要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第四章 自由な旅路

物語の終わり方

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「退きなさいよ!」

 シラユキは、焦りから声を荒げていた。

「ゲギャギャギャ! 退けとイワレテ退くバカはいないギャ!」

 南都から王都に向かう街道では、魔族と勇者達が戦っていた。

「くそ! 早く王都へ、援軍を連れて行かないといけないのに!」

「コウヤ様、一人で突っ込んではいけません! 名無しだといっても、魔族は強力です! 数もまだ複数体が隠れている気配を周囲に感じます!」

 焦る様子で魔族に一人斬りかかろうとしていたコウヤを、ミレア団員が諌める。

魔物の大氾濫スタンピードが発生して、今日で王都が襲われてから三日よ! いつまで持ちこたえられるか、分からないのに!」

 アリスが、最悪な状況に焦りを隠す事なく叫ぶ。

「ゲギャギャギャ! 東西南北の全て・・に我らが召喚されているカラな! 王都なぞ未だに誰も助けになんかイケテナイだろうなぁ、ゲギャギャギャ!」

「それでも、王都は負けないよ!」

 ルイは何も心配なんて要らないと言わんばかりの声で、魔族に言い放つ。

「ゲギャギャギャ! 精々ツヨがるんだなぁ!」

 魔族達と勇者達の戦いは、更に激しさを増していく。



「ガストフ支部長! 援軍はまだですか!」
「もう、城壁の結界も持ちません!」

 王都の防衛戦は、既に限界に来ていた。終わりの見えない魔物の大氾濫スタンピードと、いつ来るか分からない援軍。

 ガストフ支部長はギルド会議室で、戦況報告を聞きながら険しい顔をしていた。

「それに北の迷宮は、どうなってるんですか! 破壊したと言う報告もなければ、氾濫したという報告もない!」
「そうだ! 迷宮を破壊するとか言いながら、何も報告せずに逃げたんじゃねぇの…」

「黙れぇ!」

 ガストフ支部長は机を拳で叩きながら、冒険者の言葉を遮った。

「北はきっちり対処中だ、安心しろ」

 ガストフ支部長の迫力に気圧されて、冒険者は口を紡いだ。

「援軍だが、東、西はおそらく明日には到着出来るとの事だ。南はもう少し早く来れそうという連絡が来ている。北からの援軍は、迷宮の対処が終わり次第となる」

 それを聞いて、会議に参加者している冒険者顔に少し希望の色が戻った。

 今日さえ乗り切れば、生き残れるという事が分かったからだ。

 その時会議室の扉が勢いよく開いた。

「瘴気纏い個体の群れが、こちらに向かっている!」

 しかし会議室は、再び絶望に染まっていくのだった。



「ヤナビ! 今何匹目……だ! ぜりゃぁあああ!」

「教えている間に数が変わるので、面倒くさいので言わなくていいです……か! せりゃぁ!」

 ヤナは迷宮からの溢れ出る魔物の大氾濫スタンピードを、一人と一体・・で押さえ込んでいた。

「ぜぇぜぇ……流石に飽きてきたぞ……どりゃあ!」

「飽きるとか飽きないとかの……問題では……ないかと!」

 既にヤナの魔力は、この連日の迷宮踏破と、更に休む事なく北の魔物の大氾濫スタンピードを抑え続けていた為、大半を消費していた。その為、最初は二十体いた神火の式神シキガミもヤナビのみとなっていた。

「そろそろ私も、維持できなくなるのでは?」

「そうだな! っと、もうすぐ無理になるな」

「最後まで、共に戦えず申し訳ありません、マスター」

「それは俺の魔力量の所為だからな、しょうがない。いかんせん凡人並みらしいからな、俺の魔力は」

「……そんな事より、マスター! 迷宮の出口が閉まります!」

 ヤナビが指し示した迷宮の出口は、轟音とともに閉まり始めていた。

「ようやくか! せりゃぁ!」

 そして、迷宮の出口は完全に閉じ切り、最後の魔物を切り捨て、ヤナは少し安堵の表情をした。

「ふぅ、お疲れさん。何とか、生き残れたな」

「えぇ、改めてマスターが変態だったと、認識した熱い夜でした」

「やかましいわ……『ヤナだ。ガストフ支部長、こっちは終わったぞ。至急、北の援軍を王都へ向かわせてくれ』」

 俺はガストフ支部長に呼出コールし、北の魔物の大氾濫スタンピードが終り、防ぎきった事を伝えた。

「『本気でやりやがるとはな! だが、お前どうやってそんな事したんだ? 手の内は見せないんだろうが、少しくらい教えろ』」

「『ん? 至って単純だぞ。出口は一箇所しかなく、湧いてくるように出てくるわけだろ?』」

「『あぁ、そうだな』」

「『だから、出てきたら斬る。これを終わるまでやっただけだ。迷宮魔物は斬っても、邪魔にならんしな』」

「『は? 確かに死んだ迷宮魔物は、放っておけば、その内消滅するから、足場が埋まることは無いが……もうちょっと、何か策か何かあったんじゃないのか?』」

「『五万回ほど刀を振るだけの、簡単なお仕事だ。まぁ、実際には俺のスキルで、俺自身はもっと刀を振った回数は少ないがな』」

 俺の見事はシンプルイズベストな作戦を伝えると、一瞬の静寂の後にガストフ支部長が爆笑した。

「『ガッハッハッハ! それは、確かに単純だ! 魔物の大氾濫スタンピードを、ゴリ押しで押し斬るとはな! まさにお前は『変態の中の変態キングオブ脳筋』だな!』」

「『てめぇこのやろう! 帰ったら、覚えやがれよ……ふぅ、だから俺も今からそっちに向かう。それまで耐えろよ? そろそろ、そっちは限界だろ』」

「『ひとりで魔物の大氾濫スタンピードに打ち勝った奴に、限界を心配されちゃ世話がないが、確かに限界だ。今夜乗り切れば、明日には各方面から援軍が到着する予定だが……ついさっき、瘴気纏いの群れが向かってきていると連絡が入った。このまま、王都へ群れがたどり着くと、一晩は越せんな』」

 ガストフ支部長は一転、硬い声色となった。

「『バカなことを考えるなよ? 俺がそんなもの全て叩き斬ってやるから、なんとしてでも俺を待て』」

「『ガッハッハッハ! この間、冒険者登録した奴に、そんな台詞セリフを言われるとは、流石に俺も見え・・なかったわ!』」

 その時、ヤナは自分に向かってくるムナクソ悪い気配を感じた。

「『悪い、お客さんだ。北にもやっぱり現れたみたいだな、瘴気纏いと魔族のクソ野郎共が。とにかく、俺が行くまで耐えろ』」

「『お前も、なんとしてでも生きて王都に戻ってこい』」

 ガストフ支部長はそう、ゲキを飛ばすと回線切断ハングアップし、通話を切った。



「ギャギャ!? ナンだこれは! 折角、迷宮核ダンジョンコアが破壊され、召喚されたというのに、魔物が見当たらんとオモッテキテミレバ……ここは迷宮魔物の墓場カ?」

 どうやらムナクソ悪い気配は、魔族だったらしいが、話し方が瘴気纏いに近いような感じだった。

「おい、お前の名はなんだ?」

 俺は神出鬼没隠蔽/隠密/偽装で、気配を消していたのだが、敢えて姿を現して名を聞いた。

「ゲギャ!? いつからソコニ!?」

「いいから答えろ。お前に名はついているのか?」

「名はまだないが、今回ニンゲンの城を滅ぼせば、名がもらえる筈ダ!」

 幸い・・、名前のない魔族らしい。隠れている奴も含めて、数体に囲まれている。普段なら瞬殺するところだが、今は王都に帰ることも考えると、魔力をあまり使いたくなかった。魔族の気配を感じた瞬間に、ヤナビの身体になっていた神火の式神シキガミを解除していた。流石に空気を読んでか、茶化しもせずに、黙ってサングラス形態で、素直に俺にかけられた。

「そうか、それなら面倒だ。お前全員さっさとかかってこい」

「ギャギャ! そんなにボロボロで、何ができるとイウノダ! お前らこいつを潰して、北の援軍とやらを相手しにイクゾ!」

 魔族がさらに複数体と、瘴気纏い魔物の群れが現れた。

「こいつは中々『冒険』させてくれるな……レベルが上がりそうだ」

 俺は、強がりで嗤った。実際には、かなりきつい・・・。魔力の底も見え始め、不眠不休で戦い続けた為、いくら不撓不屈折れない心が働いているとは言え、目も霞んでくる。ガストフ支部長には心配かけまいと、強がりを見せたが、実際の状態は正に満身創痍と言ったところだった。

「ガストフ支部長の話だと、こいつらがきっと援軍の進行を邪魔してくる奴だな……こいつらを仕留めれば、北からの援軍は早く着く……さぁ、ここが正念場だぞ俺!」

 そして、ヤナは決して折れる事なく、絶望に抗い続けるのだった。



「いよいよか……よぉしお前らぁ! 明日には、援軍が到着する! 今日が、本当の正念場だ! 必ず耐え抜くぞぉおお!」

 ガストフ支部長は、瘴気纏い個体の群れが向かってきている事を、隠さずに伝えた。その上で、援軍がすぐそこまできている事と、北の迷宮では、実は魔物の大氾濫スタンピードが起きていたが、たった一人の冒険者が、今の今まで戦い抜き、結果一人で魔物の大氾濫スタンピードを滅ぼした事を声高らかに宣言し、現場の士気を高めた。

 ただ、二人ほどその事を聞いて、憤怒の表情を浮かべた者がいた事を誰も知らなかった。

 そして、王都防衛戦も佳境へと差し掛かる。

「これは、まずいな。襲ってくる魔物の強さが増している。おそらく、五十階層付近の魔物だろうが……」

 ガストフ支部長は戦線の状況を確認しながら、そう呟く。

 王都防衛戦は激しさを、増していた。魔物の大氾濫スタンピードも終盤に差し掛かっているが、その代わりに最下層付近から溢れ出てきている魔物達が殆どとなり、防衛側の被害も大きくなってきていた。

「ガストフ支部長! 遂に瘴気纏い個体が視認できるところまで、迫ってきています! このままでは、もちません!」

「いよいよか……わかった。エディスを呼んでこい」

 ギルド職員に、エディスを呼んでくるように頼んだが、ガストフ支部長の予想していなかった答えが返ってきた。

「エディスさんですが、ギルド内にはいませんでした。何処か別の場所に配置替えしましたか?」

「なに? ギルド内で、動いているはずだが?」

「いえ、少し前に出て行ったそうですよ」

「一体何処にだ?」

 そこへ再び、前線から連絡が入る。

「瘴気纏い個体のみ・・が、荒野の方に方向変換しています! これならまだ、耐えられそうです!」

「なんだと! それに、瘴気纏いのみ・・が方向を変えただと?」

 ガストフ支部長は、一瞬考えた後、勢いよく立ち上がり支部長室へと向かった。

「……やりやがったな……」

 そこには、明らかに荒らされた部屋があり、支部長の武器がしまってあった保管庫も破壊されていた。

「あいつ、自爆する気か……」



 あたしは、女神の修道服を脱ぎ、更に胸に巻いていた護布を取った。

 そして、全力で魔力と感情を爆発させた。

「瘴気纏い共ぉおお! ほぉら! あんたらの大好きな巫女が、ここにいるよぉ!」

 エディスの胸の聖痕から、感情の昂りに呼応するかのように、どす黒い瘴気が溢れ出す。

「「「グルガァアアア」」」

 王都に向かっていた瘴気纏いの群れは、王都直前で方向をエディスのいる方向へと進路を変えた。

「そうそういい子たち。こっちへおいで」

 エディスは、絶望を引き連れて誰もいない荒野に向かった。

 図らずもそこは、ヤナがいつも鍛錬をしている場所であった。

「さぁ、久しぶりに全力で暴れさせて貰うよ! あたい・・・に最後まで付き合いな!」

 エディスは瘴気纏いに囲まれた『中』で、大声で叫ぶ。

 その声は、寂しげで、何処か投げやりに聞こえた。

 そして、ただただ『外』に憧れただけの少女の物語は、終幕に向けて加速する。
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