要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第二章 錬磨

迷宮の崩壊

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「ふざけてないで、必ず帰ってきなさいよ!」

 アリスに飽きられながら、言われてしまった。俺的には、言いたい台詞セリフの結構上位なんだがな。

「まぁ実際、やってみないと分からんからな。気合をいれるためだよ。敢えてのフラグはさ。それと、迷宮核ダンジョンコアって簡単にこわせるものなの?」

「普通の火力じゃ無理だろうが、瘴気纏オーガを斬ったあの技くらい有れば、恐らく問題ないだろうな」

「よし! じゃあ決まりだな。ボス斬る。みんな転移脱出。俺、コア斬る。俺逃げる。実にシンプルで良い」

「ヤナ様、もし生きて帰ったら……お伝えしたい事が……ダメ……涙はまだ我慢よ、私」

「ミレアさん……わざとやってない……?」

 みんなで少し笑いながら、気合を入れ直す。

「じゃあ、ヤナの露払いは僕たち勇者が努めようか! ボスは瞬コロで行っちゃうよ!」

「もちろんよ! 私のミラクルマジックで、ぶっ飛ばしてあげる☆」

「私の華麗なる剣技の錆にしてくれるわ!」

「みんな頑張って! 頭だけは守ってね! それ以外は、どんどん怪我していいよ!」

「「「……」」」

 そしてボス部屋の扉を開けた。

「ブヒャアアアア!」

 扉を開けた部屋の中には、この間デカブツ瘴気纏オーガと同じく黒い靄に覆われたオークエリートがいた。瘴気纏オークエリートは、俺たちを待ってましたと言わんばかりの、大きな咆哮を上げて俺たちを威嚇した。

「うるさい! 龍爪舞撃斬斬撃って飛ぶんだ…!」
「くさい! 聖なる雷撃砲宇宙戦艦かよ…!」
「目障り! 終わり無き剣戟流星群剣戟の土砂降り…

「ブヒャ!?ブヒャアアアア!」

「勇者って……容赦ないのな……」

 憐れにも登場から数秒で消し飛んだボスに心の中で合掌しながら、際奥の部屋へと入った。中には地面に淡く光る魔法陣と、空中に浮かぶ黒い靄に包まれたデカい魔石の結晶が浮いていた。

「これが迷宮核ダンジョンコアか……でかいな」

迷宮核ダンジョンコアは、最大級の魔石となります。ただし、あの浮いている位置から移動もできませんし、砕いても欠片もなく消滅してしまいますが」

 ミレア団員の説明では、迷宮は魔石が採れる為に、基本的には管理できる場合は大抵コアは壊さないという事らしい。

「さて、それじゃあやりますか」

「ヤナ殿、ご武運を」

 それぞれ応援言葉をくれながら、転移陣に入って行く。そして最後にシラユキが声をかけてきた。

「……ちゃんと帰ってきなさいよ」

「当然だろ? 俺は最後まで、絶対に諦めない男だからな」

 笑いながら、そう答える。

「そう……ならやっぱり……あの時、諦めてなんかなかったんじゃない……」

「ん? どうした?」

「なんでもないわよ! さっさと帰って来ないと置いてくわよ!」

「ははは、それは困るな。それじゃまたあとで」

「あとでね」

 俺以外の全員が転移陣の中に入り、ケイン騎士団長が転移の言葉キーワードを発した瞬間、淡い光に全員が包まれた。光が収まった頃には誰もいなくなっていた。

「ふぅ、強がってみたものの、やっぱり結構ビビるな……」

 鍛錬や戦闘とは違うこの死地に居る恐怖に、呑まれそうになっている心を奮い立たせる様に呟く。

「いけるいけるぞ……俺は出来る……絶対帰れる……帰ってみせる……そうだピンチは男の見せ場だぞ! 俺は何だ! 絶対諦めないヒーローだ! うぉおおおお! 疾風迅雷早く速く疾く! 一騎身体/魔力当千回復/増強! 本気の心堅石穿火事場の馬鹿力!」

 最近息をする様に使用している心堅石穿火事場の馬鹿力を、意識的に全力で解放した。

「一撃で斬って、そのままダッシュだ! 二刀流剣技『十文字』! せぃあああ!」

"パキィイイン"

 迷宮核ダンジョンコアを二刀による全力の剣戟で破壊した。


『ごめんね……あり……がとう……』


「っ!? なんだ!?」

 一瞬頭に響いた声に身体が硬直したが、迷宮核ダンジョンコアを破壊した直後、物凄い地鳴りと振動が襲ってきた。

「やばい! うぉおおおお!」

 俺はすぐさま、ボス部屋の扉を開けて全力で駆け出した。そして、俺と迷宮の追いかけっこが始まった。



「なに!? この音と振動は!」

「シラユキ殿、今まさにこの瞬間に迷宮核ダンジョンコアが、ヤナ殿によって破壊されたのです」

「そっか……」

 ヤナを除くメンバーは、転移陣により迷宮ダンジョンの入り口のすぐ横に転移していた。

「ねぇ? 今更だけどヤナって帰り道覚えてるのよね? 結構分かれ道とかあったけど」

「え? 覚えてるから、あんなに自信満々だったんじゃないの?」

「どうかなぁ? 結構私との鍛錬中も、勢いとノリで解決しようとする時あったしねぇ」

「強がりだったとかやめてよね……ヤナ君」

 そして、迷宮脱出を開始したヤナは焦っていた。



「蘇れ! 俺の記憶ぅううう! 階段はどっちだぁあああ!」

 四階は道を間違えることなく階段まで辿り着けたが、ヤナの記憶は一階層分の容量しかなかった。

「一階層でも覚えてた俺を、誰か褒めてぇええ! どわ! あぶねぇ!」

 当然まだ罠は生きており、ヤナは避けながら道を探しながら脱出していた。

「やばいやばいやばい! どうするどうする! 慌てるな俺! 落ち着け俺! ぐわぁ! またかよあぶねぇ! 落ち着かせろよ!」

 迷宮ダンジョンの罠は御構い無しにヤナに襲いかかり、移動しながらでは落ち着く暇もなかった。

「よし、思い切って停止! 俺の記憶は当てにならん! もうスキルに命を預けるぞ! 道を間違えたら死ぬぞ! 俺死ぬぞ! 危ない俺! 危機危機! 全力の死神の危険/気配慟哭《自動感知》! ゾワッとしない道を選んで脱出だ! お願い死神ちゃん!」

 自分の記憶は諦めて、スキルに頼り駆け出したヤナだったが、これが功を奏した。

「うおっしゃあ! 階段めっけ! あとニ階層! うぉおおおお!」

 その後も順調に一階層への階段も発見し、少し安心した矢先だった。

「おいおいおい……マジかよ……お前ら魔物も生存本能ってやっぱあるんだな」

 下層から逃げ出してきた魔物達が、一階の通路を所狭しと埋めていた。しかも、我先に外に出ようとしているため、道は大量の魔物で混乱している。

「ははは……ダッシュの後は速斬り選手権ってか?……上等だぁ! どぉけぇええええええ!」

 狭い通路で魔法を使うと視界が余計悪くなる為、刀のみで押し通る判断をした。しかし、ただ走るのと違い斬りながら進むのは、確実に時間が掛かっていた。

「どけどけどけぇえええ! てめぇらどかねぇえかぁああ!」

【威圧を取得しました】

「やかましいわぁあああ!」

「ギャギャ!?」

 今のは完全に魔物の所為では無いのだが、魔物はヤナの『威圧』により萎縮してしまっている。

「よし! そのまま道を開けてろぉお!」

 すでにヤナの後ろの通路は崩れだし、土砂に埋まりながら迫ってきていた。

「あれか!」

 ヤナの前方に迷宮ダンジョンの入口だと思われる光が見えた。

「よし! 間に合いそう……だ? おいおいおいおい! なんで塞り始めてんだよ! まだ通路は崩れて無いぞ!」

 ヤナは知らなかったが、迷宮は一階層の大部分が崩落し潰れると、迷宮にいる生物を逃さぬように、確実に最後は入口が閉まり完全に閉じてから死を迎えるのだ。そして外でも、入り口が狭まってきているのをアリスが気が付いた。

「ねぇ! 行く入口が狭くなり始めてる!」

「あの入り口が完全に閉まると、迷宮に死が訪れたという事なのです」

 ケイン騎士団長が険しい顔をしながら説明する。そうしている間にも入り口は、少しづつ狭まり、あと子供が通れる程しか開いていない。

「ヤナ! 早くしろよ! もう締まるぞ!」

「ヤナ君! フラグなんていつものことでしょ! 早くぶち壊してよ!」

「ヤナ様! あなたの為に、悲しみの涙なんて流したくないですよ!」

 コウヤ、ルイ、ミレア団員が其々にヤナを呼んでいた。

 そして、遂にその時は来てしまった。

「「「……閉まった……」」」

 そして、皆の想い虚しく迷宮ダンジョンの入り口は、完全に閉まった。そして静寂が訪れ、外にいる者達は皆が無言になっていた。もしかした直ぐに飛び出て来るんじゃないかと思い、入り口のあった場所から視線が外せなかった。体感的に五分、十分と待てどもヤナは出てこない。既に入り口は閉じているのだから当たり前である。

「シラユキ様……そろそろ行きましょうか……」

 シラユキは、その場にへたり込んでしまっていた。

「まだもう少しだけ……待って……」

「シラユキ様……もう入り口も閉まってしまいました……もう……」

「あいつは!……ヤナ君は……絶対諦めないって言ってたもん!」

 シラユキの目からは、涙が止めどなく流れ落ちていた。

「シラユキ……みんな悲しいのよ。それでも、ずっとここにはいられないの……」

「アリスちゃん……う……うわぁあああん!」

「よしよし。思いっきり泣きな……私も泣いてあげるから……ヤナのバカ……」

 アリスがシラユキを抱きしめ、二人で涙を流していた。コウヤもケイン騎士団長もミレア団員も、目を瞑り険しい顔をしていた。

「ヤナ君……遅れて登場は……ヒーローのお約束だよ?……みんな貴方ヒーローを待っているんだよ……早くド派手に登場してよね!」

「ルイちゃん……」

 ルイの泣きながらの慟哭を聞いていたシラユキが、一番最初に異変に気付いた。

「ねぇ?…なんの音?」

「ん? なんか聞こえるの? 僕には聞こえないけど……いや! まって! なんか聞こえる!」

 何か地面を削るような音が、少しづつ大きくなって聞こえてきた。

「今度は何!?」

 もしかしたらと全員が入り口の方を見た瞬間、全員の背後・・に、轟音が鳴り響いた。



「ドリルは漢のロマァアアアアアンン! ぬあ! 眩し! うおぉおお! 貫通ぅううう!」

「「「「……」」」」

「あれ? 今度は姫ちゃん以外も泣いてたのか? 案外泣き虫ばっかだな」

 ヤナは、笑いながら皆元へ近づいていった。

「「「うるさーーーい!」」」

「うお! なんで三人して怒るんだよ! ちゃんと帰ってきただろうが!」

「おそい!」
「うるさい!」
「カッコつけるな!」

「ひどい!」

「ははは! ヤナ! おかえり! 何してたんだよ! 心配したんだぞ!」
「ヤナ殿、よくご無事で! 流石変態ですな!」
「ヤナ様! 嬉し涙で前が見えません! ちなみに特に伝えたいことはありません!」

 他の三人には心配して貰えたらしく、他の三人との差もあってヤナはひどく感動していた。

「確かに入り口が閉まったのが見えて焦ったが、咄嗟に焔魔法を形状変化デフォルマシオンで『ドリル』を創り出して掘り進めたんだが、なにせ上下左右がわかんなくてさ。迷っちゃった! ははは!」

「「「笑うな!」」」

「ひぃ! なんなのあの三人……俺、ちゃんと約束通り帰ってきたよね?ね?」

「ははは! それだけヤナを心配してたってことさ! さぁヤナの大冒険も終わったし帰ろ!」

 何故か釈然としない思いをしながらも、全員で無事に帰ることが出来た事を喜びながら、ヤナは翌日に城への帰路に着いた。

「「「キリキリ走れ!」」」

「お前ら鬼か!?」

 もちろん帰りも、ヤナが馬車を引いてだが……

「俺って……嫌われてるんだろうか……」

 若干メンタルにダメージを負いながら、城へ向かって馬車を引くヤナであった。

「本当に……心配したんだからね……このバカ……」

 誰かの震える声での小さな呟きは、馬車の音に掻き消されるのであった。
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