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第四章 自由な旅路
迷宮診断
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「ずびばぜんでじだ……」
「「「わかれば良い」」」
俺以外は無傷で、迷宮前に立っていた。
「この世界は、理不尽だ……」
「ヤナ様の方が、よっぽどこの世界に理不尽だと思いますが……」
セアラが、そん事を言ってくるがスルーさせてもらう。
「さっきの魔物が、何でこの迷宮に入っていったかも分かるといいが」
取り敢えず、全員で予め通信魔法の仲間登録を行い、もし離れたとしてもお互い会話出来るようにしてから、迷宮の中に入った。
「エディスさん、この迷宮は俺たち以外入れないようにしてもいいよな?」
「えぇ、良いですよ」
「セラ、入り口を結界で俺たち以外出入り出来ないように、塞ぐことは可能か?」
「はい、出来ますよ。長い時間は無理ですが、一日ぐらいなら持たせられると思います」
「それで、十分だ、頼む。塞いだら俺が偽装して、誰も外から出入口だとわからないようにする。外から魔物や魔族が入ってきても面白くないからな」
俺が魔族と口に出すと、全員に緊張が走る。
「『選択拒絶結界』『通過許可:ヤナ、エディス、アシェリ、自分』」
セアラが唱えると、入り口が鉄格子のようなもので塞がれた。
「『神出鬼没』『騙し絵』『岩肌』」
迷宮の入り口を塞いだセアラの結界を、俺が周りの岩肌と同化するように、偽装工作を施した。
「これで、俺らが中にいる間、後ろから魔族や魔物の群れが中に入ってくる事は、多分無いだろ」
「もし、結界が破られたら私が感知しますから、その時はお知らせいたします」
後ろからの対策を取り敢えずしてから、俺は迷宮の壁を触り、初めて使用するスキルを唱える。
「『探索者の極意』『迷宮診断』」
俺の目の前に半透明のプレートが出現し、そこには『診断結果』が映し出された。因みに診断結果は俺以外は見ることが出来ない。
『診断結果』
……………………
迷宮名:名無し
階層:50階
迷宮核名:キネルミアシス
状態:異常成長/瘴気汚染(高)
……………………
迷宮核に名前がある事を初めて知ったが、それより気になるのは、『異常成長』と『瘴気汚染(高)』だろう。
「なぁエディスさん、迷宮の階層が一日に二階層の速度で拡張したら異常か?」
「は? 当たり前でしょう。普通迷宮の拡張は、一階層だけでも長い時間がかかります。そんな速度で拡張したら、何が起こるか分からな……まさか?」
エディスさんは険しい顔をしながら、俺を見た。
「あぁ、俺の『探索者の極意』で『迷宮診断』した結果、ここは五十階層の迷宮らしい」
「五十階層!? 何でそんな中級レベルの迷宮が、こんな冒険者も来ないような場所で……そんな成長をする筈が…」
エディスさんは、顔を青くしながら、俺をじっと見つめる。
「診断結果には、『異常成長』と表示されている。ガストフ支部長が街の人に『死の宣告』を感じ始めたのが一ヶ月前だ。もし今回の迷宮に関係があるなら、ここの迷宮が発生したのがその時だとすると、発生から一ヶ月ほどで五十階層の迷宮へと異常成長した事になるな」
俺の言葉にエディスさんは、絶句した。
「更に気になることがあってだな……」
俺は三人を見渡して、少し黙る。
「ヤナ様、悪い事でしょうか?」
「あぁ……ここの迷宮の『状態』は、『異常成長』に加えて『瘴気汚染』と表示されている。しかも段階が『高』だ。『探索者の極意』は今回覚えてから、初めて使うスキルだからか、診断結果は曖昧な感じしか分からないが、瘴気にかなり汚染されている事は確実だろう」
「主様……」
アシェリが不安そうな顔を俺に向けるので、頭を撫でながら言葉を発する。
「先ずはこの事を、今からガストフ支部長に伝える。俺がガストフ支部長と話しをしている間、念のためセラは『選択拒絶結界』を四方に貼って、部屋のようにしてくれ。アシェリはエディスさんの指示に従って、調査を手伝え。エディスさん、アシェリを預けるから一緒に行動してくれ」
「「はい!」」
「わかったわ」
周囲の警戒をセアラに、調査をひとまずこの階層に限定してアシェリとエディスさんに頼み、ガストフ支部長に呼出した。
「『ヤナだ。今、調査依頼の例の迷宮に来ているんだが、不味いことになってるな』」
「『ガストフだ。もう調査で何か分かったのか?』」
俺は、『探索者の極意』による『迷宮診断』で出た『診断結果』のことをガストフ支部長に説明した。勿論、スキルの事を口外しない様に確約した上でだ。
「『どうする? 恐らく下の階層に行けば行くほど、瘴気汚染が酷くなるような予感がしてならないんだが』」
「『お前さんのスキルの結果から判断すると、その可能性が高いだろうな。こりゃ、かなり不味いな。本部からSランクを、派遣してもらうしかなさそうだな』」
ガストフ支部長が、これまで現役は見た事がない最高ランクの冒険者に依頼すると、口にした。
「『ほほう、現役のSランクは見た事ないな。東西南北の迷宮に一人づつか?』」
「『そうしたい所何だがな、Sランクにまで至るやつなんてのは、変人か人外みたいな奴らでなぁ。先ずは居場所が分かってるやつなんざ、一人しかおらんからな。早めに派遣申請出しとかんと、捕まらん。結局、すぐ動いてくれるAランクが、派遣されてくるだろう』」
「『あんたもその人外変人の、元Sランクだったよな?』」
若干の静かな間が、二人の間に流れた。
「『……兎に角、一人以外はすぐ連絡つくか分からんからな。お前さんは、そのまま攻略してくれと言いたいところだが、他の迷宮も診断してくれるか? エディスが他の場所も把握している筈だ』」
「『わかった。あとの三つも確認してから王都に戻る。明日の朝に、またガストフ支部長に報告しに行く』」
「『どうして他の三つを回って、明日には報告に来れるのか全く想像できんが……まぁ、出来るのであれば、朝一に部屋で待ってるぞ』」
ガストフ支部長との通話を回線切断して、隣で結界を張り安全地帯を創っているセアラに話しかける。
「ガストフ支部長が、ギルド本部に応援を要請するそうだ。ただ、Sランクは捕まらないかもしれないらしいが」
「そうですか。今ならアメノとエイダも動いてくれるかもしれませんね。今なら仕事がありませんから」
確かにあの二人にも動いてもらえたら、心強いが城に所属する人間に頼んだりして良いものなにだろうかと、俺が考えているとそれを察したらしくセアラが提案してくる。
「事前にあの二人に了承を得ておいて、明日ガストフ支部長にお会いになった時に、提案してみれば如何でしょうか? 恐らくここまで大規模な事態になってくると、城も動くでしょう」
確かに、瘴気が絡んできている以上、事が大きくなるのは確実だろう。そう納得した瞬間だった。
「きゃ!」
「迷宮の拡張か!?」
突然、轟音が鳴り響き、同時に激しく迷宮ないが振動した。
「『ヤナだ! アシェリ! エディスさん! 大丈夫か!』」
「『エディスよ! 大丈夫だけど、一旦そっちに戻るわ!』」
少しするとアシェリとエディスさんが、こっちに向かって駆けて来た。選択拒絶結界の中に二人が入ってきた為、まずガストフ支部長との話を聞かせた
「そうですか。Sランクの要請ですか……恐らく難しいでしょうから、Aランク冒険者が何人きて貰えるかと言ったところでしょうか」
「まぁ、ガストフ支部長もそんな感じの予想だったな。エディスさんは何か分かったか? と言っても、一階層だけじゃわからんか」
「いえ、そんな事はありませんでしたよ」
エディスさんとアシェリは、この階層を探索してながら、出てくる魔物や落とす魔石、迷宮の壁などを詳しく見て回っていたらしい。
「魔物、魔石、壁と僅かながらに瘴気を感じます。一階層でも感じるという事は、下の階層に行けば行くほど、瘴気に汚染されていそうですね」
「迷宮核も、汚染されているかどうかは階層主を見れば判断出来るんだったな。五階層まで潜ってみるか?」
「いえ、正直既に迷宮核も汚染されている前提で、動いた方が良いでしょう。おそらくヤナ君の報告を聞いた時点で、ガストフ支部長もそのつもりで動いている筈です。王城にも今頃連絡し、対策会議の招集でもかかっていると思いますよ」
「わかった。今の振動も更なる迷宮の変調だろう。急いで、他の迷宮も診断しに行くぞ。セラ、出口の選択拒絶結界は離れていても効果は続くか?」
セラは少し考えた後に、難しい顔をしながら俺の問いに答える。
「おそらく……と言ったところです。何せ試した事がないものですから……」
「悪い、それもそうだったな。それなら一応確認も含めて張ってこう。俺も獄炎か神火で塞いでも良いんだが、万が一離れる事で暴発したら、迷宮の入り口が崩れて塞がりそうだからな。待てよ、最悪塞いでも……いやいや、それじゃ中が如何なるか分かったもんじゃなくて、怖いな」
俺が、最悪入り口ぶっ壊しても良いかな、とか考えたりしていると、他の三人に白い目で見られた。
「ヤナ君……もっと頭を使いましょう?」
「主様……壊す以外も考えましょう?」
「ヤナ様……そん感じの人だったんですね?」
「………」
俺は、いつも考えて行動して……しているよな?
ガストフ支部長から依頼があった通り、他の三箇所の迷宮を診断する為に外に出て、再度神火魔法を形状変化で、神火の回転翼機を創り乗り込んだ。
「主様? ここに創れるという事は、別にさっきも普通に降りてこればよかったのでは?」
「場所がなかったから、飛び降りたんじゃないの?」
「ヤナ様? 結構怖かったんですけど?」
「ん? あぁ、来る時に飛び降りた奴か? そっちの方が面白いだろ?」
「何でしょうね? このイライラ」
「同感ですね」
「ヤナ様、流石に私もイラつきました」
女性陣からネチネチと移動中に、説教を頂きながら、無事三箇所を周り終え、宿屋に帰った時には、既に夜も大分遅くなっていた。さすがに一直線に飛んで行くと言っても、直ぐに見つかる迷宮もあったが、中々見つけるのに苦労した迷宮もあり、時間がかかってしまった。
セアラの選択拒絶結界を、俺たちが調査した迷宮に施した。しかしそれぞれの迷宮が王都から離れている為に、おそらく一日持たないだろうとの予想だった。
そして俺たちは全員一旦俺の部屋に集まり、今日の事を確認した。
「結局他の迷宮も同様に、階層は五十階層付近まで成長していて、全てに『異常成長』と『瘴気汚染』が確認出来たな。瘴気汚染の程度についても、すべて同じく『高』の段階だ」
「ヤナ君は、今回のこれはどう思っているんですか?」
エディスさんが俺に尋ね、アシェリとセアラもじっと俺を見る。
「偶然……ではないだろうな。発見されたのは、偶然だろうけどな」
アライさんの趣味により、発見されたのは今回の出来事で最大の幸運だろう。
「東の街を滅ぼす為に、魔族が騙して厄介払いしたアライさんが、王都周辺の隠れていた迷宮を、発見するんだからな。何の因果かってなもんだ」
俺が苦笑していると、セアラが明日の事について聞いてくる。
「結局、明日はギルドではなく、王城へ行くのですか?」
他の三つも同じ状態だった為、その事だけ一先ずガストフ支部長に連絡すると、王城での対策会議に出るように言われたのだ。どうやら俺がガストフ支部長に呼出した時に、王城で今回の会議をしていたらしく、サーレイス大臣が俺にも参加の要請をガストフ支部長にしたらしい。
「あぁ、朝飯食ったら行ってくる。アシェリとセラだが……アシェリは、いつも通り自分のクエストを受けて、冒険者の仕事をきちっとしてろよ。セラなんだが、なんか連れて行くと色々面倒くさそうな感じになりそうだから留守番な」
「えぇ!? 私は城に行っても大丈夫で……」
「絶対面倒が起きる。断言する。おっさん二人が面倒くさい」
「「おっさん二人?」」
エディスさんとアシェリが、訝しげな顔をしていた。
「という訳だから、アシェリについて行って、色々と実物の魔物や薬草なんかを、見て経験するんだな」
「あの二人……確かに、絶対面倒な事になりますね……わかりました。アシェリちゃん、一緒にお願いしますね?」
アシェリとセアラはお互い頷いて、明日の事について確認していた。
「エディスさんは、明日はどうするんだ?」
「どうのこうもありませんよ。いつも通り受付業務ですよ」
そして、俺たちは確認したい事は、お互い確認したところで解散した。
アシェリとセアラが自分達の部屋へ戻っていき、エディスさんが続いて部屋を出ようとする時に、立ち止まりこちらに顔を向けた。
「どうした? 忘れ物か?」
「楽しかったわ……おやすみ」
「ん? あぁ、俺もエディスさんといると楽しいぞ。おやすみ、また明日な」
エディスさんは、静かに扉を閉めて帰って行った。
「何だったんだ?」
そして、翌朝いつものランニングをこなして、朝食を食べたあと、王城へ向かった。
門番に名前と用件を伝え、確認が取れると久しぶりにアン&アニーさんの双子コンビに案内され、会議をしている部屋へと案内された。
歩きながら、近況を雑談しながら部屋の前に着き、扉をアンさんが開けようとした瞬間に、中からガストフ支部長の怒鳴り声が聞こえた。
「Sランクはおろか、Aランクまで来れないとは、どう言うことだキョウシロウ!」
どうやら、何事も順調にはいかないらしい。
俺は溜息が出そうになるのを、我慢しながら部屋に入った。
「どうも、Bランク冒険者のヤナだ」
部屋の中が、一瞬にして静寂に包まれた。
「「「わかれば良い」」」
俺以外は無傷で、迷宮前に立っていた。
「この世界は、理不尽だ……」
「ヤナ様の方が、よっぽどこの世界に理不尽だと思いますが……」
セアラが、そん事を言ってくるがスルーさせてもらう。
「さっきの魔物が、何でこの迷宮に入っていったかも分かるといいが」
取り敢えず、全員で予め通信魔法の仲間登録を行い、もし離れたとしてもお互い会話出来るようにしてから、迷宮の中に入った。
「エディスさん、この迷宮は俺たち以外入れないようにしてもいいよな?」
「えぇ、良いですよ」
「セラ、入り口を結界で俺たち以外出入り出来ないように、塞ぐことは可能か?」
「はい、出来ますよ。長い時間は無理ですが、一日ぐらいなら持たせられると思います」
「それで、十分だ、頼む。塞いだら俺が偽装して、誰も外から出入口だとわからないようにする。外から魔物や魔族が入ってきても面白くないからな」
俺が魔族と口に出すと、全員に緊張が走る。
「『選択拒絶結界』『通過許可:ヤナ、エディス、アシェリ、自分』」
セアラが唱えると、入り口が鉄格子のようなもので塞がれた。
「『神出鬼没』『騙し絵』『岩肌』」
迷宮の入り口を塞いだセアラの結界を、俺が周りの岩肌と同化するように、偽装工作を施した。
「これで、俺らが中にいる間、後ろから魔族や魔物の群れが中に入ってくる事は、多分無いだろ」
「もし、結界が破られたら私が感知しますから、その時はお知らせいたします」
後ろからの対策を取り敢えずしてから、俺は迷宮の壁を触り、初めて使用するスキルを唱える。
「『探索者の極意』『迷宮診断』」
俺の目の前に半透明のプレートが出現し、そこには『診断結果』が映し出された。因みに診断結果は俺以外は見ることが出来ない。
『診断結果』
……………………
迷宮名:名無し
階層:50階
迷宮核名:キネルミアシス
状態:異常成長/瘴気汚染(高)
……………………
迷宮核に名前がある事を初めて知ったが、それより気になるのは、『異常成長』と『瘴気汚染(高)』だろう。
「なぁエディスさん、迷宮の階層が一日に二階層の速度で拡張したら異常か?」
「は? 当たり前でしょう。普通迷宮の拡張は、一階層だけでも長い時間がかかります。そんな速度で拡張したら、何が起こるか分からな……まさか?」
エディスさんは険しい顔をしながら、俺を見た。
「あぁ、俺の『探索者の極意』で『迷宮診断』した結果、ここは五十階層の迷宮らしい」
「五十階層!? 何でそんな中級レベルの迷宮が、こんな冒険者も来ないような場所で……そんな成長をする筈が…」
エディスさんは、顔を青くしながら、俺をじっと見つめる。
「診断結果には、『異常成長』と表示されている。ガストフ支部長が街の人に『死の宣告』を感じ始めたのが一ヶ月前だ。もし今回の迷宮に関係があるなら、ここの迷宮が発生したのがその時だとすると、発生から一ヶ月ほどで五十階層の迷宮へと異常成長した事になるな」
俺の言葉にエディスさんは、絶句した。
「更に気になることがあってだな……」
俺は三人を見渡して、少し黙る。
「ヤナ様、悪い事でしょうか?」
「あぁ……ここの迷宮の『状態』は、『異常成長』に加えて『瘴気汚染』と表示されている。しかも段階が『高』だ。『探索者の極意』は今回覚えてから、初めて使うスキルだからか、診断結果は曖昧な感じしか分からないが、瘴気にかなり汚染されている事は確実だろう」
「主様……」
アシェリが不安そうな顔を俺に向けるので、頭を撫でながら言葉を発する。
「先ずはこの事を、今からガストフ支部長に伝える。俺がガストフ支部長と話しをしている間、念のためセラは『選択拒絶結界』を四方に貼って、部屋のようにしてくれ。アシェリはエディスさんの指示に従って、調査を手伝え。エディスさん、アシェリを預けるから一緒に行動してくれ」
「「はい!」」
「わかったわ」
周囲の警戒をセアラに、調査をひとまずこの階層に限定してアシェリとエディスさんに頼み、ガストフ支部長に呼出した。
「『ヤナだ。今、調査依頼の例の迷宮に来ているんだが、不味いことになってるな』」
「『ガストフだ。もう調査で何か分かったのか?』」
俺は、『探索者の極意』による『迷宮診断』で出た『診断結果』のことをガストフ支部長に説明した。勿論、スキルの事を口外しない様に確約した上でだ。
「『どうする? 恐らく下の階層に行けば行くほど、瘴気汚染が酷くなるような予感がしてならないんだが』」
「『お前さんのスキルの結果から判断すると、その可能性が高いだろうな。こりゃ、かなり不味いな。本部からSランクを、派遣してもらうしかなさそうだな』」
ガストフ支部長が、これまで現役は見た事がない最高ランクの冒険者に依頼すると、口にした。
「『ほほう、現役のSランクは見た事ないな。東西南北の迷宮に一人づつか?』」
「『そうしたい所何だがな、Sランクにまで至るやつなんてのは、変人か人外みたいな奴らでなぁ。先ずは居場所が分かってるやつなんざ、一人しかおらんからな。早めに派遣申請出しとかんと、捕まらん。結局、すぐ動いてくれるAランクが、派遣されてくるだろう』」
「『あんたもその人外変人の、元Sランクだったよな?』」
若干の静かな間が、二人の間に流れた。
「『……兎に角、一人以外はすぐ連絡つくか分からんからな。お前さんは、そのまま攻略してくれと言いたいところだが、他の迷宮も診断してくれるか? エディスが他の場所も把握している筈だ』」
「『わかった。あとの三つも確認してから王都に戻る。明日の朝に、またガストフ支部長に報告しに行く』」
「『どうして他の三つを回って、明日には報告に来れるのか全く想像できんが……まぁ、出来るのであれば、朝一に部屋で待ってるぞ』」
ガストフ支部長との通話を回線切断して、隣で結界を張り安全地帯を創っているセアラに話しかける。
「ガストフ支部長が、ギルド本部に応援を要請するそうだ。ただ、Sランクは捕まらないかもしれないらしいが」
「そうですか。今ならアメノとエイダも動いてくれるかもしれませんね。今なら仕事がありませんから」
確かにあの二人にも動いてもらえたら、心強いが城に所属する人間に頼んだりして良いものなにだろうかと、俺が考えているとそれを察したらしくセアラが提案してくる。
「事前にあの二人に了承を得ておいて、明日ガストフ支部長にお会いになった時に、提案してみれば如何でしょうか? 恐らくここまで大規模な事態になってくると、城も動くでしょう」
確かに、瘴気が絡んできている以上、事が大きくなるのは確実だろう。そう納得した瞬間だった。
「きゃ!」
「迷宮の拡張か!?」
突然、轟音が鳴り響き、同時に激しく迷宮ないが振動した。
「『ヤナだ! アシェリ! エディスさん! 大丈夫か!』」
「『エディスよ! 大丈夫だけど、一旦そっちに戻るわ!』」
少しするとアシェリとエディスさんが、こっちに向かって駆けて来た。選択拒絶結界の中に二人が入ってきた為、まずガストフ支部長との話を聞かせた
「そうですか。Sランクの要請ですか……恐らく難しいでしょうから、Aランク冒険者が何人きて貰えるかと言ったところでしょうか」
「まぁ、ガストフ支部長もそんな感じの予想だったな。エディスさんは何か分かったか? と言っても、一階層だけじゃわからんか」
「いえ、そんな事はありませんでしたよ」
エディスさんとアシェリは、この階層を探索してながら、出てくる魔物や落とす魔石、迷宮の壁などを詳しく見て回っていたらしい。
「魔物、魔石、壁と僅かながらに瘴気を感じます。一階層でも感じるという事は、下の階層に行けば行くほど、瘴気に汚染されていそうですね」
「迷宮核も、汚染されているかどうかは階層主を見れば判断出来るんだったな。五階層まで潜ってみるか?」
「いえ、正直既に迷宮核も汚染されている前提で、動いた方が良いでしょう。おそらくヤナ君の報告を聞いた時点で、ガストフ支部長もそのつもりで動いている筈です。王城にも今頃連絡し、対策会議の招集でもかかっていると思いますよ」
「わかった。今の振動も更なる迷宮の変調だろう。急いで、他の迷宮も診断しに行くぞ。セラ、出口の選択拒絶結界は離れていても効果は続くか?」
セラは少し考えた後に、難しい顔をしながら俺の問いに答える。
「おそらく……と言ったところです。何せ試した事がないものですから……」
「悪い、それもそうだったな。それなら一応確認も含めて張ってこう。俺も獄炎か神火で塞いでも良いんだが、万が一離れる事で暴発したら、迷宮の入り口が崩れて塞がりそうだからな。待てよ、最悪塞いでも……いやいや、それじゃ中が如何なるか分かったもんじゃなくて、怖いな」
俺が、最悪入り口ぶっ壊しても良いかな、とか考えたりしていると、他の三人に白い目で見られた。
「ヤナ君……もっと頭を使いましょう?」
「主様……壊す以外も考えましょう?」
「ヤナ様……そん感じの人だったんですね?」
「………」
俺は、いつも考えて行動して……しているよな?
ガストフ支部長から依頼があった通り、他の三箇所の迷宮を診断する為に外に出て、再度神火魔法を形状変化で、神火の回転翼機を創り乗り込んだ。
「主様? ここに創れるという事は、別にさっきも普通に降りてこればよかったのでは?」
「場所がなかったから、飛び降りたんじゃないの?」
「ヤナ様? 結構怖かったんですけど?」
「ん? あぁ、来る時に飛び降りた奴か? そっちの方が面白いだろ?」
「何でしょうね? このイライラ」
「同感ですね」
「ヤナ様、流石に私もイラつきました」
女性陣からネチネチと移動中に、説教を頂きながら、無事三箇所を周り終え、宿屋に帰った時には、既に夜も大分遅くなっていた。さすがに一直線に飛んで行くと言っても、直ぐに見つかる迷宮もあったが、中々見つけるのに苦労した迷宮もあり、時間がかかってしまった。
セアラの選択拒絶結界を、俺たちが調査した迷宮に施した。しかしそれぞれの迷宮が王都から離れている為に、おそらく一日持たないだろうとの予想だった。
そして俺たちは全員一旦俺の部屋に集まり、今日の事を確認した。
「結局他の迷宮も同様に、階層は五十階層付近まで成長していて、全てに『異常成長』と『瘴気汚染』が確認出来たな。瘴気汚染の程度についても、すべて同じく『高』の段階だ」
「ヤナ君は、今回のこれはどう思っているんですか?」
エディスさんが俺に尋ね、アシェリとセアラもじっと俺を見る。
「偶然……ではないだろうな。発見されたのは、偶然だろうけどな」
アライさんの趣味により、発見されたのは今回の出来事で最大の幸運だろう。
「東の街を滅ぼす為に、魔族が騙して厄介払いしたアライさんが、王都周辺の隠れていた迷宮を、発見するんだからな。何の因果かってなもんだ」
俺が苦笑していると、セアラが明日の事について聞いてくる。
「結局、明日はギルドではなく、王城へ行くのですか?」
他の三つも同じ状態だった為、その事だけ一先ずガストフ支部長に連絡すると、王城での対策会議に出るように言われたのだ。どうやら俺がガストフ支部長に呼出した時に、王城で今回の会議をしていたらしく、サーレイス大臣が俺にも参加の要請をガストフ支部長にしたらしい。
「あぁ、朝飯食ったら行ってくる。アシェリとセラだが……アシェリは、いつも通り自分のクエストを受けて、冒険者の仕事をきちっとしてろよ。セラなんだが、なんか連れて行くと色々面倒くさそうな感じになりそうだから留守番な」
「えぇ!? 私は城に行っても大丈夫で……」
「絶対面倒が起きる。断言する。おっさん二人が面倒くさい」
「「おっさん二人?」」
エディスさんとアシェリが、訝しげな顔をしていた。
「という訳だから、アシェリについて行って、色々と実物の魔物や薬草なんかを、見て経験するんだな」
「あの二人……確かに、絶対面倒な事になりますね……わかりました。アシェリちゃん、一緒にお願いしますね?」
アシェリとセアラはお互い頷いて、明日の事について確認していた。
「エディスさんは、明日はどうするんだ?」
「どうのこうもありませんよ。いつも通り受付業務ですよ」
そして、俺たちは確認したい事は、お互い確認したところで解散した。
アシェリとセアラが自分達の部屋へ戻っていき、エディスさんが続いて部屋を出ようとする時に、立ち止まりこちらに顔を向けた。
「どうした? 忘れ物か?」
「楽しかったわ……おやすみ」
「ん? あぁ、俺もエディスさんといると楽しいぞ。おやすみ、また明日な」
エディスさんは、静かに扉を閉めて帰って行った。
「何だったんだ?」
そして、翌朝いつものランニングをこなして、朝食を食べたあと、王城へ向かった。
門番に名前と用件を伝え、確認が取れると久しぶりにアン&アニーさんの双子コンビに案内され、会議をしている部屋へと案内された。
歩きながら、近況を雑談しながら部屋の前に着き、扉をアンさんが開けようとした瞬間に、中からガストフ支部長の怒鳴り声が聞こえた。
「Sランクはおろか、Aランクまで来れないとは、どう言うことだキョウシロウ!」
どうやら、何事も順調にはいかないらしい。
俺は溜息が出そうになるのを、我慢しながら部屋に入った。
「どうも、Bランク冒険者のヤナだ」
部屋の中が、一瞬にして静寂に包まれた。
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