要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第五章 刀と竜

契約

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「酷い目にあった……」

 俺は、タケミ爺さんに救出されるまで、光の消えた目の状態のカヤミとディアナに、ボコられ続けたのだ。

 アシェリ達三人は、見ているだけで助けてくれないばかりか、ちゃっかりヤナビサングラスを俺から奪取し荒ぶる二人の狂人バーサーカーから保護していた。

「あの後、気が済んだカヤミ様とディアナ様のお話を聞いたら、間違いなく主様の自業自得だと思いますが……」

 アシェリが、可哀想な子を見る様な目で、俺を見てくる。

「それにあなた、腕輪と指輪外して神火魔法使ったんなら、雑魚竜くらい剣を形状変化デフォルマシオンで作って露払いすれば良かったじゃない。それをわざわざ避けたのなんて、絶対あなたがまた・・調子に乗りすぎたんでしょ?」

 エディスが、呆れたという顔をしながら、突き放す。

「ヤナ様、驚かすのが好きなのは知っていますが、まさかその後のアレまで殴られ蹴られ含めて好きという事ですか?……それなら言ってくだされば、私がする・・のに……フフフ」

 セアラがスカートの中から金棒を出そうとしたので、全力で食い止めた。

「全く、助けて損したぞ。儂なら問答無用で斬り捨てるところだが、あの二人は優しい心を持っていて助かったな」

 タケミ爺さんまで、そんな事を言うが全く納得出来なかった。

「はぁ? あの二人が、優しいだと? アレを見て、よくそんな事が言えるな」

 俺は、部屋の窓から見える惨劇の後を指差した。

 二人が思いっきり、俺を討伐しようと攻撃を仕掛けてくるために、玄関先から家の庭先まで、地面がボコボコなっていたのだ。

「お前さんのせいだからな、後で直しておけよ。あと、正気に戻って、何故か落ち混んでいる二人の機嫌も治せ。カヤミの部屋に籠って、出てこんのだ」

 タケミ爺さんに止められて我に返った二人は、俺の顔を見るなりあわあわとしながら二人してカヤミの部屋に閉じこもったのだ。カヤミの部屋は二人がこの前破壊したが、タケミ爺さんが俺たちがいない間にちゃんと壁や扉を直していたため、きちんと閉じこもる事が出来る様になっていた。

「はぁ、今度は天の岩戸かよ……何だってまたそんな事に、早く『神殺し』の刀を打ってもらいたいってのに」

 俺が、二人の様子に呆れて溜息を吐いていると、アシェリ達が心底気の毒そうに呟く。

「ディアナは、人一倍騎士に対する想いが強い事で有名よ。そんな人が、自分があんな状態にさせられたと思うと……言葉がないわね……」

「それに、もし万が一、主様のお節介にお二人が堕ちていたら……そんな相手にあんな状態を見られたと考えたら……不憫すぎます……」

「何処まで意識があったか、分かりませんが……あんな状態で気絶しているところを殿方に見られたと思ったら、同じ女性としては想像を絶しますね……」

 三人にそう呟かれながら、『お前が、何とかしろ』という目線を向けられ、渋々カヤミの部屋に向かった。

「お二人さぁん、機嫌直して出てくれないかなぁ? 俺が全部悪かったからさぁ、早く出て来てくださいよぉ」

「「………」」

 答えは沈黙だった。

「これ、無理じゃね? 俺にはハードル高すぎるって」

「マスター……普段『俺は、絶対諦めない!』みたいな事言っている癖に、本当に女性が絡むとヘタレですね」

「……やかましいわ。だが、本当にどうしようか」

 俺が部屋の前で途方に暮れていると、ヤナビが提案をしてくる。

「マスターが、ゴリ押し以外で解決出来るわけありませんので、私が交渉者ネゴシエーターとなりましょうか? 声だけでも、少女の方が相手の刺激しにくいですよ?」

 俺は、その提案に若干の不安を感じたが、確かに今の状況では俺には成す術がない。

「まぁ、しょうがないか。ただし、変な交渉をするなよ? 勝手に変な『契約』なんか結んでも俺は直接了承してないから、無効だからな。全権をヤナビ持たせないからな? あくまで交渉だからな? わかったな?」

「どれだけビビってるんですか、情けないマスターですね。大丈夫ですよ、さぁ、私をドアの前に置いて、離れていてください」

「……俺を売るなよ?」

「……早よ」

「「………」」

 俺は、静かにヤナビサングラスをおいて、離れた。

「お二人共、ヤナビです。今は身体がありませんので、何もする事は出来ません。交渉者ネゴシエーターとして、今は扉の前には私だけです。マスターは、離れて貰いました。お二人の願いを叶えるために、私を部屋の中に入れては、貰えないでしょうか? 決して、悪い様にはしません」

 少し、間があった後に扉が少し空いた。

「な!? 開けやがった!?」

 俺がヤナビの問いかけで扉が少し空いた事に愕然としていると、ヤナビが隙間から伸ばされた手に掴まれ、部屋の中へと入っていった。

「……何だろう、この言い知れぬ不安感は……」

 そして、俺は暫く部屋から少し離れ所で、交渉がうまく行くことを願いながら、待つのであった。



「主様、そろそろ日が暮れますが、お二人の様子は如何ですか?」

 ひたすらヤナビの交渉を待っていると、三人が様子を見にきた。

「ヤナビに交渉を任せている所だ。ヤナビが中に引き入れて貰えてからは、俺はひたすら待っている所だな」

「「「ヤナビ様が交渉?」」」

 三人が同時に同じ目を、俺に向ける。

「やめろ! そんな『その選択が既に、詰みだろう』みたいな目で、俺を見るな!」

「だって、ねぇ?」
「ヤナビ様ですよ?」
「大事な交渉は、ご自分でしないと……」

「……いや、流石に大丈夫だよな?」

 俺は一斉に目を反らされたことに絶句しながら、扉に目をむけると扉の隙間から手が出て来てヤナビを優しく床に置いた。

 俺達はヤナビの元へと近づいていった。

「どうだった?」

「マスター、交渉は大詰めです。最後は、マスターご自身でお願いします」

「よし、任せろ。二人とも、ヤナだ。そろそろ出て来てくれる気になったか?」

 少し間があった後に、二人の声が聞こえた。

「……えぇ、但し条件があるわ」
「……私もだ」

「何だ、何でも・・言ってみろ」

「ほんとね、ヤナビの言ってた通りの言葉を吐いたわね」
「まさか本当に言うとはな」

「ん? 何だ? 何の話だ?」

「何でもないわ。先ずは私の条件はね『もし私が、弟子を欲しくなったら、作るのを・・・・手伝ってほしい』よ」

「弟子を作るのを手伝う? って事は、刀を打つ気になったのか!」

「えぇ、この条件をのんでくれたら、『神殺し』の刀を打つわ。でも……時間が経つと気分が変わるかもねぇ」

 俺は、刀を打ってくれるといった言葉を、覆される前に返事をした。

「待て! 別に弟子を作る手伝い・・・・・くらい、喜んでするさ! だから、『神殺しの刀』を打ってくれ!」

「……『契約成立』……よし」

 一瞬背筋が寒くなったが、気のせいだろう。

「あぁあ、また深く考えもせずに」
「目の前の餌に、釣られてろくに考えもせずに」
「四人目の契約者ができましたね」

 後ろの三人が、何やら呟いているが、今回は別に大丈夫だろう。弟子を作る手伝いだったら別に問題が起きる罠はないはず。旅しながら、俺が勧誘や宣伝をするくらいだろう。それに、おそらく刀工が鍛治を再開するのあれば、弟子くらいすぐに作れるに違いなかった。

「次は私だ」

「おう、何だ」

「私の条件は『漆黒の騎士ジェットブラック様に、私を貰って頂く手伝い・・・』だ」

「……手伝いとは? 何をするんだ?」

「うむ、漆黒の騎士ジェットブラック様を見かけたら、私の事を伝えたり、その場に留まる様に説得したり、私が漆黒の騎士ジェットブラック様と結ばれるように全て・・の協力してほしいのだ」

「……少し考えさせてくれ」

 俺はその提案を頭の中で吟味した。

『俺』と『漆黒の騎士ジェットブラック』はディアナは別人と思っているわけだ。それならば、確実に二人が別人だと思わせておけば、全く問題ないだろう。

「うむ、いいぞ。漆黒の騎士ジェットブラックもし・・居たら、ディアナと結ばれる様に全力を尽くそう。それでいいか?」

「……『契約成立』……ヤナビ様の言っていた通りになったが、これにどんな意味が……」

 ディアナが扉の向こう側でブツブツ言っていたが、扉越しだった為、良く聞こえなかった。

「なんだか、怪しいわね」
「ヤナビ様の指示と、聞こえましたが」
「これで契約者が五人……まだまだ増えるのでしょうか?」

 兎に角、二人とも『契約』した為、その後素直に部屋から出てきてくれた。

「はぁ、やっとか……取り敢えず、今日はもう夜になっちまったから、明日朝にまた来る事にする。神鉄は置いていっていいか?」

「えぇ、いいわよ。それじゃ、明日からよろしくね」

「あぁ、よろしく」

 一旦俺たちは、カヤミの家から離れ、村の宿屋へと向かった。



 宿屋へと向かっている道中に、思い出した様にディアナに、氷雪竜の事について、尋ねた。

「ディアナ、お前氷雪竜の討伐のことロイド伯爵とかに伝えなくていいのか?」

「……あぁあああ! 色々あって忘れていた! 報告せねば!」

 いきなり大声を出して、走り出そうとするので、急いでそれを止めた。

「待て待て! 討伐部位を持っていかないと、証拠にならんだろ! 少し待ってろ、竜の討伐証明部位は確か角だったよなっと……」

 俺は鞄から取り敢えず氷雪竜の頭部を引っ張り出し、角をへし折った。

「ほれ、これを持って報告に行け。氷雪竜を表すかの様な見事な氷と雪でできている様な立派な角だ。信じるに足る代物だろう?」

 氷雪竜は最後、全身の氷を砕かれ雪外皮も剥がれおちていたが、象徴である角は外側は氷で覆われ、その下に雪が見える状態を保っていた。

「あぁ! 助かった。それでは、私はこれから、北都ノスティに戻る! また闘剣大会には伯爵様達と再び戻ってくる! また、逢おう・・・!」

「これから行くのか? またせっかちだな」

 俺は、すぐさま行くというディアナに苦笑しながら、再会を約束して送り出した。

「あぁ、またな」

 俺から氷雪竜の角を手渡されるとディアナは、駆け出していった。

 そして、俺たちは宿屋へと戻り、扉を開けた。



「あ! ヤナ君大変なの!」

 宿屋に入った途端に、ルイが焦りながら俺を呼ぶ声が聞こえた。

「シラユキちゃんが、本当に『契約交渉』しちゃったの!」


「はぁ……話してみろ」


 俺はまだ、ゆっくり寝ることは出来ないらしい。
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