要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第五章 刀と竜

そうきました

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「闘剣大会出場希望者は、こちらですよぉ」

 村の中央の広場では、今日行われる闘剣大会の受付が行われていた。

「出場したいんだけど」

「はい、分かりましたよ。お名前を、教えて下さい」

「ヤナだ」

 出場の受付を済ませ、三人で会場となる村外れの闘技場へと向かった。

 闘技場と言うが、簡単な柵で四方を囲ってあるだけの簡単なものだ。

 別に某天下一を決める武闘大会のような舞台があり、場外負けとかある訳ではないようだった。

 観覧席の方に目を向けると、一段高いところに、一際立派な観覧席が作られていた。おそらくそこで、ロイド伯爵一行が大会を観覧するのだろう。

「主様、新しい刀の調子は如何ですか?」

「実戦をしてないから、何とも言えんな。だが、振っている感じは悪くない。俺に合わせて成長するらしいから、使えば使うほどに良くなるんだろうな」

 俺は二振りの『神殺し』の刀を摩りながら、言葉を返した。

「銘は、もう決めたの?」

 エディスが俺の刀を見ながら尋ねてくるが、まだ刀の銘は決めていなかった。

「色々考えてはいるんだけど、しっくり来なくてなぁ」

「例えば、どんなものを考えられたりしたのですか?」

 セアラが、興味津々と言った感じで聞いてくるので、俺の考えた名前を教えた。

「例えば、『雨流虎ウルトラ美羅久留ミラクル』とか『天下両断断罪刀』とか『牙王無双天撃』とか、他にも…」

「あっ、もういいです」

「何故か、こんな感じなの付けようとすると、刀に拒否られているような感覚があるんだよなぁ。良い銘ばっかだと思うんだけど」

 俺は、考えた名前を呼びながら刀を振ったのだが、何故か全力で嫌がられているような感覚が、刀から伝わって来たのだ。

「マスター……まさか、私にもそんな感じで、名前を付け直そうとしてます?」

「勿論だ、ちゃんと考えてつけてほしそうだったしな。もう、考えてたぞ?」

「因みに、どんな?」

「『案内者ナビゲーター』と言うスキルでありながら、身体を持つと超絶戦闘力を得ることから『超絶変型ヤナビゲーターX』てのに、新しく改名を…」

「ヤナビで」

「え?だから『超絶変型ヤナビゲーターX』に改名を…」

「ヤナビで」

「『超絶変型ヤナビゲ…」

「お願いですから、ヤナビでお願いします。凄く気に入っているんです。後生ですから、勘弁して下さい。土下座でも、なんでもしますからぁ!」

「あ、うん、そんなにヤナビが気に入っているなら、まぁそのままでもいいか……でも、気が変わったら何時でも…」

「ずっと、ヤナビで!」

 俺は、そんなにヤナビが今の名前を気に入っている事を知って、名付け親としてとても誇らしく感じていた。

「益々気合を入れて、名付け親として恥ずかしくない名を、しっかり付けてあげないとな!」

 俺は、拳を強く握り締めて、改めて二振りの『神殺し』の刀に触れた。

 若干刀が震えた気がしたが、きっと嬉しく思っているのだろう。

「「「お気の毒に……」」」

「恨むなら、センスの無いマスターを恨むのですよ……」

 そんな事をしているうちに、村内に拡声機の魔道具で、もうすぐで闘剣大会の申し込み締め切りを行う旨が流れた。

「あっ! 宿に忘れ物をした! 取りに行ってくる!」

 俺は、急いで村の中心部に走り出した。

「何、今の?」
「白々しい事、この上なかったですね」
「きっと、何かまた思いついてしまった・・・のではないでしょうか?」

 三人の、何処か憐れむような目線に気付かないまま、ヤナは意気揚々と駆けていたのだった。



「それでは、予選を開始致しますので、予選一組参加者の皆さんは、闘技場へとお入りくださぁい」

 俺は用事を済ませ、再び三人と合流して大会の開始を待っていた。先ほど受付終了の連絡が村内に響くと、続けて予選開始の案内が流れた為、俺は三人と別れて闘技場の方へ来ていた。

「おい、逃げずにやってきたようだな。それだけは褒めてやろう」

そして、既に会場に来ていたナルシーと会うことになった。

お約束テンプレすぎて、返す言葉もないわ」

「ふん! 何を訳の分からん事を! 兎に角だ、『契約』の件をシラユキ様から聞いているだろうな?」

 俺は、溜息を吐きながら答えた。

「はぁ、ちゃんと聞いている。あんた予選何組だ? さっさと、終わらせたいんだが?」

「私は三組だ。貴様は、何組だ」

「俺は、ヤナって名前があるんだがな。しっかり覚えとけ。ったく、どいつもこいつも……それに俺は、二組だよ」

 シラユキを狙っているお約束テンプレ男と、予選で戦えなかったので、本戦へ勝負はお預けということだ。

「私と当たる前に負けたら、後で個別に決闘する事になるのだが、面倒だから本戦まで上がってくるのだぞ」

 それだけ言うとお約束テンプレ男は、離れていった。

「さて、俺も準備するかなっと」

 俺は静かに集中した。



「ディアナ、あのヤナという冒険者なのだけれども、確か二組目に出てくるそうよ」

「そうですか、おそらく問題なく予選は突破するでしょう」

 私は、特別観覧席から観覧するヴァレリー様とマイナ様の護衛で、闘剣大会中はここにいる事になっている。

「あら、ディアナがそこまで言い切るのなんて、よっぽどそのヤナという冒険者の強さを、よく知っているのね」

「えぇ……身にしみてよく知っております。私は霊峰にいる間、毎日情け容赦なく、ヤナに叩き伏せられましたから」

 私がそう説明すると、マイナ様が口を開いた。

「へぇ、じゃぁ漆黒の騎士ジェットブラックさんと、一緒の事をされたんだね」

「確かに……でも、そんな……いや……」

 私は、マイナ様にそう言われ、改めて考えてようとした時だった。

「ディアナ、ほら、ヤナの出番よ」

 私は、数十人の武芸者に混じって出てくる彼を見ていた。

「頑張れ……」

 自然に、私の口からヤナへの応援の言葉が漏れ出していた。



「さぁ、いよいよ・・・・だな」

 予選は数十人各組に振り分けられ、その中でバトルロワイアル方式で、一人が残るまで闘い続けるという者だった。

 そして俺は、これから起きる事を考えて、少し緊張していた。

「おいおい、何でこんな所に初心者装備革鎧なんて着けてるガキがいるんだぁ?」

「記念出場だろ? きっと、闘剣大会に出たってことを言いたいだけだろ? なぁ、にいちゃん?」

「「「ギャハハ」」」

「……そういや、準備運動がまだだったな……」

 俺は、予選開始の合図と共に、準備運動を始めた・・・



「あの人、完全に怒気と殺気が漏れてるわね」
「えぇ、馬鹿にされて怒るくらいなら、仮の装備でも用意すれば良いと思うのですが」
「ヤナ様は、物を大事になさるので、革鎧レザーアーマーといえども、きちんと使いたいのでしょう」

 三人が呟いている時、勇者一行も少し離れた所で同じようにヤナの様子を見ていた。

「ヤナって、割と煽り耐性無いよね」
「あいつ、わざとやって暴れたいだけじゃない?」
「ヤナ君、でも何か少し緊張してる?」

 コウヤ、アリス、ルイが、それぞれヤナの様子を口にしている中、シラユキはじっとヤナを見つめていた。

「負けないで……ヒロ君」



「お、丁度始まるとこだったな、カヤミよ」

「えぇ、お師匠。まぁ、ヤナなら予選なんて関係ないと思いますが」

「確かにな。だがあいつは、いつも誰かに喧嘩売られとるんじゃないか?」

「本人が、規格外だということを全く自覚がありませんからね。そのくせ、自分は凡人のような格好をしているものだから、余計タチが悪いです」

 カヤミは、自分もヤナの見た目に騙され喧嘩を売ったことを思い出し、苦笑いをしていた。

「もう、私は騙されないわよ?」



 開始の合図と共に、全員に対して今の全力で威圧と殺気を放った。

「ぐぉお……何だ……お前……何者だ?」

 俺以外は、泡を吹いて気絶するか、気絶しないまでも地面に這いつくばっているか、どちらかだった。

「ただの新米冒険者ルーキーだよ」

「はっ……こんな新米冒険者ルーキーが……いてたまるか……ガハッ」

 俺は、気絶まで行かなかった参加者を一人ずつ殴って気絶させていった。

「おぉい、予選突破で良いか?」

 俺は固まっている審判に、呼びかけた。

「はっ!? はい! えっと、ヤナ選手! 予選勝ち抜きです!」

 審判が、俺の勝ち名乗りを上げた時だった。

 観客が、俺の勝ち抜き方に戸惑い、歓声を上げるかどうか迷い静まり返ったその瞬間、あの足音が会場に響き渡った。


 "カツーン"


 "カツーン"



 "カツーン"



「随分と面白い事を、やっているではないか。我輩も是非、混ぜてくれぬか?」

「ここで乱入して来るとは、よくわかってるじゃねぇか漆黒の騎士ジェットブラックさんよ」

 俺は、しっかりタイミングを計って乱入してきたコイツを称賛した。

「お主を倒せば、我輩が本戦に出られるのか?」

「そんな心配なぞ、する必要なんてねぇよ!」

 俺は、そう言うなり乱入者を迎え撃った。



「ジェット様!? 何故乱入など……しかも、相手がヤナなんて……」

 ディアナが、困惑している側でマイナが小さく呟いた。

「そうきたかぁ」



 そして、ヤナと漆黒の騎士ジェットブラックが、観衆の前で激突した。
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