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童話パロ:シンデレラ
3(人気投票お礼一位SS)
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------------------------- 第6部分開始 -------------------------
童話パロディ企画その3。
※全てif話。物語の進行上にはまったく関係ございません。
※書きたかったからかいた、それだけです。苦情は受け付けません。
↓↓↓以下設定とかだよ。
・童話シンデレラモチーフ。世界観はファンタジー。
・独自設定ばかりで本編とは別物としてお読みください。
・シンデレラは風味。
・終わりはゲロ甘です。砂は砂丘にお捨てください。げふー。
・キャラ崩壊しているかも?気をつけてご生還ください。
・本編のネタバレ要素はありませんが、本編読後がもちろん推奨
※ 人気投票御礼企画なのでカップリングは決まってます。
あくまでもこの世界観だけのカプなので、あしからず。
問題なければ以下↓↓
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リーンゴーン
街の中心にある教会の鐘が夕刻を告げる。
季節は初夏。夕闇の迫る時間。
社交の季節真っ盛りでどこの貴族の館でも連日舞踏会が開催され、ドレス屋や宝石店が軒を連ねる商業区などでは稼ぎ時とばかりに浮き足立つ空気が流れるが、一般市民には関係のないことだ。
しかし、今日だけは違う。
今日は全国民が参加を許されたお城の舞踏会が開かれる日だ。
夕闇の迫る時間、本来であれば夕食の臭いの漂う中帰宅する人間ばかり目立つ界隈でもひどく華やいだ空気が満たし、続々と着飾った娘達が馬車に乗ってお城を目指す。
薄闇を照らす馬車の明かりが、列となって連なる様はまるで光の道のようだ。
そんな様子を高台にある家の屋根裏から眺めながら、あたしは溜息を吐いた。
……本当にご苦労なことだ。
あの道を照らすだけの明かりで一体どれだけの油が使われているというのだろう。
しかも市民など舞踏会に出るだけのドレスを新調するのにどれだけかかると思っているのか。そもそも舞踏会にでるなんて一生に一度の機会だろうに。
そんなお金があるのなら、貯金すればいいのに。
老後のために貯蓄は必要だ。
お金がないといつだって悲惨だ。今でこそ継母と姉二人と普通の生活ができているが、一時期産みの母親がなくなった直後、父の事業が破綻しかけて明日のパンにも事欠く有様になったことがある。
あの時は本当に道端の草を採って食べたりした。
流石に毒とか怖いから、城の図書館で毒草の知識だけを調べたが、所詮素人の知識。
何度と死線をくぐり抜けながらも、なんとか生き延び現在に至る。
今ではまあよい思い出になっている。…生きてるから言えることだけど。
さて、いつまでも不毛な光の道を見ているわけには行かない。
既に食事も家事も全て済んでいる。
お城で食事が出るそうだから、姉たちの夕飯のことは考えなくてもいい。
今から寝て、深夜に起きるためあたしはベッドに向かった。
深夜に返ってくる三人の家族を迎えれば、ドレスの手入れだの彼女たちの世話を焼けば、その後寝られるかどうかわからないからだ。
ベッドにゴソゴソと潜り込み、少しだけ舞踏会について思いを巡らせた。
今回の舞踏会は王子様のお相手を見つけるためのものだと聞いている。
噂ではその美貌と女癖の悪さから王妃候補に逃げられているとか。
週刊誌の立ち読みだけだから、真実かどうか知らないけど。
だが過去、一度だけ見た王子の姿を思うに、あながち間違いではないのだろうと思う。
まああんな男の隣にいるなんて、並の神経じゃやってらんないよね。
絶対負けるの分かってんだもん。
まあ、王子のお相手ということは未来の王妃なのであんまり変なの選んでもらっても困るけどね。
まあ、貴族贔屓とか極端じゃなければ誰でもいいよ、あたし的には。
その時、お腹がグ~と鳴る音がした。
あれ?…なんか、あたしお腹すいてる?
そう言えば、夕食は面倒だからそのへんにあるものをつまんだだけで済ましていたことを思い出す。
……お城で出るご飯は気になる。一体どんなのが出るんだろう。
そう言えば、香織の家のお菓子も出るって言ってたな。しかも新作とか。
うー、それだけは気になるけど、それだけのためにお城にいくのもなあ。
あんまりあそこにいい思い出ないんだよ。
以前図書館で食べられる草のことを調べていたとき、嘘を教えてきた子供とかいて本気で死にかけたし。
まあ、そのショックで顔も名前も覚えてないし、今生きてるから不問にしてるけど。
何かと死にかけそうな気がするんだよね、あそこ。
そもそも行くために必要なドレスや小物など細々したものを合わせれば到底食事の対価として見合わない。
そんなことを考えていると、またお腹が鳴った。
あたしは仕方なく、ベッドから立ち上がった。
階下の自分の城とも言える台所ですぐ食べられそうなものを探す。
…くそう、めぼしいものがないな。
あるものを見れば賞味期限の切れかけた卵と牛乳とゼラチン、砂糖、バニラビーンズ。
……なんだろう、この特定のものしかできなさそうなチョイスは。
あ、そう言えば、思い出した。
先日、香織のお母さんから隣国で人気のお菓子のレシピが手に入ったからってもらって作ってみようかと買ってた材料だ。
忘れてた、やばい。賞味期限切れる前に気がついてよかった。
時計を見れば、まだまだ舞踏会も始まらない時間。
レシピを見てもさほど難しいものでもない。
少し考えてから、あたしは材料に手を伸ばした。
お菓子制作すること四半刻ほど。
魔力を張った冷蔵庫から容器を取り出せば、冷たく見事に固まったお菓子が出てくる。
おお、なかなか美味しそうじゃないか。
プルプルしてる。
一つを取り出し、スプーンで口に運べばバニラの味のするシンプルな甘さが口の中に広がる。
お腹がすいていたため、すぐに二口目。だが三口、四口と続くうちにだんだん辛くなる。
いや、まずいわけじゃない。美味しい。レシピ通りに作ったしそれは間違いない。
だが、甘い。そう言えば、使った砂糖の量が半端なかった。
とりあえず一個分を完食したが、それ以上はもう欲しくなかった。
水を飲んで口の中の甘さを流す。ふう。
さて、意外と材料があって結局出来たお菓子は結構な量になった。
まあ、お姉様方が帰ってくれば、適当に消費してくれるか。
明日、近所に配ってもいいし。
とりあえず、蓋でもして冷蔵庫においておこうと、一つをとって蓋をかぶせた時だった。
「た、…食べ物!?」
誰もいないはずの部屋に響いた男の声にびくりとする。
驚いて振り返ろうとする前に、机に置かれたプリンを乗せたトレイをひったくられた。
驚いて、蓋をしたプリンの容器を持ったまま硬直する中、突然現れた男は無言のうちにプリンに食らいついた。
あまりの食べっぷりの良さに呆れて悲鳴を上げることすら忘れた。
男の顔は黒いフードに覆われて見えないが、大口を開けて一息にプリンを食べる。
最後の一つをぺろりと食べ終えると、ようやく落ち着いたのか男がお腹を押さえて息を吐いた。
「ふーっ!…なんとか落ち着いた。はらへりすぎて、死ぬかと思った」
あれだけあったプリンを全て食べ尽くし、立ち上がる黒いフードの男は明らかに怪しい。
だがあげそこねた悲鳴を上げるのも今更なので別の言葉を発した。
「だ、誰?どっから入ってきたの?」
戸締りはしっかりしていたはずだ。
というよりそもそもどっから入ってきた。
台所へ通じる扉はひとつしかない。
しかし開閉されたような音は一度も聞いていない。
「あ、ごめん。いやちょっとロ…いや家に帰ろうとしたら、道に迷っちゃってお腹すきすぎちゃって食べ物の匂いがしたからつい…」
男の言葉に行き倒れという言葉が浮かぶ。さほど珍しい存在ではない。
いくら蒼矢国が治安の比較的良いといってもそういう存在がいなくなったわけではない。
お腹が空き過ぎて、悪いとわかっても食べ物に飛びつきたくなる感覚は経験のないことではない。実際にそこまで追い詰められた経験があるため、男の行動を強く責められなかった。
男は両手を頭の前で合わせてペコペコ誤っている。
「ごめん。勝手に入って御免なさい。でも食堂もドコも空いてなくてさ。あ、食べた分お金払うから…」
その姿に毒を抜かれた。怪しさは拭えないがプリンを奪われたことは許してやろうと思った。あれ以上食べることも自分ではできなかったし。
「もういいです、別に。それより出て行ってください」
「あ、うん。本当にごめんね。」
ペコペコと謝りながら、扉を開けて出ていこうとする男にホッとしながら見送ると、なぜか男がくるりと振り返った。
「…あの、一つだけ聞いていい?
なんでこの街こんなに人いないの?」
男の言葉を怪訝に思う。
「今日は国中の娘を集めた舞踏会の日ですから」
旅人だろうか?蒼矢の今回の舞踏会は有名な話なのに知らないのか?
ここ数日どころかひと月前からお祭り騒ぎだったというのに。
今日は国中の未婚女性が城に呼ばれている。
しかし城に上がるのに一人でとは行かない。姉たちのようにエスコートしてくれる男性がいない場合は大抵父親や兄弟がエスコートして連れて行くことになっている。
そうなれば、男手を欠いている食堂などは閉めざるを得ない。
「ええ?!ああ、それでかあ…全然宿屋取れないし、人いないし」
がっくりと肩を落とす男にやっぱり知らなかったのかと思った。
だが、次の瞬間こちらを見て目を丸くしている。なんだ?
「確か、それって確か国中の女が呼ばれているやつじゃなかったけ?」
あれ?やっぱり、知ってる?
日付だけ知らなかっただけか。そりゃ災難だったな。
どのみち今日はおそらく地方から出てきている娘たちとその家族で宿屋はいっぱいだろう。おそらくこの男が泊まれる宿はない。
だが、泊まるところまで提供してやる義理はもちろんあたしにはない。
責任のない同情だけしてやっていると、男の不思議そうな顔が見えた。
「なんで、君はここに居るの?」
「なんでって興味ないですから」
即答すると、微妙な顔をされた。
「確か王子の花嫁探しだったよね?今回の?」
「そうですけど」
「興味ないの?お姫様になれるかもなのに」
「面倒なだけです。それにどう考えても自分が選ばれるわけないし」
「…そんなことはないと思うけど」
フードの男はそんなことを言ってくれるけど、あたしは自分を過大評価はしないのです。
背は高いけど美人じゃないし、姉たちみたいなパッと見の華やかさもない。
至って地味なのは承知だし、そんな自分が結構好きだしね。
それに、別にもてたいわけじゃないし。
今は亡き父親の事業の失敗でかつて生活が危機に瀕したとき、大人になったら自分が頑張って稼いで生活を安定させるんだと決めたのだ。
結婚なんて相手の経済力に頼る生き方は怖くてできない。
だから男なんて必要なし。
王子様なんてまた情勢が不安になればどうなるともしれない相手などもとより眼中にはない。
まあ、街の女子たちはそう思わなかったみたいだけど。あと、お義母様も。
お義母様の場合、昔っからアイドルよろしく王子を崇めてた節は見られるから、ある種一途とも言えなくないけど。
「でもさ、ちょっと位は舞踏会に興味ないの?お城にも?」
男に執拗に聞かれれば、まあ気にならないこともないのだ。
舞踏会はともかくとして、実は先日城に娘さんが侍女として上がっているという商店街のおばさんにとある噂話を聞いたのだ。
城にあるという魔導高圧洗浄機。
魔法のチカラで水に圧力をかけてその勢いで汚れを落とすという最新式の掃除道具だ。
あれがあると塀の泥汚れがすっごく綺麗に落ちるらしい。
しかも屋外だけでなく水場の汚れも取れるとか。
最新の魔道具など買える財力は我が家にはない。
だが、おばさんに我が事のように自慢されて、それがどれほどのものなのかすっごく気になっていた。
しかし、もちろん城の舞踏会に行っても掃除道具など見せてくれるはずもない。
城への興味と言えば、高圧洗浄機なるものがどんなものなのかそれだけなのだが。
「…ちょっとは興味ありますけど…」
「わかった。プリンのお礼にその願い叶えてしんぜよー!」
「え?」
突然の男の言葉に意味がわからない。
と言っている間に空気が変わったのを感じた。
どういったらいいのか、周囲の光景はまるで変わっていない。
ただ、空気だけが重く、どこか異空間を思わせるようなものに変わっていた。
それが目の前のフードの男から漂ってくるのがわかった。
「一体、何を?」
「一応これでも神様だからさ。一応受けた恩は返さなきゃなんだよね?
…それに全く、魔法使いが役に立たないから僕がこういう事する羽目になるんだよね?
執筆者もその辺考えてお話の筋考えてほしいよ」
ヘタレめ。とどこか底冷えするような目で見られ、ゾワゾワと背筋が凍った。
やばい、こいつマジやばい!
神とか自分で言っちゃってる、中二病羅漢しちゃってる!しかも手遅れ系!
精神完全に病んでるよ。
逃げなきゃと思うものの、扉は自称神様で塞がれている。
うう、絶体絶命じゃないか!若干涙目になりながらジリジリと後退していると、こちらの様子など全く気づいていないかのように、僅かに見える男の口元が笑みの形に動いた。
「じゃあさ、ちょっと飛ばすけど、着ていきたいドレスとか思い浮かべてくれる?
僕ってばこういうことセンスないからやるなって言われてんだよね?」
誰に?何を?
一瞬何を言われているのか分からず混乱する。
「それじゃ、行くよ?城の行きたい場所と着ていきたい服を思い浮かべて。」
「ええ?うわっ!」
突然体が浮いた。行きたい場所とか言われても高圧洗浄機のところといえばメイドのいる場所だからメイド服か?
いやいやいや、そうじゃなくて、一体どうなってる?この男は一体本当に何者か?
魔法使いか?だがそれにしてはまるで呪文を口にした様子はない。
無詠唱呪文なるものがあるらしいが、それもいくつかの予備動作が必要だと聞く。
男は立っているだけで指一本動かした気配すらなかった。
一体何者なんだこいつは!まさかの本当の神様!?
フードの男はこちらの混乱などお構いなしににやにやと笑うばかり。
「ちょ、何が…下ろして、下ろ……」
「じゃ、よい舞踏会を!」
その言葉を最後にあたしは蓋をしたプリンを一つだけ持ってどこへとわからないところへ飛ばされた。
童話パロディ企画その3。
※全てif話。物語の進行上にはまったく関係ございません。
※書きたかったからかいた、それだけです。苦情は受け付けません。
↓↓↓以下設定とかだよ。
・童話シンデレラモチーフ。世界観はファンタジー。
・独自設定ばかりで本編とは別物としてお読みください。
・シンデレラは風味。
・終わりはゲロ甘です。砂は砂丘にお捨てください。げふー。
・キャラ崩壊しているかも?気をつけてご生還ください。
・本編のネタバレ要素はありませんが、本編読後がもちろん推奨
※ 人気投票御礼企画なのでカップリングは決まってます。
あくまでもこの世界観だけのカプなので、あしからず。
問題なければ以下↓↓
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リーンゴーン
街の中心にある教会の鐘が夕刻を告げる。
季節は初夏。夕闇の迫る時間。
社交の季節真っ盛りでどこの貴族の館でも連日舞踏会が開催され、ドレス屋や宝石店が軒を連ねる商業区などでは稼ぎ時とばかりに浮き足立つ空気が流れるが、一般市民には関係のないことだ。
しかし、今日だけは違う。
今日は全国民が参加を許されたお城の舞踏会が開かれる日だ。
夕闇の迫る時間、本来であれば夕食の臭いの漂う中帰宅する人間ばかり目立つ界隈でもひどく華やいだ空気が満たし、続々と着飾った娘達が馬車に乗ってお城を目指す。
薄闇を照らす馬車の明かりが、列となって連なる様はまるで光の道のようだ。
そんな様子を高台にある家の屋根裏から眺めながら、あたしは溜息を吐いた。
……本当にご苦労なことだ。
あの道を照らすだけの明かりで一体どれだけの油が使われているというのだろう。
しかも市民など舞踏会に出るだけのドレスを新調するのにどれだけかかると思っているのか。そもそも舞踏会にでるなんて一生に一度の機会だろうに。
そんなお金があるのなら、貯金すればいいのに。
老後のために貯蓄は必要だ。
お金がないといつだって悲惨だ。今でこそ継母と姉二人と普通の生活ができているが、一時期産みの母親がなくなった直後、父の事業が破綻しかけて明日のパンにも事欠く有様になったことがある。
あの時は本当に道端の草を採って食べたりした。
流石に毒とか怖いから、城の図書館で毒草の知識だけを調べたが、所詮素人の知識。
何度と死線をくぐり抜けながらも、なんとか生き延び現在に至る。
今ではまあよい思い出になっている。…生きてるから言えることだけど。
さて、いつまでも不毛な光の道を見ているわけには行かない。
既に食事も家事も全て済んでいる。
お城で食事が出るそうだから、姉たちの夕飯のことは考えなくてもいい。
今から寝て、深夜に起きるためあたしはベッドに向かった。
深夜に返ってくる三人の家族を迎えれば、ドレスの手入れだの彼女たちの世話を焼けば、その後寝られるかどうかわからないからだ。
ベッドにゴソゴソと潜り込み、少しだけ舞踏会について思いを巡らせた。
今回の舞踏会は王子様のお相手を見つけるためのものだと聞いている。
噂ではその美貌と女癖の悪さから王妃候補に逃げられているとか。
週刊誌の立ち読みだけだから、真実かどうか知らないけど。
だが過去、一度だけ見た王子の姿を思うに、あながち間違いではないのだろうと思う。
まああんな男の隣にいるなんて、並の神経じゃやってらんないよね。
絶対負けるの分かってんだもん。
まあ、王子のお相手ということは未来の王妃なのであんまり変なの選んでもらっても困るけどね。
まあ、貴族贔屓とか極端じゃなければ誰でもいいよ、あたし的には。
その時、お腹がグ~と鳴る音がした。
あれ?…なんか、あたしお腹すいてる?
そう言えば、夕食は面倒だからそのへんにあるものをつまんだだけで済ましていたことを思い出す。
……お城で出るご飯は気になる。一体どんなのが出るんだろう。
そう言えば、香織の家のお菓子も出るって言ってたな。しかも新作とか。
うー、それだけは気になるけど、それだけのためにお城にいくのもなあ。
あんまりあそこにいい思い出ないんだよ。
以前図書館で食べられる草のことを調べていたとき、嘘を教えてきた子供とかいて本気で死にかけたし。
まあ、そのショックで顔も名前も覚えてないし、今生きてるから不問にしてるけど。
何かと死にかけそうな気がするんだよね、あそこ。
そもそも行くために必要なドレスや小物など細々したものを合わせれば到底食事の対価として見合わない。
そんなことを考えていると、またお腹が鳴った。
あたしは仕方なく、ベッドから立ち上がった。
階下の自分の城とも言える台所ですぐ食べられそうなものを探す。
…くそう、めぼしいものがないな。
あるものを見れば賞味期限の切れかけた卵と牛乳とゼラチン、砂糖、バニラビーンズ。
……なんだろう、この特定のものしかできなさそうなチョイスは。
あ、そう言えば、思い出した。
先日、香織のお母さんから隣国で人気のお菓子のレシピが手に入ったからってもらって作ってみようかと買ってた材料だ。
忘れてた、やばい。賞味期限切れる前に気がついてよかった。
時計を見れば、まだまだ舞踏会も始まらない時間。
レシピを見てもさほど難しいものでもない。
少し考えてから、あたしは材料に手を伸ばした。
お菓子制作すること四半刻ほど。
魔力を張った冷蔵庫から容器を取り出せば、冷たく見事に固まったお菓子が出てくる。
おお、なかなか美味しそうじゃないか。
プルプルしてる。
一つを取り出し、スプーンで口に運べばバニラの味のするシンプルな甘さが口の中に広がる。
お腹がすいていたため、すぐに二口目。だが三口、四口と続くうちにだんだん辛くなる。
いや、まずいわけじゃない。美味しい。レシピ通りに作ったしそれは間違いない。
だが、甘い。そう言えば、使った砂糖の量が半端なかった。
とりあえず一個分を完食したが、それ以上はもう欲しくなかった。
水を飲んで口の中の甘さを流す。ふう。
さて、意外と材料があって結局出来たお菓子は結構な量になった。
まあ、お姉様方が帰ってくれば、適当に消費してくれるか。
明日、近所に配ってもいいし。
とりあえず、蓋でもして冷蔵庫においておこうと、一つをとって蓋をかぶせた時だった。
「た、…食べ物!?」
誰もいないはずの部屋に響いた男の声にびくりとする。
驚いて振り返ろうとする前に、机に置かれたプリンを乗せたトレイをひったくられた。
驚いて、蓋をしたプリンの容器を持ったまま硬直する中、突然現れた男は無言のうちにプリンに食らいついた。
あまりの食べっぷりの良さに呆れて悲鳴を上げることすら忘れた。
男の顔は黒いフードに覆われて見えないが、大口を開けて一息にプリンを食べる。
最後の一つをぺろりと食べ終えると、ようやく落ち着いたのか男がお腹を押さえて息を吐いた。
「ふーっ!…なんとか落ち着いた。はらへりすぎて、死ぬかと思った」
あれだけあったプリンを全て食べ尽くし、立ち上がる黒いフードの男は明らかに怪しい。
だがあげそこねた悲鳴を上げるのも今更なので別の言葉を発した。
「だ、誰?どっから入ってきたの?」
戸締りはしっかりしていたはずだ。
というよりそもそもどっから入ってきた。
台所へ通じる扉はひとつしかない。
しかし開閉されたような音は一度も聞いていない。
「あ、ごめん。いやちょっとロ…いや家に帰ろうとしたら、道に迷っちゃってお腹すきすぎちゃって食べ物の匂いがしたからつい…」
男の言葉に行き倒れという言葉が浮かぶ。さほど珍しい存在ではない。
いくら蒼矢国が治安の比較的良いといってもそういう存在がいなくなったわけではない。
お腹が空き過ぎて、悪いとわかっても食べ物に飛びつきたくなる感覚は経験のないことではない。実際にそこまで追い詰められた経験があるため、男の行動を強く責められなかった。
男は両手を頭の前で合わせてペコペコ誤っている。
「ごめん。勝手に入って御免なさい。でも食堂もドコも空いてなくてさ。あ、食べた分お金払うから…」
その姿に毒を抜かれた。怪しさは拭えないがプリンを奪われたことは許してやろうと思った。あれ以上食べることも自分ではできなかったし。
「もういいです、別に。それより出て行ってください」
「あ、うん。本当にごめんね。」
ペコペコと謝りながら、扉を開けて出ていこうとする男にホッとしながら見送ると、なぜか男がくるりと振り返った。
「…あの、一つだけ聞いていい?
なんでこの街こんなに人いないの?」
男の言葉を怪訝に思う。
「今日は国中の娘を集めた舞踏会の日ですから」
旅人だろうか?蒼矢の今回の舞踏会は有名な話なのに知らないのか?
ここ数日どころかひと月前からお祭り騒ぎだったというのに。
今日は国中の未婚女性が城に呼ばれている。
しかし城に上がるのに一人でとは行かない。姉たちのようにエスコートしてくれる男性がいない場合は大抵父親や兄弟がエスコートして連れて行くことになっている。
そうなれば、男手を欠いている食堂などは閉めざるを得ない。
「ええ?!ああ、それでかあ…全然宿屋取れないし、人いないし」
がっくりと肩を落とす男にやっぱり知らなかったのかと思った。
だが、次の瞬間こちらを見て目を丸くしている。なんだ?
「確か、それって確か国中の女が呼ばれているやつじゃなかったけ?」
あれ?やっぱり、知ってる?
日付だけ知らなかっただけか。そりゃ災難だったな。
どのみち今日はおそらく地方から出てきている娘たちとその家族で宿屋はいっぱいだろう。おそらくこの男が泊まれる宿はない。
だが、泊まるところまで提供してやる義理はもちろんあたしにはない。
責任のない同情だけしてやっていると、男の不思議そうな顔が見えた。
「なんで、君はここに居るの?」
「なんでって興味ないですから」
即答すると、微妙な顔をされた。
「確か王子の花嫁探しだったよね?今回の?」
「そうですけど」
「興味ないの?お姫様になれるかもなのに」
「面倒なだけです。それにどう考えても自分が選ばれるわけないし」
「…そんなことはないと思うけど」
フードの男はそんなことを言ってくれるけど、あたしは自分を過大評価はしないのです。
背は高いけど美人じゃないし、姉たちみたいなパッと見の華やかさもない。
至って地味なのは承知だし、そんな自分が結構好きだしね。
それに、別にもてたいわけじゃないし。
今は亡き父親の事業の失敗でかつて生活が危機に瀕したとき、大人になったら自分が頑張って稼いで生活を安定させるんだと決めたのだ。
結婚なんて相手の経済力に頼る生き方は怖くてできない。
だから男なんて必要なし。
王子様なんてまた情勢が不安になればどうなるともしれない相手などもとより眼中にはない。
まあ、街の女子たちはそう思わなかったみたいだけど。あと、お義母様も。
お義母様の場合、昔っからアイドルよろしく王子を崇めてた節は見られるから、ある種一途とも言えなくないけど。
「でもさ、ちょっと位は舞踏会に興味ないの?お城にも?」
男に執拗に聞かれれば、まあ気にならないこともないのだ。
舞踏会はともかくとして、実は先日城に娘さんが侍女として上がっているという商店街のおばさんにとある噂話を聞いたのだ。
城にあるという魔導高圧洗浄機。
魔法のチカラで水に圧力をかけてその勢いで汚れを落とすという最新式の掃除道具だ。
あれがあると塀の泥汚れがすっごく綺麗に落ちるらしい。
しかも屋外だけでなく水場の汚れも取れるとか。
最新の魔道具など買える財力は我が家にはない。
だが、おばさんに我が事のように自慢されて、それがどれほどのものなのかすっごく気になっていた。
しかし、もちろん城の舞踏会に行っても掃除道具など見せてくれるはずもない。
城への興味と言えば、高圧洗浄機なるものがどんなものなのかそれだけなのだが。
「…ちょっとは興味ありますけど…」
「わかった。プリンのお礼にその願い叶えてしんぜよー!」
「え?」
突然の男の言葉に意味がわからない。
と言っている間に空気が変わったのを感じた。
どういったらいいのか、周囲の光景はまるで変わっていない。
ただ、空気だけが重く、どこか異空間を思わせるようなものに変わっていた。
それが目の前のフードの男から漂ってくるのがわかった。
「一体、何を?」
「一応これでも神様だからさ。一応受けた恩は返さなきゃなんだよね?
…それに全く、魔法使いが役に立たないから僕がこういう事する羽目になるんだよね?
執筆者もその辺考えてお話の筋考えてほしいよ」
ヘタレめ。とどこか底冷えするような目で見られ、ゾワゾワと背筋が凍った。
やばい、こいつマジやばい!
神とか自分で言っちゃってる、中二病羅漢しちゃってる!しかも手遅れ系!
精神完全に病んでるよ。
逃げなきゃと思うものの、扉は自称神様で塞がれている。
うう、絶体絶命じゃないか!若干涙目になりながらジリジリと後退していると、こちらの様子など全く気づいていないかのように、僅かに見える男の口元が笑みの形に動いた。
「じゃあさ、ちょっと飛ばすけど、着ていきたいドレスとか思い浮かべてくれる?
僕ってばこういうことセンスないからやるなって言われてんだよね?」
誰に?何を?
一瞬何を言われているのか分からず混乱する。
「それじゃ、行くよ?城の行きたい場所と着ていきたい服を思い浮かべて。」
「ええ?うわっ!」
突然体が浮いた。行きたい場所とか言われても高圧洗浄機のところといえばメイドのいる場所だからメイド服か?
いやいやいや、そうじゃなくて、一体どうなってる?この男は一体本当に何者か?
魔法使いか?だがそれにしてはまるで呪文を口にした様子はない。
無詠唱呪文なるものがあるらしいが、それもいくつかの予備動作が必要だと聞く。
男は立っているだけで指一本動かした気配すらなかった。
一体何者なんだこいつは!まさかの本当の神様!?
フードの男はこちらの混乱などお構いなしににやにやと笑うばかり。
「ちょ、何が…下ろして、下ろ……」
「じゃ、よい舞踏会を!」
その言葉を最後にあたしは蓋をしたプリンを一つだけ持ってどこへとわからないところへ飛ばされた。
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