要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第三章 冒険者

狩人

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「グルガァアアア!」

「ぐっ! ちょこまかと動きやがって! 『侵食されしダーティ稲妻サンダー』!」

 私に瘴気に汚れた稲妻が、襲いかかる。

 私は構えわず稲妻の雨の中を、ラオラインの喉元目掛けて跳躍した。

「獣風情がぁ! 調子乗るなぁ! 『悪魔的なデビル棘の柵ソーンフェンス』!」

 ラオラインの目の前まで迫った所で、突然棘の柵が現れ、そのまま突っ込んでしまった。

「キャイン!」

「お前の身体に刺さったその棘は、なかなか抜けねえぞぉ? ギャハハ! おらぁ!」

悪魔的なデビル棘の柵ソーンフェンス』の棘が、私の全身に刺さって抜けない。しかも、刺さった傷口から魔力が漏れ出してしまっている。


 それが何だというのだろう?


 私は構わず彼奴の身体に爪を突き立てるべく、襲いかかる。奴の剣戟と魔法の隙間を縫いながら、奴の胸を爪で切り裂いた。

「グギャア! 貴様! もうその姿は維持できまい! いつもの様に尻尾巻いて、逃げたらどうだ! 追いかけて追いかけて追い詰めてやギャァア!」

 無駄に喋っている奴の顔に爪を突き立て、耳を食い千切ってやった。

「ペッ」

 吐き出した彼奴の耳を吐き捨て、目の前で踏み躙る。

「き……きき貴様ぁあああ! もう良い! 死ねぇ! 『侵食されしダーティ獄炎牢プリズン』! 獣がぁあ! 燃え尽きろぉおお!」

 私の周りを瘴気に汚された極炎が囲み、一気に私の諸共燃え上がる。奴はそれを見て高笑いしている。


 何がそんなに可笑しいと言うのだろう?

 私は生きている・・・・・のに


「アァハッハッハ! 燃えカスでも彼奴・・にでも見せてやるか! ギャハハごふっ……かは……なん……だ……と……」

 私は燃えながら・・・・・瘴気の炎の牢から飛び出し、高笑いして無様に喉元を晒している奴の喉に、牙を突き立てそのまま噛み切ってやった。

「がふ……こふ……貴様……何故そこまで……」

そして『完全獣化フルビースト』を保てない程に私に刺さった棘から魔力が漏れ出てしまい、発動が解ける。

「はぁはぁ……もう私は失うことはないもの……くっ! 身体が……時間が過ぎたのね……」

 更に『輝夜の刻プリンセスタイム』も解けてしまい、装備も巫女の姿から元の装備へと、子供の姿まで時間が戻り身体が小さくなるのに合わせて換装された。

「ゴフッ……何を失わないのか知らんが……それを今から失わせてやろう……グルオォオオオオオ!」

 私に喉元を食い千切られ、這いつくばっていたラオラインが咆哮をあげた。そして、着ていた服が膨れ上がる身体で裂けていき、瘴気纏いロックベアを超える巨体となった。

「グゥウウ! ガァアアアア! ケモノガァ! キサマら巫女共は、絶望サエシテレバ良いのだぁあ!」

「うぐあぁ! ごはぁ! ぎゃふ!」

 わたしは異形の怪物となったラオラインに、幾度も蹴り飛ばされ、殴られ、投げられ、地面をボロボロになりながらも、わたしは失わない・・・・

「はぁはぁ……ふふ」

 わたしは、主様より頂いた二本のナイフを構え立ち上がる。

「何がオカシイ! 何をワラッテイル! 気でも狂ったカ!」


 わたしは嗤う

 主様がそう言ってくれた・・・から


「わたしは戦うわ。もうお前は、わたしから奪えないもの。これ・・がある限り、わたしは何度でも立ち上がり、嗤いながら戦うわ」

「オレが、ナニをウバエナイと言うのだ!」

 わたしは、怪物を目を逸らさず真っ直ぐ見つめながら、言い放つ。

「戦士の誇りよ」

 わたしの目には一欠片も『絶望』は写ってはいないだろう。

 恐怖も怖れも哀しみも無く、純粋な戦う意思だけを宿した眼を向けられラオラインは、初めて怯んだ。

「そ、それがナンダトいうのだ! ソンナモノあった所で、オレにはカテヌワァ!」


 わたしに向かって、巨大な拳が迫ってくる。これは躱せないし、当たれば死ぬだろう。

 今回は、目を瞑ることはしなかった。耳を塞ぐ事もしなかった。

 わたしは二本のナイフをもって、迎え撃つべく剣戟を放とうとした。

 もう身体は動かなくても、一切の迷いなく立ち向かった。

 だからだろうか。

 やけにはっきりと聞こえたのだ。


「アシェリの勝ちだ。よくやったな」

 わたしの主様の、優しい声だった。

 その直後、わたしを潰そうとしていたラオラインが物凄い轟音とと共に吹き飛んだ。

「さぁ、戻ったぞ?」

 主様の怒気を含んだその声が、その場にやけに響いた。



「主様、おかえりなさい」

「あぁ、ただいま。全員無事みたいだな。彼奴五蓮の蛇は、後で無事じゃ無くすけどな」

「……根に持ってるんですね」

 当然、二つ名の恨みは深いのだ。一番初めに自分が『漆黒の騎士《ジェットブラック》』と名乗った事など、全く無視してあいつら五蓮の蛇に俺の怒りをぶつける。

「き……キサマぁあああ! ナゼココにいる! 城までトバシタハズだぁああ!」

『神火俺込誘導弾《ヤナミサイル》』の直撃を受けて、身体の大半を吹き飛ばされ地面に転がっているラオラインらしき・・・頭が叫ぶ。

「え!? 城まで飛ばされてたんですか! 戦えと指示された以外は主様は静かでしたが、そんなことが……」

「ん? あぁ、『強制移動《テレポート》』っていう陰険な嫌がらせを受けてな。それと黙ってたのは確かに強制移動テレポートの影響もあるが、『戦え』と言った後からは、ラオラインとアシェリが話し始めて、話しかける雰囲気じゃなかったから黙って聞いて・・・ただけだよ」

 俺は優しくアシェリの左眼を見て微笑みながら、アシェリの頭を撫でた。

「主様……申し訳ありません……聖痕がある事を隠していました……」

 アシェリは目から大粒涙を流しながら、俺に詫びを入れてきた。

「いいさ、俺だってアシェリに言ってないことぐらいあるしな。例えばそうだな、その聖痕をつけやがったクソ神に喧嘩を売っている事とか?」

「……は?」

「アシェリに会うまでに、色々・・あってさ。あそこでズタボロになっているお仲間ガルガロイを斬り捨てる際にね。あいつらの目や耳で得た情報ってのが、魔王や悪神にも伝わるらしくて、『お前悪神を殺しに行く』って言ってあるんだよ」

 アシェリの目からは涙が止まっていたが、代わりに何故か固まっていた。

「はぁああああああ!?」

 取り敢えず固まった・・・・アシェリを置いといて、ラオラインに対して話しかける。

「さて、俺は戻ってきたわけだが? ガルガロイと同じくさっさと斬り捨てようか、狩人さん?」

「グゥウウアアアア! ナメるなぁ! オレはアイツとはチガァアアアウ!」

 ラオラインがそう叫ぶと、バラバラに散らばっていた神火に燃やされていなかった破片が、蠢き出した。

「ギャハハハ! テメェなんぞ正面からヤらねぇよ! 取り敢えずココからハナレサセテ貰うゼ? お前がイク先々に罠を張り、お前の大事なモノをコワシて、オレがオイツメテ追い詰めて狩ってヤるよぉ? ギャハハ! せいぜい闇にオビエルんだなぁ!」

 そう叫ぶなりラオラインの破片が猿のような形に変化し、森に散らばり逃げていく。

「おいおい、連れねぇなぁ? 折角お前に会いに、城から飛んできたってのに」

 ラオラインが、森に散らばって逃げていく様子を見たアシェリが我に返る。

「あぁ……これでは、奴にこれから闇から狙われる生活に……主様には本当にご迷惑を、きゃっ!」

 アシェリの声を遮り俺は、アシェリの頭をクシャクシャっと撫で回した。

子供が・・・生活の心配なんてするな。戦う時以外はもっと子供らしくしとけばいいんだよ。だがまぁ、戦う時に無理して声や口調を大人の真似しなくていいぞ? 聞いてて笑いそうになる。くくく」

「は?」

 何やら困惑した表情をしているアシェリをほっといて、狩りの・・・準備を始める。

「『双子ツイン』『十指テンフィンガー』『神火のセイクリッド大極柱セントラルピラー』『形状変化デフォルマシオン』『神火の猟犬ティンダロス』『対象:ラオライン達』」

 神の火で創り出した猟犬ティンダロスを整列させる。


"さぁ、狩りの時間だ"


「ナンダ!? オレの数がドンドンヘッテイル!?」

 ラオラインは、森を駆け抜けて逃げていた。

「ヤツしかもう戦えるヤツはいなかったハズ……何が起こってギャフ!」

 また一匹ラオラインは自分の気配が消えたのを感じた。一番破片の大きかった頭部が変化したラオラインは、余りに一瞬で自分が消されている為、何が起きているか全く把握出来いなかった。

「何処に何がいるんギャァ!」
「ナニカが追いかけてクルんギャベシ!」
「く……クルなぁあああ!ゴギャ!」

 そして、残りは既に頭部だったラオラインしか残っていない。

「ハァハァ……何故オレが……オレが……狩られてイルんだ……オレは狩る側ではナイノカ」

 ラオラインの呟きが、森の闇に吸い込まれていく。

「早く……ハヤクニゲナイト……ハヤク速く……い……イヤ……イヤダァアアアア!」



 "みぃつけたぁ"



 そして、夜の森に再び静寂が戻った。
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