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第八章 魔島殲滅戦
宝麗仙宮崩壊②
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「あわ…あわわわわッ…」
眼前に仁王立ちする岩石のごとき焦茶色の筋肉怪物に失神寸前の18歳のカルソは、「いつまでへたり込んでおるッ!さっさと立たんかッッ!!」と一喝されて弾かれたように起立する。
「──鍵を持っておるのは誰だ?
むろん腕ずくで牢を破るのは容易いが、せっかく生かしてやったおまえに復活せし大教帝の最初の命令を賜る栄誉を与えてやろうと思ってな…」
「は、はいッ、身に余る光栄でありますッ!」
かくて光の速さでルコスの骸に近寄ったカルソが鍵束を奪うと、
「よし…それでは案内しろ」
と、不気味にも浮き浮きしたような声音で促した。
✦
三人の超戦士の間を重苦しい沈黙が支配していた。
見てはならぬと思いつつも、どうしても自らの目で“真紅の密室”の内部を確認せずにはおられなかったのである。
そして、その結果は──
「…メラミオ嬢の肌が生前にも増して、あたかも蠟のように病的に蒼白かったのは、使用された凶器がおそらくザジナスが護身用に肌身離さず携帯している毒針銃だったからだろうな…。
ということは…果たして毒酒によって脳神経を破壊された彼が覚悟の上でこの鬼畜の所業に及んでいるのかは不明だが、彼女の亡骸の血肉を啖うということは、そのまま自らの死に直結するということだ…」
と網崎詠斗が呟き、
「…そうなるでしょうね、おそらく今日中に…」
と太鬼真護が頷く。
「──さて、そうなると問題はわれわれの身の振り方になるわけだが…」
これ以上暗黒儀式を直視するのに忍びなかった詠斗が画面を閉じると、
「…そこですよね。
どうされるおつもりですか?
やはり、一旦島に戻られるのですか…!?」
「うーむ…」
瞑目しつつ太い両腕を組み、ベンチの背凭れに逞しい背を預けて煩悶するエルドがそのままの体勢で、
「太鬼君…この窮境に陥ったから訊ねているとは思わないでもらいたいのだが、異世界にて一大勢力を有するという帝界聖衛軍の一員であるキミがあえてわれわれの前に現れたということは、即ち自陣に加えたいという意思表示だと受け止めてよいのかね…?」
数秒の沈黙の後、闇黒の鬼公子はゆっくりと首を振った。
「いいえ、まさかそんな大それたことはもくろんでおりませんよ──お二方はいずれもそれぞれの惑星屈指の戦士として確固たる地位を築いていらっしゃるわけで、そこに容喙しようとは、聖剣皇も私も微塵も考えてはおりません…。
ですが帝界聖衛軍には銀魔星という宿敵が存在し、彼らに対する勝利を使命と心に刻んでいるがゆえに、今まさにあの呪われし死神軍団に侵食されつつある負極界を代表する勇者であるお二人と共にできることはないかと模索しているということなのです…」
この讃辞?にさしもの“ペティグロス最強戦士”も面映さを感じたものか、後頭部で両手を組みながら苦笑する。
「確固たる地位、か…。
願わくばそれが事実であると信じたいが、あのイルージェ=カイツがのさばっている間は幻想に過ぎんだろうな…。
では一歩踏み込んで、君はオレたち二人と何ができると思っているのかね?」
射すくめるような視線を正面から受け止めた真護は、小さく頷いてから静かに話しはじめる。
「あえてわれわれと言わせて頂きますが、これから採り得る行動としていくつかの選択肢があると考えます。
まずその①、星王の指示通り、D‐EYES新メンバー候補の同意を得た場合は彼を伴って宝麗仙宮に戻り、攻撃覚悟でウィラーク艦長の出方を待つ。
その②、カイツ星爵の傀儡である艦長の救援に期待せず、星王及び王妃の死が決した以上は帰島はむしろ危険と考え、困難を承知の上でこの地球上で一般市民に紛れて生きてゆく…」
「…その道を選んだ場合、危険度は①と変わらんだろうな…」
詠斗の呟きに「そうかもしれません」と同意してから黒ジャージの怪少年は続ける。
「その③、私が用意した手段によって月面上で待機する球型戦艦を急襲し、それを鹵獲した上で負極界へ帰還する…!」
「な、何ッ!?」
ローマ人を彷彿とさせるエルドの彫刻的な容貌が引き攣り、2メートルほど前方に立っていた因堂怜我も驚愕の表情で振り返る。
「まさか…本気で言ってるのか!?」
詰問口調の問いかけにも些かの動揺も見せず、真顔で頷く太鬼真護。
「はい、もちろんです──ですが標的として想定しているのはウィラークが艦長を務める旗艦ではなく、その4分の1のスケールのペティグロス星人のジェン=ギルガが仕切る小型艦の方ですがね…。
ですがエルドさんの指揮下で操艦されるなら、決してウィラークごときに後れは取らぬはず…そして彼との戦闘に勝利さえすれば、敵艦をも支配下に置けるのではないでしょうか…?」
「バカな!夢物語だよ、それは…。
それよりも月面までは到達できるというのなら、ご自慢の帝界聖衛軍の宇宙機で帰星させてもらえるわけにはいかないのかね…?」
皮肉交じりの要求に苦笑しながら“聖剣皇の使者”は首を振った。
「残念ながら…それはできません。
それに、私がお二人をギルガ艦にお連れする際、機械的手段を用いるつもりはありませんので…。
では続きましてその④、これが最後ですが、一度私と共にペトゥルナワスにおいで頂き、そちら経由で第三惑星なり第四惑星に向かう、という方法になりますが…?」
「われわれが…キミの故郷へ…!?」
呆れたような表情の怜我に、真護は
「はい、そうです──何分にもその方が負極界までの距離ははるかに近いので…。
一方、③のやり方で到達できるのはせいぜい月面付近までが精一杯で、聖剣皇も麾下の艦艇を地球圏に差し向けるお考えは全くありませんのでね…」
「ううむ…」
再び腕を組んで憂悶するラゼム=エルドとは対照的に、不思議に晴れやかな表情のレイガルは淡々とした口調でこう告げた。
「事態がこうなった以上、式澤君を宝麗仙宮に帯同するのはあまりに危険すぎますから今回の件は断念せざるを得ないようですね。
お詫びに何かリクエスト通りのご馳走でも振る舞った上で幾ばくかのキャンセル料をお支払いし、残念ながらお引き取り願うとしましょうか…。
さて、せっかくのお申し出ですが、私の肚は最初から①に決まっていました。
そしてウィラーク艦長から完全に見捨てられたと見極めがついた場合は、直ちに②の段階に入ったと判断し、あくまで独力で自身の尊厳を守るための闘争を命果てるまで続けてゆくつもりです…!」
眼前に仁王立ちする岩石のごとき焦茶色の筋肉怪物に失神寸前の18歳のカルソは、「いつまでへたり込んでおるッ!さっさと立たんかッッ!!」と一喝されて弾かれたように起立する。
「──鍵を持っておるのは誰だ?
むろん腕ずくで牢を破るのは容易いが、せっかく生かしてやったおまえに復活せし大教帝の最初の命令を賜る栄誉を与えてやろうと思ってな…」
「は、はいッ、身に余る光栄でありますッ!」
かくて光の速さでルコスの骸に近寄ったカルソが鍵束を奪うと、
「よし…それでは案内しろ」
と、不気味にも浮き浮きしたような声音で促した。
✦
三人の超戦士の間を重苦しい沈黙が支配していた。
見てはならぬと思いつつも、どうしても自らの目で“真紅の密室”の内部を確認せずにはおられなかったのである。
そして、その結果は──
「…メラミオ嬢の肌が生前にも増して、あたかも蠟のように病的に蒼白かったのは、使用された凶器がおそらくザジナスが護身用に肌身離さず携帯している毒針銃だったからだろうな…。
ということは…果たして毒酒によって脳神経を破壊された彼が覚悟の上でこの鬼畜の所業に及んでいるのかは不明だが、彼女の亡骸の血肉を啖うということは、そのまま自らの死に直結するということだ…」
と網崎詠斗が呟き、
「…そうなるでしょうね、おそらく今日中に…」
と太鬼真護が頷く。
「──さて、そうなると問題はわれわれの身の振り方になるわけだが…」
これ以上暗黒儀式を直視するのに忍びなかった詠斗が画面を閉じると、
「…そこですよね。
どうされるおつもりですか?
やはり、一旦島に戻られるのですか…!?」
「うーむ…」
瞑目しつつ太い両腕を組み、ベンチの背凭れに逞しい背を預けて煩悶するエルドがそのままの体勢で、
「太鬼君…この窮境に陥ったから訊ねているとは思わないでもらいたいのだが、異世界にて一大勢力を有するという帝界聖衛軍の一員であるキミがあえてわれわれの前に現れたということは、即ち自陣に加えたいという意思表示だと受け止めてよいのかね…?」
数秒の沈黙の後、闇黒の鬼公子はゆっくりと首を振った。
「いいえ、まさかそんな大それたことはもくろんでおりませんよ──お二方はいずれもそれぞれの惑星屈指の戦士として確固たる地位を築いていらっしゃるわけで、そこに容喙しようとは、聖剣皇も私も微塵も考えてはおりません…。
ですが帝界聖衛軍には銀魔星という宿敵が存在し、彼らに対する勝利を使命と心に刻んでいるがゆえに、今まさにあの呪われし死神軍団に侵食されつつある負極界を代表する勇者であるお二人と共にできることはないかと模索しているということなのです…」
この讃辞?にさしもの“ペティグロス最強戦士”も面映さを感じたものか、後頭部で両手を組みながら苦笑する。
「確固たる地位、か…。
願わくばそれが事実であると信じたいが、あのイルージェ=カイツがのさばっている間は幻想に過ぎんだろうな…。
では一歩踏み込んで、君はオレたち二人と何ができると思っているのかね?」
射すくめるような視線を正面から受け止めた真護は、小さく頷いてから静かに話しはじめる。
「あえてわれわれと言わせて頂きますが、これから採り得る行動としていくつかの選択肢があると考えます。
まずその①、星王の指示通り、D‐EYES新メンバー候補の同意を得た場合は彼を伴って宝麗仙宮に戻り、攻撃覚悟でウィラーク艦長の出方を待つ。
その②、カイツ星爵の傀儡である艦長の救援に期待せず、星王及び王妃の死が決した以上は帰島はむしろ危険と考え、困難を承知の上でこの地球上で一般市民に紛れて生きてゆく…」
「…その道を選んだ場合、危険度は①と変わらんだろうな…」
詠斗の呟きに「そうかもしれません」と同意してから黒ジャージの怪少年は続ける。
「その③、私が用意した手段によって月面上で待機する球型戦艦を急襲し、それを鹵獲した上で負極界へ帰還する…!」
「な、何ッ!?」
ローマ人を彷彿とさせるエルドの彫刻的な容貌が引き攣り、2メートルほど前方に立っていた因堂怜我も驚愕の表情で振り返る。
「まさか…本気で言ってるのか!?」
詰問口調の問いかけにも些かの動揺も見せず、真顔で頷く太鬼真護。
「はい、もちろんです──ですが標的として想定しているのはウィラークが艦長を務める旗艦ではなく、その4分の1のスケールのペティグロス星人のジェン=ギルガが仕切る小型艦の方ですがね…。
ですがエルドさんの指揮下で操艦されるなら、決してウィラークごときに後れは取らぬはず…そして彼との戦闘に勝利さえすれば、敵艦をも支配下に置けるのではないでしょうか…?」
「バカな!夢物語だよ、それは…。
それよりも月面までは到達できるというのなら、ご自慢の帝界聖衛軍の宇宙機で帰星させてもらえるわけにはいかないのかね…?」
皮肉交じりの要求に苦笑しながら“聖剣皇の使者”は首を振った。
「残念ながら…それはできません。
それに、私がお二人をギルガ艦にお連れする際、機械的手段を用いるつもりはありませんので…。
では続きましてその④、これが最後ですが、一度私と共にペトゥルナワスにおいで頂き、そちら経由で第三惑星なり第四惑星に向かう、という方法になりますが…?」
「われわれが…キミの故郷へ…!?」
呆れたような表情の怜我に、真護は
「はい、そうです──何分にもその方が負極界までの距離ははるかに近いので…。
一方、③のやり方で到達できるのはせいぜい月面付近までが精一杯で、聖剣皇も麾下の艦艇を地球圏に差し向けるお考えは全くありませんのでね…」
「ううむ…」
再び腕を組んで憂悶するラゼム=エルドとは対照的に、不思議に晴れやかな表情のレイガルは淡々とした口調でこう告げた。
「事態がこうなった以上、式澤君を宝麗仙宮に帯同するのはあまりに危険すぎますから今回の件は断念せざるを得ないようですね。
お詫びに何かリクエスト通りのご馳走でも振る舞った上で幾ばくかのキャンセル料をお支払いし、残念ながらお引き取り願うとしましょうか…。
さて、せっかくのお申し出ですが、私の肚は最初から①に決まっていました。
そしてウィラーク艦長から完全に見捨てられたと見極めがついた場合は、直ちに②の段階に入ったと判断し、あくまで独力で自身の尊厳を守るための闘争を命果てるまで続けてゆくつもりです…!」
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