要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第五章 刀と竜

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「さて、ここからだが、念の為に二人共、俺の通信魔法チャットに登録させてくれ」

「「通信魔法チャット?」」

 俺は二人に通信魔法について説明し、更に其々友達個人登録と仲間パーティ登録を済ませた。

「ヤナって、もう何でもありな感じなのね……」
「ヤナは、一体何者なのだ……」

「偶々、今ちょうど役に立つスキルが使えるだけさ。俺は、ただの冒険者だよ」

 俺は、親玉竜がいる大部屋の入り口へと、歩いて向かう。

「あ、そう言えば、『解除リリース』」

「「え?」」

 俺は二人に装着していた『黒炎のヘルフレイム肉体改造器具養成ギプス』と『黒炎のヘルフレイム重石帯ウェイトバンド』を解除リリースした。

「どうだ? 身体が軽いだろ」

 二人はその場で少し身体を動かして、今の状態を確認していた。

「これは……それに、ヤナが解除リリースした瞬間、新しいスキルを覚えたわ」

「私も同じだ……まるで、今までの自分の身体ではないようだ」

「まぁ、たった三日でも俺と鍛錬したんだ。強くなって貰わないと困る。さぁ、此処からは鍛錬じゃないぞ」

 その言葉に、二人の表情が真剣なものへと変わる。

「さぁ、大トカゲの討伐に素材の採掘だ!」

「「おぉお!」」

 そして、三人は氷雪竜にいる大部屋へと足を踏み入れた。



「グルォオオオオ!」

 その大部屋に足を踏み入れた瞬間、こちらに気づいた氷雪竜が、威圧と殺気を存分に込めた咆哮を放つ。そして、初っ端にブレスをこちらに放とうと、予備動作に入った。

「くっ、中々素敵な吠え方するじゃねぇか! 何方かのブレスが来るぞ! 散れ!」

 俺は、二人にブレスが来る事を伝え、その場から離脱した。

「「か……は…」」

 俺は、二人の苦しげな声が聞こえ、振り返ると二人がその場にへたり込んでいた。

「あにぃが……こいつに…」
「兄様を……こいつが…」

 初っ端に氷雪竜が吠えたあの威圧と殺気の咆哮で、二人が硬直していた。恐らく兄貴の死んだ原因となった相手を前に、トラウマが呼び起こされたのだろう。

 そして、当然相手はそんな事は容赦せずに、二人に向かいブレスを放った。放った氷雪竜の口がパキパキと凍っている事から、凍りのブレスなのだろう。

「まずい!」

 俺は、二人の元へ駆け出した。

 そして、二人とブレスの間に割って入った。



 私はこの三日間、ヤナの鬼の様な鍛錬と竜の巣の討伐に明け暮れた。

 兄様の事を考える暇も無いくらいに叩きのめされ、身体に負荷をかけられ命懸けで竜の巣で戦った。

 氷雪竜との戦いの前には、ヤナに鼓舞され何とか氷雪竜のいる部屋へと、足を踏み入れた。

 しかし、兄様の仇である氷雪竜を目の前にした時、その圧倒的な大きさと威圧感に圧倒されてしまった。

 そして、頭の中には兄様が蘇る。

 あの強かった兄様でさえ、敵わなかった相手に私なんかが敵うわけない。

 そして、氷雪竜からの威圧と殺気を向けられた咆哮で、私の心は折れようとしていた。

 氷雪竜が私に向かって、ブレスを放ったのが見えた。

「やっぱり……無理なんだよ……兄様……」

 私は、ゆっくりと目を閉じた。

 次の瞬間、ブレスが着弾した轟音が聞こえた・・・・

 私は音が聞こえた後、身体が動く事を感じ、再び目を開くと目の前に背中が見えた。

「……何で……ヤナ?……いやぁああああ!」

 そこには、私達を守る様に、凍りのブレスで氷漬けになっているヤナが立っていた。



 私は、ヤナと鍛錬を続け、彼の強さに触れるうちに、私の中で彼の刀を打ってみたいと考える様になってきていた。

 "神の刀を超える『神殺しの刀』を、自分の手で打ちたい"

 鍛治師としての、純粋な欲求だ。

 その想いは、徐々に強くなっていった。

 そして私は、私の叶えたい事叶える為に、神鉄を欲した。

 だが、いざ実際に氷雪竜を目の前にすると、固めた決意の火は一瞬にして凍りついた。

 ボロボロのあにぃの姿が、脳裏に浮かんだ。

 あにぃをボロボロにした相手が、私に威圧と殺気を向けている。

 私の心も身体も、完全に凍りつかせるブレスが、自分に向けられている事が分かっていても、その場から全く動けなかった。

 そしてブレスが放たれ、私は全てを諦め目を閉じた。

 ブレスが何かに・・・当たった様な轟音が響いた後に、ディアナの悲鳴が聞こえ私は目を開けた。

 目の前には、氷雪竜から私達を守る様に、ヤナが立っていた。

 ただし、彼の刻はこの瞬間に完全に停止していた。

 私は目の前にある光景が理解できなかった。

 違う。

 理解したくなかった。

「……なん……で……」



 氷雪竜はヤナが氷漬けになった事を確認すると、ゆっくりと三人向かって歩き出した。

 堂々とゆっくりと、相手にここの王は自分だと示すかのように。

 そして、目の前に辿り着き、氷漬けのヤナと近くに寄り添う様にへたり込む二人見下ろした。

 巨大な足をゆっくりと上げ、全員を踏み潰そうとしていた。

 そして、竜の足が、三人に絶望を与えるかのように振り下ろされた。

 だが、三人に絶望は届かなかった。



「え?」
「何で?」

 二人は、自分たちが死んでいない事に驚いている様だった。

 だから俺は・・、戦いの指示をだした。

「ぼけっとするな! たかが雑魚竜の親玉なんぞに、びびってんじゃねぇぞ! お前らと一緒にいる男を、誰だと思ってる!」

 俺は、振り下ろされた竜の足を受け止めていた腕で、思いっきり竜の足をかちあげ、竜の足を一瞬浮かした。

「おらぁあああああ!」
「グルァアアア!?」

 浮いた一瞬で竜の顔の目の前に飛び上がり、今の・・全力で氷雪竜の顔面を殴り飛ばした。

「「えぇえええ!?」

 竜は、最初にいた位置まで吹き飛んで行った。

「俺は、悪神を討ち滅ぼし、世界を救うヒーローだ!凍ったくらいで、死ぬわけねぇだろ!」

 更に俺は氷雪竜を睨みつけ、言い放つ。

「それとな……妹達を怖がらせてんじゃねぇよ、このトカゲがぁ!」



 俺は、凍りブレスを受け止める直前に、『紅蓮フレイム外套ニスデール』の中の『紅蓮のフレイムアーマー』を『黒炎のヘルフレイム全身鎧プレートアーマー』へと瞬時に切り替えチェンジしていた。これも明鏡止水精神統一により自在に出来る様になった技術だ。

「ぐぅううううう!」

「マスター! 私と『接続コネクト』を! マスターは『黒炎のヘルフレイム全身鎧プレートアーマー』内の温度調節に集中を! 私が鎧の外側の温度調節を行います!」

 ヤナビの声に従いヤナビと『接続コネクト』し、俺は黒炎のヘルフレイム全身鎧プレートアーマー内の温度をどんどん上げていき、凍りつかない様に抗う。

 そして、氷雪竜がブレスが終わった時、俺とヤナビの温度調節により、身体は凍死を免れていた。

「凍死はしてないが、周りが凍り漬けで動けん。ヤナビ、鎧の外側の温度をもっと上げて溶かせそうか?」

「少々時間はかかりますが、行けそうです。ある程度溶ければ、今の・・マスターでも氷の内部から破壊できるかと」

 俺はヤナビに氷を溶かす作業を任せ、再度身体強化のスキルを重ねがけする。

「『神殺し限界超越』『天下身体能力/魔力無双増幅増強』」

 そして、氷雪竜がゆっくり近づいてくるのを感じながら、俺の横にへたり込む二人を見た。

 俺は、流石に初めて氷漬けにされた事もあって、多少混乱していたのかもしれない。

 へたり込む二人の女性が、元の世界にいる妹と重なった。

「このやろう……うちの可愛い妹を怖がらせやがって……絶対許さん」

「マスター……シスコン属性持ちだったのですか…」

 俺は、怒りでヤナビの呟きは、全く耳に入らなかった。

 そして、竜の足が俺に振り下ろされる瞬間、ヤナビが叫ぶ。

「マスター! もう、マスターの力で氷を砕けます! やっちゃえ! お兄ちゃん!」

「任せとけぇ! うおりゃぁあああ!」

 そして、内部から氷を砕き割り、竜の足を受け止め、その後すぐに竜を殴り飛ばしたのだ。



「お前らが、何回心を凍りつかせても、俺が溶かしてやる! お前たちが、どれだけ心を折ろうと、俺が絶対に一緒にいてやる! だから、安心してろ! いつだって、兄貴は妹の味方だ!」

「ごめんなさい、お二人とも。ちょっとマスターは、脳みそまで凍ったみたいで、シスコン変態スイッチ状態が入った様でして」

「おい! 誰がシスコンだ!」

「マスター、妹属性がついているだけで、お兄ちゃん化しないでください。ドン引きされますよ?」

「ごはぁ!」

 俺がヤナビの冷静な指摘に、自分の心が折れそうになっていると、その様子を見ていた二人が笑っていた。

「いいわよ? それでもっと強くなれるなら呼んであげる、ヤナにぃ」

「そうだな。命を助けられた礼だ、ヤナ兄様」

「ごふぅ!……ふははは、今の俺は無敵だ!」

「マスター……喜び過ぎです……マジで引きます」

 ヤナビの言葉をガン無視して、二人に指示を出す。

「さぁ、もう一度仕切り直しだ! 二人とも俺があいつの相手をしている間に、再度、身体強化スキルを掛け直せ。そしたら、一緒に遊ぼう」

 俺は、それだけ言うと二人が準備を再度する時間を稼ぐため、氷雪竜へと駆け出した。

「『デカトカゲ! てめえの身体を砕いて、カキ氷にして食ってやるよ!』」

「グルガァアアアアア!」



 は、あの時からずっと、一歩も動かず、その場で泣いていた。

 もう二度と迷子になった私を、笑顔で迎えに来てくれる事はないと知っていたのに。

 それでも、私は動けなかった。

 今までは。

 お節介で変な人で、とても優しくて強い人が、一緒に遊ぼうと誘ってくれた。

 道を示すわけでもなく、引っ張っていくわけでもなく。

 泣いて立ち止まっている私に向かって、泣き止むまで一緒にいてくれると約束してくれた。



「ふふふ、お節介で変な人ね」
「ははは、それでいて、優しくて強いな」

 二人はお互い顔を見合わせ、微笑んだ。

「『恋せよ乙女身体強化限界突破』『乙女の決意身体能力倍増倍加』」

「『暗殺者の想い身体強化限界突破』『陽炎の舞身体能力倍増倍加』」

 二人の今の気持ちに答える様に、スキルがこれまでで一番の効果を発揮する。

「「さぁ、一緒に遊びましょ」」



 そして、霊峰の最奥で三人と氷雪竜の、命をかけた遊戯が始まった。
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