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しおりを挟む「一緒に居させて」
「悠人…」
「傍に居るだけでいいから」
「だめだ…」
ぐっと、拓にいの体に力が入った。
「…征一郎にそう言われたから、俺のこと…」
「あの人に言われたからじゃない」
「…え…?」
逃げていこうとする体を、力いっぱい抱きしめた。
「拓にいが、好きだ」
こんなに
人を力いっぱい抱きしめたことなんて、ない
こんなに
自分のことなんかどうでもいいって思うくらい人を好きになったことなんて、ない
なんでとか、どうしてとか…全然わからない
でも、これだけははっきりしてる
俺は、拓にいが好きだ
「好きだから、傍に居たい」
「悠人……」
「年なんか関係ない…。男だから、従兄弟だからって関係ない…。俺は、拓にいが…好きだ」
だから…拓にいが孤独なら、傍に居たい
拓にいが一人で泣くなら、傍に居たい
もしも誰かに触れたくなったら
誰かに甘えたくなったら
生きてることが怖くなったら
悲しくなったら
その時、拓にいの傍に
一番近くに
いつもいられる俺でありたい
他の誰にも触れさせたくない
「好きだ…」
だから…一生、傍に居て…?
久しぶりに触れた唇は…熱くて、少し乾いてた。
「悠人……」
拓にいの体温が、匂いが…
どんどん狭い車内に満ちてくる。
「拓にい…」
掠れた声しか出ない。
手が震える。
腕を伸ばして、助手席のシートを倒すと、拓にいの上に覆いかぶさった。
「悠人っ…こんなとこで…」
「誰も来ないよ…」
拓にいは戸惑って、俺の体を押そうとするけど、ギュッと抱きしめて身動きが取れないようにした。
もう、我慢できなかった。
早く、拓にいに触れたかった。
触れるだけで良かった。
ただ、手触りの良い拓にいの皮膚に触れたかった。
手で唇で、感じたかった。
啄むように唇で触れると、拓にいの唇が少し開いて。
齧り付くように侵入した口の中は甘い。
もっと甘い蜜を吸いたくて。
思い切り吸い上げたら、舌が絡んできた。
「…ゆう…と…」
甘い吐息を含んだ声で呼ばれて、血が逆流するように頭に登って。
わけがわからなくなった。
昼間の、明るい…こんなボロい狭い車の中で…
遮るものも、目隠しになるものもなにもないこんな場所で…
俺は拓にいを貪った。
胸までシャツをたくし上げて、胸の先端に吸い付く。
「あっ…」
声をあげた拓にいの体が、少し跳ねた。
ベージュのチノパンの上から、拓にいを掴んで少し手を動かすと、あっという間に目は潤んで…
頬は紅潮して、俺をどこまでも誘い込む。
「だめだよ…久しぶりだから…すぐ…」
「いいよ…。ねえ…俺に、どうして欲しい…?拓にい…」
「え…?」
あの人には、こんなことできなかったでしょ?
俺にしか、できないでしょ?
だって、触れられるのは…
セックスは生きてる人間同士でしか、できないんだから
痩せてしまってサイズの合わないチノパンを無理やり留めてるベルトを緩めると、トップボタンを外してファスナーを下ろした。
中に手を突っ込むと、むっと湿った中に熱い塊が居た。
そっと焦らすように塊に指で触れると、拓にいは震えだした。
「やっ…あ…出るっからっ…離し…てっ…」
「…本当はどうして欲しい…?言わないと、できないよ?」
言ってよ。その口で。
俺に、どうして欲しいか。
どんな快楽が欲しいのか…
一年前のあのときは、翻弄されるばっかりだったけど…
今度は俺があなたを翻弄するんだ
拓にいの顎を掴むと、わざと舌を出して唇を薄く舐めた。
ぶるっと震えると、拓にいの濡れた瞳は、俺の口元をじっと見つめる。
まだ言わないから、白い脇腹をそっと撫でた。
「あ…あっ…」
「言って、拓にい」
強く言うと、潤んだ目を閉じて…
そして、ゆっくりと開いた。
妖艶に、俺を眺めると…
命令するように俺の手を引いて
そして耳元で囁いた
「口で、して…?」
めまいがする程、甘い香り…
この香りは…
そして額に感じる、あの冷たさ
”悠人…”
口いっぱいに拓也を頬張ると、びくびくと唇に感じる振動。
拓也が生きてる脈動。
生きてる証拠。
「ね…もうっ…」
真っ白な雪みたいな腹の皮膚がびくりびくりと波立つ。
いいよ
ちょうだい
おまえをちょうだい
まるごとちょうだい
「あぁ…悠人っ…」
小さく誰かの名を叫ぶ声と、口の中に広がる苦味。
温かい拓也の体温。
ごくりと飲み込むと、俺と拓也は…
体がふたつの、ひとつの生き物になった気がした
「拓也…」
もう離さないよ
「悠人…」
ああ、そうだった
「うん…」
泣きながら、俺に縋り付くように抱きつく拓也の背中を抱きしめた。
「一人に…しないからね…」
「うん…うん…。」
「大学、単位取ったら、すぐこっちに戻ってくるから…」
「うん…」
やっと…手に入れた…
「このために、俺…一年頑張ったんだ」
「悠人…」
「だから…これから、拓也…。一緒に頑張ろ…?」
アヘンのことも
なにもかも、一緒に
「わかった……」
拓也の座る助手席のシートの後ろ
後部座席の向こうに見えるリアウインドウから見える、あの花壇
その際には、呆然とこちらを見ている男が居た
悠人、ありがとう
やっと、拓也に触れられたよ
この体、大切に使わせて貰うね
【終】
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