海鳴り

野瀬 さと

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父、あけぼの荘に帰還す。

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「俺は、いいよ」

声が後ろから聞こえた。
振り返ると、居間の襖が開いた。

「ごめん…立ち聞きするつもりなかったんだけど…」

そう言いながら、優也ゆうやが入ってきた。
その後から、秋津あきつも。

もうそんな時間になっていたのか。
長いこと話し込んでいたから、時間の経つのが早かった。

どっかりと優也は俺の隣りに座ると、にかっと笑った。

「俺、まだ23歳だしぃ?結婚なんて先の話だからさ。だから、このままここで住み込みながら働くからね?」

頭に巻いていたタオルを外すと、直也を見た。

「これからは、直也なおやに雇って貰うってことになるんだね?」
「ゆ、優也…」
「俺、直也がここを継ぐのはむしろ長男だし当然だと思う。だから、俺はいいよ」
「じゃ、決まりだな。いいな?直也」
「お父さん…優也…」
「安心しろって!秋津さんも居るんだし、チビたちの面倒は俺もちゃんと見ていくから…あ!でも急に結婚したらごめんね?」
「ぶっ…おまえ、今、彼女居ないだろ…」
「…バレた?」

直也と優也はふふっと笑った。

「…直也くん…」

秋津が直也を呼んだ。

直也は、これまたまっすぐに秋津を見つめ返した。
頷くと秋津は直也の隣りに座って、畳に手を付いた。

「…すいません。本当なら、俺からちゃんと話さなきゃいけなかったのに…」

そう言って、深々と頭を下げた。

「俺、直也くんを愛しています。一生を添い遂げたいと思っています」

それを聞いて、直也も畳に手を付いて頭を下げた。

「どうか、俺たちの交際を許してください」
「お願いします」

暫く、その二人の背中を優也と一緒に見つめた。

「なんだかよぉ…直也を嫁に出すみたいだな」
「よっ…嫁っ…ぶふぉっ…」

優也が笑いだした。

「ま、嫁でもいいけどさ…」
「ちょ、直也くん…」

秋津がすごくバツが悪そうな顔をしているから、笑ってしまった。

「オイ!秋津っ!」

急にでかい声が出てしまった。

「はっ…はいいぃぃ!」
「直也をしあわせにしなきゃ、承知しねえからなっ!」
「わっ…わかりましたあ!全力でしあわせにしますっ!」
「よおし!いい心意気だ!飲むぞっ!」
「ええっ!?」

その後は、無礼講になった。

直也はぶちぶちと文句を言っていたが、昼飯ついでに俺たちにつまみも出してくれた。
夕方まで秋津とサシで、飲み倒した。

「お…お義父さん…強い…」
「秋津も…なかなかじゃねえか…」

どちらも酔いつぶれないから、勝負は決まらなかった。
優也は疲れていたのか早々に爆睡体勢に入っていたので、勝負できなかった。

って、なんの勝負してたんだろうか

もうわかんねーや

バタンと倒れ込むと、急に眠りに吸い込まれていった。




夢を見た

あけぼの荘の裏手の岸壁

明希子あきこが両手にちびどもを抱っこして

その横には微笑む直也と秋津が寄り添って立ってる

俺と優也は船から手を振ってる


とてもしあわせで
とても…


「父ちゃん?」
「とーちゃん?」

小さな手が俺の顔を叩いている。
でも眠くて…目が開けられない。

「どうした?」
「父ちゃん泣いてるの」
「ねんねしてるのに泣いてるの」
「えー?あ、ホントだ…」

顔に濡れたタオルが押し当てられた。

「おまえたちお風呂行きなさい。優也が待ってるから」
「はあい」
「わかったぁ」

ぱたぱたとちびどもの足音が聞こえる。

「お父さん?起きて…」

直也の声は穏やかで。
そんなんじゃ起きられねえよ…

「もう…駿しゅんさん、起きて?風邪ひいちゃうよ?」

秋津も寝てるのか…

「直也くん…」
「起きて?お部屋、一人で行ける?」
「ああ…大丈夫だと思う…」
「俺、お父さんを部屋に連れてくから…」
「一人じゃ無理だろ…俺も手伝うよ」

なんだか知らないが直也と秋津、二人がかりで部屋にぶちこまれた。

「ふう…これでよし」

ベッドに寝かされ、新品の布団を被せられた。

「ここ、お父さんとお母さんの寝室だったんだ」
「そっか…初めて入った…」
「小さい頃はここで、俺も優也も寝てたんだよ…」
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