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第四羽 レベルアップ
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「はぁああぁぁ……うん、とりあえずそこそこ動けるほどには、レベルが上がったみたいだな。あくまで、そこそこなんだが」
大きく息を吐いた陽士郎は、掌を何度か握り直しながら、一人呟く。
「さて……岳弥の兄貴とあの子達は、ちゃんと弔ってやらないとな」
地面に散らばっていた施設の子供達の顔が映る水晶を拾い上げ、最後に岳弥の水晶を拾い上げた。
「あぁ、この恨みと絶望はお前のモノだよ。他人の命の為に、そこまで自身の魂を黒く染める事が出来たお前は、きっと誰よりも優しい人間だったのだろう……だからこそ、これからお前の瞳で見る事に、幸福などありはしない。お前の魂の黒色が、濃くなればなるほどに、俺の力も引き出せるのだから」
まるで誰かに説明するかのように呟く陽士郎は、左手の人差し指を立てると、目の前で円を描くように動かした。
「〝眩しすぎるがゆえに 見ることは叶わない〟」
人の頭部ほどの大きさの光球が、陽士郎の言葉とともに円を描いた空間に現れると、水晶を持っていた右手を、光球の中へと突っ込んだ。そして、一秒も経たず手を光球から引き抜くと、その手には既に水晶は全てなくなっていた。
「しかし、誤算はもう一つの心臓を喰っても、その持ち主の知り得た情報までも得られるわけではないって事だな。お前のもつこの世界の知識、情報を俺が得られているのは、あくまで〝陽士郎〟と成ったからだったか」
手の平で額を覆い、天を仰ぐ陽士郎だったが、その姿とは対照的に、口元には笑みを作っていた。
「岳弥の兄貴がいなくなったんだ。すぐにでも、此処は屑共の巣窟に戻るだろう。狩りをしながら、外の情報を得ることにすればいいさ。お前が大嫌いな屑共が、この街にまた集まってくるんだぞ? そうだなぁ、そうだよなぁ、腹が立つよなぁ」
そう問いかける陽士郎の顔は、言葉とは裏腹に、実に良い笑顔だった。
「それでは、4が直接率いた小隊が、君以外を残して小動物に殺され、4も音信不通であると言う事だね」
十二畳ほどの部屋に、重厚な机と椅子があり、堂々と深く座っている灰色の制服を着た少年が、〝十二支〟の〝1〟であった。
服と同じ灰色の髪をかきあげながら、目の前の隊員の表情をじっとりと見つめた。
。
「はい! 異常事態が発生し、4様への通信も繋がらないことから、即時撤退を判断いたしました!」
あの街から一人で撤退した白乃 歩柚は、都内某所に存在する十二子《ダース》本部にて、尋問官である〝1〟に、自身が見たことを報告していた。
「反乱分子粛清部隊〝ピエロ〟が、小隊であれ〝4〟が自ら出向いている中、今回が初任務であった君以外の隊員が〝言葉を話す兎〟に首を刎ねられ死亡か……この部屋に居る私を目の前にして、新人隊員が虚偽の報告など出来はしないと分かっていても、にわかには信じ難いね」
別に何か拷問などを受けているわけではないが、歩柚の額には脂汗が浮かび、声は出さないように我慢しているが、今にも吐きそうなほどに体調が優れなかった。
それは、〝言葉を話す兎〟と出会ったショックと言うことではなく、尋問官である〝1〟の部屋に足を踏み入れた瞬間から、突如として体調異常に襲われたのである。
「でもまぁ、事実であれば受け入れるしかないね。君の今後の処遇については、追って連絡があるから、それまでは〝無印〟として業務を行うようにね。もういいよ、ここから出て行っても」
「承知いたしました! 失礼いたします!」
決して慌てる事なく、回れ右をした歩柚は部屋を後にしたのだった。
「何が……受け入れるしかない……だよぉおおお! ふざけるなぁああああ!」
机上にあるもの全てを感情のままに払いのけ、それでも気が収まらない1は、絶叫と言っても過言ではないほどの大声を張り上げていた。
灰色の髪は乱れ、瞳からは涙も溢れており、見た目の幼さも重なり、その姿はまるで親を亡くした子供の様だった。
「反乱分子の屑共を、捻り殺すだけの簡単なお仕事だって……言ってたのに!」
「……11に、どうやって伝えればいいのさ……」
天井を仰ぎ見る1の涙は、未だ止まらない。4が任務から帰還する事なく、新入りの部下のみが帰ってきた現状は、間違いなく4の命は望めないと結論づける他なかった。
そしてその判断は、1以外の十二支の面々も変わることはない。
だからこそ、1は11を慮ったのだ。
まるで黙祷するかのように瞳を閉じまま五分程が経った頃、部屋のドアがノックされた。
「藤極です。11様が、お越しになっております」
秘書官である藤獄は、主人である1の返事を扉の前で待っていた。
数秒待っても返事がないが、珍しいことでもない為、いつも通りに黙って待つ藤獄であったが、この時ばかりは早く入室の許可が欲しかった。
既に背中は汗が酷く、額にも脂汗が滲んでいたが、その原因がすぐ背後に立っている男だったからだ。
部屋の中からの返事が来るのを、静かに待っているのが不思議なほどに、男が纏う怒気と殺気は尋常ではなかった。
十秒、二十秒と沈黙は続き、一分を経過しようとした時、藤獄の耳に待望の声が聞こえた。
「どうぞ」
たった一言のそれが、藤獄の精神を救ったのだった。
そして、藤獄が扉を開け、11と共に入室すると、そこから彼女の記憶は暫くなくなることになる。
1と11が、互いに向かい合う形となった瞬間、彼女が耐え切れる限界を超える威圧に襲われたからだった。
「……他部署の秘書官が耐え切れないほどの威圧を出すのは、感心しないけど?」
「それは、お前も同じだろう」
間違いなく言えるのは、藤獄秘書官が気の毒であるということである。
大きく息を吐いた陽士郎は、掌を何度か握り直しながら、一人呟く。
「さて……岳弥の兄貴とあの子達は、ちゃんと弔ってやらないとな」
地面に散らばっていた施設の子供達の顔が映る水晶を拾い上げ、最後に岳弥の水晶を拾い上げた。
「あぁ、この恨みと絶望はお前のモノだよ。他人の命の為に、そこまで自身の魂を黒く染める事が出来たお前は、きっと誰よりも優しい人間だったのだろう……だからこそ、これからお前の瞳で見る事に、幸福などありはしない。お前の魂の黒色が、濃くなればなるほどに、俺の力も引き出せるのだから」
まるで誰かに説明するかのように呟く陽士郎は、左手の人差し指を立てると、目の前で円を描くように動かした。
「〝眩しすぎるがゆえに 見ることは叶わない〟」
人の頭部ほどの大きさの光球が、陽士郎の言葉とともに円を描いた空間に現れると、水晶を持っていた右手を、光球の中へと突っ込んだ。そして、一秒も経たず手を光球から引き抜くと、その手には既に水晶は全てなくなっていた。
「しかし、誤算はもう一つの心臓を喰っても、その持ち主の知り得た情報までも得られるわけではないって事だな。お前のもつこの世界の知識、情報を俺が得られているのは、あくまで〝陽士郎〟と成ったからだったか」
手の平で額を覆い、天を仰ぐ陽士郎だったが、その姿とは対照的に、口元には笑みを作っていた。
「岳弥の兄貴がいなくなったんだ。すぐにでも、此処は屑共の巣窟に戻るだろう。狩りをしながら、外の情報を得ることにすればいいさ。お前が大嫌いな屑共が、この街にまた集まってくるんだぞ? そうだなぁ、そうだよなぁ、腹が立つよなぁ」
そう問いかける陽士郎の顔は、言葉とは裏腹に、実に良い笑顔だった。
「それでは、4が直接率いた小隊が、君以外を残して小動物に殺され、4も音信不通であると言う事だね」
十二畳ほどの部屋に、重厚な机と椅子があり、堂々と深く座っている灰色の制服を着た少年が、〝十二支〟の〝1〟であった。
服と同じ灰色の髪をかきあげながら、目の前の隊員の表情をじっとりと見つめた。
。
「はい! 異常事態が発生し、4様への通信も繋がらないことから、即時撤退を判断いたしました!」
あの街から一人で撤退した白乃 歩柚は、都内某所に存在する十二子《ダース》本部にて、尋問官である〝1〟に、自身が見たことを報告していた。
「反乱分子粛清部隊〝ピエロ〟が、小隊であれ〝4〟が自ら出向いている中、今回が初任務であった君以外の隊員が〝言葉を話す兎〟に首を刎ねられ死亡か……この部屋に居る私を目の前にして、新人隊員が虚偽の報告など出来はしないと分かっていても、にわかには信じ難いね」
別に何か拷問などを受けているわけではないが、歩柚の額には脂汗が浮かび、声は出さないように我慢しているが、今にも吐きそうなほどに体調が優れなかった。
それは、〝言葉を話す兎〟と出会ったショックと言うことではなく、尋問官である〝1〟の部屋に足を踏み入れた瞬間から、突如として体調異常に襲われたのである。
「でもまぁ、事実であれば受け入れるしかないね。君の今後の処遇については、追って連絡があるから、それまでは〝無印〟として業務を行うようにね。もういいよ、ここから出て行っても」
「承知いたしました! 失礼いたします!」
決して慌てる事なく、回れ右をした歩柚は部屋を後にしたのだった。
「何が……受け入れるしかない……だよぉおおお! ふざけるなぁああああ!」
机上にあるもの全てを感情のままに払いのけ、それでも気が収まらない1は、絶叫と言っても過言ではないほどの大声を張り上げていた。
灰色の髪は乱れ、瞳からは涙も溢れており、見た目の幼さも重なり、その姿はまるで親を亡くした子供の様だった。
「反乱分子の屑共を、捻り殺すだけの簡単なお仕事だって……言ってたのに!」
「……11に、どうやって伝えればいいのさ……」
天井を仰ぎ見る1の涙は、未だ止まらない。4が任務から帰還する事なく、新入りの部下のみが帰ってきた現状は、間違いなく4の命は望めないと結論づける他なかった。
そしてその判断は、1以外の十二支の面々も変わることはない。
だからこそ、1は11を慮ったのだ。
まるで黙祷するかのように瞳を閉じまま五分程が経った頃、部屋のドアがノックされた。
「藤極です。11様が、お越しになっております」
秘書官である藤獄は、主人である1の返事を扉の前で待っていた。
数秒待っても返事がないが、珍しいことでもない為、いつも通りに黙って待つ藤獄であったが、この時ばかりは早く入室の許可が欲しかった。
既に背中は汗が酷く、額にも脂汗が滲んでいたが、その原因がすぐ背後に立っている男だったからだ。
部屋の中からの返事が来るのを、静かに待っているのが不思議なほどに、男が纏う怒気と殺気は尋常ではなかった。
十秒、二十秒と沈黙は続き、一分を経過しようとした時、藤獄の耳に待望の声が聞こえた。
「どうぞ」
たった一言のそれが、藤獄の精神を救ったのだった。
そして、藤獄が扉を開け、11と共に入室すると、そこから彼女の記憶は暫くなくなることになる。
1と11が、互いに向かい合う形となった瞬間、彼女が耐え切れる限界を超える威圧に襲われたからだった。
「……他部署の秘書官が耐え切れないほどの威圧を出すのは、感心しないけど?」
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