イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

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第77話 斬られて……?

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「全員、目を覚ますカァアアァアン!」
  
 カンは、いつぞやのゲス勇者と同じく、第一王女が周囲の人間を魅了している事を見抜いた。

 そして、周囲に漂っている魅了の香りを〝風龍の戯れ(Lv.3)〟を用いて吹き飛ばしたのだった。
  
「何事です、この風は! しかも、この風は……魔力を帯びておるではありませんか! 王の御前で、無礼を働いた者は誰ですか!」
  
「ほほう、王女よ。よくこの風が、魔力を帯びておると見抜いたカァン」
  
「誰です! 姿を現しなさい!」

 周りを見回しながら、険しい顔で叫ぶ王女。
   
「ここカァン」
  
「姿を見せぬ卑怯者め! 反逆者に違いない! 探して、引っ捕えよ!」

 気づかれることなく展開が進むのを、唖然と見る空き缶。
  
「カ……カァン……」
  
「多分、普通に見えなかっただけだと思うから、気にするなよ」
「正直、空き缶が喋ると思ってないし、気付かないよね」
  
「その優しさが、逆にメンタルにダメージが入るカァアアアアン!?」

 適当に扱われていた二人から、生温かい目と同情のこもった言葉をかけられたカンは、メンタルに小さくないダメージを負いながら、アルミボディをカタカタと震わせるのであった。
  
「何をしているのです! 早く、今の声の主を探し出すのです!」
  
 第一王女ワリアが叫ぶも、誰もその場から動かないばかりか、王も含め頭を押さえ苦しそうにしていた。
  
「ぐ……我は一体何を……大臣、この者達は誰だ?」
  
「王……申し訳ございません。私も何故、このような状況なのか」

 玉座に先程まで、どっしりと構えていた王や、召喚者達を見定める様に鋭い目を向けていた大臣が、まるで記憶がないかのように困惑していた。
  
「お父様!? 大臣まで!? 何故、私の魅了が解けた!?」
  
「ふ、墓穴を掘ったな。やはり魅了であったカァン」
  
「お前は……空き缶!?」
  
 カンはかっちゃんの情により、手の平の上に乗せてもらい王女達の前まで歩み出てきたのだった。

 かっちゃんは、本当に優しい男なのであった。
  
「王よ、お主達は王女の魅了の力によって、操られておったのであろう」
  
「なんだと……大臣よ」
「王……」

 かっちゃんの手のひらに乗せられた空き缶に、今の状況を説明される王と大臣。

 その表情は、明らかに混乱している様であった。
  
「驚くのも無理はあるまい。しかし、安心せよ。我の風龍の力が宿る風により、魅了の香りは吹き飛ばしてくれたカァアアァン!」

 ビシッとドヤ顔のつもりで、そしてまるで指でも力強く差しているかのような勢いで、カンは叫んだ。
  
「「空き缶が喋るだとぉおおお!?」」
  
「もう一度そこからカァアアン!? 流石にめんどいぃいカァアァン!?」
 
『同じ事を何回も説明するのは、大変なことだけどさ。しかし、相手が変われば致し方ないことなんだよね』
  
「そこはファンタジーの世界っぽい訳で、我の存在も素直に受けれてはくれぬのカァン」
  
『魔王すら驚いていた訳だし、無理じゃない? そもそも空き缶が喋る訳ないんだから、驚かれるのは無理ないよ。まだ武具や宝具なんかに魂が宿るなら分かるけど、ただの空き缶だからね』
  
「そう言われると、ぐうの音もでないカァァン」
  
 カンにより王や大臣は勿論の事、クラス転移してきた学生達も魅了の効果が解けていた。

 その為、それまで魅了により麻痺していた動揺や恐怖を感じ始め、更には元の世界への帰還を求めて騒ぎ出し始めていた。

 まさに、玉座の間は混乱の場と化していた。
  
「落ち着くカァアァン! この際、空き缶が喋ろうと喋らまいと関係ないであろう! 大事なのは、そこの姫が魅了で多くの者を操っていたという事ではないのカァン! 王よ!」

 王に詰め寄るカンを遮るように、王女は王とカンの間に割って入る。
  
「お父様! 大臣! 空き缶が喋る筈がありません! これは、魔王の手下に違いありません!」
  
「魔王の手下か……大臣、我の剣を」
「は!」
  
「カァン!?……この流れは……まさカァン……」
  
 王は立ち上がると自身の剣を手に取り、構えをとった。まさにその姿は達人の佇まいと言うに相応しいものであった。

「おいおい、マジかよ……これどうすんだよ、空き缶」

「そうであるな……先ずは、おぬしは我を床に置いて下がるカァアァン。案ずるな我なら心配な……」

「だよな、ほれ」

「行動が早いカァアアン!? 最後まで、言わせて欲しいカァアアァン!?」

『〝自分を置いて先に逃げろ〟とか言いたかったのは分かるけど、言い切るまで待ってあげるほどの信頼関係は無いよね』

「メンタルに更にダメージカァアン!?」

『あ、ちなみにカミペディア情報だと、その王様は剣術を極めし者が名乗ることが出来る称号〝剣聖〟を得ている者らしいよ』
  
「剣王カァアァン!? 格好良すぎないか王よ!?」
  
「褒めた所で何も変わらんぞ。魔王の手下よ」

 不敵に笑う王は、最上段に剣を構えると、全身から魔力と覇気が溢れ出す。
  
「え!? 本当にその感じで、斬られちゃうカァアァン!?」
  
「奥義〝心眼次元斬〟!」
  
「カァアアアアン!?」
「ギャァアアアアア!」

 玉座の間に王の剣技による余波で、風が舞おこり、そして同時に二つの絶叫が響いた。
  
「……ん? あれ? 悲鳴が他にも聞こえたカァン? 我……斬れてなぁああカァアァン!?」
  
 王が鋭く剣を振り下ろした先は、怪しい喋る空き缶では無く、自分の娘である第一王女であった。

 そして、王の間に自分が斬られたと思い、ノリで悲鳴をあげた空き缶とは異なり、姫の本気の断末魔が響き渡ったのだった。
  
『……何してるの?』
  
「恥ずいぃいカァアァン!?」

 すぐさまカンの悲鳴が、再度響いたのだった。
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