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1章 出会い(ダイジェスト版)

双子

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ようやく主人公視点。
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 変態吸血鬼から逃れて、私は一目散に教室に戻った。
 しかし、すぐに教室に入ることは許されなかった。
 扉の前に人集りが出来ていたのである。
 その光景にあたしは嫌な予感がした。

 あたしはそっと扉に近づき、隙間から教室の中を伺った。

 皆の視線の先、教室の中心に見えた光景にあたしはあたしの予感が当たりだったことを知る。嬉しくないけれど。

 教室の中心に黄土の双子と聖さんの姿があった。
 なにをしているのか三人とも実に楽しそうに笑顔である。
 双子が二人が揃っていることに首をひねる。
 片割れが先ほど天城さんを連れて行ったはずなのに、天城さんの姿はない。
 呼びにきたであろう双子はきちんと揃っているのはどういうことか。
 泣いていたはずの彼女を放ってこんなところで聖さん相手をしているのか?
 相変わらず、天城さんを大切にしていないようだ。
 ゲーム内なら、お話だし仕方ないかと思ったが、今は現実だ。
 彼らの薄情ぶりに、思わず眉根が寄るのを感じる。

 あたしが人ごみの中で不快感を感じているなどもちろん知らない双子たちは、聖さんの座る席の前でぐるぐると互いの位置を変えながらなぜか回っている。
 一体何をしているのか、首を捻っていると、何週かしたあと、ほぼ同時に手を広げた。

「「さあ、どっちが翔瑠でしょう?」」
「え~、んと。…あ、わかった。左!」
「「ぶっぶー、残念でしたぁ!」」
「え~!うっそ!また?」

 甘ったるい声で膨れる聖さんに笑顔の黄土の双子がきゃっきゃと笑う。
 おいおい双子よ。今のは正解でしょ?なぜ嘘を吐いた。

 不可解な双子の行動に、首をさらに捻っていると、一瞬双子の片割れの視線があたしを見た。
 交錯する視線に慌てて再び隠れる。うっわ。まさか見つかってないよね。
 どきどきしながら周囲を確認したところで、自分の思い違いにはたりと気付く。自意識過剰もいいところだ。
 そもそもあたしの周囲にも見物人が大勢いるではないか。
 双子にとってギャラリーの一人とたまたま目があっただけだ。
 なのに、むしろ隠れるような行動をとったことで目立ってしまったかもしれない。
 あたしはそっともう一度人の陰に隠れるように教室を伺う。

(うっ!)

 なぜか双子の片割れの視線がこちらに向いたままだ。
 いや、落ち着け。あたしの周りには女子たちが大勢いる。
 可愛い娘もたくさんいるし、おそらく双子のファンクラブも混じっている。
 彼女たちの中に知り合いがいたとか、そんな話だ、うん。
 だって、あたし自身彼らと知り合いでもなんでもない。
 人垣の隙間から覗いているだけで、知られているわけがない、という安心感から油断してしまったのだと思う。

「もう一回!もう一度だけチャンス、ね?」
「もう、利音ちゃんたら仕方ないないあ。じゃあ、もう一回だけね!
 じゃあ…、あれ?どうかした?」

 なにやら盛り上がっていたらしい双子のもう一人の片割れと聖さんが一点を見たまま動かない片割れにようやく気付いたように声をかける。
 だが、片割れは視線をこちらに向けたまま、なので二人の視線があたしのいる人垣に集中した。
 瞬間聖さんの視線が交差するのを感じた瞬間逃げ出そうとしたが、聖さんが声をかけてくるほうが早かった。

「あ、環ちゃん!どこ行っていたの!」

 死亡フラグに巻き込まれるところへ行ってきました。
 とは言えず、あたしはしぶしぶ隠れるのをあきらめて、姿を現す。
 名前まで呼ばれて逃げるわけにもいかなかった。悪目立ちしてしまう。
 だが、せめてもの抵抗として近づかない。
 だって、教室中が彼らに釘付けなのだ。
 本人たちは目立っているのを気付いていないのか、はたまた慣れ切ってしまっているのか。
 彼女たちはまったく周りの視線を気にしていないが、あたしはとてもではないがそんな場所に行きたくない。
 しかし、相変わらずあたしの気持ちを見事に無視してくれる聖さんはあたしに近づき、無理やり手を取って連れて行こうとする。

「ねえ、今ね。下級生の子と友達になったの」

 ほら今朝見たでしょ?かわいい双子、とにこやかにあたしを引っ張った。
 あたしたちに注がれる視線が痛いのなんの!何の罰ゲームだ!これは!
 だがもうすぐ午後の授業が始まる時間だ。
 これからどこかに逃げて授業に間に合わないのは本末転倒だ。
 早く予鈴が鳴ることを祈りつつ、抵抗せず、あたしは聖さんに連れられるまま双子に近づく。

「「あれ?利音ちゃん。その娘、誰?」」

 おいおい、黄土の双子よ。
 いくら何でも曲がりなりにも年上に対してその娘呼ばわりかよ?
 まあ、月下騎士会相手にそんなことは言えないので黙った。
 うん、本当に早く予鈴なれ!

「あ、この娘はね、多岐環ちゃん!私のルームメイトで親友よ」

 鐘の音を待ち望むあたしを無視して聖さんの話は進む。
 …もはや突っ込むのも無駄なのかな?
 なぜお前はあたしの同意なしにあたしの個人情報を他人に漏らす。
 そしてだれが親友だ!親友ならあたしの気持ちを汲んで、こんな表舞台に引きずり出すようなまねはしないぞ!

「へえ?利音ちゃんの親友?」

 そう言って双子はあたしを頭の頂辺から足元まで観察するようにな失礼な視線を向けてくる。
 いかにも、こいつが?って目だ。
 …わかってんだよ、地味だって言いたいんだろ?
 それでよいから別になにを思われてもよいんだけどさ。
 …死亡フラグに巻き込まなければ。

「じゃあさ、一つテストしよう」
「は?」

 一瞬何を言われているかわからなかった。
 だがあたしの戸惑いを無視して双子はあたしの前に立った。
 もともと女子としては大きいあたしと男子としては小さい双子ではほとんど視線が変わらない。

「利音ちゃんと僕らはお友達だから、その親友と言う君をテストする権利があるのです」
「だから、今からテストします!」

 いや、わけわからんだろ?それ?
 なんで友達の親友だからといってお前らにテストされなければならない?

「あ、ちょっと!二人とも!テストなんて!友達を試すようなことは良くないわ!」

 おお、珍しく聖さんがまともなことを言っている。
 もっと言ってやってくれ!

「利音ちゃん大丈夫だよ。さっきのゲームやるだけだから」
「え?あれを?…じゃあ、いっか」

 …おい。何の話だか知らないが、簡単に丸め込まれすぎだろう。
 やはり使えないな!聖さんは!

「テストは簡単だよ?今から目を閉じてもらって10秒後に僕らのどちらが、どちらなのか当てて見せて?」
「当てられたら、僕らは君の事を友達だと認めてあげる」

 …なにそれ。それって、なんか友達うんぬん関係あるの?
 別に友達なんて認定してほしくないんですけど?
 そもそも、それって確か聖さんとのイベントでの選択肢だよね?
 ゲームの中でも双子はコトあるごとにこんな風に互いを入れ替えて、相手に当てさせるというゲームを行う。
 これは、実は彼らなりの護衛術と言うか、相手を見極める作戦なのだが、一見あほなゲームにしか見えないため、皆喜んであてっこゲームを行うのだ。
 だが、あたしはまったく喜べないし、なぜそれをしなくちゃならない。
 先ほどの会話からすでに聖さんは何度かゲームをした後のようだ。
 さてどの位正解したのか失敗したのか、後でしっかり聞いておこう。

「じゃあ、利音ちゃん。目隠しお願い」
「おっけー」
「っ!」

 あたしが考え込んでいる間に、話が進んでいたみたいで、聖さんが断りもなくあたしの目を塞ぐ。
 1、2、と数える声が聞こえた。
 とんだ茶番だ、高校生になってなぜこんな遊びに付き合わなければならないのか?
 そもそもあたしは初対面のはずなのだが、双子は一度も名乗らなかった。
 学校中で彼らのことを知らない人間は存在しないため、別に必要はなかったのだが、どちらがどちらと当てるゲームをするなら、せめて事前にそれぞれ名乗るべきなんじゃないのか?
 どこまで有名人気取りなんだよ!
 自分を知らない人間なんて居ないとばかりの傍若無人さに呆れる。
 …まあ、確かに知っているけどね。
 でも一応初対面の先輩に突然名乗りもせず、ゲームを仕掛けるなんてどんな教育受けてんだ、と詰りたい。
 できないけど。ううう。ジレンマで頭が痛くなってきた時、目隠しが外された。

「さあ、どっちが統瑠?」と右の双子。
「さあ、どっちが翔瑠だ?」と左の双子。
「「さあ!どっち!」」

 ユニゾンで揃った双子の姿。
 周りの視線があたしに集まるのを感じて、胃の下あたりがきゅっと縮むのを感じた。
 ほんと勘弁してください。胃潰瘍で入院したらどうしてくれる!
 はっ!まさかの病気での死亡フラグなのか!?
 とはいえ、答えないという選択肢はあるのだろうか?
 実はここ双子攻略ではとても重要な分岐点となる。
 双子を見分けるか見分けないのかで、この後の双子攻略が可能か不可能かが決まってしまう最重要分岐点なのだ。
 普通の乙女ゲームを考えれば、双子の場合最初から見分けてくれた人に好意を抱くのだが、実はこのゲームでは異なる。
 初対面で見分けた場合、双子攻略が不可能となってしまうのだ。
 もともとこのゲームで双子が見たいのは彼らにとって都合のいい人間か、否か。
 吸血鬼の中でも双子って言うのはとっても珍しいんだけど、不吉な存在でもあるのだとか。
 かつては双子が生まれたら、後から生まれた片方は殺さないと家が滅ぶとか本気で信じられていたらしい。
 彼らの両親はそんなものは迷信と笑い飛ばしたが、黄土の一族の中には彼らの存在を危惧するものがいないわけではなかった。
 そのため、幾度となく命を狙われた弟である翔瑠が、兄である統瑠と同一であろうと努力に努力を重ねて現在の彼らの姿が作られたのだ。
 そのため二人、特に翔瑠は見分けられることを恐れている。
 そして兄である統瑠も翔瑠と常に行動するため、翔瑠のフラグがへし折れた時点で統瑠のフラグもへし折れるという寸法だ。
 もちろん仲が深まれば、今度は互いを見分けてくれないと拗ねてこれまた攻略不能になるため、非常に面倒くさい双子なのだ。

(…でも、どう答えようか?)

 二人の姿に頭が痛くなる。
 双子って確かにぱっと見、似ているんだけど、見分ける方法がないわけではない。
 彼らは同一であろうと、努力して同一に見せかけているが、たった一点、前髪の癖が弟の翔瑠の方が強いため、毛先のまとまりが二股に分かれてしまっているのだ。
 かなり注目しないとわからない程度の差なので、言われなきゃ気付かない程度の小さな差異だが間違いはない。
 なので、はっきりと右が翔瑠、左が統瑠だと分かっている。
 さっきの掛け声は思いっきりミスリードなんですね。

 ゲームではここはわざと外すか、分からないと手を上げるのがルートをつぶさないための選択肢だ。
 しかしあたしは別に彼らのルートに入りたいわけではない。
 むしろ巻き込まれないようにしたいのだが、下手に見分けて敵意でももたれたら死亡エンドに直行しそうで怖い。
 聖さんのイベントであれば分かるのに、どうして自分の選択肢ではこの知識は役に立たないのだろう?
 文句を言っても仕方がないのだが、愚痴りたくなるのは仕方ないと思う。

「「ねえ?わからない?」」

 ユニゾンでにやりと微笑まれて、少し腹が立った。
 本当に今日はどうにも気が短いようだ。
 どっちに転んでも、どうなるか分からない以上、いっそ双子を見分ける選択をしてしまおうと口を開きかけた瞬間だった。

 キーンコーンカーンコーン。

「あ、予鈴?」

 聖さんの声にはっとする。
 危ない。うっかり重要な選択を勢いに任せていってしまうところだった。

「残念だけど、続きはまた、だね?」

 とても残念そうな聖さんの言葉に、残念なのはお前の頭だ、と叫びたい。
 しかし、助かった。周りを見ればさすがに予鈴のためこちらを野次馬していた生徒たちも動き出していた。
 このままうやむやにできそうだと、思って息を吐こうとしたときだった。

「ねえ、どっち?僕は統瑠?僕は翔瑠?」

 双子の片割れ、翔瑠がまだ執拗に答えを求めてあたしに詰め寄ってきた。
 あたしは困惑した。
 チャイムがなってもゲームを継続しようとする双子の片割れの様子がおかしい。
 彼らは無邪気で言動はともかく、月下騎士会に幼い頃から所属してきているので、授業や学校の行事などの規則を破るような不良ではない。
 むしろ一般生徒たちの手本であろうとその行動は意外にまじめだ。
 予鈴が鳴ったということは本鈴まで間がないということだ。
 そもそも学年の異なる彼らの教室はここから離れているし、早々に教室に戻らなければならないはずだというのに、彼はゲームの答えを求めて動かない。
 見れば片割れの統瑠は戸惑ったような表情で片割れを見ている。
 一体なんのフラグだ?これは?
 本当にどうすればいい?ああ、本当にこんなときゲームの知識って役に立たない。
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次は吸血鬼ハンターのターン。
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