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第三章 箱庭編
箱庭ⅩⅩⅦ 破壊を捧げる黒き羽
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肉塊を弄んだアルエットは、ゆっくりと扉を離れると今度は部屋にいるヴェクトリアの方へ歩みを進める。ヴェクトリアは一瞬後ずさるも、折れた剣を気丈に構えなおし威嚇する。
「アルエット……私のことが分からぬのか?」
「……」
アルエットは徐に巨大なツメのついた手を振り上げ、力を込める。
「万事休すか……いや、アルになら殺されても構わぬか……」
ヴェクトリアの剣を持つ手から力が抜け、折れた剣が指から離れる。カランと転がる剣の柄がベッドの足に当たって止まり、ヴェクトリアは抱きつく子供を抱えるように手を大きく広げ、アルエットの攻撃を待っている。
「アルエット……結局、女王の仕事ばっかりで貴女の相手をなかなかしてやれない私は、最低の母親でした。これがその報いなら……貴女がこれで許してくれると言うのなら、私は一人の母としてその罰を甘んじて受け入れます。」
「うっ……!?」
ヴェクトリアの言葉に、アルエットが動揺を見せる。その瞬間、アルエットを背後からバサリと斬った男が一人。
「女王陛下……大変お待たせいたしました。城内のあらゆる箇所に仕掛けられた結界に少し苦戦しておりました。」
「貴方は、ジョー・ユールゲン!!」
ジョーと呼ばれた20代前半程度の男は兜を外し女王に挨拶した。明るめの茶髪と黄色の瞳をした好青年だった。
「はい……して、この魔族はいかがしましょうか?」
「ああ、それが……殺さないで、なんとか元のアルに戻して欲しいのだ。」
「それはなんとも……難しい注文ですな。どうすればいいかとんと検討がつきませんが……ま、やるだけやってみます。」
「神代の英雄に縋るしかないのだ……すまない。」
「あくまで俺は末裔に過ぎませんよ、では!」
ジョーはそう言って体勢を整えかけているアルエットに向かい突撃する。不意を打たれ激昂するアルエットは、言葉にならない雄叫びをあげる。
「うわぁぁぁぁっ!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
人間の体力と魔力を削る魔力のこもった雄叫びを至近距離で受けるジョーとヴェクトリア。二人は暫く立ちくらみのような感覚に襲われ、アルエットはその隙を突いて部屋の窓から逃げ出した。
「まずいっ!」
ジョーは急いで窓に駆け寄りアルエットの行方を目で追うが、既にアルエットは街の夜に飲み込まれており手遅れであった。飛び込もうにも結界が張られている上、床までは10メートル以上はあり無策で飛び込む訳にもいかなかった。
「すみません、見逃してしまいました。市街地に向かって行ったようです。」
「分かった。我々も急いで降りて市街地を洗おう。」
「はい……結界もどうやらまだ多く残っていますので、陛下、よろしくお願いします。」
二人は相談し、部屋を出て行った。
「これは……」
城内の結界を解除しながら進み、城の正門から市街地に出たジョーとヴェクトリアは、火の海と化していた街を見て言葉を失う。屋根の上を駆けるアルエットは家に向かって火炎の弾丸を放ち、出てきた人間を爪で切り裂いている。
「くそっ……陛下!行きます!!」
「了解!氷魔法で援護するわ!」
ジョーはアルエットに向かって突撃し、剣を振り下ろす。アルエットは左手でがっしりと剣を受け止める。ジョーはアルエットを左足で蹴り出し、体勢を崩しつつ間合いをとった。すかさずヴェクトリアが
「氷の弾丸!!」
と唱え、よろめくアルエットに氷魔法で追撃する。足元を凍らされ身動きが取れずもがくアルエットに、ジョーは再度突撃しながら
「伝説想起……吸魔の剣」
と唱えると、持っていた剣が光り変化する。そのまま吸魔の剣でアルエットを斬ろうとするが、アルエットは再び魔力の雄叫びを発する。ジョーは至近距離で雄叫びを食らってしまい、大きく吹っ飛ばされてしまう。
「ジョー!」
「くっ……厄介だな!あの声!!」
「無事か、良かった!……しかし、それが噂に聞く伝説想起なのね。」
「神代の武器を呼び出し顕現します……まあ、俺にはこれしか使えませんので。そして、あの王女様の姿が妖羽化なら、こいつを使って魔力を抜いてやれば何か起こるかもしれません。」
「……一撃を通すだけなら、考えがあるわ。」
ヴェクトリアはジョーに耳打ちする。ジョーは少し考える素振りを見せながら
「アルエット様の善性に依存するのが少しリスキーですが……それ以外はいいでしょう。乗りました!」
と剣を構え、アルエットに対峙する。アルエットは足元の氷をグシグシと踏み潰し、つま先をトントンと打つと、突撃を開始した。
「いくわよ!『火炎の弾丸・着弾爆発!!』」
ヴェクトリアはジョーに合図を飛ばし、それと同時に炎の弾丸を五つ発射する。勢いよく放たれた炎の弾丸はアルエットの足元の地面に着弾し、轟音と共に爆発した。アルエットの目の前に煙幕が広がる。
「陛下、お願いします!」
「ええ。効果時間は10秒だからね!……!!」
爆発に怯んだアルエットは思わず立ち止まり、煙の向こうを警戒する。ヴェクトリア達のいた方向をじっと睨めつけ、腕に力を込めて迎撃態勢を整える。そして
「やぁぁぁぁ!!!」
アルエットの視界の左上から、剣を振りかぶったヴェクトリアが煙幕を貫き現れた。ジョーが来ると思い込んでいたアルエットは少し戸惑うが、冷静に雄叫びと迎撃の準備を整える。しかし、
(剣が直って……いや、お母様はダメ……!!!)
ヴェクトリアを見て萌芽した理性に、身体が完全に硬直してしまう。迎撃もままならない状況に陥り、剣を止めようと左手を掲げたそのとき
「ハハッ、案外上手くいくもんだな。」
突撃してきたヴェクトリアの姿が変化し、ジョーが突如として現れる。アルエットの事実の認識が済んだ頃には、吸魔の剣は振り下ろされていた。受け止めようとした左の手のひらに刻まれた大きな傷から、血と魔力が溢れ零れていく。
「ア……ウア……」
妖羽化を維持する魔力が抜けていきフラフラとよろめくアルエット。やがてどさりと地面に倒れ込むと、妖羽化は解除され元のアルエットに戻る。
薄れゆく意識の中、アルエットはヴェクトリアの謝罪の言葉が聞こえた……ような気がした。
「アルエット……私のことが分からぬのか?」
「……」
アルエットは徐に巨大なツメのついた手を振り上げ、力を込める。
「万事休すか……いや、アルになら殺されても構わぬか……」
ヴェクトリアの剣を持つ手から力が抜け、折れた剣が指から離れる。カランと転がる剣の柄がベッドの足に当たって止まり、ヴェクトリアは抱きつく子供を抱えるように手を大きく広げ、アルエットの攻撃を待っている。
「アルエット……結局、女王の仕事ばっかりで貴女の相手をなかなかしてやれない私は、最低の母親でした。これがその報いなら……貴女がこれで許してくれると言うのなら、私は一人の母としてその罰を甘んじて受け入れます。」
「うっ……!?」
ヴェクトリアの言葉に、アルエットが動揺を見せる。その瞬間、アルエットを背後からバサリと斬った男が一人。
「女王陛下……大変お待たせいたしました。城内のあらゆる箇所に仕掛けられた結界に少し苦戦しておりました。」
「貴方は、ジョー・ユールゲン!!」
ジョーと呼ばれた20代前半程度の男は兜を外し女王に挨拶した。明るめの茶髪と黄色の瞳をした好青年だった。
「はい……して、この魔族はいかがしましょうか?」
「ああ、それが……殺さないで、なんとか元のアルに戻して欲しいのだ。」
「それはなんとも……難しい注文ですな。どうすればいいかとんと検討がつきませんが……ま、やるだけやってみます。」
「神代の英雄に縋るしかないのだ……すまない。」
「あくまで俺は末裔に過ぎませんよ、では!」
ジョーはそう言って体勢を整えかけているアルエットに向かい突撃する。不意を打たれ激昂するアルエットは、言葉にならない雄叫びをあげる。
「うわぁぁぁぁっ!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
人間の体力と魔力を削る魔力のこもった雄叫びを至近距離で受けるジョーとヴェクトリア。二人は暫く立ちくらみのような感覚に襲われ、アルエットはその隙を突いて部屋の窓から逃げ出した。
「まずいっ!」
ジョーは急いで窓に駆け寄りアルエットの行方を目で追うが、既にアルエットは街の夜に飲み込まれており手遅れであった。飛び込もうにも結界が張られている上、床までは10メートル以上はあり無策で飛び込む訳にもいかなかった。
「すみません、見逃してしまいました。市街地に向かって行ったようです。」
「分かった。我々も急いで降りて市街地を洗おう。」
「はい……結界もどうやらまだ多く残っていますので、陛下、よろしくお願いします。」
二人は相談し、部屋を出て行った。
「これは……」
城内の結界を解除しながら進み、城の正門から市街地に出たジョーとヴェクトリアは、火の海と化していた街を見て言葉を失う。屋根の上を駆けるアルエットは家に向かって火炎の弾丸を放ち、出てきた人間を爪で切り裂いている。
「くそっ……陛下!行きます!!」
「了解!氷魔法で援護するわ!」
ジョーはアルエットに向かって突撃し、剣を振り下ろす。アルエットは左手でがっしりと剣を受け止める。ジョーはアルエットを左足で蹴り出し、体勢を崩しつつ間合いをとった。すかさずヴェクトリアが
「氷の弾丸!!」
と唱え、よろめくアルエットに氷魔法で追撃する。足元を凍らされ身動きが取れずもがくアルエットに、ジョーは再度突撃しながら
「伝説想起……吸魔の剣」
と唱えると、持っていた剣が光り変化する。そのまま吸魔の剣でアルエットを斬ろうとするが、アルエットは再び魔力の雄叫びを発する。ジョーは至近距離で雄叫びを食らってしまい、大きく吹っ飛ばされてしまう。
「ジョー!」
「くっ……厄介だな!あの声!!」
「無事か、良かった!……しかし、それが噂に聞く伝説想起なのね。」
「神代の武器を呼び出し顕現します……まあ、俺にはこれしか使えませんので。そして、あの王女様の姿が妖羽化なら、こいつを使って魔力を抜いてやれば何か起こるかもしれません。」
「……一撃を通すだけなら、考えがあるわ。」
ヴェクトリアはジョーに耳打ちする。ジョーは少し考える素振りを見せながら
「アルエット様の善性に依存するのが少しリスキーですが……それ以外はいいでしょう。乗りました!」
と剣を構え、アルエットに対峙する。アルエットは足元の氷をグシグシと踏み潰し、つま先をトントンと打つと、突撃を開始した。
「いくわよ!『火炎の弾丸・着弾爆発!!』」
ヴェクトリアはジョーに合図を飛ばし、それと同時に炎の弾丸を五つ発射する。勢いよく放たれた炎の弾丸はアルエットの足元の地面に着弾し、轟音と共に爆発した。アルエットの目の前に煙幕が広がる。
「陛下、お願いします!」
「ええ。効果時間は10秒だからね!……!!」
爆発に怯んだアルエットは思わず立ち止まり、煙の向こうを警戒する。ヴェクトリア達のいた方向をじっと睨めつけ、腕に力を込めて迎撃態勢を整える。そして
「やぁぁぁぁ!!!」
アルエットの視界の左上から、剣を振りかぶったヴェクトリアが煙幕を貫き現れた。ジョーが来ると思い込んでいたアルエットは少し戸惑うが、冷静に雄叫びと迎撃の準備を整える。しかし、
(剣が直って……いや、お母様はダメ……!!!)
ヴェクトリアを見て萌芽した理性に、身体が完全に硬直してしまう。迎撃もままならない状況に陥り、剣を止めようと左手を掲げたそのとき
「ハハッ、案外上手くいくもんだな。」
突撃してきたヴェクトリアの姿が変化し、ジョーが突如として現れる。アルエットの事実の認識が済んだ頃には、吸魔の剣は振り下ろされていた。受け止めようとした左の手のひらに刻まれた大きな傷から、血と魔力が溢れ零れていく。
「ア……ウア……」
妖羽化を維持する魔力が抜けていきフラフラとよろめくアルエット。やがてどさりと地面に倒れ込むと、妖羽化は解除され元のアルエットに戻る。
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