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第四章 自由な旅路
海域調査
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人魚の少女が海の中に消えてから、風が強まり海が荒れ出してきたので、討伐した魔物を鞄に回収してから、一旦ギルド戻った。
「高台に行ったついでに、魔物を討伐してきたから処理して貰えるか? 食える部分の肉は、既に簡単に切り出したんだが、素材なんかの解体と、ついでに受けられる討伐クエストを完了して貰えると助かるかな」
ゲッソは瘴気纏いキングクラーケンの仕事で手が一杯らしく、他の職員に指示を出して対応してくれた。報酬は俺の口座への振り込みでお願いし、ギルドで宿屋も紹介して貰った。
「ほほう、やっぱり海の街だけあって料理もそれらしい感じの料理だな。うん、美味い」
所謂、魚料理の様なものが出てきたのだ。これが全て魔物というところが異世界らしいところだが。
料理を食べた後は、俺の部屋にエディスさんも来てもらい明日の予定を伝えた。
「明日は、実際に海に出ての海域調査ですか。船は……って、どうせ創るんでしょうし、問題ないですね」
「どうせって何だよったく。まぁ、創るんだけど。あとは勇者達に今日何かあったかを聞いて、明日の細かい行動は考えておくよ」
「わかりましたよ。それで、部屋は私だけ別部屋なのですか……グスン」
「……アシェリは奴隷だからって、一部屋貸してもらえなかったからだろうが……」
エディスさんは、立ち上がりまた明日と言いながら自分の部屋に戻っていった。
俺は、勇者達に今日のこっちの出来事を伝える為と、新しい情報があるか聞くために呼出しようとした。誰にかけようかと一瞬迷ったが、ルイに言われた事を思い出し改めて呼出をかけた。
「『もしもしヤナだが、シラユキか?』」
「『え!? あっ、うん、私よ』」
「『今、話しても大丈夫か?』」
一応都合を聞いてから、今日あった事を聞かせた。
「『人魚の女の子かぁ。確かに気になるわね。この辺に住んでいるなら、瘴気纏いキングクラーケンの事も知ってるかも知れないし』」
「『やっぱりそう思うよな。ならやっぱ明日は、その人魚の子を探しに沖に行くかな』」
「『……大丈夫なの? その沖で、前回の討伐隊が壊滅しちゃったんでしょ?』」
シラユキが不安そうな声で、俺を心配してくれた。
「『俺なら絶対大丈夫だ。殺したって死なない男だぞ俺は。必ず生きて戻ってくるさ』」
「『どれだけフラグ立てるのよ全く……ふふふ』」
シラユキの小さな笑い声が聞こえて、俺まで笑みが零れる。
「『ちゃんと帰ってきなさいよ』」
「『わかってるって。じゃないと姫ちゃんが泣いちゃうからな。この間の迷宮の時みたいに、くっくっく』」
「『な!? だだだだだ誰が泣くってのよ! それに私はシラユキよ! 姫ちゃんと呼ぶなぁああ! 回線切断!』」
「あ! 切りやがったな。ったく、まだそっちの情報聞いてないってのに」
俺は溜息を吐きながら、ルイに『呼出』した。
「『もしもし、ヤナだ。ルイか?』」
「『そうだよぉ。どうしたの?』」
「『そちらの今日の情報を教えて欲しくてな。こっちのはシラユキから聞いてくれ』」
俺はシラユキにこっちの事を伝えた所で、少しからかったら怒って回線切断された事をルイに伝えた。
「『ふふふ、これは明日が楽しみですな。からかいがありますからな、シラユキちゃんは』」
「『程々にしといてやれよ? その反動が俺に来そうだよ、ったく』」
「『ふふふ、それとこっちの今日の情報だったねぇ。えっとねぇ……』」
勇者達は、以前に瘴気纏いキングクラーケンらしいものと遭遇した冒険者の所を訪れ、話を聞いて回ったらしい。
「『足だけで、そんなにでかいのか?』」
「『そうみたいだよぉ。全身が出てきたら、大怪獣バトルだねぇ。もし襲ってきたら、ヤナ君が三分で倒してね?』」
冒険者の話では、足の部分だけでギルドの建物より優に超える高さがあったと言う。ざっとギルドの建物を思い出すと、五階くらいあった気がしたので、あまりの大きさにゲンナリした。
「『マジで超合金合体でもしないと、戦えないんじゃないかそれ、マジで』」
「『期待してるよ! 超合金ヤナロボ!』」
「『そういうフラグを立てるな……まぁそん時はそん時だ。ありがと、じゃあな。おやすみ』」
「『え!? あっ、うん。おやすみぃ!』」
俺はルイから情報を聞いてから回線切断した。
「ちぇっ、もう切られちゃった……」
「さて、おはようアシェリ。走りに行くぞ」
「あ……はい、やっぱり何処でも同じなんですね」
次の日の朝、いつも通りに朝食前の鬼ごっこをして、一汗かいてから朝食に向かうと、食堂には既にエディスさんが食事を始めていた。
「おはよう、エディスさん」
「おは……ようございます……エディス様……うぷ」
「……相変わらずね……おはようございます。それで、今日はどうする事にしたんですか?」
エディスさん呆れられている様な気がしたが、決して気にしてはいけない。
「勇者達に聞いた話は、取り敢えず瘴気纏いキングクラーケンを単独で相手にするには、相当手強そうという事は分かった」
「まず単独で、討伐しようとしてる時点でおかしいでしょ」
「そこで、取り敢えず昨日人魚の少女を見たところまで、行って見ようかと思う。もし会えれば、あの辺で何が起きているのかわかるかも知れないしな。人魚の少女に会えなくても、キングクラーケンに会えれば儲けもんだ」
「だから……はぁ、言っても無駄ですね。全員で、海の上に行くんですか?」
俺は昨日寝る時に考えていた事を、エディスさんに話した。
「いや、俺だけのつもりだ。アシェリにはもう言ってあるが、まだアシェリには瘴気纏いは早そうだしな。地上ならアシェリが危なくなるまで戦わせるんだが……」
ちらっとアシェリを見ると、特盛朝飯に半泣きなのか、ボコボコになるまで瘴気纏いと戦わされる事に嬉し泣きしているのか分からなかった。
「海の上だと何が起きるか分からんしな。アシェリは海岸で待機して貰う。それで俺に何かあった場合は、勇者達と行動を共にして、俺を救出するなりなんなりして貰う。それはさっき勇者達にも伝えた。俺が死んだら、勇者達が主になって貰い、すぐに解放する様に決めてある」
昨日その事でアシェリと部屋で揉めたが、俺について来るだけの力がないうちは仕方がないと納得させた。
「……」
「アシェリちゃん……」
アシェリは一瞬食べる手が止まったが、再度黙々と食べ始めた。
「それで、エディスさんもアシェリと一緒に待ってて欲しいと思っているんだが、どうする?」
「私は一緒に行きますよ? 今回のコレは、ヤナ君の試験ですからね。評価者の私は、近くで評価しないといけませんからね」
「まぁ、元Aランク冒険者って言うしな。じゃあ、しっかり評価してくれ」
「勿論ですよ」
そして、朝食後に俺たちは海岸へと向かった。
「アシェリは、取り敢えずここで待機だな。海岸沿いの魔物でも狩ってても良いし。日向ボッコしててもいいぞ。自由時間だ」
「わかりました。取り敢えず、海岸沿いの魔物でも狩っています」
「それなら、狩ったものはちゃんと自分の鞄に入れておけよ」
金が余っているので、アシェリにも魔道具のマジックバックを買ってあるのだ。
「さて、じゃあ準備するかなっと」
俺は腕輪と指輪を外した。
「『双子』『神火の大極柱』『収束』『形状変化』『神火の水上バイク』『自動操縦』」
神火で作った水上バイクを海の上に浮かべた。昨日魔法で創り出した火は、唯の水では消えない事をこの為に確認したのだ。魔法で燃やした木は、海水をかけると消えたが、ただの火球は海の中に入れても消えなかった。
こちらの世界では常識らしいが、これは俺は知らなかったのだ。魔法で創り出した火は、魔法自体を破壊されるか、魔力の供給が止まると消える。そのため、神火の水上バイクも消える事なく使えるのだ。操縦はした事ないから、格好だけで自動操縦なのだが…
二人用の大きめの水上バイクを創り、まず俺が飛び乗った。そして、エディスさんを手招きする。
「どうした? 来ないのか?」
「これは……なんですか? 見た事ないですが、船ですか? やけに小さいですが……」
「まぁ、そんな様なものだよ。ほら行くぞ」
俺はまだ見た事ない乗り物に尻込みしているエディスさんの手を取り、強引に引き寄せ俺の後ろに乗せた。
「しっかり俺に捕まっていろよ? 振り落とされるなよ」
「はい? 船なんでしょう? なんで振り落とされぇええええ! きゃぁああああ!」
俺は早速水上バイクを運転している気分で発進した。実際はスキル任せなのだが、気分が大事なのだ。
「ヤナ君!? こここれは、船!?」
「風が気持ちいいだろう? この速さに慣れると爽快だぞ?」
少し走ると、エディスさんは落ち着いた様子で周りを見始めた。
「……本当……これは、風が気持ち良いわね」
エディスさんは、俺にしっかり抱きつきながら呟いた。
「そ……そうだな……うん、それじゃぁ、人魚のいた所や、海岸からは探索出来ない所を……あひゃ!?……探そう……」
俺は、背中に押し付けられるエディスさんのアレの感触と戦いながら、周囲の探索に集中するのであった。
いつ以来だろう、これ程私が心踊るのは
ヤナ君が創り出した水上バイクという乗り物で、海の上を走っている
こんな経験は、これまで生きてきた中で始めてだった
とても速く激しく動くので、前に座るヤナ君の背中にぎゅっとしがみつき、顔だけは周りの景色を見ている。時々波に揺られる際に、落ちない様に強くヤナ君にしがみつくと「あひゃ」「ひぃ」とか何故か変な声を出していたが、私はこの体験に夢中でその理由に気付かなかった。
だからだろう、自分がこれ程までに『外』の世界に今でも、憧れている事を知ってしまった。その事に気付いて、一瞬気持ちが沈みかけたが、今はとにかくこの爽快感を大事にしたかった。
「ヤナ君……ありがと」
「ええ? なんてぇ! もうちょい大きな声出すか呼出使ってくれ!」
「ふふ、なんでもない」
私が後ろで良かった。
今の顔は、ヤナ君には見せられない。絶対に彼にからかわれてしまう。
そして、俺たちは人魚もキングクラーケンとも会う事は出来なかったが、変わりに海岸の崖に洞窟の入り口を見つけた。そして、そこの中から微かに瘴気の気配を感じたのだ。
「どうしますか?」
「そうだなぁ、一応アシェリにここの事を伝えといてから、少し探索してみるか」
アシェリにこの洞窟の場所を説明し、俺とエディスさんはその水上洞窟の中へと進んで行ったのだ。
「高台に行ったついでに、魔物を討伐してきたから処理して貰えるか? 食える部分の肉は、既に簡単に切り出したんだが、素材なんかの解体と、ついでに受けられる討伐クエストを完了して貰えると助かるかな」
ゲッソは瘴気纏いキングクラーケンの仕事で手が一杯らしく、他の職員に指示を出して対応してくれた。報酬は俺の口座への振り込みでお願いし、ギルドで宿屋も紹介して貰った。
「ほほう、やっぱり海の街だけあって料理もそれらしい感じの料理だな。うん、美味い」
所謂、魚料理の様なものが出てきたのだ。これが全て魔物というところが異世界らしいところだが。
料理を食べた後は、俺の部屋にエディスさんも来てもらい明日の予定を伝えた。
「明日は、実際に海に出ての海域調査ですか。船は……って、どうせ創るんでしょうし、問題ないですね」
「どうせって何だよったく。まぁ、創るんだけど。あとは勇者達に今日何かあったかを聞いて、明日の細かい行動は考えておくよ」
「わかりましたよ。それで、部屋は私だけ別部屋なのですか……グスン」
「……アシェリは奴隷だからって、一部屋貸してもらえなかったからだろうが……」
エディスさんは、立ち上がりまた明日と言いながら自分の部屋に戻っていった。
俺は、勇者達に今日のこっちの出来事を伝える為と、新しい情報があるか聞くために呼出しようとした。誰にかけようかと一瞬迷ったが、ルイに言われた事を思い出し改めて呼出をかけた。
「『もしもしヤナだが、シラユキか?』」
「『え!? あっ、うん、私よ』」
「『今、話しても大丈夫か?』」
一応都合を聞いてから、今日あった事を聞かせた。
「『人魚の女の子かぁ。確かに気になるわね。この辺に住んでいるなら、瘴気纏いキングクラーケンの事も知ってるかも知れないし』」
「『やっぱりそう思うよな。ならやっぱ明日は、その人魚の子を探しに沖に行くかな』」
「『……大丈夫なの? その沖で、前回の討伐隊が壊滅しちゃったんでしょ?』」
シラユキが不安そうな声で、俺を心配してくれた。
「『俺なら絶対大丈夫だ。殺したって死なない男だぞ俺は。必ず生きて戻ってくるさ』」
「『どれだけフラグ立てるのよ全く……ふふふ』」
シラユキの小さな笑い声が聞こえて、俺まで笑みが零れる。
「『ちゃんと帰ってきなさいよ』」
「『わかってるって。じゃないと姫ちゃんが泣いちゃうからな。この間の迷宮の時みたいに、くっくっく』」
「『な!? だだだだだ誰が泣くってのよ! それに私はシラユキよ! 姫ちゃんと呼ぶなぁああ! 回線切断!』」
「あ! 切りやがったな。ったく、まだそっちの情報聞いてないってのに」
俺は溜息を吐きながら、ルイに『呼出』した。
「『もしもし、ヤナだ。ルイか?』」
「『そうだよぉ。どうしたの?』」
「『そちらの今日の情報を教えて欲しくてな。こっちのはシラユキから聞いてくれ』」
俺はシラユキにこっちの事を伝えた所で、少しからかったら怒って回線切断された事をルイに伝えた。
「『ふふふ、これは明日が楽しみですな。からかいがありますからな、シラユキちゃんは』」
「『程々にしといてやれよ? その反動が俺に来そうだよ、ったく』」
「『ふふふ、それとこっちの今日の情報だったねぇ。えっとねぇ……』」
勇者達は、以前に瘴気纏いキングクラーケンらしいものと遭遇した冒険者の所を訪れ、話を聞いて回ったらしい。
「『足だけで、そんなにでかいのか?』」
「『そうみたいだよぉ。全身が出てきたら、大怪獣バトルだねぇ。もし襲ってきたら、ヤナ君が三分で倒してね?』」
冒険者の話では、足の部分だけでギルドの建物より優に超える高さがあったと言う。ざっとギルドの建物を思い出すと、五階くらいあった気がしたので、あまりの大きさにゲンナリした。
「『マジで超合金合体でもしないと、戦えないんじゃないかそれ、マジで』」
「『期待してるよ! 超合金ヤナロボ!』」
「『そういうフラグを立てるな……まぁそん時はそん時だ。ありがと、じゃあな。おやすみ』」
「『え!? あっ、うん。おやすみぃ!』」
俺はルイから情報を聞いてから回線切断した。
「ちぇっ、もう切られちゃった……」
「さて、おはようアシェリ。走りに行くぞ」
「あ……はい、やっぱり何処でも同じなんですね」
次の日の朝、いつも通りに朝食前の鬼ごっこをして、一汗かいてから朝食に向かうと、食堂には既にエディスさんが食事を始めていた。
「おはよう、エディスさん」
「おは……ようございます……エディス様……うぷ」
「……相変わらずね……おはようございます。それで、今日はどうする事にしたんですか?」
エディスさん呆れられている様な気がしたが、決して気にしてはいけない。
「勇者達に聞いた話は、取り敢えず瘴気纏いキングクラーケンを単独で相手にするには、相当手強そうという事は分かった」
「まず単独で、討伐しようとしてる時点でおかしいでしょ」
「そこで、取り敢えず昨日人魚の少女を見たところまで、行って見ようかと思う。もし会えれば、あの辺で何が起きているのかわかるかも知れないしな。人魚の少女に会えなくても、キングクラーケンに会えれば儲けもんだ」
「だから……はぁ、言っても無駄ですね。全員で、海の上に行くんですか?」
俺は昨日寝る時に考えていた事を、エディスさんに話した。
「いや、俺だけのつもりだ。アシェリにはもう言ってあるが、まだアシェリには瘴気纏いは早そうだしな。地上ならアシェリが危なくなるまで戦わせるんだが……」
ちらっとアシェリを見ると、特盛朝飯に半泣きなのか、ボコボコになるまで瘴気纏いと戦わされる事に嬉し泣きしているのか分からなかった。
「海の上だと何が起きるか分からんしな。アシェリは海岸で待機して貰う。それで俺に何かあった場合は、勇者達と行動を共にして、俺を救出するなりなんなりして貰う。それはさっき勇者達にも伝えた。俺が死んだら、勇者達が主になって貰い、すぐに解放する様に決めてある」
昨日その事でアシェリと部屋で揉めたが、俺について来るだけの力がないうちは仕方がないと納得させた。
「……」
「アシェリちゃん……」
アシェリは一瞬食べる手が止まったが、再度黙々と食べ始めた。
「それで、エディスさんもアシェリと一緒に待ってて欲しいと思っているんだが、どうする?」
「私は一緒に行きますよ? 今回のコレは、ヤナ君の試験ですからね。評価者の私は、近くで評価しないといけませんからね」
「まぁ、元Aランク冒険者って言うしな。じゃあ、しっかり評価してくれ」
「勿論ですよ」
そして、朝食後に俺たちは海岸へと向かった。
「アシェリは、取り敢えずここで待機だな。海岸沿いの魔物でも狩ってても良いし。日向ボッコしててもいいぞ。自由時間だ」
「わかりました。取り敢えず、海岸沿いの魔物でも狩っています」
「それなら、狩ったものはちゃんと自分の鞄に入れておけよ」
金が余っているので、アシェリにも魔道具のマジックバックを買ってあるのだ。
「さて、じゃあ準備するかなっと」
俺は腕輪と指輪を外した。
「『双子』『神火の大極柱』『収束』『形状変化』『神火の水上バイク』『自動操縦』」
神火で作った水上バイクを海の上に浮かべた。昨日魔法で創り出した火は、唯の水では消えない事をこの為に確認したのだ。魔法で燃やした木は、海水をかけると消えたが、ただの火球は海の中に入れても消えなかった。
こちらの世界では常識らしいが、これは俺は知らなかったのだ。魔法で創り出した火は、魔法自体を破壊されるか、魔力の供給が止まると消える。そのため、神火の水上バイクも消える事なく使えるのだ。操縦はした事ないから、格好だけで自動操縦なのだが…
二人用の大きめの水上バイクを創り、まず俺が飛び乗った。そして、エディスさんを手招きする。
「どうした? 来ないのか?」
「これは……なんですか? 見た事ないですが、船ですか? やけに小さいですが……」
「まぁ、そんな様なものだよ。ほら行くぞ」
俺はまだ見た事ない乗り物に尻込みしているエディスさんの手を取り、強引に引き寄せ俺の後ろに乗せた。
「しっかり俺に捕まっていろよ? 振り落とされるなよ」
「はい? 船なんでしょう? なんで振り落とされぇええええ! きゃぁああああ!」
俺は早速水上バイクを運転している気分で発進した。実際はスキル任せなのだが、気分が大事なのだ。
「ヤナ君!? こここれは、船!?」
「風が気持ちいいだろう? この速さに慣れると爽快だぞ?」
少し走ると、エディスさんは落ち着いた様子で周りを見始めた。
「……本当……これは、風が気持ち良いわね」
エディスさんは、俺にしっかり抱きつきながら呟いた。
「そ……そうだな……うん、それじゃぁ、人魚のいた所や、海岸からは探索出来ない所を……あひゃ!?……探そう……」
俺は、背中に押し付けられるエディスさんのアレの感触と戦いながら、周囲の探索に集中するのであった。
いつ以来だろう、これ程私が心踊るのは
ヤナ君が創り出した水上バイクという乗り物で、海の上を走っている
こんな経験は、これまで生きてきた中で始めてだった
とても速く激しく動くので、前に座るヤナ君の背中にぎゅっとしがみつき、顔だけは周りの景色を見ている。時々波に揺られる際に、落ちない様に強くヤナ君にしがみつくと「あひゃ」「ひぃ」とか何故か変な声を出していたが、私はこの体験に夢中でその理由に気付かなかった。
だからだろう、自分がこれ程までに『外』の世界に今でも、憧れている事を知ってしまった。その事に気付いて、一瞬気持ちが沈みかけたが、今はとにかくこの爽快感を大事にしたかった。
「ヤナ君……ありがと」
「ええ? なんてぇ! もうちょい大きな声出すか呼出使ってくれ!」
「ふふ、なんでもない」
私が後ろで良かった。
今の顔は、ヤナ君には見せられない。絶対に彼にからかわれてしまう。
そして、俺たちは人魚もキングクラーケンとも会う事は出来なかったが、変わりに海岸の崖に洞窟の入り口を見つけた。そして、そこの中から微かに瘴気の気配を感じたのだ。
「どうしますか?」
「そうだなぁ、一応アシェリにここの事を伝えといてから、少し探索してみるか」
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