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第七章 悠久
最速の為なら
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「お主ら! 何をしとるんじゃ!」
どうやらシェンラは『独り言』を終えたらしく、丁度コウヤに斬りつけられた俺の元へと駆けつけてきた。
「がふ……流石『勇者の中の勇者』の聖剣の威力だ……我を此処まで……追い詰めるとは……」
「ヒーローごっこしてないで、何かするなら早くしなよ!?」
コウヤは、既に聖剣の発動を解除し俺を心配そうに見ていた。
「ルイよ! お主は聖魔法の使い手だっただろう! 何を落ち着いた顔をしておるのじゃ! 早く回復してやるのじゃ!」
「シェンラちゃん、慌てなくても大丈夫だよ。ほら、ヤナ君が嗤ってるでしょ? 何かやる気なんだよ。それに首さえ切れてなければな、あれくらいなら何とか出来るから、まだ大丈夫!」
ルイは、流石に落ち着いており、やはり鍛錬の場数が違うことを感じさせた。
「コウヤよ……妾がおかしいのか?」
「ううん、きっと僕らは普通な筈……」
シェンラとコウヤが、お互いに何か呟いていたが全部スルーして、スキルの発動に集中する。
「マスター、実際気を張ってないと危ないのでしょう?」
「あぁ……軽口でも叩いてないとマジで逝きそうだ……流石勇者だよ……案外思い切りも良かったしな……」
コウヤは最初、俺を斬ることにかなりビビっていた。
「無理だって!? 同級生を斬れるわけないだろ!」
「ケチケチするなよ! そこを何とか!」
「お金借りるくらいの軽さで言わないで!?」
俺は本気で迷宮の深い場所へと下る為に、瀕死になる必要があった。
自分で自分を斬りつけてみても良かったが、それは死地と言えるのかと疑問に思ってしまった。そこで、自傷ではなく斬られるのなら確実だろうと考え、コウヤに頼んだのだ。
「頼むよ、自分で自分を傷つけるのは、好きじゃないんだよ」
「えっと、その言い方だと友人に斬られるのはそうでもないって聞こえるから、やめた方がいいと思うよ?」
「流石、ヤナ君は変態だね!」
「マスター、遂にその域まで……」
「……やかましいわ! お前だって、アリスを早く探したいだろ? つべこべ言わず斬れ!」
「だから無理だよ! ヤナを斬れるわけないだろ!」
頑なに俺を斬ろうとしないコウヤに、俺は不思議に思い問いかけた。
「へ? なんで?」
「は? それは勿論、同級生で仲間だし……」
「だって、鍛錬の時はお互いに斬りかかるだろ?」
「え? まぁ、確かに鍛錬は鍛錬だし?」
「今から俺が斬られるのも、どこからどう見ても鍛錬だぞ?」
「ん? そうなの?」
「あぁ、俺が覚えた新しいスキルの発動条件が瀕死なんだよ。折角、俺を瀕死に出来る火力を持つコウヤと、何があっても回復できるルイがいるんだぞ? これほど、安全な状況ってお前らがいないと無理だ。ほら、俺の鍛錬の為に、協力頼む。お前しか頼めないんだよ。お前じゃないと駄目なんだ!」
俺はコウヤの両肩を掴み、真っ直ぐ目を見ながら語りかける。俺を瀕死に出来る信頼できる火力は、この場にはコウヤしかいない。シェンラも可能だろうが、流石に会って間もない人間に、頼める類の話ではなかった。
「ヤナは……僕じゃないと……駄目なの?」
「あぁ、そうだ。俺には、お前がいないと駄目なんだ!」
「そこまで、僕の事を……うん……ヤるよ! 僕ヤッてみせるよ!」
コウヤは、決意を固めた様な顔を俺には向けていた。何故か、若干頬が赤くなっていたのは、きっと鍛錬という言葉に興奮したのだろう。コウヤも大概だなと、俺は感心して頷いた。
「マスター……盛大に何か間違った説得をした様な気がしましたが?」
「ヤナ君……ソッチのフラグも立てるの?」
そしてコウヤは、熱を帯びた目を俺に向けながら聖剣を発動し手に持つと、緊張しているのか顔を強張らせていたものの、見事な剣筋で俺を斬ったのだった。
「さぁ、逝く前に行くか」
「マスター、まさか瀕死ジョークとかじゃないですよね? ないですよね?」
「……『死中求活』『制限覚醒』!」
俺はヤナビに心まで瀕死にされた所で、『死中求活』により『制限覚醒』を発動した。
『死中求活』により『制限覚醒』を発動させた事で、正に次元が変わる感覚が身体中を駆け巡る。
「さぁ、こっからだ……『無念無想』『神成り』『双子』『三重』『天下無敵』」
俺は、以前制御できなかった『六倍掛け』による身体強化を行った。
「マスター? どうですか?」
「ふふふ……ふはははは!」
「マスター……またですか……」
ヤナビが呆れ声を出しているので、俺はヤナビに言い返した。
「何が、またなんだよ。『完全支配』のお陰で、身体の隅々まで完全に感覚を制御出来ているな。これなら、全力で走っても迷宮を破壊しなくて済むだろう。それに、気づいたか? 『死神の祝福』の発動により、この階層全ての形状まで気配を掌握出来ている」
「確かに……これなら恐らく階層に降りた瞬間地図の作成まで行けそうです。しかも、私の情報処理能力までバージョンアップした様に上がっていますね……これならマスターの速さにもリアルタイムで対応出来そうです」
「それはありがたいな。流石、俺の相棒だ。こっから、『捲土重来』が、指数関数的に俺の能力を上げていくからな。しっかり、サポート頼むぞ」
「承知しました、マスター」
「さてと、早速行くかっと」
俺は迷宮を潜るための準備を始めた。
「ひゃぁ! なに!?」
「きゃ! わぁ! 次はお姫様抱っこが良い!」
俺は、素早くコウヤとルイを両脇に抱え込んだ。
「今から本気で走るからな。ルイは、今の俺の状態をキープしてくれ」
「わかったよ! 生かさず殺さずの生殺しだね! 任せて!」
「……うん、それでいい……」
「僕もこのポジションなの!?」
「別に、お前は構わんだろ? まぁ、男を抱えるのは気持ち悪いが……ん? 男のくせに結構柔らぐぎゃ!……傷を……抉るな……鬼か……」
コウヤ身体を抱えた時に、案外男のくせに柔らかいなと筋肉の感触を確かめようとしたら、コウヤに傷口を抉られた。
「変態!」
「なんで……だよ……」
俺はコウヤに抉られた痛みに悶えながら、俺を凝視しているシェンラに目を向けた。
「どうした? そんな化け物でも見る様な目をして」
「自分で言うとはの……お主は、何者なのじゃ」
「そっくりそのまま言葉を返すよ。あんたは何者だ。その気配は、人ではないだろう」
俺は、シェンラの背後に霞むように感じる、巨大な力の塊のような幻影を見ながら問いかける。
「ほほう、そこまで分かるとはの。知りたいか? 今のソレなら、妾を倒して聞き出せるぞ?」
「ステゴロって約束だからな。コレはステゴロとは言えねえよ。俺は今からアリスを探しに潜るが、シェンラはどうする? 言っておくが、そのままじゃ追いつけねぇぞ?」
俺は、シェンラに向かって不敵に嗤いかける。
「悔しいが、恐らくお主の言う通りじゃの。であれば……ここに乗るのじゃ!」
シェンラは飛べ上がり、俺の肩に乗った。
「肩車か、手加減しねぇからな、落ちるなよ?」
「誰にものを言っておるのじゃ! 妾は『天空の覇者シェンラ』なのじゃ! 早よ行くのじゃ!」
「天空関係なくないか?……まぁ、いいか二人とも準備はいいか? 良いよな? 行くぞ!『神速』!ヤナいっきまぁあああす!」
「聞いた意味ないよねぇぇええええ!? ひやぁあああ!」
「きゃあああ! 速い速い! 楽しぃいいい!」
「ふぉおおおお!? 思ってた以上に速かったのじゃぁあああ! 風圧で顔が潰れるのじゃぁああ!」
俺は文字通り風に成り、迷宮に嵐を巻き起こしながら迷宮を駆け抜け始めた。
「……アシェリ……これって……」
「はい……信じられませんが……間違いないかと……」
アシェリとエディスは、ヤナの創り出した『不思議な白兎』を追いかけて迷宮を脱出し、迷宮管理局へと来ていた。二人は一時間ほどで迷宮管理局まで辿り着いたが、既に建物のなかでは騒ぎが起きていた。
「おい! 故障か!? いきなり最深到達階層が四九九階層に更新されてるぞ!?」
「さっきまで二百階層だったんだぞ!? いきなり数字が変わったんだが、なんなんだ?」
「しかも、絶対これ壊れてるって! おかしな速さで迷宮を下ってる奴らがいるぞ!」
アシェリとエディスは、迷宮の情報が載っている魔道具に近づいていき、現在の情報を確認した。
「兎に角、あの人に連絡ね『あなた、エディスよ。アリス様の居場所を確認したわ』」
エディスはヤナに呼出し、迷宮管理局で得た情報を伝えようとした。
「『おぉ! エディスか! よし! 今アリスは『ひゃあああ!止めてぇええ』るんだ?』」
「『え? 何? 雑音で聞こえないわよ?』」
「『もしもし? だからアリ『顔が歪むのじゃぁああ!』んだ? だぁ! やかましいわ! 黙っとれ! 『酷い!?』」
ヤナがあちら側で何かしたらしく、急に雑音が収まった。
「『悪いな、アリスは何処にいるって?』」
「『……可哀想に……今、迷宮管理局の魔道具の表示で確認したら、四九九階層に表示されているわ』」
「『ちっ、悪い勘は当たらなくてもいいんだがな、よし分かった。エディスは、一応キョウシロウに勇者の一人が最下層付近まで、原因不明だが飛んだ事を伝えといてくれ』」
「『わかったわ。あなたが、救出に向かっている事も伝えとくわね』」
「『そうしてくれ、アシェリはそのまま迷宮管理局の魔道具の表示を見ていてくれ。何か異変があったら、俺に教えてくれ』」
「『わかりました。主様、酷く違和感を感じるのでお気をつけ下さい』」
「『俺も感じてる。わかった、そっちも気をつけろよ』」
ヤナは二人に指示を出すと通話を切った。
二人は、胸に気持ちが悪い違和感を感じながらも、ヤナに指示された通りに動き始めた。
「ヤナ、アリスは?」
「ほぼ最下層の四九九階層にいるそうだ」
「え!? アリスちゃんワープしちゃったの!?」
エディスからの報告を伝えると、ルイとコウヤは驚いていたが、肩の上のシェンラは驚いている気配は感じなかった。
「『ヤナ? アリスお姉ちゃんが居なくなったところ調べたよ』」
その時、ライ達からも呼出が入った。
「『ヤナだ、どうだった?』」
「『空間に、ヒビが入ってるよ。今も少しづつヒビが治っていってるから、たぶん元々空間に穴が空いてたんじゃないかな?』」
「『空間に穴?』」
「『うん、たぶん。そこにアリスお姉ちゃんが入っちゃんだと思うよ。それから何処行ったかわかんないけど』」
ライは、不思議そうな声を出しながら、俺に説明してくれた。
「『ヤナ君、アリスの居場所は何かわかった?』」
シラユキが、心配そうな声でアリスの居場所について尋ねてきた。
「『あぁ、最下層一個手前の四九九階層にいるらしい。訳がわからんが、取り敢えず迎えにいくから心配するな』」
「『うん……アリスちゃんお願いね』」
「『あぁ、分かってる』」
シラユキにできるだけ、力強くそう答えた。
「『セアラ、俺の不思議な白兎がそこに戻ってきたら、全員を連れて迷宮を出ろ。何やらおかしな感じがするからな、地上を警戒してくれ。迷宮管理局にはアシェリがいるし、ギルド本部にはエディスがいるからな。上は任せた』」
「『わかりました。ヤナ様も、十分お気をつけ下さい』」
ミレアさんからもアリスの事をよろしく頼むとお願いされてから、通話を切った。
「大体一時間で、今が六十階層か……単純計算でアリスのとこまでが、今のペースだと九時間近くかかっちまうな……よし、ルイ、俺が要求するまで回復しなくていい」
「もっと飛ばすんだね! わかったよ!」
「「え!? 今よりだって!?」」
「さっきまで、まだ最下層にいるとわかってなかったからな。隈なく階層全体気配を確認してたから、少し遅くてな。もう最下層近くにいると分かったし、多少は荒く動いても……いいよな?」
「冗談……だよね?」
「嘘……じゃろ?」
「ばっちこい!」
そして再び迷宮に、先程の悲鳴に嗚咽が加わりながら、嵐が最下層へと向かっていくのであった。
『おかしい。他にも幾つか私に隠すように表層から最下層近くの階層まで、通路の様な空間が抜け道のように繋げられてる。どうなってるの?』
困惑と驚きと恐れの入り混じった呟きが、最深最古迷宮の最下層に静かに広がっていった。
どうやらシェンラは『独り言』を終えたらしく、丁度コウヤに斬りつけられた俺の元へと駆けつけてきた。
「がふ……流石『勇者の中の勇者』の聖剣の威力だ……我を此処まで……追い詰めるとは……」
「ヒーローごっこしてないで、何かするなら早くしなよ!?」
コウヤは、既に聖剣の発動を解除し俺を心配そうに見ていた。
「ルイよ! お主は聖魔法の使い手だっただろう! 何を落ち着いた顔をしておるのじゃ! 早く回復してやるのじゃ!」
「シェンラちゃん、慌てなくても大丈夫だよ。ほら、ヤナ君が嗤ってるでしょ? 何かやる気なんだよ。それに首さえ切れてなければな、あれくらいなら何とか出来るから、まだ大丈夫!」
ルイは、流石に落ち着いており、やはり鍛錬の場数が違うことを感じさせた。
「コウヤよ……妾がおかしいのか?」
「ううん、きっと僕らは普通な筈……」
シェンラとコウヤが、お互いに何か呟いていたが全部スルーして、スキルの発動に集中する。
「マスター、実際気を張ってないと危ないのでしょう?」
「あぁ……軽口でも叩いてないとマジで逝きそうだ……流石勇者だよ……案外思い切りも良かったしな……」
コウヤは最初、俺を斬ることにかなりビビっていた。
「無理だって!? 同級生を斬れるわけないだろ!」
「ケチケチするなよ! そこを何とか!」
「お金借りるくらいの軽さで言わないで!?」
俺は本気で迷宮の深い場所へと下る為に、瀕死になる必要があった。
自分で自分を斬りつけてみても良かったが、それは死地と言えるのかと疑問に思ってしまった。そこで、自傷ではなく斬られるのなら確実だろうと考え、コウヤに頼んだのだ。
「頼むよ、自分で自分を傷つけるのは、好きじゃないんだよ」
「えっと、その言い方だと友人に斬られるのはそうでもないって聞こえるから、やめた方がいいと思うよ?」
「流石、ヤナ君は変態だね!」
「マスター、遂にその域まで……」
「……やかましいわ! お前だって、アリスを早く探したいだろ? つべこべ言わず斬れ!」
「だから無理だよ! ヤナを斬れるわけないだろ!」
頑なに俺を斬ろうとしないコウヤに、俺は不思議に思い問いかけた。
「へ? なんで?」
「は? それは勿論、同級生で仲間だし……」
「だって、鍛錬の時はお互いに斬りかかるだろ?」
「え? まぁ、確かに鍛錬は鍛錬だし?」
「今から俺が斬られるのも、どこからどう見ても鍛錬だぞ?」
「ん? そうなの?」
「あぁ、俺が覚えた新しいスキルの発動条件が瀕死なんだよ。折角、俺を瀕死に出来る火力を持つコウヤと、何があっても回復できるルイがいるんだぞ? これほど、安全な状況ってお前らがいないと無理だ。ほら、俺の鍛錬の為に、協力頼む。お前しか頼めないんだよ。お前じゃないと駄目なんだ!」
俺はコウヤの両肩を掴み、真っ直ぐ目を見ながら語りかける。俺を瀕死に出来る信頼できる火力は、この場にはコウヤしかいない。シェンラも可能だろうが、流石に会って間もない人間に、頼める類の話ではなかった。
「ヤナは……僕じゃないと……駄目なの?」
「あぁ、そうだ。俺には、お前がいないと駄目なんだ!」
「そこまで、僕の事を……うん……ヤるよ! 僕ヤッてみせるよ!」
コウヤは、決意を固めた様な顔を俺には向けていた。何故か、若干頬が赤くなっていたのは、きっと鍛錬という言葉に興奮したのだろう。コウヤも大概だなと、俺は感心して頷いた。
「マスター……盛大に何か間違った説得をした様な気がしましたが?」
「ヤナ君……ソッチのフラグも立てるの?」
そしてコウヤは、熱を帯びた目を俺に向けながら聖剣を発動し手に持つと、緊張しているのか顔を強張らせていたものの、見事な剣筋で俺を斬ったのだった。
「さぁ、逝く前に行くか」
「マスター、まさか瀕死ジョークとかじゃないですよね? ないですよね?」
「……『死中求活』『制限覚醒』!」
俺はヤナビに心まで瀕死にされた所で、『死中求活』により『制限覚醒』を発動した。
『死中求活』により『制限覚醒』を発動させた事で、正に次元が変わる感覚が身体中を駆け巡る。
「さぁ、こっからだ……『無念無想』『神成り』『双子』『三重』『天下無敵』」
俺は、以前制御できなかった『六倍掛け』による身体強化を行った。
「マスター? どうですか?」
「ふふふ……ふはははは!」
「マスター……またですか……」
ヤナビが呆れ声を出しているので、俺はヤナビに言い返した。
「何が、またなんだよ。『完全支配』のお陰で、身体の隅々まで完全に感覚を制御出来ているな。これなら、全力で走っても迷宮を破壊しなくて済むだろう。それに、気づいたか? 『死神の祝福』の発動により、この階層全ての形状まで気配を掌握出来ている」
「確かに……これなら恐らく階層に降りた瞬間地図の作成まで行けそうです。しかも、私の情報処理能力までバージョンアップした様に上がっていますね……これならマスターの速さにもリアルタイムで対応出来そうです」
「それはありがたいな。流石、俺の相棒だ。こっから、『捲土重来』が、指数関数的に俺の能力を上げていくからな。しっかり、サポート頼むぞ」
「承知しました、マスター」
「さてと、早速行くかっと」
俺は迷宮を潜るための準備を始めた。
「ひゃぁ! なに!?」
「きゃ! わぁ! 次はお姫様抱っこが良い!」
俺は、素早くコウヤとルイを両脇に抱え込んだ。
「今から本気で走るからな。ルイは、今の俺の状態をキープしてくれ」
「わかったよ! 生かさず殺さずの生殺しだね! 任せて!」
「……うん、それでいい……」
「僕もこのポジションなの!?」
「別に、お前は構わんだろ? まぁ、男を抱えるのは気持ち悪いが……ん? 男のくせに結構柔らぐぎゃ!……傷を……抉るな……鬼か……」
コウヤ身体を抱えた時に、案外男のくせに柔らかいなと筋肉の感触を確かめようとしたら、コウヤに傷口を抉られた。
「変態!」
「なんで……だよ……」
俺はコウヤに抉られた痛みに悶えながら、俺を凝視しているシェンラに目を向けた。
「どうした? そんな化け物でも見る様な目をして」
「自分で言うとはの……お主は、何者なのじゃ」
「そっくりそのまま言葉を返すよ。あんたは何者だ。その気配は、人ではないだろう」
俺は、シェンラの背後に霞むように感じる、巨大な力の塊のような幻影を見ながら問いかける。
「ほほう、そこまで分かるとはの。知りたいか? 今のソレなら、妾を倒して聞き出せるぞ?」
「ステゴロって約束だからな。コレはステゴロとは言えねえよ。俺は今からアリスを探しに潜るが、シェンラはどうする? 言っておくが、そのままじゃ追いつけねぇぞ?」
俺は、シェンラに向かって不敵に嗤いかける。
「悔しいが、恐らくお主の言う通りじゃの。であれば……ここに乗るのじゃ!」
シェンラは飛べ上がり、俺の肩に乗った。
「肩車か、手加減しねぇからな、落ちるなよ?」
「誰にものを言っておるのじゃ! 妾は『天空の覇者シェンラ』なのじゃ! 早よ行くのじゃ!」
「天空関係なくないか?……まぁ、いいか二人とも準備はいいか? 良いよな? 行くぞ!『神速』!ヤナいっきまぁあああす!」
「聞いた意味ないよねぇぇええええ!? ひやぁあああ!」
「きゃあああ! 速い速い! 楽しぃいいい!」
「ふぉおおおお!? 思ってた以上に速かったのじゃぁあああ! 風圧で顔が潰れるのじゃぁああ!」
俺は文字通り風に成り、迷宮に嵐を巻き起こしながら迷宮を駆け抜け始めた。
「……アシェリ……これって……」
「はい……信じられませんが……間違いないかと……」
アシェリとエディスは、ヤナの創り出した『不思議な白兎』を追いかけて迷宮を脱出し、迷宮管理局へと来ていた。二人は一時間ほどで迷宮管理局まで辿り着いたが、既に建物のなかでは騒ぎが起きていた。
「おい! 故障か!? いきなり最深到達階層が四九九階層に更新されてるぞ!?」
「さっきまで二百階層だったんだぞ!? いきなり数字が変わったんだが、なんなんだ?」
「しかも、絶対これ壊れてるって! おかしな速さで迷宮を下ってる奴らがいるぞ!」
アシェリとエディスは、迷宮の情報が載っている魔道具に近づいていき、現在の情報を確認した。
「兎に角、あの人に連絡ね『あなた、エディスよ。アリス様の居場所を確認したわ』」
エディスはヤナに呼出し、迷宮管理局で得た情報を伝えようとした。
「『おぉ! エディスか! よし! 今アリスは『ひゃあああ!止めてぇええ』るんだ?』」
「『え? 何? 雑音で聞こえないわよ?』」
「『もしもし? だからアリ『顔が歪むのじゃぁああ!』んだ? だぁ! やかましいわ! 黙っとれ! 『酷い!?』」
ヤナがあちら側で何かしたらしく、急に雑音が収まった。
「『悪いな、アリスは何処にいるって?』」
「『……可哀想に……今、迷宮管理局の魔道具の表示で確認したら、四九九階層に表示されているわ』」
「『ちっ、悪い勘は当たらなくてもいいんだがな、よし分かった。エディスは、一応キョウシロウに勇者の一人が最下層付近まで、原因不明だが飛んだ事を伝えといてくれ』」
「『わかったわ。あなたが、救出に向かっている事も伝えとくわね』」
「『そうしてくれ、アシェリはそのまま迷宮管理局の魔道具の表示を見ていてくれ。何か異変があったら、俺に教えてくれ』」
「『わかりました。主様、酷く違和感を感じるのでお気をつけ下さい』」
「『俺も感じてる。わかった、そっちも気をつけろよ』」
ヤナは二人に指示を出すと通話を切った。
二人は、胸に気持ちが悪い違和感を感じながらも、ヤナに指示された通りに動き始めた。
「ヤナ、アリスは?」
「ほぼ最下層の四九九階層にいるそうだ」
「え!? アリスちゃんワープしちゃったの!?」
エディスからの報告を伝えると、ルイとコウヤは驚いていたが、肩の上のシェンラは驚いている気配は感じなかった。
「『ヤナ? アリスお姉ちゃんが居なくなったところ調べたよ』」
その時、ライ達からも呼出が入った。
「『ヤナだ、どうだった?』」
「『空間に、ヒビが入ってるよ。今も少しづつヒビが治っていってるから、たぶん元々空間に穴が空いてたんじゃないかな?』」
「『空間に穴?』」
「『うん、たぶん。そこにアリスお姉ちゃんが入っちゃんだと思うよ。それから何処行ったかわかんないけど』」
ライは、不思議そうな声を出しながら、俺に説明してくれた。
「『ヤナ君、アリスの居場所は何かわかった?』」
シラユキが、心配そうな声でアリスの居場所について尋ねてきた。
「『あぁ、最下層一個手前の四九九階層にいるらしい。訳がわからんが、取り敢えず迎えにいくから心配するな』」
「『うん……アリスちゃんお願いね』」
「『あぁ、分かってる』」
シラユキにできるだけ、力強くそう答えた。
「『セアラ、俺の不思議な白兎がそこに戻ってきたら、全員を連れて迷宮を出ろ。何やらおかしな感じがするからな、地上を警戒してくれ。迷宮管理局にはアシェリがいるし、ギルド本部にはエディスがいるからな。上は任せた』」
「『わかりました。ヤナ様も、十分お気をつけ下さい』」
ミレアさんからもアリスの事をよろしく頼むとお願いされてから、通話を切った。
「大体一時間で、今が六十階層か……単純計算でアリスのとこまでが、今のペースだと九時間近くかかっちまうな……よし、ルイ、俺が要求するまで回復しなくていい」
「もっと飛ばすんだね! わかったよ!」
「「え!? 今よりだって!?」」
「さっきまで、まだ最下層にいるとわかってなかったからな。隈なく階層全体気配を確認してたから、少し遅くてな。もう最下層近くにいると分かったし、多少は荒く動いても……いいよな?」
「冗談……だよね?」
「嘘……じゃろ?」
「ばっちこい!」
そして再び迷宮に、先程の悲鳴に嗚咽が加わりながら、嵐が最下層へと向かっていくのであった。
『おかしい。他にも幾つか私に隠すように表層から最下層近くの階層まで、通路の様な空間が抜け道のように繋げられてる。どうなってるの?』
困惑と驚きと恐れの入り混じった呟きが、最深最古迷宮の最下層に静かに広がっていった。
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存在を疎んだ父に地下牢に入れられ、虐げられる毎日。そんな日常を壊してくれたのは、まさかの新魔王の幹部だった。
薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話のパート2、ここに開幕!
【ご注意】
・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。
なるべく読みやすいようには致しますが。
・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。
勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。
・所々挿し絵画像が入ります。
大丈夫でしたらそのままお進みください。
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