悪役令嬢としての役目を果たしたので、スローライフを楽しんでもよろしいでしょうか

月原 裕

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ロチルド家

 誰のハートと聞くのは愚問である。エドモンド王子のことかぁ。
 今朝になると王宮の侍女の間にまで噂は広がっているのを確信する。
 噂話が回るのは早い。ゴシップであればあるほど、人に面白く感じるように大袈裟になり、尾ひれがつく。
 私はどうすれば、婚約破棄ができるのかを昨日の夜必死になって考えた。
 しかし、考えれば考えるほど沼にはまっていくのを感じた。王家という沼は、私を簡単には逃してくれそうにない。

「エドモンド王子には、思う人がいるようなの」

 どの程度の尾ひれなのかを確認するために自分から話題をふる。

「タチアナ・ロチルド様のことでしょうか?」
「あら? ロチルドって」
「そうなんです。リリーの義理の妹らしいです」

 リリーの家も複雑なのね。
 複雑に絡まった糸を振りほどくかのようにして、情報をひとつ入手する。
 ロチルド家は、子爵だが、没落寸前という話も聞いている。再婚してから雲行きがあやしくなったとも言われており、どれが本当なのかは噂の域をでないためにわからない。
 私の夢は、婚約破棄をして、早々に家に帰る。昔いたあの場所へ帰るのだ。手つかずの自然豊かな大地で踊りあかすのを夢見ている。
 ここは空気が悪い。いつも誰かが誰かの出世のために踏み台になっているようなところ、そんな場所だ。

「タチアナ様はどんな方なのかしら?」
「リリーの方が詳しいとは思いますが、優しいお方ではないようです。リリーが行儀見習いに入るときに進めたのは、継母とタチアナ様だったとか、これってまるで小説に出てくるようなお話ですよね?」

 つまり行儀見習いという名目の上でリリーを体よく追い出した。まさか未来の王妃付になるとは思っていなかったのかもしれない。もしかしたら、それを防ぎたくて王子を誘惑した。タチアナが王妃候補となったとしてもリリーが側仕えになるのか? 
 私はとばっちりを受けたということになるのか?

「あーっ、考えがまとまらない!」

 もう少しで髪を丁寧に梳かしてくれたメイベルの苦労を水の泡にするところだった。
 手が無意識に空中に浮かんだところで、メイベルの持つブラシに当たった。そこで我に返った。

「申し訳ありません!」
「それはいいの。私の不注意だから、それより、お願い! メイベル、目の下のクマは化粧で消さないで!」
「どうしてでしょうか?」
「マッサージして化粧して、自分の気持ちを誤魔化したくないの」

 起きるなり、鏡を見たときは絶望した目の下のクマにも使い道はある。
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