イセカン！？〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン！〜

イチ力ハチ力

文字の大きさ

大中小

40 / 99

第40話　お約束と言うかテンプレと言うか迷うところ

しおりを挟む

『紙パックのジュースを、子供に渡す時は注意が必要なんだよ、カン。何でか分かるかい？』
　
「ひぎぃいいぃい！？　圧が！　圧がボディにかかってぇええぇ！？　我が壊れりゅぅうぅうぅ！？」

『それは、何故かって？』

　イチカの問いかけに、カンが答えることはなかった。純粋に、それどころではなかったからだ。

　化け物となったマークに掴まれてしまったカンは、そのアルミボディにかかる握力に、恐怖していた。
　
『子供は力の調節が、まだ上手じゃないからね。元気よく紙パックの角の柱を持たずに、パックの腹の部分をガシっと持ってしまう事があるからさ』

　イチカは雑談でもするかのような気軽さで、カンに話し続ける。

『ということは、化け物となり人の領分を超えた膂力を手に入れたマークが、軟いアルミ缶なんて持って石待ったら……当然、その結果は火を見るよりも明らかだよね』
　
「早まるな！　マーク！」

「くぺきゃァアアン！？」
　
　リュウの叫びも虚しくカンは、化け物となったマークに容赦無く握り潰されてしまった。
　
「ぐあぁああああ！？　目がぁああ！　目がぁああ！　手がぁああ！」

　しかし、ここで一番に悲鳴をあげたのは、カンではなく、何とマークであった。
　
「なんだ！？　何が起きたんだ！？」
　
「こ……コフ……ちぬ……カァ……ァンン……」

　マークが目を抑えながら悶絶する様子に、困惑するばかりのリュウをよそに、カンは瀕死の状態であった。
　
"カンは、マーク化け物Ver.からメタルグラップをくらった単純に握り潰された！"
"カンは、100のダメージを受けてしまった！"
"カンは、体力が0になった！"
"カンは、常時発動M型(Lv.6)効果により体力が6に戻った！"
"カンは、マーク化け物Ver.にマジックバレットを放ったカンの中から弾丸が勢いよく飛び出した！"
"カンは、マーク化け物Ver.の左手に50のダメージを与えた飛び出した銃弾が偶然命中した！"
"カンは、マーク化け物Ver.の目にマジックスプラッシュを放った空き缶の中に溜まっていた魔力が吹き出した！"
"カンは、マーク化け物Ver.の視界を奪った顔に思いっきりカンの中身がぶちまけられた！"
　
「カァアア……アァン……」

　世界の声が伝えるまでもなく、カンはマーク化け物に勢いよく握りつぶされ、瀕死となっていた。

　しかし、ここで奇跡が起きていた。　

　どうやらカンが空き缶の中に溜めていた魔力は、カンのボディの中で液体状で溜まっていた様であり、しかも銃撃で空いた穴から全部出ずにまだ残っていた。
　
　そしてこのことが、今回の状況を作り出す原因となっていた。　
　
　カンがぐしゃりとした潰された際、化け物になったマークの目に、液体状のカンの魔力が思いっきりかかってしまった。

　まるで子供が、ストローがささっているのにも関わらず、パックのジュースを強く掴んでしまった時のように、マークの顔は大惨事になっていた。
　
　更に実はこの時、空き缶の中にはマークが最初にリュウに向かって放った銃弾が、空き缶の中の魔力の影響で、丸い空き缶の中を、そのままの速度を保ちながら高速で回転していた。

　魔力を内部に溜め込む事ができる様になった空き缶であるカンだからこそ、起きた奇跡だった。
　
　そしてこの弾丸が、ボディが潰された拍子にカンの中から飛び出して、魔力を帯びた銃弾となり、マークの左手を撃ち抜いた。偶然にも、これは〝魔弾〟と言える威力にまでなっていた。
　
「……カァン……」
　
　弱々しいカンの呻き声が、その奇跡の代償が小さくなかったことを物語っていた。
　
　カンは、マークの手から地面へと落とされて転がっていた。

　常時発動M型の効果により、体力は死なない程度には戻っていたが、既にボディは完全に握り潰されており、魔力も貯める事が出来ずにいた。

　そんなカンが、地面の上で心が折れそうになっている最中、銃声が続けざまに鳴り響いたのだった。
　
「ごふ……まさか空き缶に……してやられるとはね……リュウ……元相方に対して……容赦が無いじゃないか」

　カンが作り出した隙を見逃さず、リュウはマークの身体にありったけの銃弾を浴びせていた。

　そして、その全弾を身体に受けたマークは、力なく背中から地面に倒れたのだった。

「マーク……最後に聞かせろ。何故、俺を裏切った？」
　
「ふふ……リュウ……僕の心が弱かった……だけじゃないよ……君なら……リュウなら……僕は負けちゃったけど……君は……負けないでね」
　
「おい、どういう……！？」
　
「……カァン？　我は……どうな……る」
　
　リュウが、予想外の告白をしたマークを問い質さそうとした瞬間、マークの身体が膨れ上がった風船の様になっていった。
　
「マーク！」
　
「リュウ……ごめんね……これが相棒としての……最後のサポートだよ……今から十秒後に……僕は自爆する……その隙に……此処から……脱出するんだ……君は……生きろぉおお！」
　
「……え？　ちょ……我は動けぬのだが？」
　
「マーク！　必ず俺が、組織を滅ぼしてみせる！　それを、地獄から……いや、お前が好きだった〝異世界〟から見てるんだな！」
　
「……あぁ……これから異世界に転生して……千里眼のスキルでも身につけて……君の活躍を見ているよ……じゃあね……」
　
「……ちょっ、ちょっと？　え？　カァァン？」
　
そして十秒後、マークの身体から閃光が走り、大爆発を起こしたのだった。
　

しおりを挟む