イセカン!?〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン!〜

イチ力ハチ力

文字の大きさ
87 / 99

第87話 沈まぬ者

しおりを挟む
『誰かの戦いを止めようとするとき、当然止める側も覚悟を決めないといけないことは、分かっているね?』
  
「我が覚悟を決める前に、貴様が放り出しただろうカァアァン!?」
  
カンは、二人から同時に痛恨の一撃をその身に受けたが、まさにチート的な変態能力である〝常時発動M型〟の効果により体力が戻っていた。
  
「こいつは……ドMカン?」
  
「おぉ! 我に気付いたのか、かっちゃん! 魔王のMではないぞ! 潰されると喜ぶ系のMの方カァアァン!」
  
「……自分で、それ言っちゃうんだね……」
  
「蜜柑! 離れるでないカァアァン! これは、要らぬ争いを避けるために、こう言うしかなかったのカァアァン!?」 
  
「……」 
  
「葉桜ぁああ! 見なかった事にするなぁああ! 何か言うのが、むしろここでは優しさであろうカァアァン!? 無言が一番惨いと、知っての事カァアァン!」
  
 三人は、喋る空き缶の突然のカミングアウトにより、完全にドン引きしていた。

 そしてそれは、黒女神に精神侵食されていた葉桜さえも、ドン引きする程だった。

 よっぽど空き缶がMだと言うのは、精神攻撃になったのだろう。

 葉桜のその様子に、かっちゃんが気付くと、カンに大声で指示を飛ばす。
  
「葉桜の心が揺れている? ドMカン! 葉桜の心を、もっと揺さぶれ!」
  
「何か釈然としないのだカァン?」
  
「ドMカンちゃん! 何でここにいるかは、敢えて聞かないから、葉桜君をお願い!」
  
「蜜柑でさえも、ドMを我につけてしまうのカァン……しかし、揺さぶれて言われてものぉ。一体、何をすれば良いのカァン?」

 特に狙って葉桜に精神攻撃を与えた認識がないカンには、かっちゃんと蜜柑の言葉に対する行動が取れないでいた。
  
「ドMカンの変態発言で、葉桜がドン引きした事で心が揺さぶられたんだ! そっち路線で攻めてみてくれ!」
  
「どんどんシリアスが遠のくが、本当に良いのカァン?」

 かなり場の雰囲気を気にするカンに対して、かっちゃんも蜜柑も力強く頷いた。

『まぁ、カン以外の三人にとっては、この場のシリアスが逃げたとしても、この危機的状況を脱する方が優先だよね』

「かっちゃん達が良いと言うのであれば……ならば、仕方あるまいカァン。葉桜よ、我を見るのカァン」
  
「……」
  
 カンの問いかけに、葉桜は目線だけを向けた。

「見たな? それでは……我を踏むのカァアァン! 力の限りぃいいい! めきべこっと音がするまでカンモォオオオオン!」
  
「「うわぁあ……」」
  
『気持ち悪……』

「……」
  
「さぁ! 遠慮せずに! 我が、お前を全身で受け止めてやろぉおおではないカァアァン!」
  
「…………ひぃ!?」

 カンの執拗な変態的な言動に、葉桜は僅かに恐怖の声を漏らした。
  
「葉桜の顔が、完全にガチ引きしているぞ! 今だ! 〝峰打極限超次元斬〟!」
  
 そして、かっちゃんの放った剣尖が葉桜を捉えたのだった。
  
「……そんなに嫌がることカァン?」

 若干の憂いを帯びたカンの呟きが、誰にも聞かれる事なく消えていくのであった。
  
 カンの気持ち悪い叫び声に葉桜がガチ引きした瞬間に、かっちゃんは召喚国の王より直々に伝授された〝奥義〟〝次元斬〟を更に昇華した〝極限超次元斬〟を放った。

 そしてそれは、葉桜を必要以上に傷つけないように、峰打で放たれており、葉桜はダメージを負ったものの無事であった。
  
「う……阿木君……すまない……僕は……」
  
「何も言うな。元の世界に帰ったら、殴り合いでも何でもしてやる。取り敢えず、今はクソッタレな駄女神をぶった切ろうぜ」
  
「……我を目の前にして、全力でスルーするでないカァン。今の結果の大部分の功績は、我と言って過言ではないのカァン」
  
「ドMな空き缶の叫び声で葉桜君に隙が出来たお陰で、かっちゃんの技が決まったとか、正直黒歴史として改竄したいところだよねぇ」
  
「蜜柑……少し見ない間に辛辣さに磨きがかかったカァアン」

 カンのメンタルに、蜜柑がダメージを与えている時、全員の頭に直接響いてくるかの様に、強制的に声が聞こえていた。
  
〝あら、正気に戻っちゃったの。つまんないわねぇ、もっとドロドロな感じが見たかったのにぃ〟
  
「おぬしは……まさカァン」
  
 声が聞こえてくる方向には、玉座に優雅に腰掛け黒いドレスを着た上に、禍々しいオーラを纏った美女が座っていた。
  
「黒女神カァン!」
  
 "誰の名前が黒女神カァンよ!? 喧嘩売ってんの!"
  
「え? カァンはおぬしの名前と言う意味で叫んだわけではなくてだな」
  
〝私は、女神クローズよ!〟
  
「黒が名前なのは、ひねりがないカァン。カァンとクローズ、似ているといえば似ていると言う事で、結果オーライではないカァン」
  
〝何処が近い名前なのよ! もういいわ……誰がこの場に送り込んできたか、知らないけど。流石に喋る空き缶じゃ、この場にいるには雑魚すぎよ。そして、他の三人もね!〟

 女神クローズが腕を天へと掲げると、カン達がいる地面に異変が起きた。
  
「なんだ!? 足元が!?」
「かっちゃん! 床が沼みたいになってる!」
「しまった! 僕としたことが!」
  
〝ふふふ、さっさと沈んでしまうことね! アッハッハッハッハッハ?〟
  
 女神クローズは、何かに気付き高笑いを止めた。

 そして、視線に先にはアイツがいたのだった。
  
「おいおい、我を忘れてもらっては困るカァン。この、ちょっと浮くことの出来る空き缶をカァアァン!」
  
 ただ一本の空き缶が、女神の術から逃れ、そして堂々と存在をそこに示すように叫ぶのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...