要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第三章 冒険者

指定盗賊団討伐クエスト依頼

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「主様?」

「え!? あれ? 夢か?……何だったんだ、今の…」

 綺麗だと呟いた瞬間には、既に女性の姿は無くなっていた。そして月明かりは、アシェリしか照らしていなかった。

「悪い、寝ぼけてたみたいだ。明日から早いぞ。さぁ、寝よ寝よ」

「はい、おやすみなさい」

 再び俺は眠りに着いた。なぜあの時、アシェリも起きていたかを考えもせずに。

「……綺麗……か」

 


「おはよう! 起きろ、アシェリ」

「ふぇ?」

「今日から、鍛錬するぞ。早く奴隷から解放されたいだろ? ほらほら、準備だ準備」

 いつも・・・通りに、夜明け前に起きて外に出る準備をした。アシェリも眠そうだったが、何とか準備を済ませていた。

「主様、今から何処に行くのですか?」

「その前に、その主様ってのはもう固定なのか?」

「エディス様に、その方が奴隷らしく・・・・・見えるので、そう呼んだ方が良いと教わったのです」

「あぁ、そうだったのか。まぁ解放するまでだしいいか。子供に主様って呼ばれるのもアレな感じだが……深く気にしないでおこう……」

 深く考えると精神衛生上悪くなりそうだったので、そういうもの・・・・・・として慣れる方向で自分を納得させた。

 揃って革鎧レザーアーマーに着替えて、宿の外に出る。

「これから毎日、俺の鍛錬に付き合って貰う。昨日俺の師匠達に聞いてみたら、この世界では・・・・・・子供でも特に気にせず鍛錬するって聞いたからな。獣人族は元々人族より身体能力が高いらしいし、大丈夫だろ。身体を鍛えても成長に問題は無いってのも確認出来たし、ガンガン頑張ろう」

「この世界では?」

「ん? っと、何でもない気にするな。じゃぁ、先ずは朝飯まで走ろうか。何するにしても、先ずは体力がないとな。どんどん速くしていくから頑張れよ? でないと街中で迷子になるぞっと」

 とりあえず俺は腕輪と指輪をきちんと装備した状態で、軽く・・街中をランニングをし始めた。

「え!? はや! ちょ! 主様ぁあああ!」

 十歳位の子供には辛いだろうが、アシェリが奴隷ではなく自分の力でこの世界で生きていくためには、俺も心を鬼にしなければならないと決めていた。

「許せアシェリよ……俺は心を鬼にするのだ! そーら、俺に触ることが出来たら、終わりにするからなぁ。ほらほらぁ、こっちまでおいでぇ」

「えぇえええ!? 鬼ぃいいい!」

 アシェリとの距離を常に・・一定に、つかず離れずで走る。俺も今のままでは鍛錬にならない為、『起死回生窮地:能力倍増』の発動を止めた。

「ぐぅううう! 久しぶりの感触……だな……きっつぅ」

 豪傑殺しの腕輪と魔導師殺しの指輪の負荷を全身で受けながら、アシェリに追いつかれないように走る。意外にもアシェリは足が速く、その後にこっちも全力で逃げることになったのだった。

「ぜぇぜぇ……これ……毎日な……はぁはぁ」

「はぁはぁ…ごふぅ…」

 宿に入る前に『浄化クリーン』で、きちんと綺麗にしてから汗臭いからね食堂に向かった。

「ヤニャ様とアシェリにゃん、おはようごにゃいます!」

「おはようリアンちゃん」
「おは……よう……ございま……うっぷ」

「アシェリにゃん!?」

 勿論、朝食は特盛りにしてもらった。食わないと大きくなれないからな。

「残すなよ? もったいないからな。いただきます」

「……」

 先に特盛り朝食を食べ終わったので、半ベソかいているアシェリにギルドに行ってくる事を伝え、俺だけで宿をでた。

 朝のギルドは、昼間に比べて大変混み合っており、条件の良いクエストを探しに来ている冒険者でクエストボード前は賑わっていた。とりあえず、クエストボードは素通りして受付カウンターに向かい、エディスさんの列に並んだ。何故か・・・、エディスさんの列は少ないので順番が回ってくるのが早くて助かる。

「おはようエディスさん。昨日のやつの査定はでた?」

「おはようございます、ヤナ君。また支部長室へ行って貰ってもいいですか? あとアシェリちゃんは?」

「分かった。今から向かう。アシェリは宿屋で朝食と格闘してる。もし来たら、フロントで待たせといてくれ」

「格闘? 分かりましたよ。来たら伝えときます」

 エディスさんは、やや訝しげな表情をしながらも了解してくれた。

「あぁ、あとアシェリの冒険者登録も頼む。登録料は銀貨2枚だったな? ほいよ」

「了解しました。まぁ強くなれるのであれば、冒険者が一番生きて行くには手っ取り早いですね。死にやすい職業でもありますが」

「なるべく生き残れるように、鍛錬するさ。じゃ頼んだ」

 そしてガストフ支部長室の前まで歩いていき扉をノックすると、中からガストフ支部長の入って来るようにとの声が聞こえた。

「どうも、査定はどうだった?」

「それだがな、瘴気纏い個体は今回も持ち帰りか?」

「あれなぁ、山の様にあったからなあれ。半分は貰って、半分売るわ」

「おぉ! それは有り難い! ロックベアの外皮は良い防具の素材になるが、アレは瘴気纏いは更に別格の強度があったからな」

 瘴気纏い個体は、金の成る木だそうだ。その分、リスクも遥かに高くなる為、中々討伐されないそうだ。

「ロックンドルの羽毛は、全部売却でいいんだろ? アレは結構金になるしな」

「あぁ、全部売却で構わない。自分に必要な時は、その時にまた取りに行く」

 現在特に羽毛が必要な事態になっていない為、金優先にする事にした。一人養う子がいる事と鍛錬の為、生活費はケチりたくない。その為には、金が必要だからだ。

「ハッハッハッ! 流石だな! なら、討伐報酬とロックンドル成長体の全身羽毛、通常ロックベア三十六体素材全て、瘴気纏い個体の素材は半分量を売却。解体費用を差し引いてっと……」

 ガストフ支部長が、電卓のような魔道具で最終的な報酬額を計算している。

「しめて金貨百枚枚ってとこだ。どうだ?」

「あぁ、それで構わない」

 やはりロックンドルの状態の良い全身羽毛と瘴気纏いロックベアの素材が高く売れるらしい。

 これで、かなり懐は潤った。当面は生活費には、困らないだろう。

「ところで、奴隷と契約したらしいな。しかも子供だと聞いたが?」

「あぁそうだな、まぁ成り行きって奴だ。あんたも説教か?」

「ハッハッハッ! エディスに既に説教されたか! 俺は何も言わねぇよ。好きにするといいさ。苦しみや憤りも、全てお前のもんさ」

 ガストフ支部長は豪快に笑いながら、そう言い放った。

「あとそうだ。Cランクになっていきなりなんだが、お前に指定盗賊団討伐クエストを受けて貰いたい」

「おいおい、指定盗賊団討伐クエストは確か単独討伐はAランク冒険者以上、単独じゃない場合でもBランクパーティからだろ?」

 指定盗賊団討伐クエストは、態々クエストで出るほどに名が売れている盗賊団の討伐である為、危険度が高く難易度が高い。しかも、魔物討伐と違い対人戦闘力がある事が前提である為、通常は単独の場合Aランク以上の冒険者が受ける事が出来るクエストとなっている。その分達成すると、ギルドの評価ポイントも高い。

「そうなんだがなぁ、うちの支部にいる唯一のBランクパーティがこの間壊滅させられてなぁ。自信喪失中なんだわ……誰かさんの所為でな」

「……メンタル弱すぎだろ、あいつら五蓮の蛇……クエスト完了期限はいつまでなんだ?」

「今から丁度一週間後に、でかい商隊が王都から北の都に向かう。それまでに殲滅皆殺し若しくは捕縛だな」

「一週間後って、結構急だなおい。もうアジトはわかってるってか?」

「そうだ。あとは叩くだけなんだがなぁ。Bランクの他の連中が別の指定クエストやら何やらで出張っててな。Cランクで返り討ちに遭っても困るしな。その点お前さんなら大丈夫だろ、多分」

「多分てなんだよ、多分て。まぁ、でも分かった受けるよ。殺す気はないから捕縛するつもりだがな。相手が万が一死んじまった場合は、どうなるんだ?」

「別にどうもならん。盗賊は生死を問わずが基本だ。受けるならアジトとの近くまで転移術師が送れるから、言ってくれ」

 当然現代日本に暮らしてきた俺としては悪人だとしても、を殺したくはない。例え殺してしまったとしても『不撓不屈折れない心』がある間は、精神的には大丈夫そうな気はしているが、元の世界に帰れた時に支障が出そうだ。

「分かった。そのクエストを受ける。で、そのアジトの場所は?」

「昨日お前さんが行ってきた所に、近い場所だ。ケシン渓谷を北に抜けた所にある森の中に洞窟がある。そこが、奴らの寝ぐらだ。人数は大体二十人位だと報告を受けている。」

 正にその森は、昨日アシェリから聞いていた場所であり、彼女が盗賊に拉致られた森だった。
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