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第三章 箱庭編
箱庭ⅩⅩⅥ 絶望齎す白き羽
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交流パーティーも終わり、各国の代表もほとんど出払ったフォーゲルシュタット王城。夜も更け闇に包まれているとある一室、眠っていたアルエットが目を覚ます。
「あれ、ここは……痛た……。」
「おや、気が付いたようだね。はい、お水。」
「ありがとうございます。ええと……デステールさん?」
「おお、覚えていただけるとはね。光栄だよ。」
アルエットは受け取った水を飲み、頭を押さえながら気を失うまでのことを思い出す。
「いえ、私の方こそ、お見苦しい姿をお見せして……」
「いやいや、まさか殿下がお酒に弱いとはねぇ。ヴェクトリア様は酒豪と呼ばれるほどなのに。」
「お母様?」
「今も、あっちの部屋で側近の方と呑んでるよ。僕もさっきまで参加させて貰ったけど、あれはついていけないねぇ……早々と抜けさせていただいたよ。」
デステールは苦笑しながら、やれやれとアルエットにジェスチャーで示す。アルエットは顔を真っ赤にしながら俯く。
「うちの身内が……すみませんね。」
「ははは、気にしないでください。僕も楽しませて貰っているので。」
「ところで、デステール様は領地に戻らなかったんですか?グレニアドールと言えば、会議の時にいらしてたもう一人の代表の方はどこにいらっしゃるのですか?」
「ああ、相方は先に帰らせました。個人的に貴女に用があったので僕だけが残り、女王様達に許可をいただき貴女が目覚めるのを待っていたのです。」
「私に?どこかでお会いしたことがありましたっけ?」
まるで心当たりのないアルエットに、デステールは少し悲しい目を見せる。怪訝な表情で見つめるアルエットに気付いたデステールは咳払いを一つ、微笑みを浮かべ語り始める。
「……アルエット王女殿下は、天使を信じますか?」
「天使って、伝承に登場するあの?」
「はい。」
「竜族と争った神々の眷属……まあ、竜族をこの目で見られたら信じると思いますわね。」
「実は、僕こそが天使なんですよ。」
「え……?」
信じられない、といった表情でデステールを見つめるアルエット。デステールはニイと口を大きく歪めて笑い
「妖羽化」
と呟くと、魔力の渦がデステールを包んでいく。凄まじい魔力の奔流に吹き飛ばされそうになるアルエットだったが、なんとかベッドにしがみつきながら耐える。やがて魔力の流れが収まり、中からデステールが姿を現した。
「妖羽化完了……『定式化する白き絶望』」
白き髪、銀の瞳。上半身の衣服は破れ、露出した肉体にはこの世界では見ることのない言語が魔法陣のように刻まれている。身体からは強い光が放たれ、魔法耐性の低いものはそれだけで消し飛ぶほどの魔力が迸る。そして、一層目を引くのは左肩から生えた、巨大な白い翼。
「妖羽化……?それに、この魔力は何?とても痛い……!!」
「アルエット、おいで」
「いやっ……嘘!逆らえない!!」
アルエットの意思はその言葉に反しようともがくが、デステールの言葉の強制力にはかなわなかった。デステールは近寄ったアルエットを、正面からぎゅっと抱き締める。アルエットは、初対面であったデステールに何故か懐かしさを感じ、当惑する。
「えっ……?」
「ああ……ようやく会えた。140年前、僕たちの集落があの忌々しき女王の手で焼かれたとき以来だね。もう離れ離れにはしないよ……僕の愛しのい……」
「王女殿下!!」
バン!と扉が音を立てて開く。先程の巨大な魔力の渦を察知した城の人間が集まっている。
「そこのお前!!何をして……」
「邪魔をするな!!」
デステールがそう叫ぶ。集まった人間は強硬突破を試み部屋に入ろうとするが、見えない壁に阻害される。
「結界か!くそっ!」
「隊長!後ろにも壁が!」
「何っ、逃げ場を塞がれた?」
「おそらく……それに、気のせいかもしれませんが、この壁、どんどん迫っているような気が……」
「何だとォッ!!!」
「ご名答。縮小結界に閉じ込めた。ゆっくりと押し潰されるがいい。」
デステールの結界による人の悲鳴と骨が潰れる音がこだまする。アルエットはデステールの腕を掴み
「やめて!あの人たちを虐めないで!!」
と懇願するが、デステールは無視を貫く。そのとき、
「結界解除法」
何者かがそう唱えた瞬間、結界は解除され肉塊になりかけた者達が解放される。現れた術士――ヴェクトリア・フォーゲルは剣を抜きデステールに突進する。
「我が国民、そして娘には手出しをさせん!」
「娘だと……?」
剣をあっさり手で受け止めたデステールは、その言葉に激しい憤りを見せそのまま剣を砕き、ヴェクトリアに激しい連撃を被せ、ダウンした彼女の頭を踏みつける。
「うぐっ……」
「貴様……どの口でほざいてやがる。だったら……僕が全てを立証してやる!アルエット!!」
「は……はい!」
「魔力を込めて妖羽化と唱えろ」
「や、やめろ!!!」
(嫌だ……)
「妖羽化……えっ、口が勝手に!」
アルエットの身体が魔力の渦に包まれる。そして出てきたのは……黒髪の鳥の怪物の如き、魔族の姿をしたアルエットであった。
「妖羽化完了……『昏き救済の破壊者』」
「それじゃあアルエット、最初の仕事だね。ここの人間共を皆殺しにしておいで。」
デステールはアルエットにそう告げると、どこかへ飛び去って行った。
「……はい」
アルエットはそう呟くと、部屋の入り口の肉塊を強引に押し潰した。
「あれ、ここは……痛た……。」
「おや、気が付いたようだね。はい、お水。」
「ありがとうございます。ええと……デステールさん?」
「おお、覚えていただけるとはね。光栄だよ。」
アルエットは受け取った水を飲み、頭を押さえながら気を失うまでのことを思い出す。
「いえ、私の方こそ、お見苦しい姿をお見せして……」
「いやいや、まさか殿下がお酒に弱いとはねぇ。ヴェクトリア様は酒豪と呼ばれるほどなのに。」
「お母様?」
「今も、あっちの部屋で側近の方と呑んでるよ。僕もさっきまで参加させて貰ったけど、あれはついていけないねぇ……早々と抜けさせていただいたよ。」
デステールは苦笑しながら、やれやれとアルエットにジェスチャーで示す。アルエットは顔を真っ赤にしながら俯く。
「うちの身内が……すみませんね。」
「ははは、気にしないでください。僕も楽しませて貰っているので。」
「ところで、デステール様は領地に戻らなかったんですか?グレニアドールと言えば、会議の時にいらしてたもう一人の代表の方はどこにいらっしゃるのですか?」
「ああ、相方は先に帰らせました。個人的に貴女に用があったので僕だけが残り、女王様達に許可をいただき貴女が目覚めるのを待っていたのです。」
「私に?どこかでお会いしたことがありましたっけ?」
まるで心当たりのないアルエットに、デステールは少し悲しい目を見せる。怪訝な表情で見つめるアルエットに気付いたデステールは咳払いを一つ、微笑みを浮かべ語り始める。
「……アルエット王女殿下は、天使を信じますか?」
「天使って、伝承に登場するあの?」
「はい。」
「竜族と争った神々の眷属……まあ、竜族をこの目で見られたら信じると思いますわね。」
「実は、僕こそが天使なんですよ。」
「え……?」
信じられない、といった表情でデステールを見つめるアルエット。デステールはニイと口を大きく歪めて笑い
「妖羽化」
と呟くと、魔力の渦がデステールを包んでいく。凄まじい魔力の奔流に吹き飛ばされそうになるアルエットだったが、なんとかベッドにしがみつきながら耐える。やがて魔力の流れが収まり、中からデステールが姿を現した。
「妖羽化完了……『定式化する白き絶望』」
白き髪、銀の瞳。上半身の衣服は破れ、露出した肉体にはこの世界では見ることのない言語が魔法陣のように刻まれている。身体からは強い光が放たれ、魔法耐性の低いものはそれだけで消し飛ぶほどの魔力が迸る。そして、一層目を引くのは左肩から生えた、巨大な白い翼。
「妖羽化……?それに、この魔力は何?とても痛い……!!」
「アルエット、おいで」
「いやっ……嘘!逆らえない!!」
アルエットの意思はその言葉に反しようともがくが、デステールの言葉の強制力にはかなわなかった。デステールは近寄ったアルエットを、正面からぎゅっと抱き締める。アルエットは、初対面であったデステールに何故か懐かしさを感じ、当惑する。
「えっ……?」
「ああ……ようやく会えた。140年前、僕たちの集落があの忌々しき女王の手で焼かれたとき以来だね。もう離れ離れにはしないよ……僕の愛しのい……」
「王女殿下!!」
バン!と扉が音を立てて開く。先程の巨大な魔力の渦を察知した城の人間が集まっている。
「そこのお前!!何をして……」
「邪魔をするな!!」
デステールがそう叫ぶ。集まった人間は強硬突破を試み部屋に入ろうとするが、見えない壁に阻害される。
「結界か!くそっ!」
「隊長!後ろにも壁が!」
「何っ、逃げ場を塞がれた?」
「おそらく……それに、気のせいかもしれませんが、この壁、どんどん迫っているような気が……」
「何だとォッ!!!」
「ご名答。縮小結界に閉じ込めた。ゆっくりと押し潰されるがいい。」
デステールの結界による人の悲鳴と骨が潰れる音がこだまする。アルエットはデステールの腕を掴み
「やめて!あの人たちを虐めないで!!」
と懇願するが、デステールは無視を貫く。そのとき、
「結界解除法」
何者かがそう唱えた瞬間、結界は解除され肉塊になりかけた者達が解放される。現れた術士――ヴェクトリア・フォーゲルは剣を抜きデステールに突進する。
「我が国民、そして娘には手出しをさせん!」
「娘だと……?」
剣をあっさり手で受け止めたデステールは、その言葉に激しい憤りを見せそのまま剣を砕き、ヴェクトリアに激しい連撃を被せ、ダウンした彼女の頭を踏みつける。
「うぐっ……」
「貴様……どの口でほざいてやがる。だったら……僕が全てを立証してやる!アルエット!!」
「は……はい!」
「魔力を込めて妖羽化と唱えろ」
「や、やめろ!!!」
(嫌だ……)
「妖羽化……えっ、口が勝手に!」
アルエットの身体が魔力の渦に包まれる。そして出てきたのは……黒髪の鳥の怪物の如き、魔族の姿をしたアルエットであった。
「妖羽化完了……『昏き救済の破壊者』」
「それじゃあアルエット、最初の仕事だね。ここの人間共を皆殺しにしておいで。」
デステールはアルエットにそう告げると、どこかへ飛び去って行った。
「……はい」
アルエットはそう呟くと、部屋の入り口の肉塊を強引に押し潰した。
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