海鳴り

野瀬 さと

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海鳴り

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「あ…直也なおや、顔色が悪いよ」
「え?大丈夫だよ…」
「だめだよ…かいりく!体温計!」

隣の部屋から、海人と陸人がバタバタと入ってくる。

「なーあんちゃん、またお熱!?」

海人が血相変えてる。

「はい!早く測るの!直あんちゃん!」

陸人が体温計を直也くんに押し付ける。

「もう…大丈夫って言ってるのに…」

直也くんはしぶしぶ体温計を脇に挟むと、チビ達の頭を撫でた。

「いい子だったね。ほら、秋津さんのご飯の邪魔だから…あっち行ってな?」
「俺なら大丈夫だよ」

俺が言うと、海人と陸人は嬉しそうな顔をして直也くんの膝に寝転がる。

「なーあんちゃんのお熱見てからいく!」
「俺も!」

ぴぴっと音がすると、直也くんの後ろから優也ゆうやが手を伸ばして体温計を取り上げた。
数字を見ると、優也は眉をしかめた。
その顔を見て、海人も陸人も体温計を覗き込んだ。

「なーあんちゃんお熱!」
「もうねんね!だめだよ?」
「…直也…寝てな?後は俺がするから…」
「大したことないよ…大げさだな…」

直也くんは立ち上がると、海人と陸人の肩を抱えて引き寄せた。
ふたりの顔をじっとみると、ニコっと笑った。

「今日は二人でお風呂入れる?」
「うん!もうお兄ちゃんだもん!」
「ねー?かいと?」
「ねー?りくと?」
「じゃあ、行っておいで」

二人は元気よくはあいと返事をすると駆けていった。

「ごめんね…騒がしくて」

直也くんは俺の方を見ると、申し訳無さそうな顔をした。

「いいって…気にならないから…」

そう言うと、また申し訳無さそうな顔をして…それから、儚げに微笑んだ。


ほんと…なんつーか…
可愛い顔してんだよなあ…
男のくせに…


最近知ったのだが、直也くんは病気を抱えてるらしい。
らしいというのも、はっきり聞いたわけじゃないからだ。

本当は東京に出ててどっかに勤めてたらしいんだけど、病気になって故郷に帰ってきたって聞いた。

こいつらの母親はとっくに亡くなってて、双子の海人と陸人の世話をしに優也もまた、仕事を辞めて故郷に帰ってきたと聞いた。

父親は世界を一周する外国航路の船員で、年に何回かしかここには帰ってこないらしい。


兄弟、支えあって生きてた。


その姿が、とても美しいと俺は思った。


こんなのテレビのバラエティ番組とかで見たら、多分嘘くせえと思っただろう。
だけど、こいつらのこと見てたら、本当に美しいと思ったんだ。
皆、お互いのことを本当に必要としてて、信頼してて。


歯車とロボットの中で息をしてた俺には、本当の人間の姿に見えたんだ…

だから。

暫くこいつらを見ていたいと思った。

死ぬ前に美しい物を見ていたいと。



「秋津さん、おかわりは?」

優也が手を伸ばしてる。

「いや、いいよ。俺も風呂入るよ」
「え?じゃあ海と陸があがったら呼ぶから」
「いいって。アイツらのこと見といてやるよ」

10分後には後悔したけど、まあいい…

しかしあのチビども…

俺のことなんだと思ってんだ。

トーテムポールじゃねえぞ!俺は!

「きゃああ!秋津あんちゃーん!」

海人が右腕にぶら下がる。

「もっと!もっと!駿あんちゃああ!」

陸人は左腕。

脱衣所で身体を拭いていたら、超音波声を発するふたりにいきなりぶら下がられた。

「ぐぐぐ…お、重い…」

きゃっきゃ笑いながら、チビどもは喜んでる。

「てめえらああああ!」

ぶあっと二人を上まで持ち上げた瞬間、脱衣所のドアが全開した。

「ふたりとも、もう上がっ…ああっ…」

フルチン全開で、ドアを開けた直也くんと目が合った。
びっくり顔で固まっている。

「ご、ごめんなさいっ…」

直也くんがバターンとすごい勢いでドアを閉めた。
その勢いで、チビどもは腕から落ちていった。

「えっ…え?」

いつも青白い顔が、真っ赤だった。
つられて俺まで真っ赤になった。

フルチン見られた。

恥ずかしい…

「なーあんちゃん、顔真っ赤だった!」

海人が目をぱちくりさせた。
こいつはどちらかといえば、優也に似ている。
奥二重の目で俺を見上げてくる。

俺を見るな。

「なんで?駿あんちゃんのちんこ見たから?」

陸人もその可愛らしい目をくりくりさせていぶかしがってる。
こっちはどうやら直也くんに似ているらしい。
くっきりとした二重の目を俺に向けた。

だからふたりして俺を見るな。

「し、知るか!早く服着ろ!」
「秋津あんちゃんでっかいもんねえ!」
「でっかいでっかい!」
「てめえらあああ!」

がしっと二人の頭を掴んで、ごっつんこさせた。

「いたああい…」
「ごめんなさあああい…」

べそをかきながら、やっと服を着だした。

あほか…ガキンチョが…
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