THUNDER⚡️ANGELS

幾橋テツミ

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第七章 迫り来る凶影

大教帝、目覚める〈前編〉

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 …遠い彼方から、

 余をここまで陶然とさせる気配は、この銀河…いや宇宙で唯一つしかない…。

 それだけは分かるのだが、それの名と姿が朦朧たる霧に包まれてどうしても脳中に結晶せぬ…。

 ──そもそも、…?

 うう…何ということだ…明瞭な意識を有しながら、自身の名すら思い出せぬとは…!

 さ…されどたった一つだけ分かっていることがある…

 す…即ち現在いま…!

 しゅ…周囲には一切の景物が無く漆黒の闇に閉ざされているが、これこそがわが意識における最深層部なのであろう…。

 お、おそらく余は何者かの陥穽ワナに落ち、に閉じ込められていたものとみえるな…。

 …だ…だが分かるぞ…

 こ、…!

 お、おお…どんどん波動それが強くなってゆく…!!

 あ…ああ…お、思い出してきたぞ…

 よ、…!

        ✦

 宝麗仙宮の地下3階──昇降機の扉が開き、五人の遠征隊員にガッチリと囲まれた、上半身を人力では絶対に切断不能な特殊軽鋼ベルトで縛られた筋骨逞しい囚人が悄然たる姿を現した。

『…1週間前にバラム師と大教帝を幽閉した時にゃあ、まさか自分が地下牢にブチ込まれることになろうとは思わなかったぜ…』

 ダギンによって後ろ手に嵌められた【麻痺手錠】が数秒おきに発生させる低圧電流による激痛で闘志と体力を削り取られながらも、懸命に減らず口を叩く練獣師ノディグだが、これもリュザーンド防衛軍の拘束具の一つであるグレーの特殊繊維で織られた【沈黙帯】を口にベタリと貼り付けられているためむろん声にはならない。

 しかもこのアイテムは口中に押し込まれた自殺防止用の【封舌器】とセットになっているため被拘束者にもたらす苦痛=息苦しさは大変なものであり、麻痺手錠と併用されることで十分苛烈極まる拷問として成立するのである…。

『…メラミオ様がいないこの世なんかにもとより未練はねえし、リュザーンド星民として星王ヤツに手を上げちまった以上処刑されるのは止むを得んが、あの鬼畜のタマを獲れなかったのが唯一心残りだぜ…。

 だ、だがまだオレには少なくとも数時間は残されている──そ、それまでに何とかこの忌わしい刑具を外し、最後の反撃に出るための策を練るのだッ…!』

 その時、階の最奥部から地鳴りのような不気味な轟きが昇降機から下りた一同の足を止めさせた。

「な…何ですか、この音は…!?」

 ノディグの真後ろで、今朝の特別任務を囚人と共にこなした遠征隊最年少のカルソがはじめて足を踏み入れた地下牢の雰囲気の異様さに慄くが、先頭に立つゾネロが早速先輩風を吹かせる。

「──そうか、そういやオマエ、はじめて耳にするんだったな…

 あれがよ…!

 しっかし毎回思うことだが、ここからだいぶ離れた、しかも堅牢な鋼の扉で密閉された【幽閉房】越しによくもここまであの騒音を届けられるモンだぜ…!」

 待ってましたとばかりに右横のルコスが口を挟む。

「だがどうにも不可解なのは、ここでそうならさぞや房内は鼓膜が破れるほどの轟音地獄なのかと思いきやさにあらず、ということなんだよな…。

 オレも3日ほど前に星王様に命じられて超連続睡眠中のババイヴを撮影するためにあの忌々しいと一緒に入房したんだが、防音ヘッドホン必須と思ってたのにアイツの言う通り全然不要だったのには驚かされたぜ…」

「エエッ?

 い、一体どういうことなんですかッ!?」

 目を丸くするカルソに左側に立つダギンが、

「…つまり、そもそも房内ではわれわれと大教帝の間には分厚い抗衝撃防音ガラスで隔てられ、巨象をも数秒で眠らせる超強力麻酔剤の大量投与等、厄介な囚人の世話は全て天井に取り付けられたロボットアームによって自動的に行われるということだ。

 しかし不可思議千万なことに、これこそが2万数千年にわたって負極界四惑星を付き従えてきた血統に備わる超自然力の顕現か、何故か階の隅々に至るまで不気味な反響音によって震わせているのさ…

 そう、あたかもこの階の支配者は自分であると言わんばかりにな…」

「だが、それだけじゃないかもしれねえぜ…」

 と被せてきたのはカルソの左横に立つ・アベラである。

が、もしかすると大鼾アレはわれわれかつての臣下をなのではないか?と大真面目に宣ってたけど、まんざら妄想でもなかったみてえだな…。

 だってよ、実際コイツはその呪文に操られてあれだけのことをしでかしたと考えりゃ辻褄が合うじゃねえか?

 そしてまんまと星王様の排除に成功したら、次の段階フェーズでオレたち全員を再洗脳して遠征隊を乗っ取るつもりだったんじゃねえかな…」

 つい先程まで継続していた長年の友誼がウソのように憎悪の視線を練獣師の後頭部に突き刺しながら嘯く宇宙艇の整備士メカニックをゾネロが揶揄する。

「なかなかの迷推理だが…。

 ならば失敗の可能性が高い単独犯ではなく、せめて複数人を刺客に仕立てるべきだったな…」

 他ならぬ当の星王がノディグを〈窃視者〉に設定したのに暗殺未遂犯であるという真相をあえて伝えたのは隠しても意味が無いという三人の判断だったが、さすがの彼らもザジナスが未来の王妃に手を掛けたという仰天情報だけは伏せておいた──何故ならばノディグの性格を誰よりも熟知するアベラであれば、とアイツが勝手に憶測を巡らせたのですと弁明することが可能だが、メラミオの死という衝撃事件だけはゾネロら以外知る由もなかったからである…。 

 ──早速推理の穴を衝かれた腕利き整備士だが、想定内とばかりに間髪入れず応じる。

「一見そう思えるが、にしてみれば暗殺者を操るために必要な多大な思念力サイコパワーを分散させることなく一点集中したかったんだろうぜ…。

 ──となりゃあ、凶暴さと冷酷さで隊員中断トツのコイツに白羽の矢が立っても不思議じゃなかろうじゃねえか…!?」

 一行はノディグを収監する独房に到着し、ルコスがポケットから取り出したナンバー付きの十数個の鍵束の一つをドアノブの鍵穴に突っ込みながら軽口を叩く。

「おやおや、オマエら親友同士じゃなかったのかよ?

 昨日だってオレがジェフェズにノサれたのを嬉しそうに教えてやってたらしいクセによ…。

 まあ…。

    (鉄扉を開きながら)

 ──あれ?鼾が止まったぜ…。

 もしかして聞き耳立ててたのか大教帝アイツ…!?

 へへへ…おいアベラよ、だとしたらオマエさん、とんでもなくヤベえ地雷踏んづけちまったんじゃねェのか…?

 …だってそうだろ?

 使使…!

 おー怖え…

 …!!」

 

 

 



 





 





 

 

 


 

 



 

 



 

 

 

 



 

 

 


 
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