを取り出し、

「おりゃ」

 ラムディアの両肩に突き立てた。

「ああああっ!!」
「このナイフはねぇ、特別製でね。そろそろ効果が出てくるかな。」

 ラルカンバラがそう呟いた瞬間、ラムディアの妖羽化ヴァンデルンが解けた。

「嘘……なんで!?」
「こいつで斬ったら傷口から魔力が漏れ出すようになるんだよ。それで妖羽化ヴァンデルンが解除されたのさ。さて」

 ラルカンバラは盗賊団メンバーに合図を出した。

「お前ら!妖精種ニンフェリムの血だ!!飲め!!!」

 クリステラ以外の盗賊団メンバーがラムディアのもとに群がり、ラルカンバラがまず肩に齧り付くようにして血を吸い始めた。

「あう……はっ、あっ、ああん……」
(力が……抜けて、ダメっ……)

 盗賊団メンバーもラムディアの逆側の肩を咥えて血を吸い始める。クリステラはその様子を冷めた眼差しで見つめながら、足元のカトレアの首元を持ち、拾い上げる。

「うっ」
「見なさい。」

 クリステラは指を器用に使い、カトレアの首だけをラムディアの方に向ける。

「あの子も可哀想にねぇ。思い知った?貴女達の弱さがこの結果を生んだの。」
「はな……して……」
「あぁん?」

 突如クリステラから笑顔が消え、首を掴む力が強まる。

「あがっ、あああああ!!!」
「あんたねぇ、誰に指図してるの?自分の立場が分かってないわけぇ?このままちょっと力を込めればあんたは死ぬの。分かってる?」
「うぐっ、うう……」

 カトレアの目から、涙が溢れた。

「おい、シスター!お前も早く来いよ!」
「はぁい。分かりましたわぁん。さて」

 クリステラは手に一層力を込めた。カトレアは白目を剥き、泡を吹いて意識を失った。クリステラはカトレアを無造作に放り投げた。

「貴女に恨みは無いのだけどねぇ……ごめんなさいね。うふふ。」

 そう言い残して、クリステラは盗賊団へ合流した。


「ぷはぁ!団長、もうおなかいっぱいですわぁん。」

 クリステラはラムディアの肩から口を離し、肩を地面に投げ出した。

「あ……う……」
「団長、こいつら、どうする?」
「おめえがクラウディの娘まで殺しちまったのは誤算だったなぁ。ま、みんな妖精種ニンフェリムの血は飲んだし、そろそろ帰ろっか。」
「賛成ぇ~。わたくしお風呂入りたいですわぁん。」

 そう言い残し、盗賊団は闘技場から去っていった。
 最初に動いたのは……死んだと思われたロマリアだった。ロマリアは身体を引きずりながら、ラムディアの元へ辿り着く。

「ラムディア……生きてる?」

 ラムディアは意識が朦朧としていたが、ロマリアの声で正気を取り戻した。

「ロマ……リア、生きていたのね!」

 ロマリアはその言葉に微笑みを返し、何も言わなかった。ラムディアは力を振り絞って、身体を起こす。そこで初めて、ロマリアの身体の惨状を思い知ることになる。

「ロマリア!!!」

 青ざめた表情、異常な量の脂汗、細かくブルブルと震える指先、そして夥しい量の血液とぽっかりと空いた腹部の大穴……その全てが、ロマリアの寿命が尽きかけようとしていることを物語っていた。

「嘘……私のせいで、みんな……」
「ラムディア、落ち着いて、聞いて欲しいの。」
「だめ、喋らないで。」
「時間がないわ。今から『武器変化アモルフォーゼ』を使う。」
「やめて、そんな事しないで、1秒でも長く生きて。」
「1秒じゃ何も変わらないわ……。それに、この武器変化アモルフォーゼは特別なの。あたしの心臓と……命を媒介に、魔剣を作り出す。そうすれば、いつまでも皆と一緒に……。」
「バカ……だいたい、セリバにどう説明すんのよ。」
「ああ、そうね……。首輪付けられないの、残念だなぁ……。」
「またそんなこと言って……」
「ごめんね。最期に……顔が見たいわ。」
「ッ……!」

 ラムディアは言葉に詰まった。そっとロマリアの肩を抱き、仰向けにして自分の膝元に寝かせる。

「痛くなかった?」
「うん。もう感覚がないの。あんたねぇ、ひっどい顔してるよ、もう。泣きすぎ。」
「うっさい、バカ。」

 ラムディアは腕で目を塞ぐ。

「セリバには上手く言っといてね。……あんまり早くこっちに来たら、口きいてやらないから。」

 ラムディアは腕で涙を拭い、ロマリアの手をギュッと握る。

「ありがとう。それじゃ、みんなと……ラムディアを、導いてちょうだい……『武器変化アモルフォーゼ』」

 ロマリアが言い終わり、身体が光に包まれる。光が止んだ頃には二振りの剣が、ラムディアの膝元に寝かされていた。無機質なのに暖かい刀身が、ラムディアの無力感に突き刺さって離れない。

「バカは、私でしょうが……!」

 ラムディアの慟哭だけが、闘技場に鳴り響いた。
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