イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

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第58話 知らないで良いこともあるよ

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『空き缶が喋ったら、確かに変態だよねぇ。普通生活してて遭遇したら、軽いトラウマものな気がしないでもないかな』
  
「がっつり肯定するでないカァアアン!」
  
『あぁあ、またそんな大声出しちゃって』
  
「は!?」
  
ただでさえ空き缶が喋り出すという変態行為に引いていたニヤンは、突然大声で叫びだしたカンに怯えていた。
  
「ニヤンと言ったな。変態を認める訳ではないが、喋る空き缶がお主の価値観的に変態だとしても、少しビビり過ぎであろう。今時の空き缶は、喋る事ぐらい出来るわ」

『無理言うなぁ。変態な責任を相手の価値観としてなすりつける空き缶は、まさに畜生缶だね』

「やかましいカァアン!」
  
「え!? ボクまだ何も喋ってないのにぃいい!? それに今時の空き缶って、そうなのぉおお!?」
  
「いやいや、ニャンコ。空き缶は普通喋らないから、そんなカルチャーショックを受けたような顔をしなくて大丈夫だよ。それとカンの一人叫びは、病気みたいなものだから、そこには敢えて触れずに、聞こえないふりをしてくれると嬉しいかな」
  
「そう……なんだ。病気じゃ仕方がないね、そう考えると少し可哀想に見えてきたよ、ボク。それでコレは、カイン君の召喚獣なんだよね? 精霊界に帰還リターンさせなくて良いの?」

「おい、酷く心外な印象を持たれた上に、同情されたんだが?」
  
「うん。帰還リターンで帰ってくれないから、仕方なく持ってきたんだ」

 カインは、カンの言葉を既に安定して受け流し始めていた。
 
「どんどん扱いが雑になる気がするのだが……まぁ、よい。カインよ、我が〝魔力制御〟を覚えたら〝帰還リターン〟に応じられる様だぞ」
  
「そうなの?」

 カンは、イチカから聞いた話を簡単にカインに説明した。
  
「へぇ、なんだかよく分かんない縛りだね。そうだ! ボクの召喚獣は、この子だよ!〝召喚コール〟!」
  
『カミペディアによると、そこの世界の仕様では、一度召喚の契約を結ぶと召喚士達は、長い詠唱を省略できて〝召喚コールと一言だけの詠唱で、自身召喚獣を呼び出すことが出来るらしいよ』
  
「カミペディアは、何でも知っておるな。しかし、なるほど、説明ご苦労カァン」
  
「わぁ! かわいいね!」

 カンがイチカから、この世界についての情報提供を受けていると、突然カインの明るい声が部屋に響いた。
  
「そうでしょ! すっごく可愛くて、ボクも気に入ってるんだ! それにフェアリーは、可愛いだけでなくて、魔法も得意だし、魔法少女系を狙うボクと相性ぴったり!」
  
 ニヤンにより呼び出されたフェアリーが、羽からキラキラと光るものを主人であるニヤンに振り掛けながら部屋の中を楽しげに飛んでいた。

 そしてニヤンは、そのキラキラ光る粒子に合わせて、何度もポーズを変えながら、魔法少女の真似事をしていた。
  
「魔法少女の定義とは、一体……そんなことよりも、フェアリーとは魔法が得意なのか。そうであるならば……」

 カンは、部屋の天井付近で楽しげに翔び回るフェアリーに向かって、声を上げた。

「これ、そこのフェアリーよ。我に魔力の制御の仕方を、教えてくれぬか?」
  
〝……空き缶に、話しかけられた……〟
  
「うむ、我は誰とでもコミュニケーションが取れる、イケてる空き缶なのである」
  
〝……変態ぃいいいい!〟

 フェアリーは少女の様な声で、悲鳴をあげたのであった。
  
「お主もか!? この世界の変態の定義とは、一体何なのカァアァアアン!?」

 流石に、ここまでの一連の流れで変態を連呼されると、カンもしっかり動揺していた。
 
『未知との遭遇とは、いつでも驚きと感動があるものだよ。空き缶が言葉を交わすことが出来るという事実に、驚いてしまったフェアリーに非はないだろうね。そもそも、空き缶が言葉を話すのが、悪いのだから』
  
「我の存在自体を、悪としてどうするカァアアン!?」
  
『普通、空き缶が喋ったりしたらびっくりするからね? カンの配慮が、足りなかったのでは? 自分の当たり前が、他人の当たり前だと思うなよ』
  
「普通に、ダメ出しか。凹むぞ」
  
 空き缶が自分に喋りかけてくる、という事実に驚いたニヤンの召喚したフェアリーは、完全にカンを警戒してしまっていた。
  
「ライティ、どうしたの? って、まぁ原因はその空き缶だよね。ボクも驚いたし、当然そうなっちゃうよね」

 ニヤンにライティと呼ばれたフェアリーの怯えている様子に、カインは安心させるように微笑みながら話しかけた。
  
「君の名前は、ライティって言うんだね。驚かしてごめんよ。この空き缶は、ちょっと変わってて、言葉を話すことが出来るんだ。僕の召喚獣だから、安心してほしいな」
  
カインがニヤンの後ろに隠れていたライティフェアリーに、優しく声をかけた。ライティは、カインの笑顔に安心したのか、ゆっくりとニヤンの後ろから出てきたのだった。
  
「……なんじゃ、そのイケメン力は……確かに、よく見るとカイン……ボサボサの髪で目元が隠れていたから気付きにくかったが、お主……かなりの可愛い形男子ではないカァアン?」

 自分の顔をよく見せて安心させようとカインは、ライティに向かって前髪をかきあげると、そこには予想以上に整った顔があった。
  
〝キャァアアア! ホント、この空き缶と違って良い子だわぁああん! とってもかわぃいぃいい〟
  
「……声が野太い!? まさかお主は、おと……」
  
〝おっと、それ以上言うべきではないわね。あんたも、命は惜しいでしょう?〟

 野太く漢らしい声が、カンのボディに響く。
  
「ひぃ!? 何にも聞いてないカァアアン!?」
  
〝それにあんた、私の事を誰かに喋ったら……きざむわよ?〟
  
「カァアン!? 潰すじゃなくて、きざむとは!?」
  
〝返事は、どうしたぁああ!〟

 まるで軍曹である。
  
「カァアアアン!」
  
〝それで良いのよ。さてと……カイン君のホッペに、ちゅーしてこよぉおっとぉおお♪〟
  
「カイン……沈黙もまた、優しさか……許せ」

 どこか哀愁を帯びたカンの呟きは、誰にも聞かれることなく、部屋の空気に溶け込んで消えていくのであった。
 
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