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第八章 魔島殲滅戦
宝麗仙宮崩壊⑲
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「よしッ、成功だッ!
これで私の凶祭華同盟最高幹部への就任は決定したッ!!
若いカルソの死は気の毒だったが、あの目障りなノディグがあっさり消えてくれたのは誠に喜ばしいッ!
あとはあの頼もしいレイガルさえ戻って来ればこの異星での再起も決して不可能ではないだろうッ!!
そして何よりもッ…」
早くも魂を“ババイヴ色”に染め上げられてしまったものか、明らかにトゲトゲしい悪相となったビドゥロは、一旦折り畳んだ2個の携帯用コンソールを小脇に挟んで部屋を出ると、同じ階にある医務室へと向かう。
そこは現在無人のはずであったが、敏腕技術者の目的は一体何なのか?
ドアを開けるとまず“世紀の裏切り者”である為永夏実が常駐していた診察室が在るが、何も知らずに足を踏み入れたなら、どう考えてもその場にふさわしくないシロモノが堂々と鎮座しているのを目の当たりにしてギョッとさせられるだろう…。
十数匹のピラニアが乱舞する一辺2メートル・深さ1.5メートルの巨大水槽である!
“魔性の女医”はこの水の殺し屋を殊の外可愛がり、直接満寿也に働きかけて遠征隊員の口には滅多に入らぬ血も滴る新鮮な高級肉をふんだんに与えていたのだが、それに飽き足らず島内を徘徊しては主に建物裏の雑木林で蛇や蛙や蜥蜴を捕獲してはペットたちに与えていたものらしい──尤も野外採集にはすぐに飽きて練獣師のバラムに委託し、彼に命令された隊員たちが従事させられることになったのだが、一月ほど前にある事件が起きた。
何と主人と共に錯乱した王が放った流焔小砲の塵となるという非業の最期を遂げたリュザーンドの怪鳥が、好物である縞蛇を横取りされたのに赫怒して不幸な採取人を大鉈の一撃に等しい嘴で惨殺してしまったのである!
さしものザジナスもこれには苦慮したものだったが、元凶たるケイファーは顔色一つ変えず、むしろ以前からこの事態を待っていたかのように星王にこう進言したのである──
「あの子たちなら不浄な血肉を余す所なく貪欲な胃袋に収めてくれますわ──星王様、これこそ大自然の摂理…すぐそばの海では今この時も当たり前のように繰り広げられている日常風景ではございませんか?」
これには非情を自任する負極界浄化委員会長も苦笑を禁じ得ず、一言嫌味を加えたものだったが…。
「おいおい、さすがにこの文明国の領海たるS内海に棲息する魚族が◯肉を口にする機会は滅多にあるものではないぞ」
──と。
とはいえ処置に窮している以上結局は夏実の提案が通ったのであったが、いかに神ならぬ身とはいえあろうことか島の絶対者たる自分が名も無き奴僕と同様の末路を辿ろうとは、誰よりも冥府に降った本人が驚いていることであろう…。
されど侵入者の関心は、生前の星王が最も好んだ真紅に染まった水槽内で焼け爛れた彼の骸が小さな殺戮者たちの貪婪な牙で食いちぎられてゆく地獄絵図には無く、それにはチラリと一瞥をくれただけで奥の扉を開き、医薬品の小瓶で埋め尽くされた棚が並ぶ研究室に入る。
その中央部に設えられた作業台上に安置された白木の棺──蓋は被されておらず、全面から白煙のような冷気が立ち昇っている…。
「──和紗よ、このような形でキミと結ばれようとは…」
機器を台上に置き、冷気をものともせずに殆ど額が振れる距離まで顔を死体に近付けて、狂気じみた自己陶酔に浸りきった不気味な声色で囁きかけたビドゥロは、ドライアイスに埋め尽くされた内部に横たわる美しき神霊闘術師の白い亡骸の頬を震える両手で包み込む。
まさに奇跡というべきか、ザジナスに真紅の刃で傷つけられた乳房の谷間を除いては殆ど無傷の状態であるのは、業火をものともせず紅の間に飛び込んで運び出した今は亡きノディグの殊勲であったが、何よりも長年愛飲し、破滅の要因にもなった聖紅酒の残り全てを室内にぶちまけたザジナスは、嚥下した屍肉が含む劇毒がもたらす苦悶から逃れるため最後は自らの全身に浴びた後、立山満寿也時代に愛用したライターで火を放ったものらしかった。
されどシーツには真紅の液体をだっぷりと吸わせたものの最愛の妃の肉体にはどうしてもそれができず、彼女を烈しく思慕する精悍な練獣師の決死の行動によって間一髪紅蓮の魔物から逃れ去ったのである…。
「た、たとえ今その魂は黄泉にあろうとも、この絶美の肉体さえ残存していれば必ずや聖なる復活を迎える時が来るはずだッ!
そ、そうともッ、いずれ私が手にするであろう超技術…いやッ、私のメラミオが甦るのでさえあればいかなる妖術魔法であろうが構いはせんッ!!
い、今こそ違うぞッ!
この宇宙全体を渉猟し尽くして必ずや手段を見つけ出し、天によって与えられた宿望の実現をみごと果たしてみせるとッッ!!!」
これで私の凶祭華同盟最高幹部への就任は決定したッ!!
若いカルソの死は気の毒だったが、あの目障りなノディグがあっさり消えてくれたのは誠に喜ばしいッ!
あとはあの頼もしいレイガルさえ戻って来ればこの異星での再起も決して不可能ではないだろうッ!!
そして何よりもッ…」
早くも魂を“ババイヴ色”に染め上げられてしまったものか、明らかにトゲトゲしい悪相となったビドゥロは、一旦折り畳んだ2個の携帯用コンソールを小脇に挟んで部屋を出ると、同じ階にある医務室へと向かう。
そこは現在無人のはずであったが、敏腕技術者の目的は一体何なのか?
ドアを開けるとまず“世紀の裏切り者”である為永夏実が常駐していた診察室が在るが、何も知らずに足を踏み入れたなら、どう考えてもその場にふさわしくないシロモノが堂々と鎮座しているのを目の当たりにしてギョッとさせられるだろう…。
十数匹のピラニアが乱舞する一辺2メートル・深さ1.5メートルの巨大水槽である!
“魔性の女医”はこの水の殺し屋を殊の外可愛がり、直接満寿也に働きかけて遠征隊員の口には滅多に入らぬ血も滴る新鮮な高級肉をふんだんに与えていたのだが、それに飽き足らず島内を徘徊しては主に建物裏の雑木林で蛇や蛙や蜥蜴を捕獲してはペットたちに与えていたものらしい──尤も野外採集にはすぐに飽きて練獣師のバラムに委託し、彼に命令された隊員たちが従事させられることになったのだが、一月ほど前にある事件が起きた。
何と主人と共に錯乱した王が放った流焔小砲の塵となるという非業の最期を遂げたリュザーンドの怪鳥が、好物である縞蛇を横取りされたのに赫怒して不幸な採取人を大鉈の一撃に等しい嘴で惨殺してしまったのである!
さしものザジナスもこれには苦慮したものだったが、元凶たるケイファーは顔色一つ変えず、むしろ以前からこの事態を待っていたかのように星王にこう進言したのである──
「あの子たちなら不浄な血肉を余す所なく貪欲な胃袋に収めてくれますわ──星王様、これこそ大自然の摂理…すぐそばの海では今この時も当たり前のように繰り広げられている日常風景ではございませんか?」
これには非情を自任する負極界浄化委員会長も苦笑を禁じ得ず、一言嫌味を加えたものだったが…。
「おいおい、さすがにこの文明国の領海たるS内海に棲息する魚族が◯肉を口にする機会は滅多にあるものではないぞ」
──と。
とはいえ処置に窮している以上結局は夏実の提案が通ったのであったが、いかに神ならぬ身とはいえあろうことか島の絶対者たる自分が名も無き奴僕と同様の末路を辿ろうとは、誰よりも冥府に降った本人が驚いていることであろう…。
されど侵入者の関心は、生前の星王が最も好んだ真紅に染まった水槽内で焼け爛れた彼の骸が小さな殺戮者たちの貪婪な牙で食いちぎられてゆく地獄絵図には無く、それにはチラリと一瞥をくれただけで奥の扉を開き、医薬品の小瓶で埋め尽くされた棚が並ぶ研究室に入る。
その中央部に設えられた作業台上に安置された白木の棺──蓋は被されておらず、全面から白煙のような冷気が立ち昇っている…。
「──和紗よ、このような形でキミと結ばれようとは…」
機器を台上に置き、冷気をものともせずに殆ど額が振れる距離まで顔を死体に近付けて、狂気じみた自己陶酔に浸りきった不気味な声色で囁きかけたビドゥロは、ドライアイスに埋め尽くされた内部に横たわる美しき神霊闘術師の白い亡骸の頬を震える両手で包み込む。
まさに奇跡というべきか、ザジナスに真紅の刃で傷つけられた乳房の谷間を除いては殆ど無傷の状態であるのは、業火をものともせず紅の間に飛び込んで運び出した今は亡きノディグの殊勲であったが、何よりも長年愛飲し、破滅の要因にもなった聖紅酒の残り全てを室内にぶちまけたザジナスは、嚥下した屍肉が含む劇毒がもたらす苦悶から逃れるため最後は自らの全身に浴びた後、立山満寿也時代に愛用したライターで火を放ったものらしかった。
されどシーツには真紅の液体をだっぷりと吸わせたものの最愛の妃の肉体にはどうしてもそれができず、彼女を烈しく思慕する精悍な練獣師の決死の行動によって間一髪紅蓮の魔物から逃れ去ったのである…。
「た、たとえ今その魂は黄泉にあろうとも、この絶美の肉体さえ残存していれば必ずや聖なる復活を迎える時が来るはずだッ!
そ、そうともッ、いずれ私が手にするであろう超技術…いやッ、私のメラミオが甦るのでさえあればいかなる妖術魔法であろうが構いはせんッ!!
い、今こそ違うぞッ!
この宇宙全体を渉猟し尽くして必ずや手段を見つけ出し、天によって与えられた宿望の実現をみごと果たしてみせるとッッ!!!」
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