海鳴り

野瀬 さと

文字の大きさ
8 / 37
海鳴り

8

しおりを挟む
直也なおや…くん…」

直也くんの唇から伝わる熱が、だんだん俺の心を溶かしていく。

「ここに…居ても、いいの…?」
「うん…ずっとここに居て?」
「なんで…?」
「駿さんのことが、好きだから」
「好き…?俺のことが…?」
「ふふ…気持ち悪い?」
「ううん…」

不思議と、嫌悪感は湧かなかった。
男同士なのに…

「夢だから…正直に言っちゃった…」

そう言って直也くんは俺の胸に顔を埋めた。

「駿さんは…皆に愛されてるよ…?」
「皆…?」
「俺でしょ…優也ゆうやでしょ…海人かいとでしょ…陸人りくとでしょ…」

指を折りながら、兄弟の名前を呼んでいく。

「きっと、父さんも…駿さんのこと好きになると思う」

真剣な顔で俺を見上げた。

「…だから、死んじゃダメなんだよ?駿さん…」



美しいと思った風景…

その中に、俺が入ってもいいの…?



「きっとね…駿さんが気づかなかっただけでね、周りのひとは秋津 駿あきつ しゅんさんのこと、愛してたと思うよ…?」

ぎゅっと俺のシャツを握った。

「こころの目、開いたらいいね…」
「こころの目…?」
「うん…駿さんのこころの目…きっと優しい目をしてるんだろうな…」

直也くんが目を閉じて微笑む。

「直也くん…?」
「夢なのに…だるいなぁ…」

急に、体重がぐっと腕に掛かった。

「直也くん?大丈夫?」
「うん…駿さん…?」
「なに…?」
「好きだよ…」

俺に伸ばそうとしていた、直也くんの手がぱたりと落ちた。

「え…?」

直也くんの身体を揺する。

「直也くん!?直也くん!?」

直也くんは目を開けない。

「待って…直也くん…待って…!」

身体から力が抜け落ちていく。
体温まで抜けていきそうだった。


「直也くんっ…」


微笑んだ顔が、がくりと揺れた。


「直也くんっ…好きだっ…俺も…好きだよっ…!だから…いくなっ…行っちゃだめだっ…」






「…つさん…あきつさん…」


遠くで、誰かが俺を呼ぶ

だめだ…

俺、直也くんを探さなきゃいけない


「秋津さんっ…!」


はっきりと聞こえたのは、優也ゆうやの声。


「ゆう…や…?」
「秋津さんっ…秋津さんっ!」

全身がびしょ濡れだった。

身体が重い。

目を開けると、優也もびしょ濡れだった。

「ああああっ…」

優也が俺に覆いかぶさって、大声で泣きだした。

「優也…」
「良かった…良かったぁ…」

ぎゅううっと、痛いくらい抱きしめられた。

「く、苦し…」

ふと見たら、周りに知らないおじさんがたくさんいて。
釣り船の周りには、漁船が集まってて。

俺たちが船から落ちたのを見て、救助に来てくれたってことだった。

散々、漁師の皆さんに怒られた。


港に帰ると、救急車が待っていて、すぐに病院に担ぎ込まれた。
全身検査されて、異常なし。

病院で乾いた服に着替えさせられた。

俺はいいって遠慮したんだけど、誰も俺の言うことなんて聞いてくれなかった。

着替え終わると、警察が来て色々聞いてきたけど。
あくまで事故ですって、優也が言い張って…

すぐに俺たちは帰された。


帰りのワゴン車の中は、無言だった。
あんなに陽気な優也が一言も喋らない。

俺も、何を言っていいかわからないから、黙り込んでた。


あけぼの荘に帰ると、海人かいと陸人りくとが泣きながら飛び出してきた。

「わわっ…どうしたんだおまえら!」
「ゆーあんちゃあああん!」

海人が優也に飛びついて、ぎゅっとしがみつく。

「駿あんちゃあああん!」

陸人が俺にぎゅっとしがみついてきた。

「どうしたんだ、お前ら」
「なーあんちゃんが…」

海人と陸人の顔をよく見たら、滂沱ぼうだの涙。


優也の顔色が青くなった。


すぐに民宿の中に飛び込んで行く。

俺はチビたちを両腕に抱えて、後を追った。

「直っ!直也っ…」

なかなか開かない直也くんの部屋のドアを、優也が蹴破った。

「直也っ…」

ベッドに駆け寄ると、直也くんが青白い顔で眠ってた。
あの夢の中で見たのと同じ、白いパジャマを着てた。

「直也っ…起きてっ…直也っ」

優也が直也くんの身体を揺さぶる。

「ん…」

直也くんが呻く。
優也が直也くんの額に手を当てる。

「凄い熱…」

優也は立ち上がると、直也くんを掛布団ごと抱え上げた。

「秋津さんっ…直也を病院に連れて行くっ」
「わかった」

チビたちを抱えて、優也の後についていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...