神運営と魔王様〜ゲームのバグは魔王様!? ここが何処であろうと、我は魔王なのである!〜

イチ力ハチ力

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夢現つ

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「お! 上手く躱すね!」

「当たり前だ。 躱さなければ、命が無いだろう」

 ブレイブの剣戟を多少の傷を負いながらも、躱し続けていると不意に剣戟が止んだ。そして、ブレイブは俺に向かって嗤っていた。

「この世界じゃ、僕も勇者だからね。こんな事も出来ちゃうのさ! 『勇者覚醒』『聖光融合』『付与』『蒼天の剣』!」

 ブレイブが叫ぶと、爆発的に奴の魔力が増大した。更に手に持つ剣が、黄金色の光を放ち俺の身体にまで振動を伝えさせるほど大気を剣気で揺らしていた。

「因みに説明しておくと、コレはこのゲームの仕様だから、異常なステータス上昇とかで運営からお叱りとか受けないからね。まぁ、君が同じ事をしたら速攻異常なステータスとかを検知されて不正ユーザー認定されると思うけどね。あぁ、それはそれで面白そうだ。ほら、どうぞぉ? 魔力解放しちゃいなよ、そしたらスクショ撮って上げるから。そしたら、そのままチーター認定だね、あっはっはっは!」

「何やら、ご機嫌のようだな。そんなに嬉しいことでもあったのか?」

 矢鱈と饒舌に話すブレイブに対して、俺は話を続けるように尋ねた。その間に俺は、拳に魔力を収束していった。どの程度で奴の言う『異常なステータス上昇』とかになるか分からない為、先ずは攻撃部位に魔力を収束させることにしたのだ。

「ふふふ、そうだね。君のその魔力の部分収束を待ってあげるくらいにはご機嫌かな。だってそうだろう? 今度は僕が『勇者』で、君が『魔王』だよ? しかも、お互いこの世界に閉じ込められている身だろう? こんな楽しい遊び相手は、ここにはいないからね」

 俺には帰還の術式がある為、この世界に閉じ込められている訳じゃ無いが、どうやら奴の認識では俺、この世界から出られないと思っているらしい。

「俺は、特にお前と遊びたいと思っていないがな。既に、先約がいる」

「さっきの子の事だね。君に似て、良い魂の輝きだったよ。アレなら、遠く無い未来に限界を突破するだろうね。それが、あの子にとって良いかどうかは別にしてさ」

「どういうことだ」

「教えると思っているのかい? 教えるわけ無いだろう! あっはっはっは!」

 ブレイブは、涙を流さんばかりに高笑いをしていた。

「そうだろうな。お前なら・・・・、きっとそう言うだろうな」

「あっはっは……へぇ、僕の事を思い出したのかい?」

 高笑いを止めたブレイブは、俺に感情の読み取れない目を向けてくる。

「知らんな。だが、そんな気がしただけだ」

「そっか……それはそれでやっぱり寂しいな。一万年も亜空間でお仕置きを受けた身としてはさ」

「一万年だと? ……お前は何者だ」

 ブレイブは俺の問いに答える事なく、気のせいか寂しい表情を作っていた。何に対してそんな表情を作ったのか、俺には理解する事が出来なかった。そんな俺の様子を察したのか、ブレイブは直ぐに先程迄の不遜で自信に満ちた表情へと戻っていた。

「ここで再戦・・しても良いんだけど、やっぱり君には『魔王』として、この世界の敵になってもらう事にしようかな。あの時と逆だけどね、ふふふ。そして最後に君を、僕が討つというわけさ。今度は僕が、きっちり勝たせてもらうよ」

「何をするつもりだ」

 ブレイブは、黄金に輝く剣を最上段に掲げた。そして同時に、見覚えのある神気を剣に上乗せし始めた。

「お前は……神か」

「ふふ、違うね。この世界を救う『勇者様』だよ。さぁ『魔王』よ、今から僕は今から全力でこの『神殺』を君に向かって振り下ろす。小細工は無しに、唯々真っ直ぐ振り下ろすよ。これほどの神気を上乗せした剣戟の威力は、君なら想像に容易いだろう」

「それを俺に事前に告げて、どうするつもりだ」

「君は知らないだろうけどね、丁度君の真っ直ぐ後ろの方角には、この世界で言うところのNPCの村があるんだよ」

 俺は今の言葉にある村を思い浮かべたが、表には焦りを出すことなく無表情を装った。

普通は・・・、冒険者の攻撃がそんなところまで届くような射程は設定されてないし、例え届いても冒険者の攻撃はNPCを傷付けることは出来ないんだよね。でも、君なら分かるよね? この斬撃は『届くし、殺せる』よ。別に君は、避けたら良いだけなんだけどさ。極悪非道な『魔王様』なら、NPCが死んだ所で関係ないでしょ? それにその村だって冒険者が殆ど行かない様な、外れにあるような村だしね。殲滅したって、冒険者は誰も困らないしさ」

 そこまで饒舌にさも楽しげに話していると、更に掲げた剣に神気が上乗せされていく。

「さぁ、どうする? 『魔王様』?」

 そして、次の瞬間ブレイブは剣を振り下ろした。

「そうだよね、君は絶対そうするよ。本物の『勇者』だったものね」

 俺に向かって、巨大な神気の塊と言っていい斬撃が飛んできた。俺は魔力と闘気を全解放し、更に自身の身体に自分の魔力の性質を変化させ、魔力と同じ色の銀色の鎧を纏った。そして、拳の中に収束させていた魔力を用いて、迫り来る斬撃を迎え討つ想像を思い浮かべながら、魔力に形状を与えていった。

「『天叢雲アメノムラクモ』」

 そして、俺は奴の『神殺』から放たれた斬撃に、自らの魔力の塊である『天叢雲アメノムラクモ』の剣戟を重ねたのだった。



「『神剣創造』で作った剣が『天叢雲アメノムラクモ』か……つくづく君は『人』を捨てられないんだね」

 ブレイブは魔力を全解放した状態の魔王様の姿をスクショに収め、既に運営に対して魔王様の名前と共に問い合わせとして画像を送っていた。更にカルマに今の画像と動画を送り、『魔王』というプレイヤーが限りなく不正プレイヤーである可能性が高い事を、自分のギルドメンバーに伝えるように指示を出していた。

「世界を救った勇者が、今度は世界を脅かす魔王になるなんて、全く面白い冗談だよね」

 そして魔王様の大気を振動させる程の咆哮が響きわたると、魔王様を中心に轟音と共に眩い光に包まれ、次の瞬間大爆発を起こした。

「楽しくなってきたね。あの妹ちゃんは、これからどうするかな? うちのギルドに入れて、兄妹対決ってのも面白そうだ。ふふふ、あはははははは!」

 ブレイブは跡形もなく消し飛んだ爆心地を背に、街へとゆっくりと歩いて戻っていくのであった。その顔は、とても『勇者』とは思えない程に歪んだ嗤い顔であった。



「ようこそおいで下さいました、勇者様。魔王を倒し、この世界をお救いください」

 俺の目の前には、何処ぞの外国のお姫様みたいな大層綺麗な女性が立っていた。その後ろには、神官と騎士と思われる人達が並んでいた。

「へぇ、新イベのデモプレイかな? 流石、運営会社に入った甲斐があったな」

 俺はさっきの親睦会で笹本と一緒に、未実装の武器やアイテムを体験し楽しんでいた。その際に、運営からメールでアイテムボックスにレアアイテムを送ったと説明が来ていた。メールには、新入社員の中でも更に抽選で当たった者にだけ、現在検討中のアイテムである『転送球』を送ったと言う。他の当選しなかった者にも後で説明するが、今はサプライズとして周りには黙って使用する様にと指示があった為、笹本には俺だけ悪いなと思いながらもワクワクしながら使用したのだ。

「勇者様? 言葉は通じておりますか?」

「ん? 勿論大丈夫だ。それで俺は、魔王でも倒したら良いのか?」

「え!? 何故、魔王の存在を知っていらっしゃるのですか! 失礼ながら勇者様は、異世界から来られたのですよね?」

 俺はさっさとチュートリアル的なイベントは進めたかった為、やけに目の前のお姫様が驚き、神官や騎士たちも騒めいていたのが気になったが、話を進める様に促した。

「異世界から召喚された設定って事ね……あぁ、俺は異世界から来た者だ。だが、魔王って奴は何処の世界でも迷惑をかけるもんで、大概困った時は魔王が悪さしてるもんなのさ。その辺は良いからさ、話を進めてくれる?」

「あ、はい! これより王と謁見して頂きます。そこでこの度の召喚についてや、この世界の現状を詳しく説明させて頂きます。その為、先ずは勇者様の服をこちらの世界の正装へ着替えて頂きます。そこの侍女に案内させますので、お願い致します」

「着替える? ヤケにチュートリアルのストーリーの癖に、変なところに拘るな。別に全身鎧プレートアーマーっでも良いじゃないか……って、俺の装備がスーツに!? しかもガチでこのスーツって、俺のじゃねぇか!?」

 てっきりさっきまでの自分の装備がそのまま最初から使えると思ったが、そうではないらしかった。しかも、何故か出社した時のスーツを装備している上に、メイドに着替える場所へと案内される際に窓ガラスに映る自分を見たときに、背筋が寒くなった。


 窓ガラスに写る顔は、『俺』だったのだ。


『the Creation Online』でアバターを作る際に、面倒で顔は殆ど変えなかったが簡単に設定出来る髪の色や目の色は変えていたし、肌の色も変えていたはずだった。その筈だったのに、目の前には全て現実世界の『俺』のままだった。そして、スーツの腕を捲ると子供の頃に妹を犬から守ろうとした際に噛まれた跡もしっかり付いていた。

「おいおい……何のホラーだよ……夢か?」

「勇者様? どうかされましたか?」

 俺を着替えの部屋へと案内していたメイドが、心配そうに俺を見ていた。

「いや……なぁ、歩きながらで良いんだが、一つ聞いて良いか?」

「私にお応えできる事であれば、何なりと」

「こう言う事は、結構あったりするのか?」

「こう言う事とは、『勇者召喚』の事でしょうか?」

「あぁ、その『勇者召喚』だ」

「今回が、初めてだと聞いております。大神官様が神託を受け、今回の事になったと。なにせ初めての事ですから、国中で大騒ぎになっておりますよ」

 メイドは微笑みながら、到着した部屋の扉を開けた。俺はそのメイドの言葉に完全に血の気が引いていた。俺は夢であってくれと言う思いで、メイドに着替えさせられている時に、爪を立てながら拳を握りこんだ。すぐに痛みが走ったが、それを認めなくてどんどんと握る強さを増していった。

「血? え!? 勇者様! お手から血が!」

「血が流れ出る……か……はぁ……大丈夫だ。済まないが、布か何かあるか?」

「いえ、大丈夫です。『治癒ヒール』『浄化クリーン』」

 メイドが俺の手を握りながら『治癒ヒール』と唱えると傷が消えていき、血で汚れた掌やズボンが綺麗になった。

「そう言う世界なのか……マジか……実は新作のデモプレイのなりきりモードとか、ハードモードとかじゃなかったりしないのか?」

 VRゲームで、自分の身体データが此処まで詳細に再現されるなんて聞いた事はなかった。しかし、もしかしたらという一縷の希望を抱いていた俺だったが、王から魔王討伐の使命を聞かされ此処から数ヶ月戦闘訓練をしながら過ごしているうちに、此処が元いた世界では無いと嫌でも理解するしかなかった。

 そして俺は、魔王討伐の旅にでる前夜に、王城のバルコニーから夜空を見上げていた。

「……必ず帰るぞ……宇海ウミ……美宇宙ミソラ

 俺は、決して諦めない決意を胸に抱きながら、満天の星空に向かって呟いたのだった。



「ウミとミソラって誰かの名前かな、お母さん」

 私は、ベッドで横になる目を全く覚まさない魔王様を見ていた。しかし時折魔王様は、うわごとを呟いていた。

「そうかしらね。頭の手拭い交換して、アリン」

「うん、もう七日目だね……」

「そうね……」

 私とお母さんは、ベッドで横になる魔王様を見ながら、魔王様の目覚めるときがくる事を祈るのだった。
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