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第七章 悠久
狂信者
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「この都市の代表者達から許可貰ったから、多少は気にせず暴れられるな」
俺は、神火の鎧の一部を『部分的』『形状変化』で『神火の大翼』を創り出し、障壁を通り抜けてくる瘴気纏火竜に向かって飛びながら、一人呟いた。
「大聖堂って聞いてたけど、本当に『大聖堂』って感じなんだな」
三人の露出狂に付いて管理局を出てから数分走ると、目に前に荘厳な雰囲気を醸し出している、正に見るからに大聖堂という建物が見えてきた。
丁度、ギルドマスターであるキョウシロウとゴーンベ室長も、俺たちが到着した直ぐ後に大聖堂の入り口へとやって来た。
「中々、派手な事になってるな」
俺は、此方へ近づいて来たキョウシロウへ話しかけた。
「全くだ。誰のお客さんだ彼奴らは。礼儀がなってないな、街に入りたいなら正面から来いってんだ」
キョウシロウは大聖堂の入り口から空を見上げ、面倒くさそうに言葉を吐き捨てた。
「迷宮潜っている仲間の情報で、迷宮内に多数の魔族が現れているらしい。今は、仲間が対応しているが、ギルドと迷宮管理局からも冒険者と探索者の応援を出して欲しいな」
「は? 迷宮に魔族だと! 礼拝堂に行きながらヤナからの情報を聞く、行くぞ」
大聖堂中へと全員で入り、礼拝堂へと向かいながら現在の迷宮の情報をキョウシロウに話しながら歩いて移動した。コイス局長には、流石に脱いでポージングしながら歩けないので、ビキニアさんに話しキョウシロウとの会話聞いてもらい、話の区切りが付いた所で伝えて貰った。
そして、キョウシロウは俺からの話を聞き終わると、ゴーンベ室長に緊急招集クエストの発行を即座に指示した。
「迷宮は、この街の核となる場所だ。あそこを落とされるって事は、この街を捨てると同義だ。現在街中にいるAランクパーティは全て迷宮内の魔族掃討に向かわせろ」
「全てですか? 上空の瘴気纏火竜に対して、Aランクパーティは残さなくてもよろしいのですか?」
ゴーンベ室長が驚いた表情で、キョウシロウからの指示対して確認を取っていた。
「あぁ、全てだ。上空の瘴気纏火竜共はAランクパーティだと辛いだろう。ヤナの話だと、迷宮内の魔族は、名無しらしいからな。上級探索者と連携して、今から直ぐにだ」
そして、その話をビキニアさんが直ぐにコイス局長に伝え、コイス局長も緊急招集探索クエストの発行を指示していた。ゴーンベ室長は、ビキニアさんと共に迷宮内の魔族掃討における共同指揮を執る為、二人で駆け出していった。
「ギルド職員制服姿の中年とビキニ姿のグラビアアイドルが、真剣な表情で一緒に駆けていく姿は、これぞ異世界だな……」
俺が一人異世界を実感していると、一行は大聖堂内の礼拝堂へと辿り着き、キョウシロウが扉を開けて、中へと入っていった。
中では大勢の信者達が祈りを捧げていた。そして祭壇の前で一際神々しい気を纏う祭服に身を包んだ少女が、女神像に向かって祈りを捧げていた。
「あれが、クリエラ教現当主『破邪』のユーフュリアだ」
キョウシロウが、祭壇に向かって歩きながら、俺に小声で話しかけてきた。
「熱心に祈りを捧げている上に、周りは結構な人数な信者の人達がいるが、此処で話し合うのか?」
「あぁ、問題ない。ヤナは念話の心得はあるか?」
「ん? あぁ、大丈夫だ。後ろの四人も念話での会話は心得ているが、まさか念話での会議なのか?」
念話の会話は、訓練していないと思ったことがそのままダイレクトに相手に伝わってしまう。その為、訓練をしないと通常の会話が出来ないのだが、まさか複数人による会議を念話でする事になるとは思わなかった。
「あぁ、ユーフュリアは街の防護障壁を展開している間は、女神様への祈りの言葉を途切らせる事が出来ないからな。緊急時の会話は、彼女のスキルによる念話で行う。彼女を中心に、床から光の円柱が空に向かって出来ているだろう。あの光の円に入ると複数人同時で念話での会話が可能になる。さぁ、始めるぞ」
そう説明すると、キョウシロウに引き続きコイス局長、リンダ秘書が光の中に入っていった。そして、俺達五人も続いて光の中へと入った。
「『ようこそ、おいでくださいました。初めての方もいらっしゃいますね。私がクリエラ教現当主ユーフュリアです。祈りながらの会話となり、皆さんと面と向かって会話をしない事をお許し下さい』」
頭の中に直接、透き通る清涼な声質の少女の声が響き渡った。
「『ギルド所属Aランク冒険者のヤナだ。俺達は急遽飛び入りで会議に参加させて貰う身だ、気にしないでくれ。見えないと思うが、俺の仲間の四人も一緒にこの空間に居させてもらう。全部終わったら、改めて挨拶させて貰うよ』」
アシェリ達が其々名乗ったところで、再びユーフュリアの声が響き渡る。
「『ヤナ様は……変わった魂を、それに仲間の方達はとても綺麗な魂をお持ちなのですね』」
俺は、ユーフュリアの一言に驚いて一瞬固まってしまった。そして、一瞬の静寂が訪れた時に、見知らぬ男女の声が聞こえてきた。
「『ユーフュリアよ、久し振りだな。元気にしていたか?』」
「『はい、コイス局長様もリンダ様も元気そうで何よりです』」
「『ふふふ、私たちはいつも鍛えていますからね』」
今度は俺は完全に絶句して、キョウシロウを見た。
「『念話だと普通に話せるんだよ、この二人……まぁ、終始あの感じで身体は動いているが』」
祈りを続けるユーフュリアの後ろで、ブーメランパンツ男とマッスルビキニ女が無駄にポージングを繰り返していた。そして、念話では無駄に良い声の男女と清涼感ある声の少女が会話をしていた。
「『なんだろうな……この理不尽な感じは……』」
「『言うな……此方も脱がなくて良いだけマシだ』」
俺とキョウシロウは、目の前のカオスな光景を見ながら酷く疲れた顔をしていた。
「『何を惚けた顔をしておるのだ、二人とも。緊急時なのだぞ、もう少し気合を入れんか』」
白い歯を輝かせ、はち切れんばかりのスマイルと筋肉を見せつけながらポージングをしているコイス局長に、俺とキョウシロウは窘めらえた。
「『『あんたにだけは、言われたくないわ!』』」
「『まぁまぁ、お二人とも落ち着いて下さい。先ずは現状把握とこれからの対応について、話を進めてください』」
リンダ秘書が、デキる秘書といった落ち着いた声で話を進めるように会議を進行し始める。当然、見た目はコイス局長同じく百万ドルスマイルでポージングしている。
「『やばい……こっちの方が精神攻撃としてキツイ……』」
俺は、念話による会議の予想外の精神攻撃に参っていると、身体をちょんちょんと突かれると、目をつむったライが立っており、アシェリ達も全員目を瞑っていた。
「『その手があったか!』」
「『気づかなかった……』」
「『あんたは、気づけよ……』」
キョウシロウがアシェリ達を見て驚愕の表情を見せていた。
そして、眼を閉じ祈り捧げる少女周りに、終始ポージングをする男女と、瞑想でもしているかの様に眼を閉じる青年二人と少女五人が光の輪の中で無言で佇んでいた。
そして礼拝堂に集まる信者達は、静かに祈りを捧げる。
その異様すぎる静寂は、礼拝堂の扉が勢いよく開けられた事で破られた。
「ギルドマスター! 瘴気纏火竜共が、障壁をすり抜け始めました!」
その直後、狂ったような竜の咆哮が街全体に響き渡った。
「『障壁をすり抜けた? そんな馬鹿な……私には何も感じないのに……一体……』」
「『ユーフュリアよ、狼狽えるでない。報告では、まだすり抜け侵入してきたのは火竜の瘴気纏い共だけということだ。その遥か上空を旋回している大物は、侵入してきていないという事は、何か理由があるのだろう。お主は、引き続き祈りを切らすな』」
「『わかりました。障壁の維持に全力を傾けます』」
コイス局長が、取り乱しかけたユーフュリアを見事にフォローしていた。
「『キョウシロウ、侵入して来た瘴気纏火竜をヤナ殿と共に迎え討て。もし、大物が何らかの理由で障壁を超えられないとすれば、火竜共は此処を狙ってくるだろう。流石に群がられると厄介だ。先に叩き潰せ』」
「『そうすると、此処の護りはどうする? とは愚問だったな。あんたとリンダさんがいれば、此処は持つだろう。わかった、此処からは一人のSランク冒険者『凪』キョウシロウとなろう』」
キョウシロウは、眠そうな半眼を見開き全身に気を張り巡らせながら嗤っていた。
「『ギルドマスターが、一戦力になっていいのかよ?』」
「『あぁ、うちの幹部はゴーンベ室長始め全員優秀だからな。俺が戦い始めたら、全てを察するさ。俺が自ら戦うって事はだ……邪魔したら斬るって事だからな』」
「『いたよパワハラ上司がこんな所に……幹部の皆さん頑張れ……』」
俺が、ギルド職員幹部に憐憫の想いを馳せながらも、ユーフュリア含めて全員に俺の通信魔法を簡単に説明し、友達登録を済ませた。
「『そうだ、暴れる前に確認なんだが、此処の街の造りだが、結構頑丈だったよな?』」
「『お前が何しようとしているか、何となく察しはつくが好きにしろ。ギルドの地下訓練場程ではないが、ほぼ近い強度は全ての建物や通路が持っているからな。例え壊しても、迷宮に近い中心部は居住区は作られていない。その辺なら、非戦闘員の被害も出ないからな』」
それを聞いて俺は、心のワクワクが抑えきれず、顔が嗤顔になるのが自分でも分かった。
「『あぁ、完全に気分が乗っちゃってるわね』」
「『えぇ、私達は先ずは四人で連携して仕留めましょう』」
「『そうですね。瘴気纏いとなった火竜ですから、相当な強さであるはずです』」
「『わたしも、あの顔できるかな……こうかな?』」
ライが、俺を真似て嗤おうとしていた。
「『違う違う、こうだこう』」
「『こう?』」
ライが、見事な嗤い顔を俺に向けてきた。
「『あなた、ライは真っ当に育てるって言ってたのに……』」
「『自分で思いっきり道を外させる様なことを教えてますね……』」
「『ヤナ様ばっかり教えてズルいです……私の嗤い方も教えてあげましょうね、ふふふ』」
俺は、ライからセアラの嗤い顔が見えない様に咄嗟に隠した。アレは、覚えちゃ駄目な類の顔だ。
「『アシェリが言っていた様に、四人は一緒に瘴気纏火竜を相手取れ。相手の数は多く、こちらは少ない。確実にこれは逆境と言えるだろう。そうだ、これは危機的状況だ。だが、同時に好機でもある!』」
俺は四人を見ながら、満面の嗤い顔で叫ぶ。
「『危機は好機だ!』」
「「「「『はい!』」」」」
「『うん!』」
「『行くぞぉおおお!』」
そして、俺たちは雄叫びを上げながら、礼拝堂から外へと駆けだして行った。
「『……あれは狂信者か?』」
コイス局長がポージングを初めて止めて、恐ろしいものを見たという顔で呟いた。
「『……気にするな。ただちょっと鍛錬狂なだけだ』」
キョウシロウが、遠い目をしながら答えていた。
「『……充分、その時点で狂っていると思いますが……』」
ユーフィリアは祈りながらも、ドン引きするという器用な声を出していた。
俺たちは大聖堂の外へ出ると、アシェリ達は直ぐに戦い易い中央広場へと駆け出していった。
「先ずは雑魚の掃除だ。それから、偉そうに上から見下ろすお前だ」
俺は、遥か上空で旋回している紅蓮に燃え盛る巨大な竜目掛けて視線を飛ばす。
そして、指輪と腕輪を外し、戦いの言葉を発する。
「さぁ、俺達の糧になれ。お前らが俺らを狩るんじゃねぇ、俺達がお前らを狩るんだよ」
俺は全身に神火を纏い、瘴気を纏う火竜に向かい飛び上がった。
人々の目に写るように大きく翼を広げ
神火の翼はは羽ばたく
空から降り注ぐ絶望と悪意に
立ち向かう者がいる事を知らしめる為に
見る者全ての心に希望の火を灯すように
この世界には俺が居ると証明するように
俺の心を写し出すように
猛々しくも穏やかに神火は燃え盛る
俺は、神火の鎧の一部を『部分的』『形状変化』で『神火の大翼』を創り出し、障壁を通り抜けてくる瘴気纏火竜に向かって飛びながら、一人呟いた。
「大聖堂って聞いてたけど、本当に『大聖堂』って感じなんだな」
三人の露出狂に付いて管理局を出てから数分走ると、目に前に荘厳な雰囲気を醸し出している、正に見るからに大聖堂という建物が見えてきた。
丁度、ギルドマスターであるキョウシロウとゴーンベ室長も、俺たちが到着した直ぐ後に大聖堂の入り口へとやって来た。
「中々、派手な事になってるな」
俺は、此方へ近づいて来たキョウシロウへ話しかけた。
「全くだ。誰のお客さんだ彼奴らは。礼儀がなってないな、街に入りたいなら正面から来いってんだ」
キョウシロウは大聖堂の入り口から空を見上げ、面倒くさそうに言葉を吐き捨てた。
「迷宮潜っている仲間の情報で、迷宮内に多数の魔族が現れているらしい。今は、仲間が対応しているが、ギルドと迷宮管理局からも冒険者と探索者の応援を出して欲しいな」
「は? 迷宮に魔族だと! 礼拝堂に行きながらヤナからの情報を聞く、行くぞ」
大聖堂中へと全員で入り、礼拝堂へと向かいながら現在の迷宮の情報をキョウシロウに話しながら歩いて移動した。コイス局長には、流石に脱いでポージングしながら歩けないので、ビキニアさんに話しキョウシロウとの会話聞いてもらい、話の区切りが付いた所で伝えて貰った。
そして、キョウシロウは俺からの話を聞き終わると、ゴーンベ室長に緊急招集クエストの発行を即座に指示した。
「迷宮は、この街の核となる場所だ。あそこを落とされるって事は、この街を捨てると同義だ。現在街中にいるAランクパーティは全て迷宮内の魔族掃討に向かわせろ」
「全てですか? 上空の瘴気纏火竜に対して、Aランクパーティは残さなくてもよろしいのですか?」
ゴーンベ室長が驚いた表情で、キョウシロウからの指示対して確認を取っていた。
「あぁ、全てだ。上空の瘴気纏火竜共はAランクパーティだと辛いだろう。ヤナの話だと、迷宮内の魔族は、名無しらしいからな。上級探索者と連携して、今から直ぐにだ」
そして、その話をビキニアさんが直ぐにコイス局長に伝え、コイス局長も緊急招集探索クエストの発行を指示していた。ゴーンベ室長は、ビキニアさんと共に迷宮内の魔族掃討における共同指揮を執る為、二人で駆け出していった。
「ギルド職員制服姿の中年とビキニ姿のグラビアアイドルが、真剣な表情で一緒に駆けていく姿は、これぞ異世界だな……」
俺が一人異世界を実感していると、一行は大聖堂内の礼拝堂へと辿り着き、キョウシロウが扉を開けて、中へと入っていった。
中では大勢の信者達が祈りを捧げていた。そして祭壇の前で一際神々しい気を纏う祭服に身を包んだ少女が、女神像に向かって祈りを捧げていた。
「あれが、クリエラ教現当主『破邪』のユーフュリアだ」
キョウシロウが、祭壇に向かって歩きながら、俺に小声で話しかけてきた。
「熱心に祈りを捧げている上に、周りは結構な人数な信者の人達がいるが、此処で話し合うのか?」
「あぁ、問題ない。ヤナは念話の心得はあるか?」
「ん? あぁ、大丈夫だ。後ろの四人も念話での会話は心得ているが、まさか念話での会議なのか?」
念話の会話は、訓練していないと思ったことがそのままダイレクトに相手に伝わってしまう。その為、訓練をしないと通常の会話が出来ないのだが、まさか複数人による会議を念話でする事になるとは思わなかった。
「あぁ、ユーフュリアは街の防護障壁を展開している間は、女神様への祈りの言葉を途切らせる事が出来ないからな。緊急時の会話は、彼女のスキルによる念話で行う。彼女を中心に、床から光の円柱が空に向かって出来ているだろう。あの光の円に入ると複数人同時で念話での会話が可能になる。さぁ、始めるぞ」
そう説明すると、キョウシロウに引き続きコイス局長、リンダ秘書が光の中に入っていった。そして、俺達五人も続いて光の中へと入った。
「『ようこそ、おいでくださいました。初めての方もいらっしゃいますね。私がクリエラ教現当主ユーフュリアです。祈りながらの会話となり、皆さんと面と向かって会話をしない事をお許し下さい』」
頭の中に直接、透き通る清涼な声質の少女の声が響き渡った。
「『ギルド所属Aランク冒険者のヤナだ。俺達は急遽飛び入りで会議に参加させて貰う身だ、気にしないでくれ。見えないと思うが、俺の仲間の四人も一緒にこの空間に居させてもらう。全部終わったら、改めて挨拶させて貰うよ』」
アシェリ達が其々名乗ったところで、再びユーフュリアの声が響き渡る。
「『ヤナ様は……変わった魂を、それに仲間の方達はとても綺麗な魂をお持ちなのですね』」
俺は、ユーフュリアの一言に驚いて一瞬固まってしまった。そして、一瞬の静寂が訪れた時に、見知らぬ男女の声が聞こえてきた。
「『ユーフュリアよ、久し振りだな。元気にしていたか?』」
「『はい、コイス局長様もリンダ様も元気そうで何よりです』」
「『ふふふ、私たちはいつも鍛えていますからね』」
今度は俺は完全に絶句して、キョウシロウを見た。
「『念話だと普通に話せるんだよ、この二人……まぁ、終始あの感じで身体は動いているが』」
祈りを続けるユーフュリアの後ろで、ブーメランパンツ男とマッスルビキニ女が無駄にポージングを繰り返していた。そして、念話では無駄に良い声の男女と清涼感ある声の少女が会話をしていた。
「『なんだろうな……この理不尽な感じは……』」
「『言うな……此方も脱がなくて良いだけマシだ』」
俺とキョウシロウは、目の前のカオスな光景を見ながら酷く疲れた顔をしていた。
「『何を惚けた顔をしておるのだ、二人とも。緊急時なのだぞ、もう少し気合を入れんか』」
白い歯を輝かせ、はち切れんばかりのスマイルと筋肉を見せつけながらポージングをしているコイス局長に、俺とキョウシロウは窘めらえた。
「『『あんたにだけは、言われたくないわ!』』」
「『まぁまぁ、お二人とも落ち着いて下さい。先ずは現状把握とこれからの対応について、話を進めてください』」
リンダ秘書が、デキる秘書といった落ち着いた声で話を進めるように会議を進行し始める。当然、見た目はコイス局長同じく百万ドルスマイルでポージングしている。
「『やばい……こっちの方が精神攻撃としてキツイ……』」
俺は、念話による会議の予想外の精神攻撃に参っていると、身体をちょんちょんと突かれると、目をつむったライが立っており、アシェリ達も全員目を瞑っていた。
「『その手があったか!』」
「『気づかなかった……』」
「『あんたは、気づけよ……』」
キョウシロウがアシェリ達を見て驚愕の表情を見せていた。
そして、眼を閉じ祈り捧げる少女周りに、終始ポージングをする男女と、瞑想でもしているかの様に眼を閉じる青年二人と少女五人が光の輪の中で無言で佇んでいた。
そして礼拝堂に集まる信者達は、静かに祈りを捧げる。
その異様すぎる静寂は、礼拝堂の扉が勢いよく開けられた事で破られた。
「ギルドマスター! 瘴気纏火竜共が、障壁をすり抜け始めました!」
その直後、狂ったような竜の咆哮が街全体に響き渡った。
「『障壁をすり抜けた? そんな馬鹿な……私には何も感じないのに……一体……』」
「『ユーフュリアよ、狼狽えるでない。報告では、まだすり抜け侵入してきたのは火竜の瘴気纏い共だけということだ。その遥か上空を旋回している大物は、侵入してきていないという事は、何か理由があるのだろう。お主は、引き続き祈りを切らすな』」
「『わかりました。障壁の維持に全力を傾けます』」
コイス局長が、取り乱しかけたユーフュリアを見事にフォローしていた。
「『キョウシロウ、侵入して来た瘴気纏火竜をヤナ殿と共に迎え討て。もし、大物が何らかの理由で障壁を超えられないとすれば、火竜共は此処を狙ってくるだろう。流石に群がられると厄介だ。先に叩き潰せ』」
「『そうすると、此処の護りはどうする? とは愚問だったな。あんたとリンダさんがいれば、此処は持つだろう。わかった、此処からは一人のSランク冒険者『凪』キョウシロウとなろう』」
キョウシロウは、眠そうな半眼を見開き全身に気を張り巡らせながら嗤っていた。
「『ギルドマスターが、一戦力になっていいのかよ?』」
「『あぁ、うちの幹部はゴーンベ室長始め全員優秀だからな。俺が戦い始めたら、全てを察するさ。俺が自ら戦うって事はだ……邪魔したら斬るって事だからな』」
「『いたよパワハラ上司がこんな所に……幹部の皆さん頑張れ……』」
俺が、ギルド職員幹部に憐憫の想いを馳せながらも、ユーフュリア含めて全員に俺の通信魔法を簡単に説明し、友達登録を済ませた。
「『そうだ、暴れる前に確認なんだが、此処の街の造りだが、結構頑丈だったよな?』」
「『お前が何しようとしているか、何となく察しはつくが好きにしろ。ギルドの地下訓練場程ではないが、ほぼ近い強度は全ての建物や通路が持っているからな。例え壊しても、迷宮に近い中心部は居住区は作られていない。その辺なら、非戦闘員の被害も出ないからな』」
それを聞いて俺は、心のワクワクが抑えきれず、顔が嗤顔になるのが自分でも分かった。
「『あぁ、完全に気分が乗っちゃってるわね』」
「『えぇ、私達は先ずは四人で連携して仕留めましょう』」
「『そうですね。瘴気纏いとなった火竜ですから、相当な強さであるはずです』」
「『わたしも、あの顔できるかな……こうかな?』」
ライが、俺を真似て嗤おうとしていた。
「『違う違う、こうだこう』」
「『こう?』」
ライが、見事な嗤い顔を俺に向けてきた。
「『あなた、ライは真っ当に育てるって言ってたのに……』」
「『自分で思いっきり道を外させる様なことを教えてますね……』」
「『ヤナ様ばっかり教えてズルいです……私の嗤い方も教えてあげましょうね、ふふふ』」
俺は、ライからセアラの嗤い顔が見えない様に咄嗟に隠した。アレは、覚えちゃ駄目な類の顔だ。
「『アシェリが言っていた様に、四人は一緒に瘴気纏火竜を相手取れ。相手の数は多く、こちらは少ない。確実にこれは逆境と言えるだろう。そうだ、これは危機的状況だ。だが、同時に好機でもある!』」
俺は四人を見ながら、満面の嗤い顔で叫ぶ。
「『危機は好機だ!』」
「「「「『はい!』」」」」
「『うん!』」
「『行くぞぉおおお!』」
そして、俺たちは雄叫びを上げながら、礼拝堂から外へと駆けだして行った。
「『……あれは狂信者か?』」
コイス局長がポージングを初めて止めて、恐ろしいものを見たという顔で呟いた。
「『……気にするな。ただちょっと鍛錬狂なだけだ』」
キョウシロウが、遠い目をしながら答えていた。
「『……充分、その時点で狂っていると思いますが……』」
ユーフィリアは祈りながらも、ドン引きするという器用な声を出していた。
俺たちは大聖堂の外へ出ると、アシェリ達は直ぐに戦い易い中央広場へと駆け出していった。
「先ずは雑魚の掃除だ。それから、偉そうに上から見下ろすお前だ」
俺は、遥か上空で旋回している紅蓮に燃え盛る巨大な竜目掛けて視線を飛ばす。
そして、指輪と腕輪を外し、戦いの言葉を発する。
「さぁ、俺達の糧になれ。お前らが俺らを狩るんじゃねぇ、俺達がお前らを狩るんだよ」
俺は全身に神火を纏い、瘴気を纏う火竜に向かい飛び上がった。
人々の目に写るように大きく翼を広げ
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『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話のパート2、ここに開幕!
【ご注意】
・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。
なるべく読みやすいようには致しますが。
・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。
勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。
・所々挿し絵画像が入ります。
大丈夫でしたらそのままお進みください。
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