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おまけ~秘密の給湯室~②
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それからというもの、私と渡辺の毎日の楽しみが増えた。
桜木課長と、天野さんの恋路を見守ること…
最初は正直ちょっと面白がってた。
だって二人共、絵に描いたようにいい男なのにさ。
しかも顔だけじゃなく仕事もできて、そして何よりも人間として出来すぎている。
某巨大猫型ロボットアニメの、出来すぎたキャラのようだった。
本当にいい男過ぎて彼氏になって欲しいなどとは、私達は思えなかった。
いや、そもそも居るし。
スマン、彼氏。あまり構ってやらなくて。
他の課の女子社員の中には、果敢にもアタックする者もいたが、全て玉砕していると聞いている。
課長はバツイチ独身36歳、1個上の天野さんはこの前亡くなったお母様が病気がちで、恋愛どころではなかったと聞いている。
いい男が二人揃って独身なのは、けしからん!
さっさとくっついてしまえばよいのだ!
…なんて、渡辺と二人で某時代小説よろしく怪気炎を上げていたんだけど…
気をつけて二人を見るようになったら、そんな気持ちは消し飛んでいった。
本当に本当に、お互いのこと純粋に好きなんだなって。
見てるこっちが眩しくなるほど、二人は想い合ってる。
桜木課長がちょっと咳をすれば、天野さんが心配げに振り返る。
そんな天野さんの顔を見て、慌てて課長はのど飴を口に放りこむ。
課長の机は中部統括課の魔窟と呼ばれていたが、天野さんが奥さんみたいに口うるさくいうと、渋々綺麗に片付ける。
そして…決まって天野さんは、下のコーヒーショップのコーヒーを課長にご褒美として買ってくるのだ。
手渡されたときの、課長の嬉しそうな顔ったら…
本当に嬉しそうに笑って、可愛らしくコーヒーを飲むのだ。
それを天野さんは、奥さんのように慈愛のある笑顔で見守っている。
まるで昭和のメロドラマをみているようだった。
いや、リアルタイムで見たことないけど。
↑一応、平成生まれ
そんなある日の朝。
「船見!船見っ…」
ロッカールームからフロアに出ると、渡辺がこけつまろびつ駆け寄ってきた。
キャラ物のピアスが刺さったままで、どうやら仕事前にはいつも外すのだが忘れてしまったらしい。
渡辺らしくもない。
「おっと…ど、どうしたの。渡辺…」
「ついにっ…ついにっ…」
「落ち着いて…」
咽そうになってるから、背中を叩いた。
「……同伴出勤してきた……」
なんだってぇぇぇ!?
興奮のあまり涙目になった渡辺が、フロアの隅っこを見た。
窓辺に桜木課長と天野さんが佇んでる。
これから朝礼だから、もうスタンバっているんだろう。
でも…明らかに、雰囲気が変わっていた。
「やばい…なんかハートが見える…」
「だしょ…」
朝礼があって、その週の業務がスタートした。
席について事務処理をしていても、気になって気になって…
10時になると、天野さんがそそくさとフロアを出ていった。
なんか歩き方が変だった。
渡辺がちらりと私の方を見た。
うん。ヤッたな。ありゃ。
しかも、昨日だろ。
課長はなんかボケッとしていて気づいていなかったけど、暫くするといつものコーヒータイムに立った。
「行くよ…」
渡辺と二人で静かに給湯室に向かった。
ハンカチも忘れずに口に当てた。
入り口からそっと中を伺うと、居た。
天野さんに寄り添う、桜木課長の背中が見えた。
「お願いだから、無理しないでよ…」
「だ、大丈夫ですっ…」
どうやら早退しろと言っているようだ。
「午後の外回りも代わるからさ…」
「だっ…だめですっ…」
「頼むよ…」
突然、桜木課長が天野さんの耳元に顔を近づけた。
「(むぐっ…)」
「(ぐぐっ…)」
渡辺と二人で変な声が出そうになった。
今回もハンカチを当てていてよかった。
後ろから誰か来ないか気にしながら、また給湯室に目を戻した。
「…ズルい…」
「ん?」
「そんな声…出すなんて…ああっ…もう、俺、ハシタナイっ…」
「あ?」
「こんなところで欲情しちゃうなんてっ…」
「ちょ、悟?」
でたー!!『悟』呼びっ…
確定です!確定です!神様!
渡辺と二人でハンカチを噛み締めながら、歓喜に酔いしれた。
めでたいじゃぁないかいおふたりさん…
よかった。よかった。
ちょっと天野さんの言ってることは聞き捨てならなかったけど、これ以上盗み聞きしたら悪いから、そっとその場を離れようとした。
でも、その瞬間…
「じゃないと、ここでキスするぞ?」
「うぇっ!?」
とんでもない桜木課長のセリフが聞こえて。
「!?」
「?!」
渡辺と一緒に、また給湯室を覗いてしまった。
何か言い争っているようだが、もう完全に桜木課長が天野さんに壁ドンしていた。
もうどうみても桜木課長が攻めですねありがとうございます感謝致しますごちそうさまです。
そして最後に…ちゅっと…
二人はキスをした
フロアに戻ってきた天野さんの顔は、完全に事後ですって顔で…
光源氏が寝不足の息子の顔を見て「なんと見甲斐のある朝寝の顔よ」と言った気分が、本当にわかった。
私も渡辺も、母親気分でそんな天野さんを見ていたと思う。
「ねえ、船見…」
「ん…?」
ランチで社外に出た瞬間、渡辺は本当に嬉しそうに呟いた。
耳に光っているピアスのキャラもなんだか嬉しそうだ。
って、まだ外してなかったのか。
「良かったね…あの二人…」
「うん…上手くいくといいね…」
「応援、ずっとしてこ?」
「うん。そうだね…」
あれから3年…
今年の夏は、本当にクソ暑かった。(毎年こんなこと言ってんな)
「船見ー」
「なに?渡辺」
私と渡辺は、もうあの二人を見ることはできない。
「もうあっちについたかね?あの二人」
「どだろね…」
9月7日付で、大きな人事異動があった。
天野さんはニューヨーク支店の本部長として赴任。
入社して数年しか経っていないから、大抜擢だ。
そして我らが桜木課長も向こうのマーケティング部長に抜擢されて栄転。
ニューヨーク支店はアメリカ本社と言ってもいいから、本当の大出世だ。
一方通行の栄転で、多分ふたりはそのままアメリカに根を下ろすことになるんじゃないかって噂だった。
結婚フラグですね確実ですね本当にありがとうございました。
「幸せになるといいねえ…」
「うん。きっとなるよ…」
ふふっと渡辺と笑いあうと、窓から空を見上げた。
桜木課長、天野さん
どうぞお幸せに…
日本から密かに応援してます
もしもニューヨーク支店にまかり間違って、私達が行くことがあったら…
絶対、給湯室を覗きに行こうと渡辺と約束した。
【おしまい】
桜木課長と、天野さんの恋路を見守ること…
最初は正直ちょっと面白がってた。
だって二人共、絵に描いたようにいい男なのにさ。
しかも顔だけじゃなく仕事もできて、そして何よりも人間として出来すぎている。
某巨大猫型ロボットアニメの、出来すぎたキャラのようだった。
本当にいい男過ぎて彼氏になって欲しいなどとは、私達は思えなかった。
いや、そもそも居るし。
スマン、彼氏。あまり構ってやらなくて。
他の課の女子社員の中には、果敢にもアタックする者もいたが、全て玉砕していると聞いている。
課長はバツイチ独身36歳、1個上の天野さんはこの前亡くなったお母様が病気がちで、恋愛どころではなかったと聞いている。
いい男が二人揃って独身なのは、けしからん!
さっさとくっついてしまえばよいのだ!
…なんて、渡辺と二人で某時代小説よろしく怪気炎を上げていたんだけど…
気をつけて二人を見るようになったら、そんな気持ちは消し飛んでいった。
本当に本当に、お互いのこと純粋に好きなんだなって。
見てるこっちが眩しくなるほど、二人は想い合ってる。
桜木課長がちょっと咳をすれば、天野さんが心配げに振り返る。
そんな天野さんの顔を見て、慌てて課長はのど飴を口に放りこむ。
課長の机は中部統括課の魔窟と呼ばれていたが、天野さんが奥さんみたいに口うるさくいうと、渋々綺麗に片付ける。
そして…決まって天野さんは、下のコーヒーショップのコーヒーを課長にご褒美として買ってくるのだ。
手渡されたときの、課長の嬉しそうな顔ったら…
本当に嬉しそうに笑って、可愛らしくコーヒーを飲むのだ。
それを天野さんは、奥さんのように慈愛のある笑顔で見守っている。
まるで昭和のメロドラマをみているようだった。
いや、リアルタイムで見たことないけど。
↑一応、平成生まれ
そんなある日の朝。
「船見!船見っ…」
ロッカールームからフロアに出ると、渡辺がこけつまろびつ駆け寄ってきた。
キャラ物のピアスが刺さったままで、どうやら仕事前にはいつも外すのだが忘れてしまったらしい。
渡辺らしくもない。
「おっと…ど、どうしたの。渡辺…」
「ついにっ…ついにっ…」
「落ち着いて…」
咽そうになってるから、背中を叩いた。
「……同伴出勤してきた……」
なんだってぇぇぇ!?
興奮のあまり涙目になった渡辺が、フロアの隅っこを見た。
窓辺に桜木課長と天野さんが佇んでる。
これから朝礼だから、もうスタンバっているんだろう。
でも…明らかに、雰囲気が変わっていた。
「やばい…なんかハートが見える…」
「だしょ…」
朝礼があって、その週の業務がスタートした。
席について事務処理をしていても、気になって気になって…
10時になると、天野さんがそそくさとフロアを出ていった。
なんか歩き方が変だった。
渡辺がちらりと私の方を見た。
うん。ヤッたな。ありゃ。
しかも、昨日だろ。
課長はなんかボケッとしていて気づいていなかったけど、暫くするといつものコーヒータイムに立った。
「行くよ…」
渡辺と二人で静かに給湯室に向かった。
ハンカチも忘れずに口に当てた。
入り口からそっと中を伺うと、居た。
天野さんに寄り添う、桜木課長の背中が見えた。
「お願いだから、無理しないでよ…」
「だ、大丈夫ですっ…」
どうやら早退しろと言っているようだ。
「午後の外回りも代わるからさ…」
「だっ…だめですっ…」
「頼むよ…」
突然、桜木課長が天野さんの耳元に顔を近づけた。
「(むぐっ…)」
「(ぐぐっ…)」
渡辺と二人で変な声が出そうになった。
今回もハンカチを当てていてよかった。
後ろから誰か来ないか気にしながら、また給湯室に目を戻した。
「…ズルい…」
「ん?」
「そんな声…出すなんて…ああっ…もう、俺、ハシタナイっ…」
「あ?」
「こんなところで欲情しちゃうなんてっ…」
「ちょ、悟?」
でたー!!『悟』呼びっ…
確定です!確定です!神様!
渡辺と二人でハンカチを噛み締めながら、歓喜に酔いしれた。
めでたいじゃぁないかいおふたりさん…
よかった。よかった。
ちょっと天野さんの言ってることは聞き捨てならなかったけど、これ以上盗み聞きしたら悪いから、そっとその場を離れようとした。
でも、その瞬間…
「じゃないと、ここでキスするぞ?」
「うぇっ!?」
とんでもない桜木課長のセリフが聞こえて。
「!?」
「?!」
渡辺と一緒に、また給湯室を覗いてしまった。
何か言い争っているようだが、もう完全に桜木課長が天野さんに壁ドンしていた。
もうどうみても桜木課長が攻めですねありがとうございます感謝致しますごちそうさまです。
そして最後に…ちゅっと…
二人はキスをした
フロアに戻ってきた天野さんの顔は、完全に事後ですって顔で…
光源氏が寝不足の息子の顔を見て「なんと見甲斐のある朝寝の顔よ」と言った気分が、本当にわかった。
私も渡辺も、母親気分でそんな天野さんを見ていたと思う。
「ねえ、船見…」
「ん…?」
ランチで社外に出た瞬間、渡辺は本当に嬉しそうに呟いた。
耳に光っているピアスのキャラもなんだか嬉しそうだ。
って、まだ外してなかったのか。
「良かったね…あの二人…」
「うん…上手くいくといいね…」
「応援、ずっとしてこ?」
「うん。そうだね…」
あれから3年…
今年の夏は、本当にクソ暑かった。(毎年こんなこと言ってんな)
「船見ー」
「なに?渡辺」
私と渡辺は、もうあの二人を見ることはできない。
「もうあっちについたかね?あの二人」
「どだろね…」
9月7日付で、大きな人事異動があった。
天野さんはニューヨーク支店の本部長として赴任。
入社して数年しか経っていないから、大抜擢だ。
そして我らが桜木課長も向こうのマーケティング部長に抜擢されて栄転。
ニューヨーク支店はアメリカ本社と言ってもいいから、本当の大出世だ。
一方通行の栄転で、多分ふたりはそのままアメリカに根を下ろすことになるんじゃないかって噂だった。
結婚フラグですね確実ですね本当にありがとうございました。
「幸せになるといいねえ…」
「うん。きっとなるよ…」
ふふっと渡辺と笑いあうと、窓から空を見上げた。
桜木課長、天野さん
どうぞお幸せに…
日本から密かに応援してます
もしもニューヨーク支店にまかり間違って、私達が行くことがあったら…
絶対、給湯室を覗きに行こうと渡辺と約束した。
【おしまい】
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またこのお話読めるのは嬉しいけど、給湯室のシーンは無いんだろうか?もしそうだったら、残念だなぁ〜と思っていたら、まさかのまさか!ありがとうございます!また楽しみが増えました!
>のりたま様
コメントありがとうございます!
よく、給湯室の二人を覚えていてくださいました!あなたは神か!神だ!
本当に嬉しいです。ニヤニヤしています。
今回は渡辺のほうに少しだけキャラ付けしてみましたw
前のサイトとも、前の前のサイトともちょっと違った、密やかな二人と、給湯室の二人、お楽しみいただけたでしょうか?
前よりもわかりやすく描いてみたんですが、面白く読んでいただけていたら嬉しいです。
本当に、コメントありがとうございました!