200年級ニートが魔王討伐という名目で厄介払いされる話

盈月

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第五章 彷徨編

彷徨Ⅷ 手合わせ

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「ほ、本当にヴォリクスなのか……!?」

 ガステイルは半信半疑になりながら、広間の真ん中に立つヴォリクスに尋ねる。ヴォリクスはにこりと微笑んで頷くとガステイルはヴォリクスに駆け寄り顔を大きく崩して笑った。

「良かった……また会えて、本当に良かった……。」
「……そうだね、兄さん。」

 ヴォリクスは少し俯きながら、ガステイルの手を取り言った。

「どうして、急に戻ってくる気になったんだ?」
「え?」
「いやだって、お前はあのラムディアって魔族に仕えていたんだろ?」
「あ、ああ。そうだね……。」

 ヴォリクスの要領を得ない回答をガステイルは少し不審がる。二人は暫く話すことに困り、沈黙が続いた。やがてヴォリクスがゆっくりと口を開いた。

「兄さん……手合わせ、してくれないか?」
「なっ、どうして……?俺たち、もう戦う理由も必要もないじゃないか。」
「ごめん、頼む。」
「ヴォリクス……」

 いつになく真剣に勝負を申し込むヴォリクスに戸惑うガステイル。その背後からゼーレンがガステイルに歩み寄って言う。

「ガステイルちゃん……その申し出、受けてやって欲しいの。」
「ゼーレン様、何かご存知なのですか!?」
「ガステイルちゃんが来る前にいろいろ聞いたわ。でも……」

 ゼーレンはそう言いかけてヴォリクスにちらと視線を送る。ヴォリクスはそれに首を振って応え、ガステイルに向かって再び語りかけた。

「兄さんが勝ったらお話します。とにかく、時間が無いかもしれません……俺と戦ってください。」
「……本当に、戦うしかないのか?」
「はい。無論……全力で。」

 ヴォリクスの強い視線に気圧され、ガステイルは唇を噛みながら臨戦態勢を取る。ヴォリクスは小さく微笑みながら、

「兄さん、ありがとう。」
「……さっさと済ませるぞ、俺はもう戦うつもりなんてないんだ。」

 とやり取りすら待たず、ガステイルに飛びかかった。


 150年前、エリフィーズ周辺の森。ガステイルとヴォリクスは共に魔物退治をしていた。

「兄さん!スケアクローの群れだ!!」
「ははっ!任せろ!"赫き鉛の跳弾レッド・リコシェット"!!」

 ガステイルは十数匹ほどいるのスケアクローの群れめがけて指をさし、鉛弾を発射する。一つの鉛弾がスケアクローの群れを貫き、次々と屍が積み上がっていく。ガステイルはしたり顔でヴォリクスに

「へへっ、こんなもんよ!」

 と鼻高々に告げた。そんなガステイルに向かって、ヴォリクスが大きな声で叫ぶ。

「兄さん!!後ろ!!!」

 ガステイルが慌てて振り返ると、仕留め損なったスケアクローが彼に襲いかかっていた。ヴォリクスは急いでガステイルに接近し、そのまま影に潜った。次の瞬間、重なっていたスケアクローの影から飛び出し持っていた短剣でスケアクローの首元を斬り裂いた。

「す、すまねぇ。助かったよヴォリクス。」
「全く、兄さんたらすぐ調子乗るんだから……」
「悪かったって!いやぁ、今回の魔法は自信があったんだけどな……まだまだ精度に問題アリだな。」
「魔物退治は魔法の試し撃ちの場じゃないんですよ、全く……」

 ヴォリクスはため息をつきながら短剣を収める。ガステイルはバツが悪そうに目を逸らし、話を強引に変えようとする。

「よ、よし!次行こう次!」
「えぇ、まだ行くつもりなんですか……?」
「もちろん!魔力は余ってるし今の魔法の練度をさらに上げなきゃ!」
「はぁ……兄さん、全く反省してないじゃん。」

 ヴォリクスは悪態をつきながらも、森の奥にぐいぐいと進んでいくガステイルに着いて行く。その口元は少し緩んでいた。
 森の奥地、山のように積み上がった魔物の死体のそばで片付いたと言わんばかりに手をパンパンと払うガステイル。満面の笑みを浮かべて満足そうにヴォリクスに話しかけた。

「そろそろ使い方が分かってきた!ヴォリクス、付き合ってくれてありがとな!」
「街のクレープ1週間分ね。」
「は、はは……まあ、それくらいなら……」

 ガステイルがヴォリクスに手を伸ばし駆け寄ろうとした瞬間であった。突如、地面が大きく揺れる。

「なっ、地震!?」

 ビシビシと地割れが走り、ガステイルの足元の地面が崩れ落ちる。ガステイルの手は空を舞い、土塊と魔物の死体と共に奈落へと落ちていく。ヴォリクスは顔を青ざめ、

「兄さん!!!」

 と叫び手を伸ばしながらガステイルが落ちた穴へと飛び込んだ。ガステイルは薄れゆく意識の中、追いついたヴォリクスをひしと抱きしめた。
 崩れた森の底、ガステイルはゆっくりと目を覚ます……何故か、うつ伏せの態勢で。あの地震からどれほどの時が経ったであろうか、彼の隣にヴォリクスの姿はなかった。

「ヴォリクス……?ヴォリクス!!どこ行ったんだ!!!」

 この状況を到底受け入れられないガステイルは、虚空に向かって叫び続けていた。しかし、彼の耳にはこだまする自身の叫び声しか戻ってくるものはなかった。

「うっ、痛っ……」

 突如、ガステイルを頭痛が襲った。思わずガステイルが頭を触れると、べちゃりと血が彼の掌を染めた。その瞬間、彼の脳内に心当たりのない記憶がフラッシュバックする。森の底で怪我をしているガステイルとヴォリクス、より重傷なヴォリクスに向かって治療行為のようなものを施すガステイル、そして……

「なっ……誰だ、お前は!!」

 完治したヴォリクスの隣で、倒れた自らを見下ろす魔族の男。二人は踵を返し、ガステイルの元を去っていくところで、記憶は途切れていた。
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