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第三章 箱庭編
箱庭ⅩⅩⅧ 枯れ果てた地に救済を
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「それからは知っての通りだ。ちゃちな幻惑魔法に騙され私は気を失った。目が覚めた私は城の離れに幽閉され、ユールゲンの騎士が護衛という名の見張りとしてついた。私とお母様の溝は深まり、ろくに顔を合わせることもなくなった。」
魔族のアルエットは語りを終え、突如部屋に現れた椅子にふうと腰掛ける。
「つまりルーグが私を眠らせたもう一つの理由が、万が一見張り対象と竜の二体を相手取ることを避けるため……ってことか。」
「……まあ、客観的事実に拠ればそうなるだろうね。」
「ということは、私だけが勝手に好意を抱いていたってことなのね。うふふ、滑稽じゃない……。」
「それは……魔族の私には分からないわ。貴女の方が彼のことをよく知っているのではなくて?まあ、私には彼がそんなことを企むくらい頭が回るようには見えないけどねぇ。」
人間のアルエットは暫く俯き黙り込むが、何か思い出したかのように再び口を開いた。
「……というか貴女、100年前にデステールと会ってるってどういうことよ。そんな大事なこと、早く言いなさいよ!」
「だから、私がここに入れなかったのよ!むしろ私の方が文句言いたいわよ!100年もひきこもりやがって!」
「そんなこと言ったって私は貴女の存在自体を知らなかったんだからしょうがないでしょ……というか、なんでエリフィーズのときは入ってこれたのよ。」
「ん、あれだよ。」
魔族のアルエットが上を指さす。そこには木のバツ印の板で塞がれている穴の跡があった。
「聖剣の乙女が治療中ヤケになって貴女を殴った結果、できた穴だ。あそこから入ってきた。」
「……どこから突っ込めばいいのか分からないけど、貴女さっき扉から入ってきたって言ったわよね。」
「言葉の綾……だな。」
「あんたねぇ……。というか、デステールよデステール!!あいつは一体何者なのよ!私とどういう関係なの!!」
魔族のアルエットはわざとらしく考える素振りをしている。
「おそらく……いや、やっぱり確実な話だけをしよう。私と彼の魔力は性質は完全に正反対……だけど、同じ起源からなっている。」
「どういうことよ。」
「妖羽化だよ。あれは纏った魔力に適した肉体を再構築する秘術だが、再構築する肉体のルーツは魔力の起源……つまり種族に起因する。『定式化する白き絶望』も『昏き救済の破壊者』も妖羽化の原型はもはや同じ。だから私の引いている魔族の血というのは、彼と同族のものと言い切れるわ……いや、半人半魔であることまで同じね。」
「デステールも半人半魔……!?いや、まさかそんなはず……」
「根拠ならあるわよ。貴女の"声"。聞いた者の行動を操ることができる声。あれは魔族の力だけど、人間の血が入ることで特定の種族にしか効果が出なくなるの。私の場合は人間のみ……そして、デステールと初めて会った時の貴女は声を使ったわよね。」
「ええ。そして、やや抵抗されたが声自体は有効だった……だから人間の血を継いだ半人半魔である……ってことか。」
人間のアルエットは信じられないといった顔で、それでも自身に信じるしかないと言い聞かせるように確認の言葉を紡いだ。魔族のアルエットはそれを見ながらスックと立ち上がり言った。
「それでさ!貴女、どうするのよ。これから。」
「これから?」
「まだ魔王を倒す気でいるの?」
「もちろんよ。」
「へえ、半分は魔族なのに?」
「……お母様の」
「命令だから、って……今更それだけの理由で割り切って続けられるの?」
魔族のアルエットは腰を曲げて人間のアルエットの顔を覗き込むように見つめる。人間のアルエットはその勢いに少したじろぐが、すぐにフッと鼻で笑い飛ばし、言い放った。
「ええ。だって……私は人間の女王ヴェクトリア・フォーゲルの娘だから。人間として、娘としてそれこそが至上命題なのよ。」
人間のアルエットの勢いに魔族のアルエットは怯み、やがて苦笑いをしながらやれやれと両手をあげる。
「私の仮説によると、その考え方ってすごく危険な気がするんだよね。」
「ええ。だからまず、私の決意を補強するためにグレニアドールでデステールをやっつけて確かめないといけないのよね。」
「そういう意味じゃないけど……というか、魔族の私には従えって強制するってことなの?」
「何を今更。」
「あれ、私ってそんなに傲慢なの……?」
「とにかく、早く起きてルーグを助けにいかないと!」
「そして話を聞いてくれない!」
「それじゃ、またね……私。また呼ぶかもしれないから、心の準備だけよろしくね!!」
人間のアルエットはそう言って、扉を開き外へと飛び出す。
「えっ、ちょっと!!行っちゃったよ……。というか、随分と自信満々だなぁ……ヴェクトリアが自分の母親だなんて証拠は、何一つないのに。」
魔族のアルエットもそう呟き、精神世界の外へ出た。
「ルーグ!今行くよ!!」
崩壊したガニオの街中、瓦礫の下からガバリと起き上がったアルエット。崩壊した家屋ともはや動かない人形の藻屑を後目に前へ歩き出すアルエットだったが、拭いきれない違和感が一つ。
(あれほど暴れていたのに……シャガラの姿が見えない。どういうこと?)
アルエットがガニオに戻る際にも目星として利用していたシャガラの巨体が、どこにも見当たらないのである。遠くにいるのか、否、そもそもギェーラから観測できるのだからガニオ内にいるのなら見えないはずがない……などと自問自答を繰り返しているうちに
「もしかして……ルーグが勝ったの!?」
という期待を胸に一層開けた場所に出たアルエット。その光景は……アルエットの心を一撃で粉砕した。
「ルーグ……?」
ルーグはそこにあった。物言わずあぐらをかき目を閉じ項垂れている。そばには愛用していた大剣が転がり、服も鎧も巨大な引っ掻き傷と繊維の燃えカスでボロボロになっている。肌の表面は煤けたように黒く染まり、全身に大小さまざまな裂傷が無数にできている。そして……大事そうに抱えているその腕の中には、四肢と頭部をダラりと投げ出した少年の遺体があった。
アルエットはゆっくりとルーグの元へ歩み、肩に手を置く。ルーグの身体はその衝撃だけでどさりと地面に倒れ込んだ。
「う……うあああ……うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
滅びゆくガニオの地のど真ん中、アルエットは一人慟哭した。
魔族のアルエットは語りを終え、突如部屋に現れた椅子にふうと腰掛ける。
「つまりルーグが私を眠らせたもう一つの理由が、万が一見張り対象と竜の二体を相手取ることを避けるため……ってことか。」
「……まあ、客観的事実に拠ればそうなるだろうね。」
「ということは、私だけが勝手に好意を抱いていたってことなのね。うふふ、滑稽じゃない……。」
「それは……魔族の私には分からないわ。貴女の方が彼のことをよく知っているのではなくて?まあ、私には彼がそんなことを企むくらい頭が回るようには見えないけどねぇ。」
人間のアルエットは暫く俯き黙り込むが、何か思い出したかのように再び口を開いた。
「……というか貴女、100年前にデステールと会ってるってどういうことよ。そんな大事なこと、早く言いなさいよ!」
「だから、私がここに入れなかったのよ!むしろ私の方が文句言いたいわよ!100年もひきこもりやがって!」
「そんなこと言ったって私は貴女の存在自体を知らなかったんだからしょうがないでしょ……というか、なんでエリフィーズのときは入ってこれたのよ。」
「ん、あれだよ。」
魔族のアルエットが上を指さす。そこには木のバツ印の板で塞がれている穴の跡があった。
「聖剣の乙女が治療中ヤケになって貴女を殴った結果、できた穴だ。あそこから入ってきた。」
「……どこから突っ込めばいいのか分からないけど、貴女さっき扉から入ってきたって言ったわよね。」
「言葉の綾……だな。」
「あんたねぇ……。というか、デステールよデステール!!あいつは一体何者なのよ!私とどういう関係なの!!」
魔族のアルエットはわざとらしく考える素振りをしている。
「おそらく……いや、やっぱり確実な話だけをしよう。私と彼の魔力は性質は完全に正反対……だけど、同じ起源からなっている。」
「どういうことよ。」
「妖羽化だよ。あれは纏った魔力に適した肉体を再構築する秘術だが、再構築する肉体のルーツは魔力の起源……つまり種族に起因する。『定式化する白き絶望』も『昏き救済の破壊者』も妖羽化の原型はもはや同じ。だから私の引いている魔族の血というのは、彼と同族のものと言い切れるわ……いや、半人半魔であることまで同じね。」
「デステールも半人半魔……!?いや、まさかそんなはず……」
「根拠ならあるわよ。貴女の"声"。聞いた者の行動を操ることができる声。あれは魔族の力だけど、人間の血が入ることで特定の種族にしか効果が出なくなるの。私の場合は人間のみ……そして、デステールと初めて会った時の貴女は声を使ったわよね。」
「ええ。そして、やや抵抗されたが声自体は有効だった……だから人間の血を継いだ半人半魔である……ってことか。」
人間のアルエットは信じられないといった顔で、それでも自身に信じるしかないと言い聞かせるように確認の言葉を紡いだ。魔族のアルエットはそれを見ながらスックと立ち上がり言った。
「それでさ!貴女、どうするのよ。これから。」
「これから?」
「まだ魔王を倒す気でいるの?」
「もちろんよ。」
「へえ、半分は魔族なのに?」
「……お母様の」
「命令だから、って……今更それだけの理由で割り切って続けられるの?」
魔族のアルエットは腰を曲げて人間のアルエットの顔を覗き込むように見つめる。人間のアルエットはその勢いに少したじろぐが、すぐにフッと鼻で笑い飛ばし、言い放った。
「ええ。だって……私は人間の女王ヴェクトリア・フォーゲルの娘だから。人間として、娘としてそれこそが至上命題なのよ。」
人間のアルエットの勢いに魔族のアルエットは怯み、やがて苦笑いをしながらやれやれと両手をあげる。
「私の仮説によると、その考え方ってすごく危険な気がするんだよね。」
「ええ。だからまず、私の決意を補強するためにグレニアドールでデステールをやっつけて確かめないといけないのよね。」
「そういう意味じゃないけど……というか、魔族の私には従えって強制するってことなの?」
「何を今更。」
「あれ、私ってそんなに傲慢なの……?」
「とにかく、早く起きてルーグを助けにいかないと!」
「そして話を聞いてくれない!」
「それじゃ、またね……私。また呼ぶかもしれないから、心の準備だけよろしくね!!」
人間のアルエットはそう言って、扉を開き外へと飛び出す。
「えっ、ちょっと!!行っちゃったよ……。というか、随分と自信満々だなぁ……ヴェクトリアが自分の母親だなんて証拠は、何一つないのに。」
魔族のアルエットもそう呟き、精神世界の外へ出た。
「ルーグ!今行くよ!!」
崩壊したガニオの街中、瓦礫の下からガバリと起き上がったアルエット。崩壊した家屋ともはや動かない人形の藻屑を後目に前へ歩き出すアルエットだったが、拭いきれない違和感が一つ。
(あれほど暴れていたのに……シャガラの姿が見えない。どういうこと?)
アルエットがガニオに戻る際にも目星として利用していたシャガラの巨体が、どこにも見当たらないのである。遠くにいるのか、否、そもそもギェーラから観測できるのだからガニオ内にいるのなら見えないはずがない……などと自問自答を繰り返しているうちに
「もしかして……ルーグが勝ったの!?」
という期待を胸に一層開けた場所に出たアルエット。その光景は……アルエットの心を一撃で粉砕した。
「ルーグ……?」
ルーグはそこにあった。物言わずあぐらをかき目を閉じ項垂れている。そばには愛用していた大剣が転がり、服も鎧も巨大な引っ掻き傷と繊維の燃えカスでボロボロになっている。肌の表面は煤けたように黒く染まり、全身に大小さまざまな裂傷が無数にできている。そして……大事そうに抱えているその腕の中には、四肢と頭部をダラりと投げ出した少年の遺体があった。
アルエットはゆっくりとルーグの元へ歩み、肩に手を置く。ルーグの身体はその衝撃だけでどさりと地面に倒れ込んだ。
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