200年級ニートが魔王討伐という名目で厄介払いされる話

盈月

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第四章 亡国編

亡国ⅩⅥ 朝⑪〜露台の一騎打ち

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 フォーゲルシュタット王城、デステールはバルコニーへと足を踏み入れる寸前に突如現れたアルエット達に驚き、思わず振り返る。

「まさか……他に協力者が!?」
「デステール……貴方にお母様は殺させない。私がここで貴方を止めてみせる。」

 アルエットの言葉に、デステールの表情が大きく歪む。歯を強く食いしばり目を大きく釣り上げた鬼の形相でアルエットを睨みつけ、大きな声で怒鳴った。

「お前はいつまで、この女を母親と呼ぶんだ!!」
「ずっとよ……当たり前じゃない!!実際はお腹を痛めて産んだ子じゃないかもしれない、でも私の人生のうち240年間をお母様でいてくれたのはその人なの!血が繋がってるかどうかじゃないのよ!」
「分からないやつだな!この女は俺たちの母親と同胞を皆殺しにし、たまたま生き残ったお前を気まぐれで持ち帰ったに過ぎないんだ!!母親なんかじゃない、ただの泥棒なんだよ!!!」
「分かってる!!分かってるし……そこは許すつもりはない。残りの一生をかけて償って欲しいとも思う。でも……私にはその240年間は簡単には捨てられないの。」
「……」

 アルエットの言葉にデステールは絶句し、全身をわなわなと震わせる。唇を強く噛みしめ踵を返し、バルコニーへと再び向かおうとする。

「行かせない!!」

 アルエットはデステールを制止するために短剣を構え、デステールへ突撃する。デステールはすぐにアルエットへ向き直し、突撃を横に躱しその腹部にカウンターの拳を打ち込む。

「ふぐぅっ」
「……失望したよ。自分の妹がこんな阿呆だとは思わなかった。」

 その場で蹲るアルエットへ追い打ちのごとく凄まじい蹴りを脇腹に入れるデステール。アルエットは床を転がるように飛ばされ、うつ伏せになり苦しむ。デステールはそれをひどく悲しそうな顔で見つめ、バルコニーへと出て行った。

「ま……待ちなさい!!」

 アルエットはすぐに立ち上がりバルコニーへと駆け出す。しかしその入り口で透明な壁に弾かれてしまう。

「うそ……デステール!!ここを出しなさい!!!」

 アルエットの慟哭が、玉座の間に響いた。


 フォーゲルシュタット王城・バルコニー。アルエットに続きルーグ達が集まった出入り口とは対照的に、デステールとヴェクトリアは静かに対峙していた。眼下には忙しなく避難を進めるフォーゲルシュタットの住人がごった返していた。デステールがゆっくりと口を開く。

「随分、お待たせしたようで……240年くらい。」
「いやいや、私は気が長い方でね。そのまま永遠に忘れてくれていても構わないんだけど。」
「いやぁ、僕は女を待たすようなクズ男ではないもので……辞世の句とかあるなら、聞いておくけど?」
「お生憎様、辞世の句なんて持ち合わせてないわ……それに、生きてアルエットに言いたいこともあるからね。」

 ヴェクトリアは言い終わらぬうちに剣を抜き、デステールに突進する。デステールも剣で応戦し、数合打ち合いをみせる。拮抗した剣の応酬に、入口の四人は思わず息をのみ見つめていた。アルエットとルーグは眉をひそめ、焦っているような表情をしている。

「実力は互角……驚いた、女王様は剣も嗜むのか!」
「……いや、デステールはまるで本気じゃない。ねえ、ルーグ。」
「お嬢の言う通り……というか、まともに攻撃に転じてすらいません。」
「なん……」

 ガステイルの顔から血の気が引いていく。打ち合いを何度か繰り返し鍔迫り合いに持ち込んだヴェクトリアとデステール。ヴェクトリアは必死の形相で歯を食いしばり耐えているのに対し、デステールの額には汗ひとつなかった。

「……親の仇が、憎いんじゃないの?貴方からまるで攻撃の意志を感じないんだけど。」
「ちょっと黙っててくれないか、今考えごとをしてるんだ。」
「真剣勝負の最中に随分と余裕なことね……さぞ大事なことなんでしょう?」
「はは、まあね……お前をどう処刑すれば溜飲が下がるかなと。」
「は……何言って……」
「よし、決めた。」

 デステールがそう言った瞬間だった。

「は……?」

 ヴェクトリアの肩から勢いよく血が吹き出す。アルエット達の目は、宙を舞うヴェクトリアの右腕と剣に釘付けになった。アルエット達は何が起きたか分からず時が止まった感覚に陥ったが、アルエットの叫びが意識を現実へと引き戻した。 

「お母様!!!!」

 アルエットは結界に全身を押し付けるようにしながら叫び、拳で何度も結界を強く殴った。ヴェクトリアは膝を付き、左手で右の肩を掴んでいる。額には多量の脂汗を浮かべ、息を荒らげ歯を食いしばり痛みに耐えている。すかさずデステールが間合いを詰め、

「ははは、攻撃の意志も手段も無くなっちゃったね。」

 笑顔でそう言い放つと、一方的にヴェクトリアを斬り続けた。両足、残った腕、胴体を致命傷にならない程度に斬りつけ、その度にヴェクトリアは大きな悲鳴をあげる。眼前の惨たらしい光景にアルエット達は目を背けることもできず、ひたすらに絶望していた。

「お母様……もうやめて……出して……」
「デステール!!ここから出しなさい!!」
「クソッ!!なんかできないのかよッ!!!!」

 やがてデステールの剣撃が止み、デステールは興味を失ったようにヴェクトリアの元を去る。放り出されたヴェクトリアは全身血塗れで、もはや虫の息であった。ヴェクトリアは力を振り絞り、ゆっくりとアルエット達の元へと這いずり、なんとか辿り着くと、

「アルエット……いる……?」
「お母様……無理しないで……」

 溢れる涙を堪えながら座り込むアルエットが言う。アムリスは聖魔法の準備をしながらヴェクトリアに叫ぶ。

「女王様!!なんとかこちらへ来てください!私の聖魔法で治療するので!!!」

 ヴェクトリアは虚ろな瞳でアムリスを見ると、ゆっくり手を伸ばした……しかし、その手はアルエット達と同様、出入り口より先には進まなかった。

「嘘……私たちを閉じ込めるだけじゃなくて、女王様を締め出す結界まで……?」

 アムリスは聖魔法の準備をやめ、結界に向けて聖剣を何度も振り始める。

「お願い……斬って!斬れて……斬れなさいよ!!!」
「アムリス……もういいわよ。」
「いやだ!!ここでこんな結界を斬れないなんて……聖剣ってなんなのよ……聖剣の乙女って、なんて無力なのよ!!」

 アムリスの言葉を聞いたアルエットがゆっくりと立ち上がり、アムリスの肩を掴み首を振る。諦めたような瞳で彼女を見つめるアルエットに制止され、アムリスは全身をがたがたと震わせながら数歩後退し、身体の力が抜けたようにぺたりと座り込む。ヴェクトリアはふふと少し笑い、血を零しながら口を開く。

「……良かった、みんながいい子で。今のうちに、言っておかないとね。」

 アルエットが一歩前へと出て、ヴェクトリアをじっと見つめる。ヴェクトリアは深呼吸を一つし、再び口を開いた。既に日は高く昇り、ヴェクトリアの体を照らしていた。
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