200年級ニートが魔王討伐という名目で厄介払いされる話

盈月

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第四章 亡国編

亡国Ⅲ 定式の断罪人形

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 アルエットが悲鳴の上がった路地裏に駆けつけると、そこには人間の男が三人がかりで女性に迫る光景が広がっていた。桃色の長い髪とおっとりとしたような垂れ目、そして少々ふくよか……いや母性が溢れた体型が印象的な女性である。路地の壁まで女性を追い込み三人で囲うように逃げ場を塞ぐと、リーダー格と思われる背の高い男が口を開いた。

「なぁ姉ちゃん、俺ら別に乱暴しようってわけじゃないんだ。ただちょっと仲良くお茶をしようって誘ってるだけなんだよ。」
「いや、ちょっとこの先の家に用事があるので、私は遠慮しときたいんですがぁ……」
「じゃあさ、お茶したらそこまで送ってくからよ。それでいいだろ?」
「こ、困りますぅ……!今日が初顔合わせで遅刻できないんですから、早く通らせてください!」
「そこまでにしておけ!嫌がっているだろう。」

 アルエットが到着し、男たちに声をかける。背後からの人の声に男たちは驚き振り返るも、アルエットの姿を見るなり油断し大笑いをする。

「おいおい、治安維持の人形どもかと思ったら……。誰だか知らねえが、いっちょ前の正義感で動くとやけどするってこと、身体に教えてやらねえとなぁ!」
「アニキ!こいつもなかなか上玉ですぜ。殺しちまうにはもったいねえよ!」
「あぁ?幼児体型の女なんぞ要らねえよ、お前にくれてやらァ。」
「はぁ?お前、覚悟はできてるんでしょうね!!」

 男衆がアルエットに武器を構え、今にも飛びかかろうとしたその時、ビィーと大きな音が鳴り響く。

「な、なんの音!?」
「やべえ、ずらかるぞ!!!」
「アニキ……か、身体が動かねえでやんす!!」
「なんだと!遅かったか……」
「乱闘行為の意志の発露を発見。捕縛完了。」

 アルエットの後方から無機質な声が響く。振り返ると先程別れたばかりのシイナがそこにいた。

「シイナ!?」
「24分振りですね、アルエット殿下。ですが今は仕事中ですので、またその後に……お願いします、人型結界刻印装置3型46号。」
「もう終わってるよ~」

 シイナの後ろに隠れていた幼女が姿を現し、そう呟いた。アルエットは後ろの男たちの方を向くと、三人の男は縦に真っ二つに裂け既に絶命していた。

「うわっ……」
「お疲れ様です、人型結界刻印装置3型46号。」
「こらーシイナ!ミシロって呼んでって言ってるでしょ!!」
「その申し出は全て拒否していると思うのですが。」
「もー、可愛くないから嫌なの!」
「ところで、アルエット殿下はご無事でしょうか。」
「無視すんな!」
「あ、ああ。ありがとうシイナ。」

 アルエットとシイナは頬を緩めながら、そのような会話をしている。蚊帳の外にされたミシロはムッとしながら悪巧みをし、わざとらしい声色でシイナに告げる。

「あー、シイナったら、アルエットおばさんにシイナって呼ばせてんじゃーん。」
「お、おばっ!?」
「言いにくそうにしていらっしゃったので。呼びにくければと申し伝えておきました。」
「じゃあさ、ミシロちゃんのこともミシロちゃんって呼んでね、アルエットおばさん。」
「ミシロちゃん、それは分かったけど、おばさんはやめて欲しいかな……」
「なんで?もうそんな歳は過ぎ去ったでしょ?」
「まあそうだけど……」

 不思議そうにアルエットを眺めるミシロと、バツが悪そうに目をそらすアルエット。そんなやり取りをしている中、ナンパされていた女性にシイナが近付く。

「あ、シイナ。助けてくれてありがとぉ。」
「はぁ……人型結界刻印装置2型46-ハイフン9、貴女何をしているんですか。」
「ええっ!?その子も人型なんちゃらかんちゃらなの!?」
「人型なんちゃらかんちゃらって……。」
「はい。人型結界刻印装置2型46-ハイフン9、アルエット殿下に自己紹介を。」
「はぁい。アルエット様、お初にお目にかかります。人型結界刻印装置2型46-ハイフン9でぇす。みんなからはクニシロって呼ばれてますので、良かったらそう呼んで貰えると嬉しいなぁって思いまぁす。」
「あ、あぁ。よろしくね、クニシロ。」
「人型結界刻印装置2型46-ハイフン9には滞在中の殿下に住み込みでお手伝いするよう命じております。なんなりとお好きにこき使ってください。」

 シイナにそう言われたクニシロは腕まくりをし、

「クニシロ、頑張ります!」

 とアルエットに宣言する。アルエットは驚き言った。

「え……クニシロが向かっていた家って、あの家のことだったの?」
「その通りです。お父様が直々に命じられました。」
「ひ、人型なんたらのお仕事って治安維持ではないのかい?」
「はい。例えば城下町にて何者かが他者を害する攻撃意志が発露した場合、この街に張られているお父様の結界により感知されアラートが発せられます。我々人型結界刻印装置はそのアラートを聞き瞬時に現場へ直行、攻撃意志の主を直ちに拘束し現場状況から最適な罰を実行致します。」
「さっきのはナンパで真っ二つにされてるし、最適じゃないような気がするんだけど……」
「国賓への攻撃意志ゆえ、極刑にされて然るべしでございます。とにかく、この治安維持活動が我々人型結界刻印装置の基本の仕事になります。」

 シイナの答えに、アルエットは納得するように頷く。

「なるほど、これが人魔共生を支える秘密ってことね。どうしても人間と魔族はお互いに対し敵愾心を産んでしまう。だからこそその攻撃意志の発露の時点で芽を摘んでおくという仕組みね。」
「はい。そう言われますと聞こえはよろしいですが、実情は臭いものに蓋しているだけではございます。」
「だけど時には、それが最善策な場合もあるわ。」
「そうですね。話が逸れました……我々の仕事はその"蓋"が基本ですが、お父様のご命令はそれよりも優先すべきものです。偵察、ハウスワーク、掃除、そして……暗殺。」

 アルエットはその言葉にハッとし、思わず転がる死体を見る。

「……言われてみれば、似たような切断面を見たことがあるわね。イェーゴで。」
「ええ、まあ、あれも私と人型結界刻印装置3型46号のお仕事でしたね。」

 アルエットは息を呑み、臨戦態勢を取りながらシイナ、ミシロを見つめる。ミシロはつまんなさそうにアルエットに告げる。

「もー、アルエットおばさん。そんな怖い顔で見ないでよ。今回は国賓なんだから誰も命は狙ってないって。」
「その通りです、アルエット殿下。お父様の命として皆様の安全を確保するよう申し付けられております。ごゆるりと、明日の対面までお過ごしいただければ。」

 眉をひそめミシロ達を見つめるアルエット。やがて毒気を抜かれたように息をふうと吐き、構えを解いて答えた。

「……分かったわ。貴女達の話に乗ってあげる。行くわよ、クニシロ。」
「分かりましたぁ。」

 アルエットとクニシロは路地から去り、屋敷の方へと歩いて行った。路地に残ったミシロは、シイナに向けてぽつりと呟く。

「おばさんと仲間たちには危害を加えないよね。その三人以外は分からないけど。」
「無論です。それがお父様の命令ですから。」

 そう言い残し、二人は路地裏から消えた。
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