イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

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第1話 創造

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 ある世界の片隅で、〝創造する〟事を存在理由とする者が存在した。
 
 そして、この物語は数多の世界に存在する創造者マスターの中の一人が、ある変わった者と一緒に創り出す一風変わった成長記録である。

「はぁ……一人で物語を創っていても、何だか最近つまらないな」

 一人の男が、自分の書斎で椅子に座りながら原稿用紙を前に呟いていた。

 その男は、黒髪で眼鏡を掛け、至って特徴の無い様な顔をしていた。白シャツにスラックスという格好で、缶コーヒーを片手に持ちながら、斜め上に目線をしばらく向けているとおもむろに呟いた。

「ならば、誰か暇つぶしの相手となる者を創り出せばすれば良いだけ……かな。だけど、初めからある程度の会話も可能となると、流石にそこまで一から創るのは、骨が折れるんだよなぁ」
  
 創造者マスターであったとしても、いきなり意思を持った生命を創り出せる訳ではなかった。

「意志の無いゴーレムとかAIみたいのは、いまいち反応が面白くないから……試しに面白そうだし、僕の・・を分けるか」

 男は暫し目を瞑り、精神を集中させていると、突然自らの手を自分の胸に無理やり突き刺していき、最後には手首までめり込んでいた。

「ぐ……が……あぁああああ!」

 書斎に響き渡る咆哮と共に、胸に突き刺さっていた手が引き抜かれた。そして、男が息を切らしながらも、掌を広げるとその上には黄金色に光る球体が浮かび上がっていた。

「これは……中々辛い……ね……」

 男は自らの魂の一部を削ると、それを身体から取り出した。いくら神格を持つ魂だとしても、魂を分かつ行為は、本来長い年月をかけ行うべきものであり、この様な思いつきで行うものではなかった。

 それだけ、この男が壊れているということでもあった。そして無理やり魂を分けた反動で、男は意識を失い机に突っ伏した。

 そして、男にしては珍しく夢を見たのだった。
  
 そこは、どこかの市役所の待合のような場所だった。しかし、違う所が一つあった。自分の用事を待っている筈の人が、誰一人居ないのだ。

 受付カウンターにはちゃんと職員が座っているが、そこに近づくのは光る玉のみだった。色や大きさが様々な光る玉が、受付カウンターへと移動し、数分後に光る玉が浮いている真下の床に魔法陣が浮かび上がり、術が発動したかと思うと、光る玉は何処かへ消えていった。

 男はまるで映像を見ているかのように、その光景を観ていた。そして一際小さく、輝きも鈍い光る玉が受付カウンターへと移動すると、まるで、どこかの世界を牛耳っているかのような低音ボイスが聞こえた為、男の意識は声が聞こえるカウンターへと近づいていった。
  
「くくく、村人Cだと? フハハハハハハ! 舐めるなぁ! 我は、壮大で且つ重厚的な王道ファンタジーの〝最強最凶最高の魔王〟として生まれるのだ。村人Cには、もっと貧相な奴がなれば良いのだ!」

「お客様のご要望は、可能な限り叶えたいとは思っておりますが……」

「まさか、出来ぬという訳ではあるまいな!」

「はっきり申し上げますと、お客様の魂の格では、運良く人型の生命体に宿れたとしても、村人C辺りが限界かと」

「村人!? しかもAですらなく、Cだと!?」

「それでも、かなり善処した結果なのです。お客様の魂の格は、とてもじゃありませんが、魔王級の器ではありません。そもそも、魔王に本当に成られると困ります」

「なんだと……そんな筈は……我は……我は……」

 どうやら、受付カウンターで突っかかっていた光る玉は、自分の魂が宿る可能性の器について、現実を受け止められずにいる様だった。

 その様子を観ていた男は、この夢が自分のいる世界とは異なる世界の事だと、この時点で把握し始めていた。魂を無理やり分けた反動からか、意識だけが何処かの異世界へと飛ばされていたのだった。

 魔王に成りたいと願う脆弱な魂は、明らかに輝きが失われていった。自分の魂の格の低さにショックを受けているのだろう。

 男は他の受付の様子に意識を移動しようとした時、先ほどの魂の声がその空間中に響き渡った。

「フ……フハハ……フハハハッ! 上等ではないか!」

「お客様! 他の皆様のご迷惑になりますので、お静かにお願い致します!」

「やかましいわぁ! 魂の格がなんだ! 村人Cだろうと何だろう・・・・と、我は、必ず魔王へと成り上がってくれるわ!」

 光る玉は、鈍いながらも力強く光を放っていた。その様子に、とても面倒そうな顔をした受付の担当は、無言でそっと魔法陣の起動ボタンを押したのだった。
  
「さて、とは言ったものの、せめて村人Bぐらいにはならんかゴネさせて貰おう……か? な!? 足元に召喚陣が!? 我は未だ、心の準備がぁあああ!? ぎゃぁあああ……」

 光る玉を無視して、受付の担当は転生魔法陣を発動させたのだった。そして、その光る玉の悲鳴が徐々に消えていくにつれ、男の意識もまた書斎へと戻っていった。

「中々、貴重な体験だったな。それに、アレは面白そうな魂だった……今なら、まだ行けそうだな」

 男は不敵に嗤うと、そっと自分の魂から分けた神格の欠片を机の上に静かに移動すると、周囲を見渡した。

 そして机に上に、先ほど飲み干した缶コーヒーの空き缶に目を向けると、それを掴み自らの神核の欠片の横に置いた。

何だろう・・・・と、魔王に成ると言っていたな? ならば、コレでも成れるよな?」

 男は笑いを堪えきれないといった様子だったが、一転真剣な表情を見せると、先ほど自分の意識が飛んだ異世界を、自分の意識の痕跡を頼りに再び探し始めると、すぐに詠唱を始めた。

「"我は喚ぶ 遥か彼方から 壁を超え 理を歪め 我と共に生きる者と 交り 混ざり 溶けよ 我が神核よ"」

 そして、空き缶と神核の欠片の下には魔法陣が浮かび上がる。

「『創生ノ理ウマレカワリ』」

 男が最後の言葉を発した瞬間、魔法陣から書斎全てを包み込むほどの光が溢れ出した。

「……ここは……我は、一体……?」

 書斎の机の上には、先ほどの空き缶が一本立っていた。そして、その空き缶・・・は周りの状況を把握出来ずにいた。
  
「初めまして、そして誕生おめでとう」

 男は椅子に深く座りながら、目の前の空き缶に向かって大袈裟に腕を広げながら、出迎える言葉を告げた。
  
「……ここは、一体……確か我は、世界の理に従い転生した筈……何故、意識があるのだ? ここは、巨人の国なのか?」

 喋る空き缶は、明らかに混乱していた。村人C、欲を言えば村人Bに転生している筈だが、意識がはっきりしている上に、目の前には巨大な男が自分を見下ろしていたからだ。
  
「まぁ、色々聞きたい事はあるだろうけど、先ずは名前を決めなくちゃね。そうだな……君の名は『カン』だ」
  
「……カン?……ん? これは……身体が……」
  
「そう、缶コーヒーの空き缶に転生した"カン"だ! さっき・・・、何に転生しようとも魔王に成ると言っていただろう。だから、ゴミになる筈だった空き缶でも魔王に成れるか気になっちゃってさ。所謂、擬人化ってやつさ」
  
「擬人化?……これでは……ただの……喋る空き缶ではないかぁああああ!」
  
「こだわりの微糖だよ」
  
 こうして、ただ面白そうだという創造者マスターの思い付きで、神核が魂に混じっている"最強最凶最高の魔王を夢見る空き缶"が、この世界に生まれたのだった。
  
「空きカァアアアアアアン!?」

「よろしくね、空き缶のカン」

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