200年級ニートが魔王討伐という名目で厄介払いされる話

盈月

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第四章 亡国編

亡国ⅩⅤ 朝⑩〜狂い始める計算

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 デステール邸、食堂の入口の前に突如現れたラルカンバラ。ガステイルだけでなくアムリス、アルエットも順番にラルカンバラの存在に気付く。

「お前は……!!」

 驚きを隠せないアルエットは思わず、大きな声を出す。しかしラルカンバラは口元で人差し指を立てるジェスチャーをし、アルエットの発言を制止する。

「あいつの魔道具、音のやり取りまでできるんでしょ?俺の存在を伝えるのは得策ではない、王女サマは俺が来ていないフリをしてあいつと会話を続けてくれよ。」
「……ネオワイズ盗賊団の頭目様が、一体何の用だよ。」

 ガステイルは魔法を射出する構えを見せながらラルカンバラに脅しをかける。しかしラルカンバラは飄々とした様子で受け流し答える。

「空っぽの魔力でそんな脅しをかけられてもね……ほら」

 ラルカンバラはそう言って、小さなビンをガステイルに放る。ガステイルは慌ててキャッチし、そのビンをまじまじと見つめる。

「これは……魔力回復薬?」
「毒とかは入ってねえよ。だいたい入っててもお前ならすぐ気付くんだろ?そもそも俺はお前たちに協力するために来てんだ。信用してくれよ。」
「そんなこと言って、信用できるわけ……」
「分かった、信用してみるよ。」
「ちょっと、ガステイル!?」

 アムリスの必死の制止も聞かず、ガステイルはビンを開け薬を飲む。一息に飲み干しビンから口を離したガステイルの全身に、わずかだが回復した魔力が全身を循環する。

「……自分で言うのもなんだが、よく今ので俺を信用する気になれたな。」
「だってお前、俺たちより魔族の方に因縁があるだろ。あのラムディアとかいうやつに恨まれるわ右手を持ってかれるわ、挙句仲間の一人を殺されて……余程利害が一致しない限りそんなやつと同じ陣営に立つとは思えないからな。」
「はは、まあね。その辺ももちろんあるけど、今はそこの王女サマに恩を売っとけばあとあと活動しやすくなるかと思ってよ。さて、そろそろ俺の話に乗ってくれる気になったかい?」
「……」

 ガステイルは黙って少し考えたまま、ちらりとアムリスの方を見る。アムリスはその視線を少し訝しむように口を開く。

「どうしたの?」
「……いや、なんでもねえ。ラルカンバラ、お前の話を聞かせろ。」
「ああ……お前たち、さっさとフォーゲルシュタットに帰りたいんだろ?俺の魔法なら可能だ。」
「亜空間魔法が……?」
「ああ。亜空間とは現実とは次元が異なる時空、この三次元空間の物理的距離が意味をなさない空間だ。だから俺の魔法を介しフォーゲルシュタットに出口を開けば、一瞬で移動できるってわけさ。」
「なるほど……?」

 まるでよくわかっていない様子で顎に手を当てて呟くアムリスを見て、ガステイルは一つため息をつき、ラルカンバラを問い詰める。

「流石に穴がねえか?フォーゲルシュタットに飛ばしたところでこの結界はどうするんだ。閉じ込められたままだとどうにもならんぞ。」
「ハハッ、結界ごと向こうに送ったりなんかしないさ。それにこの結界は場所を定義して作られているタイプ……亜空間で裏側から出てここから離れてしまえば何の問題もない。」
「そもそも、亜空間は生身で入れないんじゃなかったか?前にそう言ってただろ。」
「ああ、その通りさ。亜空間に有機物を入れるには無機物で囲うなりしなきゃならねえ。」
「だったら……」
「いいや、それも問題ないさ。ガステイル、お前が三人を包む容器を作れ。」
「俺が……?」

 ガステイルはごくりと息を呑む。ガステイルはラルカンバラから目を逸らし、何か言い訳を考えるように周りをキョロキョロと見る。しかし、ガステイルが何かを言う前にラルカンバラが口を開いた。

「ああ、だから魔力回復薬を渡したのだ……それだけあれば、三人分を覆う箱くらい作れるだろう?」
「いや、この量だと0から作るには足りない!何か核になる材料があれば……それも、内部から簡単に壊せる物を……まさか!!」

 ガステイルはそこまで言いかけて、先程ラルカンバラに渡されたビンを見つめる。ラルカンバラはニヤリと笑い追い打ちをかけるように言う。

「どうやら、核にするべき物質に気付いたようだな。」
「……ああ、これだけあるならやれる!アムリス、アルエット殿下、こちらへ!!」
「はい!」

 ガステイルの呼びかけに応じ集まる二人。アルエットはガステイルに懇願するように言った。

「ガステイル、お母様とデステールが争っている……急いで欲しい。」
「分かっています!始めるぞラルカンバラ!」
「ああ……こっちも準備万端だ!亜空陥穽ディメンションホール!!」

 ガステイルは右手のビンに魔力を込め、四角いガラスの入れ物を展開した。ラルカンバラが食堂に入り、そのガラスに触れながら掛け声をかけると、三人を包んだ箱が亜空間に吸い込まれて行った。そしてその次の瞬間、フォーゲルシュタット王城を移す食堂の映像にアルエット達三人が現れる。少し高いところに出現した結果ガラスの入れ物は着地の衝撃で割れてしまう。バルコニーの外でヴェクトリアを追い詰めていたデステールはその姿に驚き思わず振り返り言った。

『何っ……お前たち、一体どうして!?』

 割れたガラスから現れナイフをゆっくりと構えるアルエット。アムリスは倒れたルーグへ駆けつけ治療を始める。ガステイルは指先に魔力を込めデステールに向けている。

『デステール……貴方にお母様は殺させない!敵討ちの連鎖なんてくだらないもの、ここで絶対に終わらせてみせるから!』

 デステールに啖呵をきったアルエット。その様子が映し出された食堂にて、一人残されたラルカンバラは映像の魔道具を力任せに破壊し、グレニアドールを去っていった。
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