ダークな乙女ゲーム世界で命を狙われてますSS集

夢月 なぞる

文字の大きさ
18 / 28
企画SS

プレゼント(黄土統瑠、翔瑠)

しおりを挟む
黄土双子×環?

設定が不明。
黄土の二人が双子使用のWEB版ネタです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ゲーム期間が終了して数ヶ月が過ぎた。
 あの一年がウソのように平穏な日々が続いている中、あたしもそれなりに忙しい日々を送っている。
 吸血鬼に深く関わってしまったがために、結局三年生になっても月下騎士会とは縁が切れない状況になっていた。
 今日も今日とて彼等の仕事の手伝いを終えて、帰宅しようと教室に鞄を取りに行く道すがら。
 人気のない廊下で統瑠に呼び止められ、振り返ってぎょっとした。

「環ちゃん、環ちゃん。これあげる」
「なんですか、ってうわっ!」

 統瑠が突然押し付けてきたのは人間ほどもありそうなクマのぬいぐるみだった。
 それをいきなり押し付けられてあたしはよろめいた。

「な、なんですか、これ?」
「えへへ~、プレゼント」

 嬉しいか、と聞かれても。
 統瑠は軽々と持っていたが、実際に押し付けられればものすごく重い。

「気持ちはありがたいですが。もらえませんよ」
「ええ? なんで?」
「なんでって、なんの理由もないです。それにこんな大きなもの置くような場所もありませんし」

 そもそもここ学校だぞ。
 どうやって持って帰れと。そもそもどうやって持ってきた?

「大きいくまさんが可愛くないって事?」
「別にこのクマが可愛いかは全く関係ないです」
「ぬいぐるみを選ぶ基準では重要でしょ? 環ちゃんはくまさんの顔が嫌いなんだね」

 統瑠が哀れっぽい声で言えば、なんだかクマのつぶらなひとみに責められている気分になる。

「そいういうつもりはありません。ただ大きさが……」
「じゃあ、どれくらいの大きさがいいの?」

 聞かれてもぱっと出てこない。
 その時統瑠の腰にぶら下がっているものが目に入った。

「あの、その腰にある子くらいなら」
「え? この子」

 それはキーホルダーサイズのちいさなくまのぬいぐるみだった。
 あのサイズなら部屋にあっても身につけても邪魔にはなるまいと思っただけなのだが。

「じゃあ、これ、あげる」

 あっさり統瑠は自分の腰からそれを外して、あたしに押し付けてくる。

「え? あの……別に催促したわけでは」
「自分で言っておいて、この子まで嫌いとは言わないよね」
「いや、まあ……」
「環ちゃんも目ざといね。この子もこのクマさんと同じメーカーの品物なんだ」

 言われてみれば、確かに同じ顔をしている気がする。
 大きなクマと比べてもサイズは非常にコンパクト。
 それに統瑠のお古みたいなものだし、大したものではないだろうと思って受け取ることにした。

「ありがとうございます」
「うんうん、良かったよ。クマさん、大事にしてね」
「……そうですね」

 男子高校生とは思えぬ統瑠の発言に、げんなりしつつ、まあ機嫌が悪くないようなので良しとしよう。
 大きなクマを引き取って統瑠が去っていく。
 その後姿を見送り、もらったクマのぬいぐるみを手のひらにのせる。
 つぶらな瞳のなかなか愛嬌のある顔立ちで、手触りの良い品物だった。
 首にはきらきらした装飾がついており、チェック柄のベレー帽とコートを着ている。
 手足が動かせるタイプで手をピコピコと動かしてみれば、なかなか可愛い。
 まあ、クマに罪はない。あたしはそれを手に教室へと向かった。

 ◆ ◇ ◇

 翔瑠が寮の部屋に戻ると置かれたソファの上にどでかいテディべアが鎮座していて、驚いた。

「おかえり」

 ちょうど、クマの方向からそんな言葉が聞こえて驚いたが、すぐにクマの横から統瑠の顔が見えた。

「なに、それ」
「ちょっと、虫干ししようかと引っ張りだしたんだよ」

 おかげでふかふかだよ、と笑う統瑠に呆れる。

「少しぬいぐるみ処分したら? 掃除も簡単じゃないでしょ?」

 統瑠は人形を集める趣味があるので、寝室にあふれんばかりにぬいぐるみが置かれている。定期的に手入れをしているみたいだが、あまりの多さに、一緒の部屋でクラス翔瑠からすれば、ダニがわかないか心配なのである。
 吸血鬼の自分たちがダニに血を座れるなど勘弁してほしい。

「しかも、この間、また、買ってただろ?」

 つい先日、翔瑠は統瑠が実家にねだって、新たなぬいぐるみを買っていたのを知っている。
 見せてはもらっていないが、何でも世界的に有名な人形作家が数量限定で仕上げたもので装飾もなかなか凝っており、かなりいいお値段がするとか。
 しかし統瑠は翔瑠の愚痴に対して、にやりと笑う。

「なんか翔瑠荒れてるねえ。もしかしてまた、環ちゃんに振られたの?」
「振られたって何だよ。別に僕は環ちゃんになにもしてない」
「じゃあ、鞄の中の誕生日プレゼントは渡せたの?」
「そ、それは……」

 数日後に迫った環の誕生日に翔瑠はプレゼントを用意したのだが、差し出そうとしてもなかなかうまく行かなかった。
 できれば二人きりの時に、渡したいのだが、彼女の周りには人が常に溢れている。
 それでも一度だけ、隙を見て渡そうとしたが、彼女は「貰う理由がない」と受け取りを断られてしまったのだ。
 どうしたら、環に受け取ってもらえるか翔瑠にはわからなくて、つい苛立って、統瑠にあたってしまった。

「ごめん、統瑠。ちょっと苛立ってたかも」
「翔瑠は本当に素直で優しい子だねえ。でも真っ直ぐすぎるんだよ」

 どういうことかと顔を上げれば、頬杖を吐いた統瑠が笑っている。

「環ちゃん、基本他人に頼ろうとしない子だし、普段からなにかしてあげようとすると、結構な確率で、断れるだろう? だったらもらってもらうために渡し方を考えなきゃ」

 統瑠は先日テレビで見た、交渉にまつわる話を翔瑠に語ってくれる。
 曰く、人は最初に提示する条件を高くし、次にやや条件が緩いものを提示すると条件が下がったと感じ、条件を飲ませやすくなるのだという。

 なるほど、とは思うが、それをどう活用すればいいか、翔瑠にはわからない。

「理屈はわかったけど、具体的にどうすれば……」
「そこは自分で考えなよ」

 最後の最後で突き放した統瑠は、ソファから立ち上がると、クマのぬいぐるみをひょいと担ぐ。

「とりあえずこのクマさんは戻してくるよ」

 大きなクマのぬいぐるみを抱え、統が寝室兼用の自室に去っていく。
 その最後の顔に愉悦の笑みが浮かんでいるのを、環のことで頭がいっぱいな翔瑠は最後まで気づかなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生したら推しの婚約者でした。悪役令嬢ですが執着されてます!

桜咲ちはる
恋愛
社畜OLの癒しは乙女ゲーム【麗しの花姫】に出てくるチャラい系の公爵子息イーギス・グランドル。続編の発売日を楽しみにしてた矢先に交通事故に会って死んでしまう。彼女が目覚めたらそこは乙女ゲームの世界で、彼女はイーギス様の婚約者ナターシャに転生していた。 だが、ナターシャが辿る運命は婚約破棄からの没落。それも避けたい運命だが、それ以上に彼女は推しの幸せを願っていた。推しのために、平凡な彼女は奮闘する。 小説家なろう様にも同時投稿しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

婚約破棄された堅物令嬢ですが、鬼の騎士団長の娘として宮廷の陰謀を暴くのに忙しいので、美貌のカストラート(実は王子)に溺愛される暇はありません

綾森れん
恋愛
「お前のような真面目くさった女はいらない。婚約は破棄させてもらう!」 婚約者だった公爵令息に冷酷に言い放たれたリラ・プリマヴェーラ。 だが、彼女の心にあったのは悲しみではなく―― 十年前の王族暗殺事件を調査したいという情熱だった。 伯爵令嬢であるリラは、鉄の掟を守る『鬼の騎士団長』の娘。 彼女には恋よりも何よりも優先すべき使命があった。それは、十年前に幼い王子が暗殺された事件の真相を暴き、父を、そして王国を陰謀から救うこと。 婚約破棄直後、彼女の前に現れたのは、天使の歌声を持つ美貌のカストラート(去勢歌手)、アルカンジェロだった。 彼が十年前の事件について密かに調べていることを、リラは知ってしまう。 真相を探るため、リラは彼を自分の音楽教師として迎え入れ、距離を縮めていく。 事件解決の協力者として彼と接するうち、リラは謎めいたアルカンジェロに危機を救われることになる。 しかし、リラは知らない。 アルカンジェロの正体が、十年前に暗殺されたはずの第三王子であることを。 そして彼にとってリラこそが、初恋の女性であることを。 彼は十年間、密かにリラを想い続けていたのだ。 王位を狙う者たちから身を隠すため、声楽の技術を駆使して、教会歌手として大聖堂で生き延びてきたアルカンジェロだったが、王家を巡る不穏な陰謀が静かに動き始めていた。 捜査に猪突猛進な堅物令嬢と、彼女を影から支え執着を見せる、カストラート歌手のふりをした王子。 宮廷の闇を切り裂く二人の恋と事件の行方は――? ※本作は、過去に投稿していた『真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています』の設定・キャラクター・構成を大幅に改稿し、新作として再構成したものです。 物語の結末やキャラクターの掘り下げを強化しておりますので、初めての方も、以前お読みいただいた方もお楽しみいただけます。

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

処理中です...