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第七章 迫り来る凶影
大教帝、目覚める〈後編〉
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五人がかりで死刑囚を鉄格子が張られた牢獄にブチ込み(その瞬間、アベラはケツを蹴り飛ばしながら「この疫病神がッ!」と叫んだ)、ルコスが厳重に施錠した上で独房を出た一同は、むろん鉄扉もロックしてから顔を見合わせる。
「おい…オレはあれだけひっきりなしだった大鼾がいきなりストップしたのがどうも気になるんだが…」
リーダー格のゾネロがこう持ちかけると、知恵袋的存在のルコスが頷きながら意外な所見を述べる。
「ああ、たしかにな。
しかも独房に入ってから出てくるまで1分少々といったところだろうが、未だに静かなままってのはこれまでなかったことじゃねえか?
もしかすると…大教帝、くたばっちまったのかな…!?」
「──ま、まさか…!!」
それが事実なら厄介事の一つが消えたともいえるわけだが、故郷への帰還が心許ない現在、むしろウィラーク艦長の心象を悪くすること確実のバッドニュースでしかないとゾネロら三人は陰鬱な気分であった。
「…万に一つそうだとしてもだ、とにかく確かめてみるしかねえだろう…」
ダギンが正論を述べ、遠征隊員たちは気が進まぬながらも最奥の幽閉房へぞろぞろと向かう。
「…だがしかしだ、仮にババイヴが事切れちまってた場合、星王様にはどう報告するつもりだ?」
小心なアベラが早くも心配するが、竹馬の友をああも冷酷に足蹴にできる彼の態度を内心腹に据えかねている三人の特務部隊員は返事もしない。
6室ほどの独房が対面になっている幅4メートルほどのコンクリート剥き出しの廊下を25メートルほど進むと、縦横3メートルほどの正方形の鋼鉄の引き戸が不気味に行く手を遮っているがさすがに電子錠となっており、ここでもルコスが壁のパネルにパスワードを打ち込む。
「…【立山要塞】というしっかりした土台があったおかげで宝麗仙宮と名称こそ変わったものの大した改変はせずに済んだが、幽閉房を拵えるのはマジで大変だったぜ…」
もちろんこの突貫作業にはザジナスとメラミオを除く全員が駆り出されたため皆が頷いたが、大教帝の安否への懸念が先立ってか発言する者はいない。
ゴゴゴ…という重い開閉音が響いて、およそ15畳のスペースを照らし出すには些か不十分なLED灯に照らされた宝麗仙宮最大の危険ゾーンが全貌を現し、緊張した五人の全身を形容し難い冷気が震わせる。
もちろん負極界の住人にとって、たとえ一切の抵抗力を失っているとはいえ、かつて最大の恐怖の対象であったババイヴ=ゴドゥエブンⅥ世と平常心で対面することは容易ではなかったが(現に入房初体験の技術畑のアベラとカルソは目を閉じていた)、大教帝の酸鼻を極めた銀河遠征にも従軍経験のある猛者であるゾネロらは眼前の光景に絶句した後、驚愕の叫びを上げた!
「──なッ…こ、これはどういうことだッ!
い、いないじゃないかッ!!
い、一体ババイヴはどこに行ったッッ!!??」
まさしく、縦4.5メートル×横7.5メートル・厚さ13センチのリュザーンド製特殊硬化ガラスの向こうは蛻の殻で、今まで大教帝の巨体が横たわっていた大寝台には、拘束するため用いられていた6本の極太金属帯が頑強な電磁フックを外されてダラリと垂れ下がり、天井から伸びた4本の万能ロボットアームが手持ち無沙汰に固まっているだけではないか!
「…ま、まさか…瞬間移動で脱出したとでもいうのかッ…!?」
呆然たる表情のルコスの呟きを自称リアリストのダギンが即座に否定する。
「バカなッ!いかに大教帝といえどそこまでの神通力を持ち合わせているなどとは聞いたこともないぞッ!
かといって殆ど毎日ババイヴと接していたあの裏切り者と共に脱出したわけでもあるまい…さもなくばわれわれか昇降機から下りた時、あの豪快な大鼾が聴こえたワケがないッ!!」
「いや、もしかしたら録音だったかもしれんじゃないかッ!?
と、とにかく房の内部に入ってみねばはじまらんッ!
ひょ、ひょっとしたら何か追跡のための手がかりが残っているかもしれんからなッ!」
苛立つゾネロが声を裏返しながら提案するが、即座には誰も応じようとしない。
「……」
屈強な特務隊員たちが尻込みするとあっては民間人二名の心境は推して知るべしだが、ここでカルソがおそるおそる意外なことを口にした。
「…あ、あのう…た、たしか大教帝はこの惑星で活動するためにわれわれ同様地球人の肉体と一体化しているはず…。
と、ということは何らかの原因で目を覚まし、縛めから逃れるために本体よりもはるかに小さい人間体となったのではないでしょうか…!?」
「こっ、この大バカ者がッ!
い、いくら変身能力があろうが、あれだけ大量の強力睡眠剤を投与されて自力で覚醒できるはずがないッ!!
考えられる可能性はやはり唯一つ、先程ダギンが言った通り、ババイヴはケイファーの助力で目を覚まし、共に脱走したのだッ!!」
「──いいや、余はここにおるぞ…!」
一同の背後から嗄れた声がし、戦慄に文字通り飛び上がった一同が振り返ると、そこには両手に腰を置いて仁王立ちした全裸の鬼舞嵐太郎がトレードマークの禿頭を鈍く光らせながらせせら笑っていた。
「おい…オレはあれだけひっきりなしだった大鼾がいきなりストップしたのがどうも気になるんだが…」
リーダー格のゾネロがこう持ちかけると、知恵袋的存在のルコスが頷きながら意外な所見を述べる。
「ああ、たしかにな。
しかも独房に入ってから出てくるまで1分少々といったところだろうが、未だに静かなままってのはこれまでなかったことじゃねえか?
もしかすると…大教帝、くたばっちまったのかな…!?」
「──ま、まさか…!!」
それが事実なら厄介事の一つが消えたともいえるわけだが、故郷への帰還が心許ない現在、むしろウィラーク艦長の心象を悪くすること確実のバッドニュースでしかないとゾネロら三人は陰鬱な気分であった。
「…万に一つそうだとしてもだ、とにかく確かめてみるしかねえだろう…」
ダギンが正論を述べ、遠征隊員たちは気が進まぬながらも最奥の幽閉房へぞろぞろと向かう。
「…だがしかしだ、仮にババイヴが事切れちまってた場合、星王様にはどう報告するつもりだ?」
小心なアベラが早くも心配するが、竹馬の友をああも冷酷に足蹴にできる彼の態度を内心腹に据えかねている三人の特務部隊員は返事もしない。
6室ほどの独房が対面になっている幅4メートルほどのコンクリート剥き出しの廊下を25メートルほど進むと、縦横3メートルほどの正方形の鋼鉄の引き戸が不気味に行く手を遮っているがさすがに電子錠となっており、ここでもルコスが壁のパネルにパスワードを打ち込む。
「…【立山要塞】というしっかりした土台があったおかげで宝麗仙宮と名称こそ変わったものの大した改変はせずに済んだが、幽閉房を拵えるのはマジで大変だったぜ…」
もちろんこの突貫作業にはザジナスとメラミオを除く全員が駆り出されたため皆が頷いたが、大教帝の安否への懸念が先立ってか発言する者はいない。
ゴゴゴ…という重い開閉音が響いて、およそ15畳のスペースを照らし出すには些か不十分なLED灯に照らされた宝麗仙宮最大の危険ゾーンが全貌を現し、緊張した五人の全身を形容し難い冷気が震わせる。
もちろん負極界の住人にとって、たとえ一切の抵抗力を失っているとはいえ、かつて最大の恐怖の対象であったババイヴ=ゴドゥエブンⅥ世と平常心で対面することは容易ではなかったが(現に入房初体験の技術畑のアベラとカルソは目を閉じていた)、大教帝の酸鼻を極めた銀河遠征にも従軍経験のある猛者であるゾネロらは眼前の光景に絶句した後、驚愕の叫びを上げた!
「──なッ…こ、これはどういうことだッ!
い、いないじゃないかッ!!
い、一体ババイヴはどこに行ったッッ!!??」
まさしく、縦4.5メートル×横7.5メートル・厚さ13センチのリュザーンド製特殊硬化ガラスの向こうは蛻の殻で、今まで大教帝の巨体が横たわっていた大寝台には、拘束するため用いられていた6本の極太金属帯が頑強な電磁フックを外されてダラリと垂れ下がり、天井から伸びた4本の万能ロボットアームが手持ち無沙汰に固まっているだけではないか!
「…ま、まさか…瞬間移動で脱出したとでもいうのかッ…!?」
呆然たる表情のルコスの呟きを自称リアリストのダギンが即座に否定する。
「バカなッ!いかに大教帝といえどそこまでの神通力を持ち合わせているなどとは聞いたこともないぞッ!
かといって殆ど毎日ババイヴと接していたあの裏切り者と共に脱出したわけでもあるまい…さもなくばわれわれか昇降機から下りた時、あの豪快な大鼾が聴こえたワケがないッ!!」
「いや、もしかしたら録音だったかもしれんじゃないかッ!?
と、とにかく房の内部に入ってみねばはじまらんッ!
ひょ、ひょっとしたら何か追跡のための手がかりが残っているかもしれんからなッ!」
苛立つゾネロが声を裏返しながら提案するが、即座には誰も応じようとしない。
「……」
屈強な特務隊員たちが尻込みするとあっては民間人二名の心境は推して知るべしだが、ここでカルソがおそるおそる意外なことを口にした。
「…あ、あのう…た、たしか大教帝はこの惑星で活動するためにわれわれ同様地球人の肉体と一体化しているはず…。
と、ということは何らかの原因で目を覚まし、縛めから逃れるために本体よりもはるかに小さい人間体となったのではないでしょうか…!?」
「こっ、この大バカ者がッ!
い、いくら変身能力があろうが、あれだけ大量の強力睡眠剤を投与されて自力で覚醒できるはずがないッ!!
考えられる可能性はやはり唯一つ、先程ダギンが言った通り、ババイヴはケイファーの助力で目を覚まし、共に脱走したのだッ!!」
「──いいや、余はここにおるぞ…!」
一同の背後から嗄れた声がし、戦慄に文字通り飛び上がった一同が振り返ると、そこには両手に腰を置いて仁王立ちした全裸の鬼舞嵐太郎がトレードマークの禿頭を鈍く光らせながらせせら笑っていた。
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