要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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幕間(二章〜三章)

月と狼

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 月が綺麗に見えるこの夜、私は森の中を必死に駆けていた。

「ハッハッハッ……グルル……キャン!」

「おいおいおいおい、あれだけ待ってやったのに、まだこんな所にいたのか? 真面目に走っているのか? ギャハハ!」

「グルルルルル!」


 私は忘れてはいけない

 今の情けなさを、悔しさを、怒りを、悲しみを


「まだまだ調教が足りない様だなぁ? ほうら、これが何だったかわかるか?」

 どさりと私の前に落とされたのは、私を匿ってくれていた同胞であったモノ。

「!? グゥオオオオオ!」

「さぁ逃げて逃げて、次の誰かに災厄を案内しなよ? ギャハハ!」


 私の目からは悔しさ涙が出ていた

 自分の弱さに『絶望』していた

 戦わず逃げる事に『絶望』していた

 戦士の誇りを失う事に『絶望』していた


"貴方は、悪神に恐れられる巫女なのよ。誇りなさい。その目に宿るその聖痕は、貴方を悪神が怖がっている証拠。だから、悪神の喉元に喰らいつく牙を磨きなさい"

 かあさまは、私にそうかつて語りかけてくれた。

"お前は、生まれながらの戦士だ。戦うのだ。爪が砕け牙が折れても、戦士の誇りを折られるな。お前は我らが誇る、戦う巫女なのだから"

 とうさまは、私にそうかつて語ってくれた。

 だけど、二人は今はもういない。

 一族のお役目を担うのはもう私しかいない。

 私は月明かりを身体全身に浴び、全ての力を解放した。

「ウォオオオン!」

 わたしは、全力でその場から駆け出した。

「おいおい、なんじゃそりゃ!? そんな、力まだ隠してやがったか! って、おいおいそれで結局逃げるのかよ。まぁいいさ、また狩りの時間だ。お前が『絶望』に染まるまで、何度でも狩りに行くぞ。ギャハハハ!」

 最後の力を使い、あの場から逃げたのはいいが、此処が何処かも分からなかった。

「はぁはぁはぁ……もう限界だよ……動け……ない……」

 わたしは、力を限界まで使用した為に身体が動かなくなり、その場に倒れ込んだ。暫くしないうちに、男の声が聞こえてきた。

「うぉ! なんだこいつぁ? ん? 女か? 取り敢えずカシラのとこ持ってくか」

 わたしは、その男に担がれ何処かに運ばれているらしい。抵抗も出来ずに、そのまま『カシラ』のとこまで運ばれた。

カシラぁ、こいつをそこで拾って来やした。女で子供ですが、どうしやしょうかね? いらんなら捨てる前に、俺らで頂いちまいますが」

「よく顔見せてみろ……左眼が包帯で隠れているが……おい、その包帯をとってみろ。ほほう、幼いが中々いい顔してるな。いい金になりそうだ。お前ら、こいつには手を出すな! 手をつけると値が下がるからな。初モノの方が値が付く。わかったか!」

「「「へい!」」」

 その後わたしは、奴隷商人に売られ奴隷となった。



 わたしは月に願いをかける

 わたしにどうか『絶望』に争う勇気を下さい

 この眼に打ち勝つ力を下さい

 それがわたしの願いです

 月光が静かに私を照らしていた
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