106 / 170
第八章 魔島殲滅戦
宝麗仙宮崩壊①
しおりを挟む
突如として出現したこの日本人中年男を前に、五人の遠征隊員はどう対応してよいか途方に暮れた──それも道理で、そもそも彼らは鬼舞嵐太郎の存在を把握していなかったからである。
そして、鬼舞の風貌を目の当たりにした今、ゾネロらが感得したのはまず強烈な違和感であった。
つまり、“ルッキズムの権化”ともいうべき星王ザジナスが選んでくれた自分たちの依代よりも、見栄えという点一つ取ってもはるかに劣るこの人物に忖度する気にはどうしてもなれなかったのである…。
そしてそもそもコイツが大教帝と畏怖されたのは昔の話で、現在は負極界絶対者としての全てを剥奪されるに留まらず、能力的にも超弱体化させるための脳手術も施された追放者に過ぎぬではないか!
十数秒ほどの間を置いて、大きく息を吸い込んだゾネロが尋問口調でまずこう問うた。
「…どうやって牢から出た?
そして、何故われわれに気付かれることなく背後に立つことができたのだ…!?」
──この瞬間、鬼舞嵐太郎の表情から笑みが消えた。
同時にアベラとカルソは房内の時空が歪んだかのような感覚に襲われたが、原因として考えられるのはかつての大教帝の怒気しかなかった。
事実、特務隊員の質問が投げられるや、貧相な地球人の肉体に劇的且つ異様な変化が生じたのだ!
殆ど瞬間的に艶のないカサカサした中年男の皮膚は爬虫類的な焦茶色となり、筋肉はみるみる肥大して人間よりも鬼へと近付くと、鮮血を想起させる真紅の双眸で五人を睨めつけながら、ババイヴの地声そのものとなった錆びた歯車が軋るがごとき声音でこう告げたのである…。
「ふふふ、知りたいか?
よかろう…だがそれよりもまず、臣下の務めとして余の問いに答えよ…。
──階上に神野優彦がおるな…!?」
誰も答える者はいない。
否、答えられない。
恐怖が激しすぎて…!
されど、質問者には十分であった。
「そうかそうか…。
来ておるのじゃな──余の想い人が…!
いや全く、義兄弟も粋な計らいをするものじゃて…」
一瞬破顔した鬼舞だが、与える恐怖の度合いは赫怒の表情を凌駕していたといってよい──事実、この瞬間にカルソはお気に入りのゼブラ柄のスパッツ内に失禁してしまったのであるから…。
「では、返礼として愚問に簡潔に答えておこうか…。
まず牢の件だが、ついさっき余が目覚めし時、既にそれは半分ほども持ち上がっておった…。
尤もそれを為したのが誰であるのかは余は一切関知しておらぬ…。
しかしそれも、拝跪すべき大教帝が虜囚の身となっておるのがそもそも有り得べからざる不可解事なわけで、それを見過ごすこと自体が忠臣としてあるまじき大罪であるわけだが…。
されど改めて確認してみれば、これしきの脆弱な障壁でこのババイヴ=ゴドゥエブンⅥ世を監禁し得るとの見込みこそが余に対する最大の侮辱ともいえようか…!
もちろん覚醒後直ちには難しかったであろうが、なんのなんの、数時間も経過すれば回復した宇宙最強の筋力を利した爪撃によってあっさりと粉砕してのけたものを、な…」
この確信に満ちたコメントに誘導されて一同が怪物の手元に注目すると、いつの間にかそこには覇者にふさわしい金色の爪がカスタムナイフの切っ先のごとく生え揃っているではないか(恐るべきことにそれは爪先も同様であった)!
「……」
大教帝時代と同じく、血も凍るほどの戦慄によって強いられた沈黙を自身の権威へのこれ以上ない讃辞と受け止めたババイヴは、人知れず上機嫌となって続ける。
「些か不本意な成り行きながら、こうして自由の身となった余はそこの操作盤をつついて牢を閉じたのだが、その時新たな僥倖に気付いたものよ…つまりガラス壁を半開きにしたお節介者によって房内の警報装置が無効化されていたことにな…!
さて、第二の質問だが…。
全くこの無礼者どもめッ、わがガズムオルの戦闘術に全身を透明化する【神層結露】なる高等技が存在するのに無知であるという失態が十分死に値する大罪であることがわからんかッ!?」
凶爪がギラリと光る右人差し指を突き付けられるまでもなく、むろん特務部隊員らはそれを知っていた──だが、それらの特殊能力はあの【精神改良手術】によって根こそぎにされたはずではなかったのか…!?
しかし迫り来る生命の危機を前にしては、何よりもまずコイツの魔手から逃れることが先だッ!
宝麗仙宮内であることで油断していたこともあるが、何よりも不慮の事故を警戒してザジナスが軍人たちに【熱光弾銃】の携帯を禁じていたこともあって丸腰であることに歯噛みするような悔恨を味わいながら、この窮地を脱するため、ゾネロ、ルコス、ダギンは最善の手段を行使した──左腕をL字に曲げ、手首に巻いた通信端末の四角い画面を眼前の敵に向けた次の刹那、この至近距離で地球人が直視すれば失明確実の凄まじい閃光を発生させたのだ!
「逃げろッッ!!!」
──されど不幸なことに、それが大教帝の右貫手によって心臓を貫かれたゾネロの最期の言葉となった。
それから僅か数秒の内にダギン、ルコス、アベラの順で背後から唸りを上げた左右の魔爪によって肋骨を砕かれ心臓を抉られて崩れ落ち、腰を抜かしてへたり込んだ唯一の生存者である最年少者の涙で霞んだ視界の向こうから死神がこう告げたのだった。
「──余を神野優彦のもとに案内せよ…。
だがその前に、先程この地下牢に引っ立てられてきた男を解放する必要がある…ヤツは使えそうだからな…!」
そして、鬼舞の風貌を目の当たりにした今、ゾネロらが感得したのはまず強烈な違和感であった。
つまり、“ルッキズムの権化”ともいうべき星王ザジナスが選んでくれた自分たちの依代よりも、見栄えという点一つ取ってもはるかに劣るこの人物に忖度する気にはどうしてもなれなかったのである…。
そしてそもそもコイツが大教帝と畏怖されたのは昔の話で、現在は負極界絶対者としての全てを剥奪されるに留まらず、能力的にも超弱体化させるための脳手術も施された追放者に過ぎぬではないか!
十数秒ほどの間を置いて、大きく息を吸い込んだゾネロが尋問口調でまずこう問うた。
「…どうやって牢から出た?
そして、何故われわれに気付かれることなく背後に立つことができたのだ…!?」
──この瞬間、鬼舞嵐太郎の表情から笑みが消えた。
同時にアベラとカルソは房内の時空が歪んだかのような感覚に襲われたが、原因として考えられるのはかつての大教帝の怒気しかなかった。
事実、特務隊員の質問が投げられるや、貧相な地球人の肉体に劇的且つ異様な変化が生じたのだ!
殆ど瞬間的に艶のないカサカサした中年男の皮膚は爬虫類的な焦茶色となり、筋肉はみるみる肥大して人間よりも鬼へと近付くと、鮮血を想起させる真紅の双眸で五人を睨めつけながら、ババイヴの地声そのものとなった錆びた歯車が軋るがごとき声音でこう告げたのである…。
「ふふふ、知りたいか?
よかろう…だがそれよりもまず、臣下の務めとして余の問いに答えよ…。
──階上に神野優彦がおるな…!?」
誰も答える者はいない。
否、答えられない。
恐怖が激しすぎて…!
されど、質問者には十分であった。
「そうかそうか…。
来ておるのじゃな──余の想い人が…!
いや全く、義兄弟も粋な計らいをするものじゃて…」
一瞬破顔した鬼舞だが、与える恐怖の度合いは赫怒の表情を凌駕していたといってよい──事実、この瞬間にカルソはお気に入りのゼブラ柄のスパッツ内に失禁してしまったのであるから…。
「では、返礼として愚問に簡潔に答えておこうか…。
まず牢の件だが、ついさっき余が目覚めし時、既にそれは半分ほども持ち上がっておった…。
尤もそれを為したのが誰であるのかは余は一切関知しておらぬ…。
しかしそれも、拝跪すべき大教帝が虜囚の身となっておるのがそもそも有り得べからざる不可解事なわけで、それを見過ごすこと自体が忠臣としてあるまじき大罪であるわけだが…。
されど改めて確認してみれば、これしきの脆弱な障壁でこのババイヴ=ゴドゥエブンⅥ世を監禁し得るとの見込みこそが余に対する最大の侮辱ともいえようか…!
もちろん覚醒後直ちには難しかったであろうが、なんのなんの、数時間も経過すれば回復した宇宙最強の筋力を利した爪撃によってあっさりと粉砕してのけたものを、な…」
この確信に満ちたコメントに誘導されて一同が怪物の手元に注目すると、いつの間にかそこには覇者にふさわしい金色の爪がカスタムナイフの切っ先のごとく生え揃っているではないか(恐るべきことにそれは爪先も同様であった)!
「……」
大教帝時代と同じく、血も凍るほどの戦慄によって強いられた沈黙を自身の権威へのこれ以上ない讃辞と受け止めたババイヴは、人知れず上機嫌となって続ける。
「些か不本意な成り行きながら、こうして自由の身となった余はそこの操作盤をつついて牢を閉じたのだが、その時新たな僥倖に気付いたものよ…つまりガラス壁を半開きにしたお節介者によって房内の警報装置が無効化されていたことにな…!
さて、第二の質問だが…。
全くこの無礼者どもめッ、わがガズムオルの戦闘術に全身を透明化する【神層結露】なる高等技が存在するのに無知であるという失態が十分死に値する大罪であることがわからんかッ!?」
凶爪がギラリと光る右人差し指を突き付けられるまでもなく、むろん特務部隊員らはそれを知っていた──だが、それらの特殊能力はあの【精神改良手術】によって根こそぎにされたはずではなかったのか…!?
しかし迫り来る生命の危機を前にしては、何よりもまずコイツの魔手から逃れることが先だッ!
宝麗仙宮内であることで油断していたこともあるが、何よりも不慮の事故を警戒してザジナスが軍人たちに【熱光弾銃】の携帯を禁じていたこともあって丸腰であることに歯噛みするような悔恨を味わいながら、この窮地を脱するため、ゾネロ、ルコス、ダギンは最善の手段を行使した──左腕をL字に曲げ、手首に巻いた通信端末の四角い画面を眼前の敵に向けた次の刹那、この至近距離で地球人が直視すれば失明確実の凄まじい閃光を発生させたのだ!
「逃げろッッ!!!」
──されど不幸なことに、それが大教帝の右貫手によって心臓を貫かれたゾネロの最期の言葉となった。
それから僅か数秒の内にダギン、ルコス、アベラの順で背後から唸りを上げた左右の魔爪によって肋骨を砕かれ心臓を抉られて崩れ落ち、腰を抜かしてへたり込んだ唯一の生存者である最年少者の涙で霞んだ視界の向こうから死神がこう告げたのだった。
「──余を神野優彦のもとに案内せよ…。
だがその前に、先程この地下牢に引っ立てられてきた男を解放する必要がある…ヤツは使えそうだからな…!」
2
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
撮影されて彼に愛される
守 秀斗
恋愛
自撮りが好きな杉元美緒。22歳。でも、人前でするのは恥ずかしくて、誰もいない海岸まで行って水着姿を撮影していると、車椅子に乗った男に声をかけられた。「あなたは本当に美しいですね。あなたの写真を撮影したいのですが、だめでしょうか」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる