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第七章 悠久
思春期
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「はぁ……昨日は色々酷い目にあった……」
俺は夜明け前のランニングをアシェリ達と済ませ、宿屋の食堂で朝食を摂りながら力なく呟いた。
「全体的に、きっとあなたの自業自得な感じでしょ?」
「どうせまた、余計な一言でも主様が言ったのでは?」
「実はそうやって、ヤナ様はイジメられたいんですよね? ふふふ」
「ライ様、アレが『嫌よ嫌よも好きのうち』という奴ですよ」
「うん、分かった。ヤナは、イジメられたいんだね」
俺は、朝からライに俺の普通さを必死に説明する事になり、余計疲れたのだった。
「朝から、何を必死に釈明しているのよ」
「ひぃ!?」
絶対零度の声が聞こえ後ろを振り返ると、俺を台所で見つけたGを見下ろすが如く、アリスが俺を見ていた。
そして、アリスの後ろから他の三人の勇者と従者騎士のミレアさんも食堂に入ってきて、俺達と同じ長机の席についた。お互い朝の挨拶を交わし、食事を始めたのだが、俺を射殺そうとでもしてるかのような視線が、俺を睨んでいた。
「……昨日は悪かったって、まぁ、アレだ、ソノ事は墓まで持っていくから心配するな」
俺は、俺を睨みつけてくるアリスに対して、アレをアレして頑張っている事を知ってしまった事を謝罪し、死ぬまで誰にも喋らない事を伝えた。
「……ありがとう……」
「え? 何て?」
「……昨日は、迎えに来てくれてありがとう……あんただけ、昨日星になってたから言えなかったのよ」
「……まぁ、俺を星にしたのはお前だけどな……」
「何故星になったか覚えてる?」
「……すみません……」
俺が再度頭を下げて謝った後、顔を上げアリスを見ると、少し顔を赤くしながら口を開いた。
「まぁ、アレはその……あんたになら別に知られてもいいわよ……ちゃんと迎えに来てくれたし……兎に角、約束守ってくれてありがとうってことよ!」
アリスは、自分のコンプレックスが同級生の男子に知られたという恥ずかさと、助けに来てくれた感謝を混ぜっ返した様な、なんとも可愛らしい照れ笑いをしていた。
それを見て、思わず俺も何やら照れくさくなり、照れ隠しに呟いた。
「デレたな」
そして、すかさずルイも乗ってくる。
「デレを頂きましたな。これは、中々極上なデレでしたぞ、ヤナ君」
「うむ、中々実際リアルでツンからのデレを見る機会は滅多に無いからな。ルイよ、貴重だったな」
俺とルイが調子に乗ってアリスのデレを茶化していると、何故か身体に静電気がやたらバチバチ溜まり出した。
「ルイ? なんかバチバチするんだが、乾燥してるのか?」
「うん、それに私たちとアリスちゃん以外のみんなが、席から離れたけどなんで?」
俺は顔から火でも吹きそうに真っ赤にしていたアリスを見ると、何やらブツブツ詠唱していた。
「……アリス? ルイ、アリスがブツブツ言ってるけど、なんて言ってる……んだ?……あれ? ルイ?」
ルイは、俺がアリスが何をブツブツと何の詠唱しているのかと思い、聞き耳を立てている間に既にこの場から離脱していた。俺がルイに驚愕の表情を見せると、ルイは俺に向かって声を出さずに口を動かしていた。
『ごめんね』
「逃げやがったぐゃぁああああ! あばばばばばば!」
俺だけ雷を落とすという無駄に高度な魔法で、俺は久しぶりに感電して痺れて動けなくなった。
「マスター……アホですね」
そして、ヤナビに呆れられながら、ルイに回復して貰うのだった。
「本当にいいの? 僕たちの方に、ヤナビさんを同行させても」
「あぁ、まだ今日はこの都市から出るつもりは無いし、お前らは今から迷宮でレベル上げだろ? ヤナビは転移は出来んが、最下層までの全階層の地図データを持っているからな。十分お前らの助けになるだろ」
俺は、シェンラが勇者達の迷宮案内人を辞めてしまった代理として、神火の式神で身体を創ったヤナビを勇者達に同行させる事にした。
「あぁ、また何があるか分からんしな。そのヤナビなら対処出来るだろう……って、お前ら俺が喋ってるんだから、俺を見ろよ」
勇者一行は、俺の話は聞きながらも完全に身体をもったヤナビを見ていた。
「勇者様達は、この姿ではお初でしたね。改めてヤナビです、私は当然マスターのスキルですので、身体及び容姿については一切関与しておりません」
「え? という事は?」
シラユキが、ヤナビの説明を聞いて俺を見てきた。
「違う!? いくら変えようとして、毎回その姿にヤナビがなるんだ! しかも何で、胸元キツそうなスーツになるんだよ!」
「どうぞ皆様、よくご覧になってください。これが、マスター自らが創り出した正に欲望渦巻く肢体です」
ヤナビは、無駄に仁王立ちで胸を張った。
「ヤナさ……いくら異世界だからって、スキルで欲望を満たすのは……」
「個性って励ましておいて……結局ソレなのね……ゲス野郎」
「同じくらいかな?」
「もっと、大きくても大丈夫だよね!」
「ソコばっかり見るなぁああああ!」
俺が悶絶していると、ヤナビが更にいらんことをしようとしていた。
「皆様、更にここからが、私の真骨頂! こんな事も出来ますよ?」
「な!? 止めろ!」
「「「「おぉお!」」」」
ヤナビが、完全にどこからどう見ても俺になった。
「勇者様方、当然疑問に思うことでしょう。何処まで、マスターと同じなのかと?」
勇者達は、ヤナビからの問いかけに黙って頷いていた。
「全てです! マスターの身体を、最新の身体データから完璧に再現しております!」
「「「「全て……」」」」
「えぇ、皆様の視線が集中しているソコも完璧です」
ヤナビが不穏な事を言うので、勇者達の視線を追ってみると全員の視線がある一点に集中していた。
「思春期か!?」
そして、ヤナビは静かに宿屋に出口に向かって歩き出した。
「今から私はこの姿で迷宮で勇者様達の案内人を務めます。もし、私にタッチする事が出来たら……この姿のままで、抵抗せずにマネキンのように固まりますよ?」
ヤナビは俺の姿のままで、勇者達に微笑みかける。
「抵抗せずに……」
「動かずに……」
「そのままの姿で……」
「思春期爆発だね!」
「何言ってくれてるの!? ひぃ!? お前らの目が怖い!?」
そして、ヤナビが宿屋を先に出て行きながら俺の声色を使って、勇者を煽りながら出て行く。
『さぁ、俺を捕まえて見ろ。そしたら、お前の好きにさせてやるよ』
「「「「おぉおおおお!」」」」
「怖い!?」
そして、勇者達は捨台詞を吐いて出て行ったヤナビを、俺が引くぐらいの速度で追いかけて出ていった。
「ヤナ様……の、私も見たい!」
「ミレアさん、あんたもか!?」
騎士でありブレーキ役の大人であるはずのミレアさんまで、気合を入れた表情で出て行った。そして俺は、力なく閉まった宿屋の扉を、呆然と見るしかなかった。
「「「私達も迷宮に行きたいです!」」」
「やかましいわ!」
「ヤナ、大人気だね」
俺は、ライの無邪気な一言に、なんとも言えない表情を返すのだった。
「どうして、こうなった……」
「はっはっは!」
ギルド本部のギルドマスター室で、ギルドマスターであるキョウシロウは大笑いしていた。
「笑い事じゃねぇよ……何だって俺の周りには、変態ばかり集まるんだよ」
「いやいやいや、お前がそれを言うんじゃねぇよ」
何故かキョウシロウに呆れられたが、思い当たる節が全くない。無いと言ったら無いのだ。
「それで何の用だ? 俺はゴーンベ室長に、Aランク試験の課題を達成した事を報告に来たんだが?」
俺は、『最深最古迷宮デキスラニアの最深到達階層を更新』するというAランク昇格条件を満たしたので、ギルド本部へやって来ていた。総合受付で試験担当のゴーンベ室長を呼び出してもらったが、彼は不在だと言われた。また出直そうかと考えていると、ギルドマスターのキョウシロウから呼び出しがあり、そのままギルドマスター室へ訪れていたのだ。
「ゴーンベ室長には、迷宮管理局本部へ出掛けて貰っているからな。変わりにお前のAランク試験合格の通達を俺がするってだけだ。おめでとう、今この瞬間からAランク冒険者だ。更に精進してSランクを目指してくれ。それと、ギルドカードはさっき総合受付に渡したな? 帰る時に忘れず持ってけよ、Aランクのギルドカードに更新されているからな」
「わかったよ。Sランクへの昇格条件ってのも聞きたい所だが、それより気になる事があってな」
俺は、キョウシロウを真剣な表情で見据えた。
「あぁ、それを今ゴーンベ室長が調査していると所だ」
エディスから聞いた無名の探索パーティについて、現れた時期と素性が知れないという事だけでも、気にするには十分だった。
「早く聞きたいなら、お前達も迷宮管理局本部に行ってみたらどうだ? 今ならゴーンベ室長もいるから、そのままコイス管理局長と面通し出来るぞ」
「コイス管理局長ってのは、迷宮管理局の最高責任者か?」
「あぁ、迷宮都市の事務方の一番上だな。コイス管理局長は忙しいから、事前にしっかり会う約束を付けておかないと中々面会出来ないからな。それに、もし本当に何か起きているなら、今のうちに会っておいた方いいんじゃ無いか?」
「事務方にトップか、何か役人見たいな堅いイメージで面倒そうなんだが……ゴーンベ室長もいるって言うし、今ならいいか」
事務方のトップと聞くだけで、とても堅そうで面倒な中年のイメージが俺の中で出来上がっていた。しかし、同じギルドの事務方であるゴーンベ室長もいると言うので、俺たちは迷宮管理局本部へと向かうことにした。
総合受付で新しいギルドカードを貰うと金色なっており、不覚にも結構テンションが上がってしまい、足取り軽く迷宮管理局本部へと向かって歩いて行った。
四人から生温かい目線を貰ったのは、当然言うまでもない。
迷宮管理局本部はギルド本部と正反対の場所に位置しており、やはりこちらの建物も頑強な作りになっていた。中へと入ると市役所ロビーや銀行のロビーを思い出せるような雰囲気だった。
ギルドと同じく総合受付の札が下がっていたカウンターで、先ほどギルドマスター室で言われた事を説明した。受付局員の女性が電話みたいな魔道具で、何処かへ確認を取ると最上階の局長室へと向かって欲しいと言われ、エレベーターの様な移動用魔道具で俺たちは建物を上がっていった。
総合受付で言われた通りに移動し、局長室の札が出ている扉をノックすると中から、男の声で入る様に促され、俺は扉を開けた。
「………ごめんなさい。部屋を間違えました」
俺は、速攻で開けた扉を閉めて、その場から離脱しようと、全員に指示を出そうとした。
「逃げるぞ! 絶対に関わっちゃいけない類の輩だ! 全員建物から出るあだだだだだ!」
俺が動き出そうとした瞬間、勢いよく扉が開き、俺の肩を掴んだ。
「HAHAHA! ユーがヤナだナ! 中でゴーンベ室長もウエィトしているヨ! カモンベイビー!」
肩を勢いよくぐるっと回され、部屋内の様子が再び視界に入ると、俺も肩を掴んでいる男と同様にブーメランパンツ一枚で、テカテカに身体を輝かせポージングをしているゴーンベ室長がいた。
「ヤナ殿……来てしまったのですね……」
「HAHAHAHA! さぁ! ユーも語り合おうヨ!」
スキンヘッドで、小麦色のはち切れんばかりの筋肉をバンプアップさせながら、真っ白い歯を輝かせている男の胸には、『コイス管理局長』名札が付いていた。
「どうやって付いてるんだよ!?」
「勿論、筋肉でダヨ!」
「こんな事務方トップは、嫌だぁああああ!」
俺の魂の叫びは、コイス管理局長の手で閉められた扉により遮られてしまうのだった。
「……私たちは、下で待ってましょ」
「「はい」」
「うん」
四人の少女達は、何も見なかった事にして、一階のフロントに降りて行った。
『シェンラ、結構不味いかも。知らないうちに、侵略を受けてたみたい』
「なんじゃと!?」
『次に、相手が何をしようとしてるかわからないけど……もし、そこから瘴気を流されたら……私を殺して』
「……決意は変わらんのじゃな?」
『えぇ、あの人の街を私は壊したくないもの』
「……わかったのじゃ。案ずるな上の街は妾が命にかけても守るのじゃ」
『ありがとう』
悪意と絶望によって、悠久の刻は終わりを告げようしていた
俺は夜明け前のランニングをアシェリ達と済ませ、宿屋の食堂で朝食を摂りながら力なく呟いた。
「全体的に、きっとあなたの自業自得な感じでしょ?」
「どうせまた、余計な一言でも主様が言ったのでは?」
「実はそうやって、ヤナ様はイジメられたいんですよね? ふふふ」
「ライ様、アレが『嫌よ嫌よも好きのうち』という奴ですよ」
「うん、分かった。ヤナは、イジメられたいんだね」
俺は、朝からライに俺の普通さを必死に説明する事になり、余計疲れたのだった。
「朝から、何を必死に釈明しているのよ」
「ひぃ!?」
絶対零度の声が聞こえ後ろを振り返ると、俺を台所で見つけたGを見下ろすが如く、アリスが俺を見ていた。
そして、アリスの後ろから他の三人の勇者と従者騎士のミレアさんも食堂に入ってきて、俺達と同じ長机の席についた。お互い朝の挨拶を交わし、食事を始めたのだが、俺を射殺そうとでもしてるかのような視線が、俺を睨んでいた。
「……昨日は悪かったって、まぁ、アレだ、ソノ事は墓まで持っていくから心配するな」
俺は、俺を睨みつけてくるアリスに対して、アレをアレして頑張っている事を知ってしまった事を謝罪し、死ぬまで誰にも喋らない事を伝えた。
「……ありがとう……」
「え? 何て?」
「……昨日は、迎えに来てくれてありがとう……あんただけ、昨日星になってたから言えなかったのよ」
「……まぁ、俺を星にしたのはお前だけどな……」
「何故星になったか覚えてる?」
「……すみません……」
俺が再度頭を下げて謝った後、顔を上げアリスを見ると、少し顔を赤くしながら口を開いた。
「まぁ、アレはその……あんたになら別に知られてもいいわよ……ちゃんと迎えに来てくれたし……兎に角、約束守ってくれてありがとうってことよ!」
アリスは、自分のコンプレックスが同級生の男子に知られたという恥ずかさと、助けに来てくれた感謝を混ぜっ返した様な、なんとも可愛らしい照れ笑いをしていた。
それを見て、思わず俺も何やら照れくさくなり、照れ隠しに呟いた。
「デレたな」
そして、すかさずルイも乗ってくる。
「デレを頂きましたな。これは、中々極上なデレでしたぞ、ヤナ君」
「うむ、中々実際リアルでツンからのデレを見る機会は滅多に無いからな。ルイよ、貴重だったな」
俺とルイが調子に乗ってアリスのデレを茶化していると、何故か身体に静電気がやたらバチバチ溜まり出した。
「ルイ? なんかバチバチするんだが、乾燥してるのか?」
「うん、それに私たちとアリスちゃん以外のみんなが、席から離れたけどなんで?」
俺は顔から火でも吹きそうに真っ赤にしていたアリスを見ると、何やらブツブツ詠唱していた。
「……アリス? ルイ、アリスがブツブツ言ってるけど、なんて言ってる……んだ?……あれ? ルイ?」
ルイは、俺がアリスが何をブツブツと何の詠唱しているのかと思い、聞き耳を立てている間に既にこの場から離脱していた。俺がルイに驚愕の表情を見せると、ルイは俺に向かって声を出さずに口を動かしていた。
『ごめんね』
「逃げやがったぐゃぁああああ! あばばばばばば!」
俺だけ雷を落とすという無駄に高度な魔法で、俺は久しぶりに感電して痺れて動けなくなった。
「マスター……アホですね」
そして、ヤナビに呆れられながら、ルイに回復して貰うのだった。
「本当にいいの? 僕たちの方に、ヤナビさんを同行させても」
「あぁ、まだ今日はこの都市から出るつもりは無いし、お前らは今から迷宮でレベル上げだろ? ヤナビは転移は出来んが、最下層までの全階層の地図データを持っているからな。十分お前らの助けになるだろ」
俺は、シェンラが勇者達の迷宮案内人を辞めてしまった代理として、神火の式神で身体を創ったヤナビを勇者達に同行させる事にした。
「あぁ、また何があるか分からんしな。そのヤナビなら対処出来るだろう……って、お前ら俺が喋ってるんだから、俺を見ろよ」
勇者一行は、俺の話は聞きながらも完全に身体をもったヤナビを見ていた。
「勇者様達は、この姿ではお初でしたね。改めてヤナビです、私は当然マスターのスキルですので、身体及び容姿については一切関与しておりません」
「え? という事は?」
シラユキが、ヤナビの説明を聞いて俺を見てきた。
「違う!? いくら変えようとして、毎回その姿にヤナビがなるんだ! しかも何で、胸元キツそうなスーツになるんだよ!」
「どうぞ皆様、よくご覧になってください。これが、マスター自らが創り出した正に欲望渦巻く肢体です」
ヤナビは、無駄に仁王立ちで胸を張った。
「ヤナさ……いくら異世界だからって、スキルで欲望を満たすのは……」
「個性って励ましておいて……結局ソレなのね……ゲス野郎」
「同じくらいかな?」
「もっと、大きくても大丈夫だよね!」
「ソコばっかり見るなぁああああ!」
俺が悶絶していると、ヤナビが更にいらんことをしようとしていた。
「皆様、更にここからが、私の真骨頂! こんな事も出来ますよ?」
「な!? 止めろ!」
「「「「おぉお!」」」」
ヤナビが、完全にどこからどう見ても俺になった。
「勇者様方、当然疑問に思うことでしょう。何処まで、マスターと同じなのかと?」
勇者達は、ヤナビからの問いかけに黙って頷いていた。
「全てです! マスターの身体を、最新の身体データから完璧に再現しております!」
「「「「全て……」」」」
「えぇ、皆様の視線が集中しているソコも完璧です」
ヤナビが不穏な事を言うので、勇者達の視線を追ってみると全員の視線がある一点に集中していた。
「思春期か!?」
そして、ヤナビは静かに宿屋に出口に向かって歩き出した。
「今から私はこの姿で迷宮で勇者様達の案内人を務めます。もし、私にタッチする事が出来たら……この姿のままで、抵抗せずにマネキンのように固まりますよ?」
ヤナビは俺の姿のままで、勇者達に微笑みかける。
「抵抗せずに……」
「動かずに……」
「そのままの姿で……」
「思春期爆発だね!」
「何言ってくれてるの!? ひぃ!? お前らの目が怖い!?」
そして、ヤナビが宿屋を先に出て行きながら俺の声色を使って、勇者を煽りながら出て行く。
『さぁ、俺を捕まえて見ろ。そしたら、お前の好きにさせてやるよ』
「「「「おぉおおおお!」」」」
「怖い!?」
そして、勇者達は捨台詞を吐いて出て行ったヤナビを、俺が引くぐらいの速度で追いかけて出ていった。
「ヤナ様……の、私も見たい!」
「ミレアさん、あんたもか!?」
騎士でありブレーキ役の大人であるはずのミレアさんまで、気合を入れた表情で出て行った。そして俺は、力なく閉まった宿屋の扉を、呆然と見るしかなかった。
「「「私達も迷宮に行きたいです!」」」
「やかましいわ!」
「ヤナ、大人気だね」
俺は、ライの無邪気な一言に、なんとも言えない表情を返すのだった。
「どうして、こうなった……」
「はっはっは!」
ギルド本部のギルドマスター室で、ギルドマスターであるキョウシロウは大笑いしていた。
「笑い事じゃねぇよ……何だって俺の周りには、変態ばかり集まるんだよ」
「いやいやいや、お前がそれを言うんじゃねぇよ」
何故かキョウシロウに呆れられたが、思い当たる節が全くない。無いと言ったら無いのだ。
「それで何の用だ? 俺はゴーンベ室長に、Aランク試験の課題を達成した事を報告に来たんだが?」
俺は、『最深最古迷宮デキスラニアの最深到達階層を更新』するというAランク昇格条件を満たしたので、ギルド本部へやって来ていた。総合受付で試験担当のゴーンベ室長を呼び出してもらったが、彼は不在だと言われた。また出直そうかと考えていると、ギルドマスターのキョウシロウから呼び出しがあり、そのままギルドマスター室へ訪れていたのだ。
「ゴーンベ室長には、迷宮管理局本部へ出掛けて貰っているからな。変わりにお前のAランク試験合格の通達を俺がするってだけだ。おめでとう、今この瞬間からAランク冒険者だ。更に精進してSランクを目指してくれ。それと、ギルドカードはさっき総合受付に渡したな? 帰る時に忘れず持ってけよ、Aランクのギルドカードに更新されているからな」
「わかったよ。Sランクへの昇格条件ってのも聞きたい所だが、それより気になる事があってな」
俺は、キョウシロウを真剣な表情で見据えた。
「あぁ、それを今ゴーンベ室長が調査していると所だ」
エディスから聞いた無名の探索パーティについて、現れた時期と素性が知れないという事だけでも、気にするには十分だった。
「早く聞きたいなら、お前達も迷宮管理局本部に行ってみたらどうだ? 今ならゴーンベ室長もいるから、そのままコイス管理局長と面通し出来るぞ」
「コイス管理局長ってのは、迷宮管理局の最高責任者か?」
「あぁ、迷宮都市の事務方の一番上だな。コイス管理局長は忙しいから、事前にしっかり会う約束を付けておかないと中々面会出来ないからな。それに、もし本当に何か起きているなら、今のうちに会っておいた方いいんじゃ無いか?」
「事務方にトップか、何か役人見たいな堅いイメージで面倒そうなんだが……ゴーンベ室長もいるって言うし、今ならいいか」
事務方のトップと聞くだけで、とても堅そうで面倒な中年のイメージが俺の中で出来上がっていた。しかし、同じギルドの事務方であるゴーンベ室長もいると言うので、俺たちは迷宮管理局本部へと向かうことにした。
総合受付で新しいギルドカードを貰うと金色なっており、不覚にも結構テンションが上がってしまい、足取り軽く迷宮管理局本部へと向かって歩いて行った。
四人から生温かい目線を貰ったのは、当然言うまでもない。
迷宮管理局本部はギルド本部と正反対の場所に位置しており、やはりこちらの建物も頑強な作りになっていた。中へと入ると市役所ロビーや銀行のロビーを思い出せるような雰囲気だった。
ギルドと同じく総合受付の札が下がっていたカウンターで、先ほどギルドマスター室で言われた事を説明した。受付局員の女性が電話みたいな魔道具で、何処かへ確認を取ると最上階の局長室へと向かって欲しいと言われ、エレベーターの様な移動用魔道具で俺たちは建物を上がっていった。
総合受付で言われた通りに移動し、局長室の札が出ている扉をノックすると中から、男の声で入る様に促され、俺は扉を開けた。
「………ごめんなさい。部屋を間違えました」
俺は、速攻で開けた扉を閉めて、その場から離脱しようと、全員に指示を出そうとした。
「逃げるぞ! 絶対に関わっちゃいけない類の輩だ! 全員建物から出るあだだだだだ!」
俺が動き出そうとした瞬間、勢いよく扉が開き、俺の肩を掴んだ。
「HAHAHA! ユーがヤナだナ! 中でゴーンベ室長もウエィトしているヨ! カモンベイビー!」
肩を勢いよくぐるっと回され、部屋内の様子が再び視界に入ると、俺も肩を掴んでいる男と同様にブーメランパンツ一枚で、テカテカに身体を輝かせポージングをしているゴーンベ室長がいた。
「ヤナ殿……来てしまったのですね……」
「HAHAHAHA! さぁ! ユーも語り合おうヨ!」
スキンヘッドで、小麦色のはち切れんばかりの筋肉をバンプアップさせながら、真っ白い歯を輝かせている男の胸には、『コイス管理局長』名札が付いていた。
「どうやって付いてるんだよ!?」
「勿論、筋肉でダヨ!」
「こんな事務方トップは、嫌だぁああああ!」
俺の魂の叫びは、コイス管理局長の手で閉められた扉により遮られてしまうのだった。
「……私たちは、下で待ってましょ」
「「はい」」
「うん」
四人の少女達は、何も見なかった事にして、一階のフロントに降りて行った。
『シェンラ、結構不味いかも。知らないうちに、侵略を受けてたみたい』
「なんじゃと!?」
『次に、相手が何をしようとしてるかわからないけど……もし、そこから瘴気を流されたら……私を殺して』
「……決意は変わらんのじゃな?」
『えぇ、あの人の街を私は壊したくないもの』
「……わかったのじゃ。案ずるな上の街は妾が命にかけても守るのじゃ」
『ありがとう』
悪意と絶望によって、悠久の刻は終わりを告げようしていた
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魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話のパート2、ここに開幕!
【ご注意】
・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。
なるべく読みやすいようには致しますが。
・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。
勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。
・所々挿し絵画像が入ります。
大丈夫でしたらそのままお進みください。
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