200年級ニートが魔王討伐という名目で厄介払いされる話

盈月

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第六章 決戦編

決戦Ⅸ 雌雄決す

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 ジューデス・魔王城前。デステールに声をかけられたアルエットは足を止め、踵を返してデステールの元へと進む。そしてデステールの傍らで寄り添うように膝を地面につけた。

「……ネカルクに、挑むつもりか。」
「ええ、私たちはそのためにここに来たんだから。」
「……忠告だ。あの女に妖羽化ヴァンデルンを使わせるなよ。」
「そんなの、言われなくても分かってるわ。妖羽化ヴァンデルンよりも前に片付けないと勝ち目がないことくらい……」
「違う、今言っているのはそんなことではない。あの女の妖羽化ヴァンデルンだけは発動させてはならんのだ。」
「……もしも発動したら?」
「お前たちの負けが確定する。」

 デステールは虚ろに空中を見つめながら強い口調で言い切った。アルエットは真に迫ったその口調にごくりと息を呑んだ。緊張が走り黙ったアルエットにデステールはさらに話を続ける。

「あの女の妖羽化ヴァンデルンは他の奴らのそれとはまるで質が違う。今までの戦いと同じだと思ってはならん……」
「なんでもかんでもダメだダメだって、だったらどうすればいいのよ。」
「心臓を……狙うんだ。」
「心臓……?」
「ネカルクの妖羽化ヴァンデルンには発動条件がふたつある。妖羽化ヴァンデルンの前に攻撃を受けていること、そして……三つある奴の心臓が全て正常に機能していること、だ。」
「発動条件って、なんでそんなものがあるのよ。」
「……一つ目の条件は僕も知らん。二つ目の条件のことなら単純な話だ。維持コストがバカにならんのだよ……それだけ強力な効果だってこと。魔王の魔力と身体ですら万全の状態じゃないと扱えない……異常な妖羽化ヴァンデルンなんだよ。」
「……さっきから魔王の妖羽化ヴァンデルンのことばっかり聞いてるから、いい加減異常性は分かったわよ。それで、私たちは具体的にどう戦えばいいの?」
「とにかく、一撃で心臓を一つ潰せ。それができれば光明が見えてくるが、できなければ……」
「負け、ってことね。」

 デステールは目を閉じコクリと頷く。アルエットは口を真一文字に結びデステールを見下ろしていた。デステールはようやく、憑き物が落ちたように微笑んで再び口を開く。

「アルエット……最後に、手を握って欲しい。」
「……分かった。」

 アルエットはそう言ってデステールの右手を両手で包み込むように握る。すると、デステールの右手がぼんやりと薄く光り始め、アルエットの全身を駆け巡り優しく包み込んだ。

「何、これ……」
「お前を対象とした結界を張り直した……本来、術者が死んで魔力が供給されなくなった結界は消えるが、対象に触れながら発動すればこのように問題なく結界を維持できるようになる。効果は、魔力の効率上昇と少しばかりの身体強化だ。」
「張り直した……って、まさか妖羽化ヴァンデルンのときの結界って!」
「アルエット、お前はお前自身のために魔王を倒すんだ……そして誰かを愛し、人間達に愛されながら生きるんだ。その障害になりうるものは、取り除いておいたから……。」
「それって……」
「行け……アルエット。人や魔族のしがらみのない世界で……胸を張って生きるんだ……。」

 アルエットの手と繋がっていたデステールの手が、力無くだらんと垂れる。アルエットは下唇を噛みながら、腕をそっと元の位置へと戻す。そしてゆっくりと立ち上がり、目元を少しだけ拭って立ち上がった。

「ありがとう……お兄ちゃん。私、頑張るから。」

 震える声でそう呟いたアルエットは、デステールに背を向け先を行くアムリス達の方へと歩き始めた。
 アルエットがデステールと話をしていた頃、アムリスとルーグは火炎の弾丸フレイムシュートが放たれた方角の森を見つめながら二人で話していた。そこへアルエットが合流する。

「二人とも、どうしたの?」
「あ、アルエット様!いや、不思議だなぁって……」
「不思議?なにが?」
「はい……だって、あれほどの火炎の弾丸フレイムシュートが何の前触れも無くあそこから放たれて……」
「え?二人とも気付いていないの?」
「「何がですか?」」

 まるで何のことか分からない様子でアルエットに尋ねる二人。アルエットはやれやれと苦笑いすると、森の方へと歩みを進めて大きな声で呼びかける。

「いい加減出てきなさいよ……そこにいるのは分かってるのよ、ガステイル!」
「でぇっ!?!?」
「ガステイル君が来ているんですか!?」
「他に誰がいるのよ。それに、さっきこんなものも拾ったし。」

 アルエットはそう言って、弾丸のような形をした金属をピンと指で弾きながら二人へと見せる。

「これって……質量構築魔法の!?」
「ええ。さっきお兄ちゃんの近くに落ちていたの……元々彼じゃないかとは思ってはいたけど、これを見つけて確信したわ。」
「流石ですね……アルエット殿下。」

 森の手前の草木がゴソゴソと音を立てて割れ、一人のエルフの少年が姿を現す。その姿を見た途端、アムリスとルーグはホッとしたように笑顔になり、ガステイルめがけて飛び出した。

「ガステイル!!」
「うわぁ、アムリス!」

 アムリスはアルエット達の目も気にせずガステイルに抱きついた。ガステイルは思わず倒れ込み、アムリスを剥がそうとアムリスに触れるが、彼女の笑顔で思いとどまる。するとアムリスの背後からアルエットがゆっくりと近付いて来る。

「ガステイル、おかえり。」
「殿下、ご迷惑をおかけしました。」

 アルエットが差し出した手を、ガステイルは力強く握りしめた。四人の眼差しには、希望が強く瞬いていた。
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